賃貸物件にカビが発生したときに、大家の頭を悩ませるのが、カビの除去費用を誰が負担するかという問題です。できることなら入居者に負担してもらいたいと思っても、状況的に難しい場合もあります。誰が責任を取るのかをはっきりさせて、カビ問題を解決しましょう。
賃貸物件のカビ除去費用は発生原因によって負担者が異なる
カビの発生理由によって、除去費用を負担する人は変わってきます。賃貸物件でカビが発生したときは、現場をよく観察して原因を見極めることが大切です。除去費用を貸主が負担するケースと、入居者が負担するケースを紹介します。
貸主がカビ除去費用を負担するケース
建物の構造自体に問題があった場合、カビの除去費用は貸主負担となります。貸主負担となるケースの一例が、窓の断熱性が低い場合です。
寒い時期には、断熱性能の低い窓は窓周辺と室内との温度差が大きくなり、結露が発生しやすくなります。入居者が必死に結露対策を行っても、間に合わずにカビが発生してしまった場合には、カビの除去費用は貸主負担となる可能性が濃厚です。
その他に、壁がコンクリート打ちっぱなしになっていたり、配管からの水漏れがあったりした場合も、除去費用は貸主負担となります。
入居者がカビ除去費用を負担するケース
入居者の行動がカビ発生の原因だった場合には、カビの除去費用は入居者負担となります。入居者負担となるケースの一例が、結露を拭かずに放置した場合です。
気温が下がる冬場は、どうしても結露が発生しがちです。結露の発生に気付きながらも、一切拭き取らずに放置したせいでカビが発生した場合は、カビの発生は入居者の行動に原因があるとされ、除去費用は入居者負担となるでしょう。
その他には、換気扇を全く使わなかったり、家具を壁に密着させていたりする場合も、カビの除去費用は入居者負担となります。
賃貸物件にカビが発生したときの対応
カビは、放置するとどんどん繁殖していく生き物です。始めは狭い範囲でしか繁殖していなくても、あっという間に部屋中に広がる危険性があります。
そのためカビを見つけたら早急な対処が必要です。賃貸物件でカビを発見したときに、取るべき対応を紹介します。
カビ取り剤などを使って掃除
カビが発生した範囲が狭かったり、生え始めて日の浅い軽度なカビだったりした場合には、自分で除去することが可能です。
軽微なカビを落とすなら、中性洗剤やエタノールなどの身近なアイテムを活用しましょう。少し頑固なカビを落とすなら、専用のカビ取り剤を購入して使うのがおすすめです。
カビ除去にエタノールやカビ取り剤を使う場合は、掃除場所に合った製品を選びましょう。例えばエタノールは、木製家具に使用すると塗装を溶かしてしまうので注意が必要です。
クリーニング業者に依頼
カビが広範囲に発生している場合には、クリーニング業者にカビ取りを依頼しましょう。自力で行うカビ除去には限界があります。少しでも手に負えないと感じたら、素直に業者に依頼するのが賢明です。
業者にカビ取りを依頼するメリットは、自分の時間を節約できる点です。日々の業務に追われて、カビ取りどころではない人に適しています。
またカビ防止のコーティングまで依頼できるのも、業者にカビ取りを依頼するメリットです。カビの除去だけでなく、カビの再発生防止までかないます。
壁紙・フローリングの張り替え
壁紙やフローリングにカビが広がってしまった場合には、壁紙やフローリングの張り替えが効果的です。室内を新品同様の状態に戻せます。
ただし広範囲に広がってしまったカビは、壁紙やフローリングの奥まで菌糸を伸ばしている可能性があります。このような場合、壁紙やフローリングを張り替えても、カビが再発する確率が高いでしょう。
カビの再発を防ぐには、カビ菌を死滅させる必要があります。業者に張り替えを依頼するときは、併せて薬剤によるカビ取りと防カビ処理を依頼しましょう。
カビが発生しやすい物件の条件
