親族が亡くなると生前に所有していた財産の相続が発生します。その際に財産目録を作成すると便利ですが、どういった書類なのかという点や、作成方法・作成費用が分からない人もいるでしょう。財産目録の作成方法やかかる費用・作成するメリットを解説します。
財産目録とはどんな書類?
日常生活では財産目録という言葉に触れる機会は、ほとんどないでしょう。まずは財産目録がどのような書類なのか、また必要になる場面について解説します。
故人の財産を明確にするための書類
財産目録とは故人がどのような財産を持っていたのかを、明らかにするための書類です。預貯金や不動産、有価証券などのプラスの財産はもちろん、借金などのマイナスの財産も含め、すべての財産を明記します。
財産目録を作成する主な目的は、遺産分割協議をスムーズに進めることと、相続税の申告に用いることです。書類のフォーマットは特に決められていませんが、すべての財産が一目で分かるように作るのが、ポイントといえます。
財産目録が必要なケース
必ずしもすべての相続のケースにおいて、財産目録が必要というわけではありません。しかし遺言状があり、遺言執行者が決められている場合は必須です。
遺言執行者とは遺言の内容を執行する人物を指します。民法第1011条によって、「遺言執行者は遅延なく相続財産の目録を作成し、相続人に交付しなければならない」と義務付けられているのです。
一方で遺言執行者が指定されておらず、かつ相続する財産が少なくトラブルが起こりにくい場合には、財産目録の作成はあくまで任意です。しかし不要なトラブルを防ぐためには、作っておいた方が安心ではあります。
財産目録を作成する手順と費用
財産目録の作成方法と作成にかかる費用について解説します。財産目録は自分でも作成でき、その場合は特に費用はかかりません。しかし確実なものを作るためには、専門家に依頼するのがおすすめです。
財産目録に記入する項目
財産目録には大きく分けて、プラスの財産とマイナスの財産を記載します。プラスの財産として記入する主な項目は、以下の通りです。
- 預貯金
- 不動産
- 有価証券
- その他の財産
一方マイナスの財産として記入する項目として、以下が挙げられます。
- 借金
- 葬式費用
それぞれについて財産区分や所在地・数量・面積・評価額・利用状況などを、正確に記載する必要があります。インターネットで調べればテンプレートが見つかるので、見やすいと思ったものを、ダウンロードしてみるとよいでしょう。
専門家に依頼する場合の費用
財産目録は自分でも作成できますが、相続財産が多い場合は、そもそもどのような財産が存在するのかについて調査から始めなければなりません。自分1人で財産の調査や各財産の価値を算出するのは難しく、抜け漏れが出る可能性があるでしょう。
そのため財産目録の作成は、専門家に依頼するのがおすすめです。専門家に依頼する際には5~10万円が費用相場です。
基本料金に加えて実費がかかるという料金体系が多いでしょう。5~10万円で確実な財産目録が完成し、スムーズに遺産分割協議が進むと考えれば、依頼する価値はあるのではないでしょうか。
財産目録を作るメリット
財産目録は一部の場合を除いて、作成するか否かは任意です。しかし作っておいた方がさまざまな場面でメリットを発揮します。財産目録を作る利点を3つ解説します。
相続税対策になる
財産の内容をつまびらかにすることで、効果的に相続税対策ができます。財産の内容や評価額が分からないと、思ったよりも相続税が高くなり、払えなくなってしまうかもしれません。
財産目録があれば相続税の金額や、税率の見積もりが可能です。相続税対策のために、生前に贈与した方がよい財産が把握できるケースもあるでしょう。また相続税の申告時には、財産の明細を提示しなければなりません。税金の支払い時にも、財産目録は役に立ちます。
相続放棄の判断がしやすくなる
財産目録を作成し財産の内容を整理した結果、いくつかの財産は相続しない方がプラスになると、分かる場合もあるでしょう。特に債務は相続すると自分に返済義務が発生するため、マイナスの財産が多いのであれば、相続放棄という選択肢も出てきます。
相続放棄とは相続人が被相続人のプラスの財産・マイナスの財産の一切を相続しないことです。相続時にはプラスの財産だけを引き継ぐことはできません。
すべての財産が明らかになっている場合、相続人が取れる行動は負債を含め、すべての財産を引き継ぐか、一切引き継がないかの二択です。
財産目録を作成した結果、マイナスの財産がプラスの財産を上回るようなら、相続放棄をした方がよいという選択もできるでしょう。
参考:相続の放棄の申述|裁判所 |
遺産分割協議を円滑に進められる
遺産分割協議を円満に進めるために、財産目録は大きな役割を果たします。遺産分割協議でよくあるトラブルは、相続人の間で情報格差が生じることです。
誰かが遺産を隠し持っているのではないかと、相続人間で猜疑心が生じることで、遺産分割協議が難航してしまうケースは多いでしょう。
財産目録があればすべての相続人に、情報が平等に行き渡ります。これで誰かが隠れた遺産の存在を知っているという状況がなくなり、全員が冷静になって協議を進められるでしょう。
財産目録を作成する際の注意点
財産目録を作成する際には、いくつか注意点があります。不備がある財産目録はその役割を果たせないため、ぬかりなくしっかりと作成しましょう。
財産が特定できるように詳しく書く
それぞれの財産について特定できるように、詳しい情報を記載する必要があります。たとえば不動産の場合には、地番や地目、利用状況などを詳細に書くのが望ましいでしょう。銀行口座なら支店名や口座番号まで、記載する必要があります。
不動産も銀行口座も複数を所有している可能性を否定できません。財産の特定ができない状態では、遺産分割協議を円滑に進められないおそれもあるので、全員が見て分かるように記載するのが重要です。
評価額はいつの時点の金額かを明確にする
特に不動産や有価証券は時期によって価格が変動するため、いつの時点での価格なのかを明確にする必要があります。評価額を明確にすることは、遺産分割協議だけでなく、相続税の申告時にも重要です。
故人の死後に財産目録を作成するなら、死亡時の評価額を記載するのが原則です。生前に作成するなら、作成時点での評価額を記載しましょう。いつの評価額なのかが明確になることで、フェアな遺産分割にもつながります。
特記事項ももれなく書く
すべての財産について記載するのはもちろん、特記事項ももれなく記載するのを忘れないようにしましょう。
不動産であれば他人と共有している可能性もあります。この場合には自分たちだけで自由に扱える財産ではないため、相続人はあらかじめ認識しておく必要があるでしょう。
仮に記入漏れがあり、のちに新たな財産の存在が明らかになった場合、遺産分割協議を再度しなければなりません。それでは余計な時間と手間がかかり、せっかく財産目録を作った意味が半減してしまいます。そうならないためにも細かい情報まですべて記載しましょう。
財産目録を作成しスムーズな相続を
財産目録とは故人が所有していた財産を明確にするための書類です。遺言書で遺言執行人が決められていない限り、作成するか否かは任意ですが、作成しておくメリットは大きいでしょう。
財産目録があれば相続税の申告がしやすくなるだけでなく、相続放棄の判断がしやすくなったり、遺産分割協議がスムーズに進んだりします。自分1人で作成できない場合は、専門家への依頼も可能なため、必要に応じて作成を検討しましょう。