将来受け取る年金は人によって大きく異なります。自分が老後にいくら年金をもらえるのか、正しく計算できるようにしておきましょう。
しっかり保険料を納めていれば、一定の年齢(60歳や65歳など)に達すると、その時代の現役世代が納付した保険料が、年金として給付されます。働いている現役世代が保険料を納付し、高齢世代への給付に充てる仕組みです。
令和2年度「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金の平均受給額は月額5万6,358円、厚生年金の平均受給額は14万6,145円でした。
まずは年金の基本的な知識から、将来いくら年金がもらえるのか確認する方法まで紹介します。
この記事を監修した専門家
ファイナンシャルプランナーCFP®認定者/相続診断士
宮﨑真紀子
公的年金の種類
一般的に「年金」といえば「公的年金」を指します。公的年金は国が運営する年金で、国民の老後の生活を安定させるための制度です。
公的年金には「国民年金」と「厚生年金」の2種類があります。日本国民は自らの年齢や働き方に応じて、加入する年金が変わる仕組みです。
自営業者は国民年金のみの給付を受けますが、会社員や公務員は国民年金に加えて、厚生年金の給付を受けられます。
国民年金の受給者
国民年金は20歳以上60歳未満の、全国民が加入します。被保険者は以下の3種類で、財源は現役世代の被保険者が納付した保険料に加えて、半分は国庫負担です。
【第1号被保険者】企業に所属していない自営業者(フリーランス)や学生、農業・漁業従事者で、自分で保険料を満額納付します。
【第2号被保険者】企業や行政組織に所属している会社員や公務員は、厚生年金と合わせて給料から拠出金が支払われるので、自分で納付する必要はありません。
【第3号被保険者】会社員や公務員の配偶者(専業主婦や主夫)は、その配偶者が加入している厚生年金や共済組合で負担されます。そのため自分で納付する必要はありません。
厚生年金の受給者
厚生年金は、企業に継続雇用されていて一定以上の勤務時間を満たす人が加入できる年金です。
一般的な会社員や公務員の場合、受給資格を満たせば全国民が加入する国民年金(基礎年金)に加えて、老後に厚生年金も受け取れます。
厚生年金の保険料の半額は、被保険者の雇用主が負担する形です。会社員や公務員の場合は保険料が給与から天引きされるため、自ら納付する必要はありません。
さらに国民年金の保険料も厚生年金から拠出され、企業が代わりに納付します。
年金の受給資格と開始時期
年金の受給資格と開始時期についても整理しておきましょう。社会の状況に応じて年金制度も変更になる可能性があり、実際に受給資格期間も変わっているので、定期的に制度変更がないか、確認することが大事です。
必要な資格期間は10年
年金を受給するためには、保険料の納付期間と免除期間を合算した期間(資格期間)が、原則として25年必要でした。しかし2017年8月1日から資格期間が10年以上あれば、年金の受給が可能になっています。
資格期間が10年に満たないと、老後に年金を受給できなくなってしまいます。これまで年金保険料を滞納したり納付してこなかったりした人は、現状を把握しておくことが大事です。
年金保険料の免除期間とは?
保険料の免除期間とは国民年金の第一号被保険者の加入期間において、保険料を納めるのを免除された期間です。一定の条件を満たすことにより保険料の納付が免除され、その期間も受給資格期間として計算されます。
しかしその期間に該当する年金支給額は、国庫負担分に相当する1/2(2009年3月までは1/3相当)となる点は注意が必要です。
収入の減少や失業などにより、一時的に年金保険料の納付が困難になった場合、申請によって保険料の納付を一定期間免除してもらえる可能性があるので、利用してみましょう。
近年の新型コロナウイルスの影響による収入の減少に関しても、申請によって保険料の納付が免除される世帯が多かったようです。
受給開始時期は原則65歳から
年金の受給開始は原則として65歳になってからで、資格期間の10年を満たしていなければいけません。2013年以前は厚生年金の受給開始は60歳からとなっていましたが、現在は国民年金と厚生年金のいずれも65歳から受給が可能です。
また経過措置として、厚生年金の加入期間が1年以上あるなどの条件を満たせば、生年月日に応じて「特別支給の老齢厚生年金」を受給できます。
受給年齢に達する3カ月ほど前になると、日本年金機構から年金の請求手続き案内が送付されてくるので、手続きをして受給する流れです。自ら手続きをしないと受給できないので、注意しましょう。
「繰り上げ受給」や「繰り下げ受給」も可能
年金は受給時期を60~64歳に早める「繰り上げ受給」や、66~75歳(昭和27年4月1日生まれ以前の人は70歳)の期間に遅らせる「繰り下げ受給」も選択可能です。繰り上げると受給できる年金額が減り、繰り下げると受給できる時期が遅くなる分、もらえる年金額が増える仕組みになっています。
繰り上げによって減額される年金額は、国民年金・厚生年金の受給額に、以下の増額率を乗じて算出します。最大で24%の減額です。
- 減額率=繰り上げ請求の月から、65歳に達する日の前月までの月数×0.4%(1962年4月1日以前の生まれの人は0.5%)
一方で繰り下げによって増額される年金額は、原則として国民年金・厚生年金の受給額に、以下の減額率を乗じて算出します。65歳から75歳までの繰り下げが可能で、最大で84%の増額が可能です。
- 増額率=65歳に達した月から、繰り下げを申し出た月の前月までの月数×0.7%
老後に受給できる年金額が少ないと感じている人は、繰り下げ受給することで、もらえる年金額を増やせるので、選択肢の一つとして検討しましょう。
年金の受給額はどう決まる?