カビが発生しやすいのは、湿度70%以上・温度15~30℃程度の環境です。ほこり・食べかす・ダニの死骸などのカビのえさになる物質が加わると、どんどんカビが繁殖していきます。これらの条件が整いやすい物件の条件を紹介します。
部屋に日差しが入ってこない
カビが繁殖しやすい物件の代表格が、日差しの入ってこない部屋です。日当たりの悪い部屋は、差し込む太陽光によって室内が乾燥する場面が少ないので、湿度が上がりやすくなります。
日差しが入ってこない部屋として多くの人がイメージするのが、北向きの部屋です。南向きの部屋と比べて太陽光が差し込む時間がぐっと少なくなる北向きの部屋は、カビが生えやすい物件といえます。
大きな建物が隣接する物件も、カビに注意が必要です。建物が太陽光を遮り、部屋の日当たりが悪化することがあります。
風通しが悪く空気がよどみがち
風通しの悪い部屋も、カビが生えやすい物件として挙げられます。風通しの悪い物件は湿気がこもってしまうため、どうしてもカビが発生しやすくなるのです。
風通しの悪い物件の代表例として挙げられるのが、窓が1つしかない部屋です。空気は入口と出口があるとよく流れるため、窓が1つしかないと風が抜けていかず、窓を開けても十分に換気できません。
窓が極端に小さい部屋も、カビが生えやすいため注意が必要です。大きい窓の方が大量の空気を取り込めるため、窓が小さいと換気効率がぐっと下がってしまいます。
鉄筋コンクリートで作られている
おしゃれなコンクリート打ちっぱなしの物件も、カビ対策の面で見れば避けたい物件です。鉄筋コンクリート製の物件は木造の物件と比べて気密性が高く湿気がこもりやすいので、積極的に換気を行わないと、どんどんカビが繁殖していきます。
コンクリートは作るときに水を加えるため、湿気を多く含む素材です。コンクリートが完全に乾燥するまでには、年単位の時間が必要といわれています。そのため、コンクリートが打たれてまもない築浅の物件は、特にカビが発生しやすいでしょう。
低層階に位置している
1~3階程度の低層階に位置する物件も、カビの発生に警戒しなくてはなりません。地面との距離が近い低層階の物件は、湿気を含んだ空気が入ってきやすく、換気をしても十分なカビ防止効果を得られないといえます。
換気がしにくいのも、低層階の物件にカビが繁殖しやすい理由の1つです。不審者の侵入を警戒する必要がある低層階の物件は、窓を開け放っておくのが難しい環境下にあります。
結果的に部屋の湿気を逃がすタイミングが少なくなり、カビが繁殖しやすくなってしまうのです。
室内でカビが発生しやすい場所・環境
部屋の中にも、カビの発生に注意すべき場所がいくつかあります。カビが発生しやすい条件を満たしていれば、たとえ物件自体はカビに強い傾向があってもカビが生えてしまうでしょう。カビが発生しがちなスポットを紹介します。
浴室や洗面所
浴室や浴室とつながる洗面所は、カビが生えやすいスポットです。浴室や洗面所は温度と湿度が高く、カビの発生しやすい環境がそろっています。石けんカスや皮脂などのカビのえさになる物質も豊富なため、しっかり対策をしていなければ、どうしてもカビが発生してしまいます。
特に警戒すべきなのは、浴室の天井です。天井にカビが生えると、カビの胞子が天井から浴室全体に降り注ぐことになり、浴室全体にカビが繁殖する引き金となってしまいます。
クローゼットや下駄箱
クローゼットや下駄箱も、カビに注意しなくてはならないスポットです。どちらも通気性が悪く、カビの栄養となる皮脂・ほこりが豊富にあるため、カビが発生しやすくなっています。
クローゼットや下駄箱を使用する際は、着ていた服や使用直後の靴をすぐにしまうのは避けましょう。着用直後の服や靴は多くの湿気を含んでいます。十分に乾燥させずにクローゼットや下駄箱にしまうと、カビが発生に拍車をかけてしまう危険性があります。
窓枠
