離婚時には公正証書を作成しておくと安心ですが、出費を抑えるなどの理由から、作成しない夫婦もいます。離婚を考えている場合、離婚公正証書の作成にかかる費用について知っておきましょう。具体的な流れや、費用に関する注意点についても解説します。
離婚公正証書とは?
離婚公正証書は日常的に扱う書類ではないため、詳しく知らない人も多いでしょう。まずは離婚公正証書の基礎知識を解説します。
離婚後のトラブルを防ぐための公文書
公正証書とは法律の専門家である公証人だけが、作成を許された公文書です。公証人は裁判官や検察官として長いキャリアを積んだ人の中から、法務大臣によって任命されます。
法律に基づいて私的な関係性を明文化しておき、民事紛争を未然に防ぐことが公正証書の目的です。公証人だけが公正証書を作成できるため、透明性と証明力があり、記載された内容には強い効力が与えられます。
離婚時・離婚後の(元)夫婦間はトラブルに発展しやすい関係性の一つです。離婚時に作成する公正証書は、離婚公正証書(正式には離婚給付契約公正証書)と呼ばれています。
離婚公正証書の作成を検討する必要があるのは、裁判所を通さずに協議離婚をする場合です。協議離婚では調停離婚とは異なり、公文書が自動的に作成されません。慰謝料や養育費の金額、支払い方法、子どもとの面会頻度など、必要な項目を取り決めておけば、離婚後に話がもつれる心配がなく安心です。
強制執行力を有するのが特徴
公正証書には証明力や原本の安全性などがありますが、強制執行力を有するのが特に大きな特徴といえるでしょう。強制執行力とは債務者が記載内容に反して、慰謝料や養育費の支払いを怠ったときに、債務者の財産を差し押さえできる効力です。
通常は強制執行を行使するためには、裁判所に訴えを起こして勝訴した上で、判決の確定を待つ必要があります。強制執行できたとしても債務者からの支払額が訴訟費用と相殺されたり、経済的な破綻が原因で支払いを受けられなかったりするケースも珍しくありません。
裁判の手間や費用を考えると、強制執行力が付随した公正証書を作成する意義が明らかになるでしょう。強制執行力を持つ公正証書は特に「執行証書」と呼ばれ、金銭の支払いや強制執行に関して明記されているのが条件です。
金銭の支払い契約では金額が明示されている必要があり、「給与の10%」のような契約や、住宅・自動車の引き渡しは強制執行の対象外です。
離婚公正証書の作成にかかる費用
離婚公正証書の作成には費用がかかります。作成自体にかかる手数料に加えて、諸費用やケース別にかかる費用も含めて解説します。
公証人手数料
まずは公正証書の費用の仕組みを把握しましょう。公証人は公証役場で公正証書の作成業務にあたっています。公正証書を作成してもらうには、公証役場で公証人手数料の支払いが必要です。
公証人手数料の金額は法律で決まっていて、公証人は職務以外の報酬は一切受け取れません。公証人は準公務員です。サービスの維持と健全性を維持するために公証人手数料は欠かせないのです。
公証人手数料は以下のように、公正証書で定める支払額に応じて、金額が上下します。離婚時には財産分与と慰謝料を合わせて計算し、養育費は個別で手数料を計算する決まりです。
目的の価額 | 手数料の金額 |
1,000,000円以下 | 5,000円 |
1,000,000円を超えて2,000,000円以下 | 7,000円 |
2,000,000円を超えて5,000,000円以下 | 11,000円 |
5,000,000円を超えて1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円を超えて3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円を超えて5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円を超えて1億円以下 | 43,000円 |
1億円を超えて3億円以下 | 43,000円に5,000万円ごとに13,000円を加算した金額 |
3億円を超えて10億円以下 | 95,000円に5,000万円ごとに11,000円を加算した金額 |
10億円を超える金額 | 249,000円に5,000万円ごとに8,000円を加算した金額 |
財産分与と慰謝料が合わせて4,000,000円、子ども2人の養育費が月にそれぞれ30,000円ずつ10年間支払われるケースで、シミュレーションしてみましょう。
財産分与と慰謝料は4,000,000円なので、上記の表によると手数料が11,000円と分かります。2人分の養育費は10年分で7,200,000円になるので、手数料は17,000円です。11,000円と17,000円を合算して、公証人手数料は2万8,000円と算出されます。
受け取り時の諸費用
公正証書を作成するときには公証人手数料に加え、諸費用もかかります。諸費用は公証人手数料と同様に、公正証書の受け取り時に支払うものです。諸費用は公証人手数料と比べて少額ではありますが、費用を可能な限り正確に把握しておけば、公正証書の作成に向けて周到な準備を整えられるでしょう。
公証人手数料以外にかかる費用を解説します。
一つ目は正本と謄本の用紙代です。公正証書の原本は公証役場で安全に保管され、債権者には正本、債務者には謄本が渡されます。公正証書の正本と謄本を受け取るためには、1枚あたり250円の用紙代の支払いが必要です。規定する内容が多いほど、支払う金額が高くなります。
二つ目に謄本の送達費用もかかります。強制執行について規定している公正証書の場合、強制執行を有効にするためには債務者に謄本が送達されていることが必須です。
受け取り時に手続きを済ませておくことも可能で、1,400円の送達費用がかかります。さらに謄本を送達してもらった証明として、送達証明書を発行してもらう必要があります。送達証明書の発行手数料は250円です。
