養育費の不払いが起きた際に検討したいのが、内容証明郵便の利用です。内容証明郵便によって得られる効果や書き方・手続きの仕方を知り、泣き寝入りせずに問題解決を図りましょう。相手が内容証明郵便の請求に応じない場合の対処法も紹介します。
養育費とは
養育費の不払いに対応するにあたり、まず知っておきたいのが、そもそも養育費とは何なのかという点です。養育費の詳細や離婚時に行っておきたい手続きを紹介します。
子どもを育てるために必要な費用
養育費は子どもが自立するまでに必要な、生活費・教育費・医療費など、一般的な費用を指します。両親が離婚する際には、どちらが監護者(子どもを実際に育てる側の親で、一般的には親権者)になるかを決める必要があります。
しかし監護者・非監護者の双方が親である事実は、離婚しても変わりません。非監護者となった親にも子どもに対する扶養義務があり、義務を果たす手段として支払うのが、養育費なのです。
なお養育費の支払いを受けるのは子どもの権利であり、非監護者の親には、自身と同程度の生活水準を子どもに与える義務(生活保持義務)があるため、自身の都合で放棄はできません。「生活が苦しいから養育費は支払えない」というのは、基本的に通らないと考える必要があるでしょう。
離婚協議書による養育費の支払い契約が有効
養育費の不払いを防ぐ手段として有効なのが、養育費をはじめとする離婚にあたっての、条件や約束をまとめた「離婚協議書」の作成です。
離婚協議書は作成日を記入し双方が署名・捺印をすることにより、正式な契約書として法的な効力を持ちます。のちに「言った」「言わない」の争いが発生するのを防ぎ、約束を破ることに対する抑止力として、非常に効果的な手段といえるでしょう。
離婚後に「こんなはずではなかった」という事態を防ぐ上で、離婚協議書は大きな役割を果たしてくれるのです。
離婚時に養育費を取り決める際の項目
実際に離婚協議書を作成する場合、養育費について具体的に何を取り決めておけばよいのでしょうか。必要な項目を整理していきましょう。
金額・支払い方法
離婚後の養育費について話し合う際、まず決めておきたいのが金額と支払い方法です。養育費の金額については、お互いが納得している限り、いくらでも問題はありません。
お互いの収入や子どもの人数を踏まえて決めるのが一般的ですが、話し合いがまとまらない場合には、裁判所が公開している算定表を参考にするのがおすすめです。
支払い方法についても特別な決まりはありません。「毎月子ども名義の口座に振り込み」「1年ごとに監護者名義の口座に振り込み」「離婚時に一括払い」など、状況に応じて取り決めましょう。
支払期間については、子どもが自立するまでの期間を定めるのが一般的です。いざというときに揉めることのないよう、事前に細かく決めておきましょう。
進学時の特別費用
子どもを養育する過程では、節目ごとに大きな出費が必要になるものです。特に大きな出費が必要になるのが進学時で、監護者の経済状況によっては、受験料や入学金・学費などの支払いが、ままならないケースも少なくありません。
そんな事態を防ぐため、あらかじめ取り決めておきたいのが、進学時の特別費用です。子どもが高校・大学に進学する際に支払われる特別費用を、事前に決めておくことで、子どもの進学にまつわる監護者の負担を、大きく軽減できるでしょう。
もし「そんな先のことは決められない」と考えるなら、子どもの進学時に、改めて話し合いの場を設ける旨を協議書に明記しておきましょう。子どもの将来に大きく関わる問題であるため、妥協せずに話し合うのがおすすめです。
離婚後の事情の変更について
養育費は子どもの権利です。非監護者側の親の事情で一方的に支払いを止めたり、減額したりはできません。とはいうものの、離婚後に大きく環境や状況が変わり、明らかに支払いが難しくなった場合は、話が別です(事情変更の原則)。
こうした場合には改めて父母間で話し合いの場を設けて、妥協点を探ります。話し合いで妥結点を見出せない場合、調停の場で結論を出すことになるでしょう。
養育費の停止や減額が認められやすい具体的な例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 非監護者の収入が極端に減った
- 非監護者が再婚し、扶養対象者が増えた
- 監護者が再婚し、世帯収入が増えた
- 監護者が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組をした
実際のところはケースバイケースですが、参考までに心に留めておきましょう。
不払い・未払いが続くなら内容証明郵便で請求
別れた配偶者から支払われるはずの、養育費の不払いや未払いが続く場合、対処法としておすすめなのが、内容証明郵便を使った請求です。内容証明郵便の詳細を確認しましょう。
内容証明郵便の効果
内容証明郵便は「送り主」「宛先」「どんな内容の文書を送ったか」について、郵便局が証明してくれるサービスです。請求書としても利用できるので、内容証明郵便を通じて不払い・未払いの養育費の支払いを求められます。
文書の中身が証明されていることから、内容証明郵便を受け取って読んだ相手は、「連絡は来ていない」「養育費の請求はされていない」というような、言い逃れができません。
実際に支払わせる強制力こそないものの、不払い・未払いを続ける相手にプレッシャーを与えるという意味で、非常に効果的な手段といえるでしょう。
内容証明郵便の書き方
内容証明郵便では相手に送付する原本(内容文書)1通と、郵便局・差出人それぞれが保管する控え(謄本)2通の、計3通の文書を用意する必要があります。
用紙の大きさや材質に制限はありません。手書きかプリントアウトか、縦書きか横書きかについても自由です。
ただし使用できる文字は「仮名・漢字・数字・英字(固有名詞に限る)・括弧・句読点・その他一般的に記号として使用されるもの」に限定されます。外字・旧字体は受付不可となる可能性があるため、注意しましょう。