実際の年金の受給額はどのように決まるのか、確認していきましょう。個人事業主の場合は国民年金のみの受給となり、会社員や公務員は(国民年金を含む)厚生年金を受給することになります。
国民年金の場合
国民年金の受給額は保険料を納付した月数によって決まります。国民年金は20歳から、60歳になるまでの40年間(480カ月)の全ての期間、保険料を納めると満額給付されます。
給付される年金額はほぼ毎年改定されているため、具体的な金額はその年になるまで分かりませんが、金額が大幅に変わるわけではなく、満額の場合は毎月65,000円程度の給付です。
厚生年金の場合
厚生年金の受給額は保険料の納付期間と、収入の額で決定されます。会社から支給されている給与や賞与の額によって、納付する保険料が変わるため、所得が高ければ納付する保険料も多くなり、老後に支給される年金額も多くなる仕組みです。
したがって人によって受給額はかなり異なるので、どれぐらい支給されるかは、自分で計算してみることをおすすめします。後述する公的年金シミュレーターを利用するとよいでしょう。
もらえる年金の計算方法
実際にもらえる年金がいくらになるのか知るための、計算方法も知っておきましょう。ただし年金はその年によって支給される額に、若干の変動があるため、計算した金額が必ずもらえるわけではありません。
しかしある程度の予測はできるので、老後に支給されるであろう年金額を、概算してみるとよいでしょう。
国民年金の支給額の計算方法
支給される国民年金の額は、以下の計算方法により算出できます(令和4年4月分から)。
- 年金支給額(年間)=77万7,800円×保険料を納付した期間(月)÷480(月)
40年間欠かさず保険料の納付を続け、満額で受給できる場合は1年間で77万7,800円(1カ月あたり約64,800円)もらえることになります。
免除期間や納付していなかった期間などがあれば、それに応じて減額されるので、できるだけ満額でもらえるように、毎月保険料を納付するようにしましょう。
厚生年金の支給額の計算方法
厚生年金は保険料を納付した月だけでなく、被保険者の収入額によって変動します。基本的には「報酬比例部分」「経過的加算」「加給年金」の合算です。
「報酬比例部分」は次のAとBを合わせた金額で算出されます(2022年4月分から)。
A:2003年3月以前の加入期間 | 平均標準報酬月額(平均月収)×7.125÷1,000×2003年3月までの加入月数 |
B:2003年4月以降の加入期間 | 平均標準報酬月額(平均月収)×5.481÷1,000×2003年4月以降の加入月数 |
「経過的加算」の計算方法は以下の「C-D」です。
- C:1,621円×生年月日に応じた率(※1)×被保険者期間の月数(上限480月)
- D:777,800円×厚生年金被保険者期間の月数(昭和36年4月以降で20歳以上60歳未満)÷(加入可能年数×12カ月)(※2)
※1:昭和21年4月2日以後生まれの場合、1.000
※2:昭和16年4月2日以降の場合、40年×12カ月=480
「加給年金」は、生計を維持している配偶者や子がいる場合に支給される費用です。配偶者は65歳未満であること、子は18歳到達年度末日までの年齢制限があります。金額は配偶者が223,800円、1人目・2人目の子が各223,800円、3人目以降の子は各74,600円です。配偶者は生年月日に応じて特別加算もあります。
年金支給額のシミュレーション
