家族や親族が亡くなった際の銀行口座について解説します。亡くなった人の口座は、使い続けたりそのまま放置しておいたりできるのでしょうか?口座を放置した場合のペナルティや、凍結された口座から預金を引き出す方法なども知っておきましょう。
亡くなった人の口座を放置するとどうなる?
家族や親族が亡くなると、遺産相続をはじめとするさまざまな手続きが発生します。故人が銀行口座を保有していた場合、「口座を使い続けられるのかどうか」が気になる人も多いでしょう。そもそも金融機関に死亡の事実を、伝える必要はあるのでしょうか?
法的な罰則はない(2023年時点)
死亡の事実を伝えずに故人の口座をそのまま放置しても、法的なペナルティはありません。
ただし故人の口座の預金残高は「遺産相続」の対象となります。遺産相続とは、被相続人(故人)が残したプラスの財産およびマイナスの財産を相続人が引き継ぐことです。民法上のさまざまなルールがあり、期限内に手続きをして相続税の支払いをしなければなりません。
遺産相続を行うにあたっては、預金残高を含む全ての財産を把握する必要があります。
銀行が死亡を把握すると凍結される
口座の名義人が亡くなると、銀行側に口座を凍結される可能性があります。口座を凍結されると、お金の出し入れが一切できなくなるため、故人の口座で生活費を管理していた人は注意が必要です。
銀行が口座凍結をするタイミングは「名義人の死亡を把握した時点」です。家族が連絡を入れなくても、町内回覧や新聞のお悔やみ欄で死亡の事実は伝わります。営業員が葬儀の案内を目にし、営業所に連絡をするケースもあるようです。役所から銀行への通知は行われません。
なぜ銀行は故人の口座を凍結するのでしょうか?口座凍結がされなかった場合、故人の口座から勝手にお金が引き出される恐れがあります。また故人の預貯金は遺産相続の対象であるため、銀行は正しい残高を確定させる必要があるのです。
口座を放置するデメリット
口座を放置すると、遺産相続の相続人はさまざまなデメリットを被ります。時間が経過すればするほど相続関係が複雑化し、相続トラブルが発生するかもしれません。「あのとき手続きをしておけばよかった」と後悔しないように、相続人同士で話し合っておきましょう。
時間を置くと相続手続きが面倒になる
そもそも故人の銀行口座を放置することは、遺産相続の手続きを、適切なタイミングで行わないことを意味します。相続手続きでは相続財産の洗い出しと、共同相続人の調査を実施し、遺産を分割するための協議を進めるのが一般的です。
相続手続きが数年間放置されたまま、共同相続人のうちの誰かが死亡すると、相続関係が複雑化する可能性があります。この場合、相続権が次の代に移る「数次相続(すうじそうぞく)」が起こり、専門家の力を借りなければ処理が難しくなるかもしれません。
家族が亡くなったときは、財産の洗い出しを速やかに行い、共同相続人同士でスピーディに手続きを進めていくことが重要です。
口座が消滅させられる可能性
銀行に預けたお金は「預金債権」です。お金を預ける行為は、預金者(故人)が債権者、銀行側が債務者となります。凍結された口座を放置し続けた場合、債権が消滅時効を迎える可能性があります(民法166条)。
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
ただし時効は自動的に成立するものではなく、債務者が債権者に「時効なので返済は行わない」と主張した場合に効力を発します。実際のところ、多くの銀行は時効援用を行わないようです。
出典:民法|e-Gov法令検索 |
口座を放置しておいた方がベターなケース
口座を放置してもペナルティはありません。お金を払い戻す必要性がないときは、手続きを放置していても大きな問題はないでしょう。むしろ、口座をそのままにしておいた方がベターなケースもあります。
相続を放棄する場合
相続放棄をする場合は、被相続人の口座には一切触れないでおくのが賢明でしょう。「相続放棄」とは相続人が相続権を放棄する行為で、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内」に意思表示をするのが原則です。
相続放棄を検討している人が、勝手に該当口座から預金を引き出したり、解約の手続きを進めたりすれば、被相続人の相続財産を無条件で相続する「単純承認」が成立する可能性があります。
口座解約の手続きによって単純承認が成立すれば、被相続人のマイナスの財産まで、背負う羽目になるかもしれません。
残高が少額の場合
口座の凍結解除には複数の書類が必要です。銀行によっても異なりますが、口座名義人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本や、法定相続人全員の印鑑証明書などをそろえる必要があります。
預金残高が少ない、または0円の場合はあえて放置するのも1つの手でしょう。時間や労力ばかりがかかり、骨折り損のくたびれもうけとなってしまいます。
ただ銀行側では口座を管理するコストがかかります。放置される口座が増え続ければ、将来的に何らかのペナルティが設けられる可能性もあるでしょう。
亡くなった人の口座に対する必要な手続き