窓枠とその周辺も、カビの発生を警戒すべきスポットです。窓枠とその周辺は、結露によって湿度が上がりがちです。結露が発生するたびに水分を除去しないと、どうしてもカビが発生してしまいます。
また、サッシ部分や窓枠のゴム部分にカビの栄養となるほこりがたまりやすいことも、窓枠にカビが発生しやすい理由の1つです。
特に注意したいのが、浴室の窓です。浴室の窓は高温多湿になりやすいため、カビが発生しやすいといえます。湿度がなかなか下がらないという点では、太陽光が当たらない窓にも要注意です。
賃貸物件のカビ発生を防ぐ対策
建物が同じなら各部屋の環境も似ているため、1つの部屋でカビの発生が認められた場合、他の部屋もカビのリスクにさらされている可能性が高いといえます。カビが大繁殖して対処に困る前に、カビ防止対策を講じてトラブルを防ぎましょう。
24時間換気システムの設置
物件の通気性を向上させる対策としては、『24時間換気システム』の導入がおすすめです。24時間換気システムとは、換気扇を活用せずに住宅全体を換気する仕組みです。
現在では建築基準法により、24時間換気システムの設置が義務付けられています。古い住宅には設置されていないため、設置が義務付けられた2003年より前に作られた建物の場合は、導入を検討しましょう。
24時間換気システムの利点は、システムをオンにしている限り自然と換気ができる点です。湿気を含んだ空気を常時外に逃がすことで、カビの繁殖しづらい環境を維持できます。
結露が発生しにくい窓ガラスへの交換
窓ガラスの交換も、有効的なカビ防止対策の1つです。結露が発生しにくい窓ガラスには、以下のような種類があります。
- 複層ガラス
- エコガラス
- 真空ガラス
複層ガラスとは、複数のガラス板で構成されたガラスのことです。ガラスとガラスの間に乾燥空気が封入されています。外からの冷気が内側の窓に伝わるのを空気層が防いでくれるため、複層ガラスは結露が発生しにくいとされています。
複層ガラスは、昨今の新築物件に多く用いられているガラスです。古い物件や集合住宅の場合には、リフォームでの設置を検討しましょう。
防カビ仕様の壁紙への張り替え
防カビ効果を付与した壁紙を導入するのも、カビ防止対策の1つです。カビに強い壁紙の一例が、吸水性のあるポリマーが使われている『吸放湿壁紙』です。湿度が高い時期は湿気を吸い、湿度が低い時期は湿気を放出します。
最新の壁紙の多くは防カビ加工が施されています。物件が古い場合には、壁紙の交換を検討しましょう。
ただし、すでにカビが発生してしまった壁に防カビ仕様の壁紙を貼っても、効果は薄いといわれています。カビの発生を防止するには、24時間換気システムの導入や機能性ガラスへのリフォームなどを実施し、カビが発生しにくい環境に整えるのが大切です。
入居者への周知
『カビが発生しやすい』という事実を入居者に知らせるのも、重要なカビ対策の1つです。
マンションやアパートは一戸建てと比べて気密性が高いため、構造上の問題がなくてもカビが発生しやすい環境といえます。カビの繁殖を防ぐには、入居者に事実を周知した上でカビ防止対策の実践を促すことが大切です。
入居者の中には、『換気を怠るとカビが生える』という認識が薄い人もいます。カビが大繁殖してからカビの恐ろしさに気付くことがないよう、しっかりと事実を周知しておくようにしましょう。
カビの発生に気付いたらしっかり状況を確認しよう
カビの除去費用は、カビが生えた原因が貸主側と入居者側どちらにあるかで、負担する人が変わってきます。
カビの繁殖を認知したら、実際にカビが発生している現場に赴いて状況をチェックすることが大切です。状況確認と併せて入居者の部屋の使い方を確認することで、カビの発生が貸主側と入居者側どちらの責任なのか判断できます。
賃貸物件にカビの発生が認められた場合、貸主側と入居者側どちらかが除去費用を負担する必要があります。しっかりと状況を見極めて、責任の所在を明らかにしましょう。