臨終とは本来死を迎える直前を指し、一般的には死の判定を下されたときに使う言葉です。
身近な人が臨終を迎える際、悔いのないものにするためには、何ができるのでしょうか。
臨終まえの看取りや、立ち会うときの過ごし方、臨終後にすることを確認しておくと、いざという時に役立ちます。容体が変化していく本人に寄り添うために、できることを見ていきましょう。
この記事を監修した専門家
日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
二村 祐輔
臨終とは何か
映画やドラマなどで医師が告げる、「ご臨終です」というセリフは有名です。しかし臨終のこの使い方は本来の意味とは違います。まずは臨終の本来の意味を確認しましょう。
本来は「死に際」を表す
臨終は本来「死に際」を表す言葉です。仏教用語で人の命が尽きようとしていることを意味する、「臨命終時(りんみょうじゅうじ)」を略した言葉ともいわれています。
似た意味の言葉である「危篤」との違いは、回復の可能性がわずかでもあるかという点です。危篤は奇跡的な回復を見せることもありますが、臨終では回復しません。このまま亡くなっていくときのことを指す言葉が、臨終です。
今まさに亡くなる直前でベッドに横になっていることを、「臨終の床にある」と表現することもあります。また「臨終期」というと、亡くなる直前から亡くなるまでの期間のことです。
死亡したときに使われることが多い
本来の意味は死に際を表す臨終ですが、一般的には「亡くなる・息を引き取る」という意味で使われています。たとえば「臨終を迎える」「臨終は夏の暑い日でした」といった、使われ方の場合です。
臨終を使ったり聞いたりする場面では、本来の意味よりも用いられることが多いでしょう。
臨終が近いことを知らせる合図
危篤者のそばで臨終に立ち会う際、体や心の変化をよく見ておきましょう。臨終のときが近いことを知らせる合図を紹介します。
身体機能の低下
亡くなるときに向け、身体機能は徐々に低下していきます。食事の量が少なくなり、水分を取る量も減っていくでしょう。そして起きている時間より、寝ている時間の方が多くなります。
日常生活に必要な動作を一人で行うのは難しいため、何をするにしてもサポートが必要となるでしょう。またお世話をするときに体に触れると、以前より手足の先が冷たく感じることもあります。
精神の安らぎ
身体的な変化と同時に、心の状態も変わっていくといわれています。焦りや不安な気持ちは減っていき、安らぎを感じやすくなるそうです。またどこにいて今が何時なのか、場所や時間の感覚が、曖昧になっていきます。
お迎え現象
その場にいない孫や故人が現れ、「迎えに来た」「手を引いてくれた」というような「お迎え現象」を見る人もいるでしょう。現実との区別がつきにくくなっている状態といえます。
今ここにいない人に会ったという話が出たら、否定することなく、話を聞くと良いでしょう。
中治り現象
一時的に意識がはっきりする「中治り現象」が起こることもあるでしょう。医学的に解明されている現象ではありませんが、臨終を迎える合図の1つと考えられています。
臨終に立ち会うときの過ごし方
臨終に立ち会うときは、最後まで本人とコミュニケーションをとることが、遺される人にとっても大切です。本人や遺族が悔いのないものにできるように、臨終を迎えるときの過ごし方を紹介します。
家族や本人の会いたい人へ連絡する
危篤の連絡を受けた際には、家族や本人が会いたいと希望している人が立ち会えるようにすると良いでしょう。容態が思わしくないご家族がいる場合には、あらかじめ連絡する人をリストアップしておくと安心です。
親しい人に囲まれていれば、孤独を感じることなく、安らかな気持ちでいられるでしょう。心置きなく旅立ちのときを迎えられるよう、集まった人は落ち着いて、静かな時間を過ごします。
枕元で話し掛ける
家族や親しい人が集まったら、ぜひ枕元で本人に話し掛けましょう。
本人は既に意識がなく、コミュニケーションが取れる状態ではないかもしれません。しかし聴力は最後まで機能すると言われており、周りの声は聞こえている可能性が高いです。
話し掛ける内容に決まりはありませんが、否定的な言葉は避けましょう。「ありがとう」といった感謝の言葉はもちろん、楽しい思い出について、語り掛けます。
「これを伝えておけばよかった」と後悔が残らないよう、素直な言葉で伝えると良いでしょう。
危篤から臨終後の流れ
医師に危篤を告げられ、回復の見込みがなくいよいよ臨終となると、医師によって死亡の判定が下され、時刻などの確認がなされます。
臨終後には、立ち会った人で「末期(まつご)の水」の儀式を行うこともあるでしょう。また病院の場合、看護師やスタッフによる清拭、着替え、お化粧なども行われることがあります。
その後、ご遺体は病院の霊安室へ安置される流れです。
医師に危篤を告げられる
臨終が訪れる前に、医師からはまず危篤を告げられます。回復の可能性もごくわずかに残っていますが、その見込みはほぼないと判断された状態です。
そのまま危篤から回復しなければ臨終となります。
医師による死亡確認
医師が「自発呼吸の停止」「心臓の停止」「瞳孔散大」の3つを確認すると、死亡と判断されます。
その後医師は、亡くなった人が医学的・法律的に死亡したと認められるために必要な「死亡診断書」を作成します。
末期(まつご)の水を行う
故人の口に水を含ませる「末期の水」を行うこともあります。含ませるとはいっても口の中に入れるわけではありません。綿やガーゼで唇を湿らせる程度に濡らします。