被保険者の生年月日によって受給額が異なるほか、厚生年金に20年以上加入している場合、一定の条件を満たした配偶者や子どもがいると加給年金額が加算されるなど、年金の計算は非常に複雑です。
そのため自分で条件を確認しながら計算するのもよいですが、日本年金機構が運営している「ねんきんネット」や、厚生労働省による「公的年金シミュレーター」などを使うのがおすすめです。
実際の年金支給額について、モデルとなる人物の年齢や、世帯収入を個別に仮定し、公的年金シミュレーターでシミュレーションをしました。
すべての例で、20歳から22歳まで大学生で2年間国民年金を支払い、受給開始年齢は65歳と仮定しています。
支給者例 | 詳細 | 支給額(65歳から) |
---|---|---|
会社員の単身世帯 |
|
年間174万円(月に約14万5,000円) |
共働き夫婦世帯 |
妻が合計2年間子ども2人の出産・育児休暇を取得(その期間は夫の扶養に入る)と仮定 |
夫:年間195万円(月に約16万2,000円) 妻:年間147万円(月に約12万2,000円) 合計:年間342万円(月に約28万5,000円) |
自営業者の夫婦 |
夫は29歳まで会社員として勤め、その後フリーランスに。妻は29~31歳まで出産・育児のため夫の扶養に入ると仮定 |
夫:年間90万円(月に約7万5,000円) 妻:年間86万円(月約7万2,000円) 合計:年間176万円(月に約14万7,000円) |
会社員と専業主婦の世帯 |
妻は大学を出て23歳から28歳まで会社員(厚生年金)、結婚後29歳から専業主婦の場合を想定 |
夫:年間195万円(月に約16万2,000円) 妻:年間86万円(月に約7万2,000円) 合計:年間281万円(月に約23万4,000円) |
国民年金および厚生年金の平均支給額
令和2年度「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金の平均受給額は月額約5.6万円でした。
一方で厚生年金の平均受給額は約14.6万円と、国民年金だけを受け取る場合に比べて、約2.6倍の支給額です。国民年金と(国民年金を含む)厚生年金との間には、大きく差があることが分かります。
年金受給額の変動要因
支給される年金の額はその年によって変動します。どのような要因で年金の変動がもたらされるのか、簡単に理解しておきましょう。
物価や所得水準による変動
物価の変動や所得水準の変化によって、年金の受給額は変動します。年金は現役世代が納付する保険料で賄われており、少子高齢化によって現役世代の数が少なくなれば、納付される保険料と、給付する年金とのギャップが広がってしまいます。
そのままだと現役世代に負担がかかってしまうため、物価や賃金の変動に応じて、年金の給付額が調整される仕組みになっているのです。
例えば物価や所得水準が下がると、それに応じて年金の支給額も減ります。近年も将来の給与水準を考慮し、年金の受給額が数十円から数百円ほど、下がり続けている状況です。
マクロ経済スライドによる調整
マクロ経済スライドによる、年金額の調整についても知っておきましょう。マクロ経済スライドとは人口減少や平均寿命の上昇、その他もろもろの社会情勢の変化に応じて、給付する年金額の水準を調整する仕組みです。
2004年の年金制度改革によって導入され、物価や所得の改定率を調整し、緩やかに年金の給付水準を調整します。
物価や所得の水準が向上しても、ダイレクトに年金の給付額を増やさず、現役世代の人口減少や平均余命の伸びなどに応じた、「スライド調整率」を差し引き、年金の給付水準が決定されます。
もらえる年金額を増やすには?
