老衰とは加齢によって、身体機能が衰えていく状態です。90歳を超えてくると、老衰死を迎える方が増えてきます。
老衰で亡くなる人に対し、家族ができることはあるのでしょうか?後悔することなく最期の時間を過ごせるように、今からできることを紹介します。
この記事を監修した専門家
城北さくらクリニック
副院長 犬丸真理子
老衰とはどんな状態?
老衰とは、加齢に伴い身体機能、認知機能が衰弱することです。身体機能が弱まっていくと、日常生活を送るために必要な動作ができなくなっていきます。
たとえば脳の機能の低下によって起きている時間が短くなり、1日の大半を寝て過ごすといった傾向が見られるでしょう。
病気やけがなどの特定の原因がなく、身体の衰えによって自然に亡くなる場合、老衰死と呼ばれます。
老衰が進む上で表れる主な変化
老衰が進むと、筋力の低下、内臓器官の機能低下、脳機能の低下がみられるのが特徴です。
筋力が低下すると、歩くスピードが落ちたり、転倒しやすくなったりします。握力が低下し、ものをうまく持てないこともあるでしょう。
食べ物を噛む・飲み込むという動作も困難になっていきます。これまで通りの食事はできず、食べる量も減るでしょう。食事量の減少や消化吸収機能の低下などにより、体重が減少します。
こうした変化がみられる家族には、できるだけ食べやすいよう、細かくきざむ・柔らかく煮る・ペースト状にするなどの工夫が必要です。
また脳機能も低下するので睡眠時間が増加していきます。
老衰は何歳から訪れる?
何歳以上であれば老衰であるというように、老衰と年齢の関係ははっきりと分かっているわけではありません。ただし90歳以上になってくると、老衰死と判断されるケースが増えてきます。
一般的には平均寿命である80歳以上であることを目安に、病気や事故以外の自然死であれば老衰とされます。しかし加齢による身体機能の低下により、病気を発症した場合は、老衰とはされません。
厚生労働省による2020年の人口動態統計によると、老衰が死因である順位は85~89歳では3位、90~94歳では2位、95歳以上では1位でした。
年代 | 死因順位 |
85~89歳 | 3位 |
90~94歳 | 2位 |
95~99歳 | 1位 |
100歳以上 | 1位 |
亡くなる前に備えたい準備とは?
老衰死を迎える前に備えておきたい準備をまとめました。本人が亡くなった後、遺された家族は役所や銀行などでさまざまな手続きをしなければいけません。
亡くなった後のことを考えると辛い気持ちになるかもしれません。しかしご自身の遺志を叶えるためにも、エンディングノートや遺言書を作成するのがおすすめです。ご家族の環境によっては、後見人制度を利用するのも良いでしょう。後見人制度とは意思決定を他の人が補う制度です。
エンディングノートを用意する
家族や友人に向けたメッセージや、本人の希望を書き記せるのが「エンディングノート」です。遺言書のように、公的な手続きに利用できるものではありませんが、気軽な気持ちで自由に書けます。
また書いている中で、人生を振り返るきっかけにもなるでしょう。趣味や好きな食べ物、家族への想いを書き始めることで、自分の新たな発見ができるかもしれません。
また亡くなった後に誰に知らせてほしいか、どういった葬儀をあげてほしいかも書いてあれば、家族が手続きを進めやすくなります。
遺言書を作成する
相続トラブルを避けるには「遺言書」が役立ちます。
中でも確実に実行されるのが「公正証書遺言」です。公正証書遺言は公証役場にて証人立ち会いのもと作成します。費用はかかりますが、遺言内容を実現する権限を持つ遺言執行者(遺言執行人)が設定されるため、トラブルを避けやすいでしょう。
ただし公正証書遺言は、本人の判断力があり口頭で遺言内容を伝えられる状態でなければ作成できません。はっきりと意思を示せるうちに、作っておくといいでしょう。
財産や相続人を確認する
家族が亡くなった後は、財産の相続が始まります。そのため老衰死を迎える前に、全ての財産を明らかにしておきましょう。
どこに財産の権利を証明する書類があるか分からないままでは、書類を探すだけでも大変な手間です。スムーズに手続きを行うため、本人の意識がはっきりしているうちに、財産の内容や所在を聞いておきましょう。
また全ての相続人を把握しておくことも欠かせません。相続人の調査は自力でもできますが、時間と手間がかかります。行政書士や弁護士といった専門家を頼ると良いでしょう。
葬儀についても確認を
葬儀についての希望をあらかじめ確認しておくと、実際にプランを決めるときに迷わずに済みます。葬儀社を探すときにも、本人の希望を叶えられるかどうかが基準となり、選びやすいでしょう。
また希望する葬儀の費用を事前に確認しておくと、実際に依頼をした際に見積との乖離が少なくなります。
ミツモアが2022年9月に行った葬儀に関するアンケートでも、生前に葬儀の相談を行っていた家族の方が、内容も費用も満足度が高い結果になりました。
本人とご遺族どちらも納得のいく葬儀を上げるためにも、生前に葬儀の内容や葬儀社の候補を相談しておくのがおすすめです。
亡くなる直前まで家族にできること
徐々に体力が衰えていく様子を見ていると、何もできず、歯がゆい思いを抱くこともあるでしょう。しかし家族にできることはあります。思い出になる時間を過ごすためにできることには、何があるのでしょうか?