故人の銀行口座は、相続手続きが完了するまで凍結された状態が続きます。預金の払い戻しを受けたいときは、相続人同士で預金の相続方法を決定し、口座の凍結解除を行いましょう。なお手続きに必要な書類は銀行ごとに異なるため、詳細は銀行の窓口やホームページで確認する必要があります。
遺言書がある場合の手続き
遺言書は本人が自筆した「自筆遺言書」と、公証役場で保管される「公正証書遺言」に大別されます。自筆遺言書がある場合、手続きには以下の書類が必要です。
- 遺言書
- 検認済証明書
- 故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本および法定相続人を確認できる全ての戸籍謄本
- 遺言執行者の選任審判書謄本(遺言執行者が選任されている場合のみ)
- 預金の払い戻しを受ける人の印鑑証明書
- キャッシュカード・通帳
自宅で自筆遺言書が見つかった場合、家庭裁判所が相続人の立会いの下で遺言書を開封し、内容を確認するのがルールです(遺言書の検認)。検認済証明書は、家庭裁判所が発行します。
自筆証書遺言書保管制度によって保管されていた自筆遺言書や公正証書遺言の場合は、遺言書の検認は行いません。従って検認済証明書も不要です。必要書類をそろえ、銀行の窓口で手続きを行いましょう。
遺言書がなく遺産分割協議書がある場合の手続き
遺言書がない場合は、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、分割方法や相続割合を記載した「遺産分割協議書」を作成します。「預金を相続する人」が明確に記されていることを確認した上で、銀行の窓口で手続きを行いましょう。
- 遺産分割協議書(法定相続人全員の署名・捺印が必要)
- 故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本および法定相続人を確認できる全ての戸籍謄本
- 法定相続人全員の印鑑証明書
- キャッシュカード・通帳
遺言書も遺産分割協議書もない場合の手続き
相続人が複数存在し、かつ遺産分割を行っていない場合、遺産は相続人全員の共有財産です(共同相続)。遺言書や遺産分割協議書がない状態で手続きを進める場合は、以下の書類を準備します。
- 故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本および法定相続人を確認できる全ての戸籍謄本
- 法定相続人全員の印鑑証明書
- キャッシュカード・通帳
遺産分割協議書がある場合と同様、法定相続人全員の印鑑証明書が必要です。印鑑証明書は、役所の窓口や証明サービスコーナー、コンビニのマルチコピー機(コンビニ交付に対応している市区町村のみ)などで発行できます。
相続手続きをしなくても口座から引き出す方法
一旦凍結された口座は、相続手続きが終わらない限りは出入金ができません。相続手続きは煩雑で時間がかかるため、早めに口座預金を引き出したいときは、以下の方法を選択しましょう。
生前に引き出す
故人の口座で生活費を管理している場合、口座凍結によってさまざまな支払いが滞る可能性があります。
口座名義人が生きている間であれば出入金は自由なので、本人の了承を得た上で可能であれば、生前に出金するのがよいでしょう。本人が自分で出金できないときは、代理人を立てて出金手続きを行います。
生前の出金に際し、他の家族や相続人に出金の事実を伝えておきましょう。出金の目的やお金の使い道が不明だと、後に大きなトラブルに発展します。出金したお金を使った際は、必ず領収書を残しておきましょう。
仮払い制度の利用
「入院費の精算や葬式費用の支払いができない」といった急な入用があるときは、「相続預金の仮払い制度」を活用しましょう。
本来は相続手続きを経た上で預金の払い戻しが行われますが、本制度を利用すれば、相続した預金のうちの一部を遺産分割前に引き出せます。しかも他の相続人の同意は必要なく、相続人単独での手続きが可能です。
単独で払い戻しをする際の上限額は以下の通りです。1つの金融機関につき150万円の上限が設けられているため、150万円を超える引き出しはできません。
- 相続開始時の預金残高×1/3×共同相続人の法定相続分
上限金額を超える場合は家庭裁判所へ申し立て
相続預金の仮払い制度には上限があります。上限を上回るお金が必要な際は、家庭裁判所に「仮処分」の申し立てを行いましょう。仮処分が通れば「相続人の法定相続分にあたる全額または一部」を引き出せます。
ただし仮処分を受けるには、共同相続人の利益を侵害しないことが前提です。生活費の支弁等の事情があるなど、権利行使の必要性がなければ認められない点に留意しましょう。
仮処分が認められた後は「家庭裁判所の審判書謄本」や「預金の払い戻しをする人の印鑑証明書」を用意し、銀行の窓口で手続きを行います。
適切に手続きした方が後々のリスクを防げる
故人の口座を放置してもペナルティはありません。預金残高が少ない場合や相続放棄をする場合は、むやみに手続きを進めない方がベターです。
一方で一定の預金残高がある場合は早急に相続手続きを進め、払い戻しを行いましょう。1年、2年と手続きが先延ばしになると、相続関係が複雑化します。預金債権が消滅時効を迎える可能性もゼロではありません。
身内が亡くなると何かと慌ただしくなりますが、家族や相続人同士と協力し合いながら、しかるべき手続きを着々とこなしていきましょう。