相続のために故人が所有していた不動産について調べたい場合は、名寄帳を活用するのがおすすめです。遺された不動産の抜け漏れを防げるほか、不動産の情報をより詳しく把握できます。名寄帳の見方や取得方法、注意点について確認しましょう。
名寄帳とは
複数の不動産を相続する場合や、遺された不動産を全て把握していない場合は、名寄帳が役立ちます。まずは名寄帳の意味と、名寄帳が必要になるケースを理解しましょう。
個人名義の不動産を所有者別にまとめた一覧
名寄帳とは個人で所有している不動産を、所有者ごとに一覧にした書類で、読み方は「なよせちょう」です。
名寄帳を作成するのは、不動産が存在する市区町村です。市区町村には固定資産税を管理するための、固定資産税課税台帳があり、この台帳の情報を名寄帳で所有者別にまとめています。
納税通知書に記載されない固定資産税非課税の不動産も、名寄帳には記載されているため、特定の人物が所有する全ての不動産を把握したい場合には、名寄帳の活用が有効です。
自治体によっては名寄帳を「固定資産課税台帳」「土地・家屋名寄帳」と呼ぶケースもありますが、単に名寄帳と呼んでも意味は通じます。
名寄帳が必要になる4事例
名寄帳は相続発生時に活用される機会が多い書類です。故人が所有していた不動産について、主に以下のような問題がある場合に必要となります。
- 固定資産税非課税の不動産が分からない
- 共有名義の不動産を把握できない
- 投資用物件の詳細が不明
- 固定資産税課税明細書をなくしてしまった
遺族が把握している不動産の数と、固定資産税課税明細書に記載されている不動産の数が合わない場合も、名寄帳が必要です。また不動産をいくつ持っていたのか分からない場合も、名寄帳を見れば故人が所有していた不動産について把握しやすくなります。
名寄帳の取得方法
名寄帳は各市区町村の役所で作成するため、名寄帳が欲しい場合は、役所で手続きを行わなければなりません。名寄帳の具体的な取得方法について解説します。
交付申請できるのは原則本人のみ
名寄帳を閲覧・取得できるのは、原則として不動産を所有する本人のみです。そのほかに本人が委任する代理人も申請できます。
本人が亡くなっている場合は本人が申請できないため、相続人が申請することになります。この場合も相続人以外は、名寄帳の交付申請ができません。
名寄帳には故人が所有する資産についての、細かい情報が記載されているため、本人と関係がない人には公開できないのです。
なお遺言執行者は相続人に準ずる者とみなされ、名寄帳の申請が認められています。相続人の代理人や利害関係者も申請が可能です。
誰が取得するかによって必要書類が変わる
相続人が名寄帳の交付申請を行う場合には、主に以下の書類が必要です。
- 相続人の本人確認書類
- 故人との関係を示す書類(戸籍謄本や遺産分割協議書など)
- 故人が死亡したことを示す書類(除籍謄本など)
- 交付申請書類
相続人が代理人を立てる場合は、代理人の本人確認書類と委任状も追加で提出しなければなりません。利害関係者は故人との利害関係を証明する書類も必要です。
なお故人が亡くなる前に親族が名寄帳の交付申請を行う場合は、同居の有無や不動産がある市区町村に住んでいるかどうかにより、必要書類が異なります。
申請は役所やオンラインで可能
名寄帳の交付申請は役所の窓口で行うことが可能です。交付申請書類は窓口でもらえるほか、役所のウェブサイトからもダウンロードできます。
名寄帳の交付申請を受け付けているのは、一般的には固定資産税を取り扱う部署です。ただし自治体によっては窓口が異なるため、事前に問い合わせておきましょう。窓口以外に電子申請や郵送での申請を受け付けている自治体もあります。
名寄帳の取得にかかる費用は、一般的に不動産1件につき300円前後です。不動産が多くなると取得費用も高くなることになります。自治体によっては所有者1名あたり300円前後かかるケースもあります。
名寄帳の見方
名寄帳を見れば不動産に関する、さまざまな情報を確認することが可能です。名寄帳に記載されている主な情報や、名寄帳の活用方法について解説します。
名寄帳に記載されている主な情報
名寄帳の様式は自治体により異なります。一般的に記載されている代表的な情報は次の通りです。
- 土地や家屋の所在地
- 登記地目と現況(課税)地目
- 課税台帳上の地積や床面積
- 固定資産税評価額
- 築年数
- 所有形態(単独または共有)
- 持分割合(共有の場合)
- 固定資産税・都市計画税の課税標準額や参考価格
名寄帳には情報量が多いため、どの項目を見ればよいのか、分からなくなりがちです。まずは不動産の種類や地番を確認し、相続税に関係する固定資産税評価額も見ておきましょう。
相続時の活用方法
遺産分割を行う際は主に固定資産税評価額を用います。相続税がかかるかどうかを確認する場合は、固定資産税評価額を相続税評価額に、計算し直さなければなりません。
土地の場合は路線価または倍率方式と呼ばれる方法で、相続税評価額を算出します。建物は固定資産税評価額がそのまま相続税評価額です。
共有名義になっている不動産がある場合は、法務局で登記簿謄本を取得しましょう。登記簿謄本を確認すれば、抵当権の有無が分かります。
抵当権を残したままでも相続はできるものの、抵当権があると売却しにくくなるため、抹消するかどうか相続人同士の相談が必要です。
名寄帳の注意点
名寄帳は万能な資料ではなく、知りたい情報が分からない場合もあります。名寄帳を取得する際の注意点を押さえておきましょう。
市区町村単位でしか取得できない
名寄帳に掲載されている不動産は、名寄帳を作成する市区町村に存在する不動産のみです。故人の不動産が市区町村をまたいで存在する場合は、それぞれの自治体から名寄帳を取得する必要があります。
1つの自治体で名寄帳を取得しても、そこに記載されている不動産が、故人が所有していた全ての不動産であるとは限らないのです。
そもそも不動産のある場所が分からない場合は、市区町村の特定から行わなければなりません。故人に関係するさまざまな書類を見て、不動産の所在地を推測する作業が必要です。
その年に取得した不動産は記載されない
名寄帳には1月1日時点に所有していた不動産が記載されます。その年に不動産売買を行って所有状況が変わっている場合も、名寄帳からはその事実は把握できないのです。
例えば故人が生前に不動産を購入し、購入した年に亡くなった場合、新たに増えた不動産は、その年に取得する名寄帳には記載されていません。逆に不動産を売った場合も、どの不動産が売却されたのか、名寄帳で判断することは不可能です。
名寄帳では把握できない不動産の売買状況を確認するためには、取引時に交わされた不動産売買契約書などを探し出さなければなりません。
法人所有の不動産は法人の名寄帳で確認
一般的な名寄帳は、個人名義の不動産のみが記載されています。法人所有の不動産情報が知りたい場合は、法人の名寄帳を取得しなければなりません。
法人名義の不動産は相続には関係しません。しかし故人が会社を経営していた場合は、法人の名寄帳があると、後を継ぐ経営者が法人名義の不動産を把握しやすくなります。
法人の名寄帳も不動産がある市区町村で取得できます。法人の名寄帳を申請する場合は、法人の代表者印が押された申請書や委任状が必要です。
名寄帳で被相続人の不動産を確かめよう
名寄帳は個人が所有する不動産を、所有者別にまとめた書類です。相続時に故人が遺した不動産の情報を確認する目的で、名寄帳が活用されます。
不動産が存在する市区町村の役所に申請すれば、名寄帳を取得することが可能です。名寄帳で故人が持っていた不動産を確認し、相続をスムーズに進めましょう。