リラックスできる環境をつくる
まずはリラックスして過ごせるよう、心地良い環境づくりを行います。身体機能が低下しても、聴力は最後まで残るそうです。届くと信じ好きな音楽をかけたり、耳元で話し掛けたりすると良いでしょう。
できるだけ一緒の時間を過ごすと、孤独を感じさせません。リビングやリビングの様子が見渡せる、隣の部屋にベッドを配置すれば、常に家族の気配を感じながら過ごせます。
大切なものや思い出のものなどを、視界に入るよう身近に置くのもおすすめです。
記念になる写真を撮る
意識がはっきりしているうちに、「記念写真」を撮るのも良いでしょう。髪を整えお気に入りの服を着て撮った写真は、ベッドの上の写真であっても思い出に残ります。
また撮影した写真は遺影にも使えます。
旅行に行ったときくらいしか写真を撮らないという人は、遺影にできる写真が見つからない場合もあるでしょう。またスナップ写真や集合写真から切り取り引き伸ばした遺影を使うケースでは、加工により全体的にぼやけた平面的な印象になってしまいます。
写真撮影をしておくと、クリアで自然な表情の遺影を用意することが可能です。
会いたい人に連絡を取る
友人・知人・親戚などに、本人が「会いたい」と言っている人がいるなら、早めに連絡します。身体機能が徐々に落ちていくため、できるだけ意識のあるうちに会えるよう、予定を調整するといいでしょう。
何か話したいことや渡したいものがある場合でも、意識がはっきりとしない状態では、伝えられません。本人に悔いが残らないようサポートすることが大切です。
できることから始めて後悔のないお別れを
老衰で亡くなる家族を看取るときには、リラックスして過ごせる、孤独を感じさせない環境づくりを意識しましょう。
また亡くなった後の希望をかなえられるよう、エンディングノートや遺言書の作成を促すのもおすすめです。本人の意思に沿った相続や、希望を取り入れた葬儀が叶えられるでしょう。
後悔することなくお別れのときを迎えられるよう、できることから取り組むのをおすすめします。
葬儀社は早めに探しておこう
本人が亡くなってから葬儀までの時間は、それほど長くありません。慌ただしい中で葬儀社を決めると、じっくり比較して選べず、本人の希望を叶えられない可能性もあります。
そのため生前に葬儀社を決めておくとスムーズです。実際に喪主となる家族が、生前に葬儀社へ相談しているケースもあります。
葬儀社の費用やサービスは各社で異なるため、複数社から見積もりを取って比較するのがおすすめです。複数社を比較すれば、予算内で希望をかなえられる葬儀社を見つけやすいでしょう。
何社にも連絡する手間を省くには、ミツモアの利用がおすすめです。ミツモアなら無料で最大5社の見積もりを受け取れ、簡単に比較することができますよ。
監修者:犬丸真理子
在宅療養支援診療所・在宅緩和ケア充実診療所
東京都練馬区練馬1-1-12
城北さくらクリニック 副院長
コメント
当クリニックは訪問診療のため、ご自宅や施設でお看取りすることが多いですが、葬儀屋さんを決めていない方が大半の様です。ご葬儀等がスムーズに決まらず、ご遺体の安置場所やご葬儀等に時間がかかるお話も聞いております。早めの対応が大切でしょう。