謄本についてのみ1枚あたりの文字数に、以下のような規定があります。
- 縦書き:1行20字以内・1枚26行以内
- 横書き:1行20字以内・1枚26行以内または1行13字以内・1枚40行以内または1行26字以内・1枚20行以内
二度手間にならないためにも、事前にルールを一通り確認してから作成するのがおすすめです。
内容証明郵便の手続き方法
内容証明郵便の発送手続きは郵便局の窓口で行います。受付を行っているのは集配郵便局もしくは指定郵便局のみなので、地域の取り扱い局について事前に調べておくとよいでしょう。
郵便局には用意した書類3通(内容文書・謄本)・差出人と宛先を記入した封筒に加え、以下の料金を持参します。
- 基本料金:84円(※25g以内)
- 一般書留の加算料金:435円
- 内容証明の加算料金:440円(※用紙が1枚増えるごとに+260円)
このとき受取人名や配達完了日を通知してくれる、「配達証明(320円)」のオプションを、付けておくのがおすすめです。送付した書類の内容に加えて相手が受け取った事実を証明できるため、いざトラブルとなった際に有利に働くでしょう。
行政書士に内容証明の作成・送付を依頼
中には「細かい決まりがよく分からない」「自分で法的に問題のない書類を作る自信がない」という人も、いるのではないでしょうか。そんな人におすすめなのが、行政書士に内容証明の作成・送付を依頼する方法です。
行政書士は書類の作成や手続きを専門とする、法律の専門家です。行政書士にサポートをしてもらうことで、スムーズかつ安心して必要な手続きを行えるでしょう。
別料金となるケースが多いものの、行政書士の職名で請求書を発送してもらうことも可能です。この場合には相手にかかる心理的なプレッシャーが増し、より速やかな問題解決が期待できるでしょう。
内容証明郵便で督促するメリット・デメリット
内容証明郵便を利用した養育費の督促には、いくつかのメリットとデメリットが存在します。それぞれ詳しく見ていきましょう。
メリット
内容証明郵便を使って不払いの養育費の督促をする場合、得られるメリットとして、まず挙げられるのが「請求に対する本気度が伝わること」です。
心理的なプレッシャーに屈し、相手が支払いに応じれば、調停や裁判といった段階まで至らず問題の解決が図れます。手間や労力が削減できるため、請求側の負担も最小限に留められるでしょう。
仮に調停や裁判に発展したとしても、内容証明郵便の発送時に受け取った「書留・特定記録郵便物等差出票」の控えを示すことによって、請求した事実を証拠として提示できます。これにより、調停・裁判を有利に進められるでしょう。
デメリット
前述の通り、内容証明そのものに法的な強制力はありません。文書内で明確に督促を行ったとしても、相手が応じなければ支払いは受けられないのです。
また、内容証明郵便を送付するにあたっては、その前段階として相手の住所を知っている必要があります。
現住所が分からない場合でも、元夫婦であれば戸籍の付票を利用して、相手の現住所を取得できます。しかし時間と手間が必要です。また相手が本籍を移している場合には、子どもの法定代理人として、手続きする必要があります。必要な知識や負担も必然的により大きくなってしまうでしょう。
内容証明郵便の請求に応じない場合
相手が内容証明郵便の請求に応じない場合、取り得る手段には、どのようなものがあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
調停を起こす
内容証明郵便を送ってもなお、相手が養育費の支払いに応じないようならば、まず検討したいのが「養育費請求調停」の申し立てです。
調停で第三者を挟んだ話し合いを行うことで、当事者だけではどうしても折り合いがつかなかった問題も、比較的スムーズな解決が期待できるでしょう。
ここで合意に至った場合、次に不払いや未払いが起きた時点で、強制執行が可能となります。将来の不安をなくす意味でも、非常に効果的な手段といえるでしょう。
少額・民事裁判
事前に離婚協議書などで養育費の支払いについての合意がある場合、請求権の行使として裁判を起こすのも一つの方法です。
請求金額が60万円以下の場合には、一般的な民事訴訟よりも安価かつ手続きが簡単な、少額訴訟が利用できます。得られる金額と、必要な費用とのバランスを考える必要がありますが、時間と費用をかけないという点で、おすすめの方法です。
請求金額が60万円以上の場合には、通常の民事裁判となります。民事裁判の場合、相手の住所が分からなくても裁判を起こせますが、より多くの手続きや手間が必要になり、請求側の負担は増します。
少額訴訟と民事裁判のどちらが適当か、請求金額や条件を踏まえ検討しましょう。
強制執行
公正証書や調停の場で定められた、養育費の支払いが行われない場合、最終的な手段として強制執行が可能です。
強制執行での養育費の支払いは、一般的に相手の給与を差し押さえ、天引きする形で行われます。スピーディーかつ安定した支払いが期待できるため、親子の生活基盤も整うでしょう。
あらかじめ養育費の取り決めを、公正証書の形で残しておけば、万が一の不払い・未払い時、調停や裁判を経ることなく強制執行が可能です。
「支払いが受けられず生活ができない」「万が一不払い・未払いが起きてもすぐに回収したい」という人にとって、これは大きなメリットといえるでしょう。
離婚時の約束の遵守には内容証明を活用
養育費の不払いが起きたとき、まず行いたいのが内容証明郵便の発送です。
内容証明郵便とは、どんな文書をいつ誰が誰に送ったかを証明できる文書で、相手の「見ていない」「聞いていない」という言い逃れを防ぐ効果があります。
特に行政書士に職名での請求書の発行を依頼すれば、心理的なプレッシャーから、速やかな支払いが期待できるでしょう。離婚時に取り決めた約束を遵守してもらうための手段として、内容証明郵便を効果的に利用するのがおすすめです。