お釈迦様が亡くなったとき、最期に水を飲み安らかに旅立てたといわれている逸話が由来の1つです。安らかな眠りにつけるよう、祈る気持ちを込めて行います。
故人が息を引き取ったのが病院であれば、その場での儀礼や儀式は省略されることもあるでしょう、また搬送、安置後に行う場合もあります。
末期の水の作法
故人の口に水を含ませるときには、箸に脱脂綿を巻いたものを、おわんの水で湿らせ使います。地域や宗派によって、箸と脱脂綿ではなく、菊の葉や鳥の羽・筆を使うケースもあるでしょう。
湿らせた脱脂綿を口へ当てるときには、まず上唇の左から右へなぞり、下唇も同じように左から右へなぞります。無理に口の中へ入れるのはマナー違反です。複数の人が集まっているときは、以下の順番で行います。
- 配偶者
- 子ども
- 親
- 兄弟姉妹
- 子どもの配偶者
- 孫
- いとこ
- その他親族や友人
その場に集まった全員が行ったら、最期におでこ・鼻・顎の周りの順に顔をきれいに拭き、末期の水の儀式は終了です。「お疲れさまでした」と声を掛けながら拭いても良いでしょう。
ご遺体を整えて安置
末期の水が終わると、医療器具の取り外しや、排泄物の処理・アルコールやお湯で、ご遺体を拭く清拭・身繕いなどを行います。
清拭はアルコール綿などで遺体を拭き上げ、消毒や感染症を防ぐ意味合いもあるケアです。医療スタッフが行うことが多いでしょう。また新しい寝巻や寝装着を着せたり、手を胸の上で組ませたりして、安らかな姿になるよう整えます。
その後、ご遺体は病院の安置室や霊安室へ移されますが、すぐに自宅やそれ以外の場所への搬送が必要です。遺族は葬儀社へ連絡し、搬送を依頼しましょう。
臨終後に遺族が行う手続き
家族の逝去後にご遺族の行う手続きはさまざまですが、まずは葬儀社を決め、搬送と安置を依頼しましょう。役所での手続きは期限が早いものから順に行います。
死亡診断書の受け取り・コピー
医師から死亡診断書を受けとったら、10枚ほどコピーしておきましょう。
死亡診断書がないと、実際に亡くなっている人でも法律的には生きていると判断されてしまうため、火葬や埋葬のための許可が下りません。また税金の支払いや年金の受給は、生前と同じように扱われてしまいます。
各種手続きを行うためにも医師の死亡確認と死亡診断書が必要です。死亡診断書は役所に提出する機会が多いため、医師から書類をもらったらコピーしておくことが大切です。
葬儀社の手配
ご遺体は病院から早めに別の安置場所へ移さなければなりません。そのため葬儀社をスピーディーに決定しましょう。病院から紹介されることもありますが、他の葬儀社を手配しても、問題ありません。また一時的に、ご遺体の搬送のみを依頼しても大丈夫です。
故人から葬儀の希望などを聞いているなら、希望が叶えられる葬儀社を選ぶと良いでしょう。またエンディングノートがあるなら、参考にできる内容が書かれているか確認するのがおすすめです。
葬儀社の費用やプランは各社で異なります。複数社を比較した上で決めるのがよいでしょう。
役所での手続き
役所で行わなければいけない手続きも複数あります。
まずは亡くなってから7日以内に「死亡届」の提出と、「埋火葬許可証交付申請」を行いましょう。死亡届の提出は代理人でもできるため、葬儀社が代行してもらえます。
14日以内には「国民年金・厚生年金の停止」や「健康保険証の返還」も必要です。亡くなったのが世帯主なら、「世帯主変更届」も提出しなければいけません。
故人によって必要な手続きは異なります。手続きを以下の記事で一覧にしていますので、参考にしてみてください。
本人の変化に寄り添い悔いなく過ごそう
臨終のときを迎える前には、身体機能が落ちて寝ている時間が増え、現実との区別がつきにくくなっている発言が見られることがあります。医師に危篤を告げられたあと、奇跡的に回復しない限りは臨終へ至るでしょう。
家族や本人が会いたいと希望している人など、立ち会う人へ連絡します。立ち会いは落ち着いて、静かに行うのが基本です。
また意識がなくても聴覚はあるといわれているため、このとき本人の枕元で話し掛けるのも良いでしょう。感謝や励まし・楽しかった思い出についてなど、後悔のないように話しておくのがおすすめです。
ご臨終前に変化に寄り添う時間を持つことで、悔いのないお別れにつながります。
監修者:二村 祐輔
日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
『葬祭カウンセラー』認定・認証団体 主宰
東洋大学 国際観光学科 非常勤講師(葬祭ビジネス論)
著書・監修
- 『60歳からのエンディングノート入門 私の葬儀・法要・相続』(東京堂出版) 2012/10/25発行
- 『気持ちが伝わるマイ・エンディングノート』 (池田書店) 2017/9/16発行
- 『最新版 親の葬儀・法要・相続の安心ガイドブック』(ナツメ社) 2018/8/9発行
- 『葬祭のはなし』(東京新聞) 2022年現在連載
など多数
コメント
臨終に際しての作法は、平安時代の『往生要集』(比叡山の僧 源信 著)に記載されており、現在に至るまでその慣習が伝わってきました。また近代の宗教民俗学でも、いろいろな地方慣例が確認されています。日本の死生観には「再生」という観念もあり、たとえば臨終後の「末期の水」は産湯に使用した同じ井戸(水源)から汲んだものを使用し、またこの世に生まれ変わってほしいとの祈念もあると言えます。なごり惜しさも踏まえての決別も、死者への哀悼です。