年金の額はさまざまな要因で決められますが、近年は支給額が減少傾向にあるため、将来に備えて、年金額を増やしたいと考える人が増えているようです。老後にもらえる年金の額を増やすには、以下の方法が考えられます。
年金の加入期間を増やす
一般的には60歳まで働いて、65歳以降に年金を受給します。そこで少しでも受給額を増やしたいならば、60歳以降も働くことも想定するのも1つの手です。
できるだけ長く働くと、将来の年金受給額が増えるだけでなく、給与も受け取り続けられます。その後の生活がかなり楽になるでしょう。
年金の繰り下げ制度を利用する
年金の受取時期を遅らせる(繰り下げる)ことで、その後に受給できる年金額を増やせます。5年遅らせれば年金額は42%も増額が可能です。
もともと年金の受給開始時期は、70歳まで繰り下げられましたが、2022年4月からは75歳まで繰り下げが可能になっています。老後も元気に働ける人にとっては、効果的な制度といえるでしょう。
老後の資金の積み立て方
物価や国民全体の賃金の増減など、社会全体の変化が関係し、年金の受給額は変動します。特に少子高齢化が進んでいることで、保険料を納める人が減っており、保険料を上げなければ、全体の給付水準が下がってしまう状況です。
老後資金が不安な人は自分なりに、資金の積み立てや貯金などをしておく必要があるでしょう。公的年金以外の老後の資金対策としては、以下のものが挙げられます。
企業年金の1つ「企業型確定拠出年金」
企業年金の中に、企業型確定拠出年金というものがあります。2001年に開始した制度で、受取時は公的年金に上乗せして支払われる点がメリットです。
企業型確定拠出年金は事業主が主体となって運営されており、企業に勤める従業員が加入できます。
公的年金と違い事業主が運営しているため、中途退職時に自分で運用方法を考えなければいけません。転職先の企業に持ち運ぶこともできますが、企業や規約によっては一時金として受け取らなければならないケースもあります。
受け取ってしまうと、老後の資金として受け取る企業年金の金額が少なくなったり、資金計画を練り直さなければならなかったりする点がデメリットです。
自分で積み立てて運用する「iDeCo」
iDeCo(個人型確定拠出年金)は毎月掛け金を積み立て、その金額と運用益を原則60歳以降に受け取れる制度です。誰でも任意に加入が可能で、掛け金は全て所得控除となるため、税金対策としても有効です。
さらに運用益にも税金がかからず、最低5,000円から手軽に運用ができます。掛け金の上限額は被保険者の資格によって異なるので、公式サイトで確認しましょう。
年間40万円まで非課税で運用「つみたてNISA」
つみたてNISAは小額から長期的に積立・分散投資できる制度です。年間40万円の元金を限度に、投資信託の運用益が最長で20年まで非課税になります。
金融庁の基準を満たした投資信託で、個人資産の積み立てが可能で、販売手数料もかかりません。毎月100円から少額投資が可能なので、将来の生活に不安がある人は、活用したい制度です。
個人事業主におすすめの「国民年金基金」
国民年金基金も国民年金に上乗せして、加入できる年金制度です。会社員に比べて受給できる年金額が少ない個人事業主や、フリーランスのための年金制度で、税制上の優遇も受けられます。
20歳以上60歳未満の国民年金の第一号被保険者であれば加入できる、全国国民年金基金と、特定の事業または業務に従事する第一号被保険者が加入できる、職能型国民年金基金の2種類があります。
終身年金で亡くなるまで受け取れるので、個人事業主の人は加入を検討してみましょう。
足りない分の年金の穴埋めに「個人年金保険」
個人年金保険は公的年金で足りない部分を補うための保険です。所定の時期までの保険料を納付することで、公的年金と同じように、一定の年齢に達してから年金を受け取れるようになります。
公的年金は国が運用する制度ですが、個人年金保険は金融商品の一つで、確定年金や有期年金、終身年金の3種類があります。
貯蓄が苦手な人でも、老後の資金を積み立てられるのに加えて、保険料控除が受けられるため、所得税や法人税を抑えられるのもメリットです。
金融商品を運用「投資信託」
投資信託は専門家が、株式や債券に投資・運用する金融商品です。個人投資であり、国が運用する制度や保険ではありません。
元本割れのリスクはありますが、少額から始められるのに加えて、投資先と運用の仕方次第では相応の利益になるので、他の積み立てに比べて、大きなリターンが得られる可能性もあります。投資先をうまく分散することで、リスクヘッジも可能です。
年金をいくらもらえるか、確認しておこう
年金の基本的な仕組みを解説するとともに、将来もらえる年金額の計算方法を紹介しました。年金(公的年金)は国民年金(基礎年金)と厚生年金の2種類があり、前者は全国民が加入し、後者は主に会社員や公務員が加入するものです。
特に厚生年金は加入期間や所得によって、老後に給付される年金額が大きく異なります。日本年金機構の「ねんきんネット」や、厚生労働省の「公的年金シミュレーター」などを利用して、自分なりに給付額を計算してみるとよいでしょう。
また老後の生活に不安があるならば、公的年金に加えて個人で積み立てをするなど、今のうちから対策を施しておくことが大事です。「iDeCo」や「つみたてNISA」などを積極的に利用しましょう。
監修者:宮﨑真紀子
ファイナンシャルプランナーCFP®認定者/相続診断士
コメント
多くの場合、公的年金は老後収入の中心となる存在です。「いくら貰えるのか」を知ることは、働き方やお金の使い方、お金の増やし方を考える上で重要です。毎年お誕生日の頃に送られてくる“ねんきん定期便”を確認することから始めてみてはいかがでしょう。