契約内容に応じてかかる費用
公正証書の作成に直接関係する費用ではありませんが、公正証書で取り決める内容によって発生する費用もあります。追加の費用がかかるのは、財産分与に不動産が含まれている場合です。
不動産の財産分与にあたって、所有権移転登記を行う場合は登録免許税の納税が必要です。登録免許税は固定資産評価額の2%に相当します。賃貸物件の場合は名義変更に伴う費用がかかりません。
また自動車や保険、株式、債券などが財産分与に含まれる場合は、名義変更に費用がかかるか否か、あらかじめ確認しておくといいでしょう。
公正証書を作成する流れ
公正証書は公証役場で公証人に作成してもらいますが、最初から公証役場に行けばいいわけではありません。公正証書を作成するのに必要なステップを紹介します。
夫婦間で話し合う
公正証書を作成するには、公正証書で規定する項目について、夫婦間で合意している必要があります。公証役場を訪問する前に、まずは夫婦間で離婚契約の内容を協議しましょう。
公正証書に記載する代表的な項目として、財産分与、慰謝料、養育費のほかに、年金分割や婚姻費用の清算、親権者と監護者の規定、子どもとの面会交流が挙げられます。必要と考えられる項目について、数値を含む具体的な内容を決めるために、協議を重ねましょう。
公証役場に作成を依頼する
具体的な内容に関して合意ができたら、次に公正証書の作成依頼を出します。依頼時には本人確認書類はもちろん、戸籍謄本や登記事項証明書、保険契約書など複数の資料を求められます。契約内容に応じて必要な資料を用意しておくと、スムーズに作成作業が進むでしょう。
依頼してから2週間ほどで公正証書の準備ができ、再び夫婦で公証役場を訪れます。公正証書の内容を確認した上で、夫婦と公証人が原本に署名・捺印すれば完成です。
手数料を支払って正本・謄本を受け取る
公正証書が完成したら公証人手数料と諸費用を支払って、債務者が公正証書の正本を、債権者が謄本を受け取ります。手数料は作成後に確定するため、受け取り時に手数料などを支払う流れです。
手数料などの支払い方法は現金のみで、クレジットカードやQR決済、タッチ決済には対応していません。手数料の見当を付けておき、十分な額の現金を用意しておきましょう。手数料などを支払ったら領収証をもらって、全ての手続きが完了です。
公正証書を作成するポイント
公正証書の作成には費用がかかるため、トラブルに発展する恐れのあるポイントが複数あります。ポイントを確認して、公正証書のスムーズな作成を目指しましょう。
誰が支払うか費用負担を取り決める
公正証書の作成にかかる費用は、夫婦のどちらが支払っても問題ありません。夫婦2人で半分ずつ負担するのが一般的です。
片方が公正証書の作成を強く希望している場合は、片方が全額負担するケースも見受けられます。夫婦間で離婚に向けた話し合いをするときに、公正証書の負担割合もきちんと取り決めておきましょう。
公正証書は債権者だけではなく、債務者にとっても作成のメリットがあります。債権者が確実に金銭を受け取れるのはもちろん、債務者も余分な請求をされる心配がありません。両者が受ける恩恵を考えると、やはり50%ずつ負担するのが合理的でしょう。
作成をキャンセルしても費用がかかる
話がもつれて離婚調停を開く流れになったり、公正証書の必要性を考え直したりして、公正証書の作成を依頼した後に依頼を取り下げたいと考える場合もあるでしょう。
しかし公正証書が完成していなくても、作成を申し込んだ時点で、手数料の支払い義務が発生しています。申込後に依頼をキャンセルしても、一定の手数料はかかるため注意が必要です。
ただし申込後すぐにキャンセル依頼を出した場合は、公証人がまだ作業に着手していない可能性があります。作業への着手前なら手数料の支払いを免除されるケースもあるため、キャンセルしたいなら早めに連絡するようにしましょう。
公証役場では離婚の相談を受け付けていない
公証役場と聞くと、市役所などの中に公証役場の窓口があるように感じるでしょう。
実際には役所内にそのような窓口はなく、まったく異なる公証役場と呼ばれる建物があります。公証役場は全国に300カ所あり、公文書の作成手続きなどができる機関です。
公証人の仕事は公正証書の作成とそれに関する手続きだけです。準公務員として中立な立場を維持する必要があるため、離婚に向けたアドバイスはもらえません。公正証書の内容が定まらないままでは出直す事態になりかねないため、事前にきちんと内容を固めて合意に至っていることが重要です。
離婚公正証書の作成は行政書士に依頼しよう
離婚公正証書に盛り込む項目と内容は、自分自身でも考えられますが、行政書士に相談した上で中身を作るのがおすすめです。おすすめする理由と、離婚に強い行政書士の探し方を解説します。
離婚の公正証書を行政書士に頼むメリット
離婚公正証書の作成手続きには慣れない作業が多く、離婚に向けた心労も相まって、非常に大変なものです。法律の知識が十分にないと、何度も書き直しを求められて時間がかかる恐れもあります。さらに大きな抜け漏れがあると、離婚後のトラブル発生時に公正証書がきちんと効力を発揮しない可能性もあるでしょう。
お金を払って効力の弱い公正証書を作るくらいなら、行政書士への依頼料を追加して、きちんと効力を発揮する公正証書を作っておいた方が安心です。行政書士は文書作成の専門家です。夫婦間の協議はサポートしてもらえませんが、弁護士よりも依頼料が安いため、依頼のハードルが低いといえます。
離婚に強い行政書士を探すには
離婚構成書の作成サポートをしてもらうときは、ミツモアを利用して行政書士を探すのがおすすめです。ミツモアなら簡単な質問にいくつか答えるだけで、近隣で活動している行政書士を見つけられます。無料で相見積もりができるのに加え、気になる行政書士とはチャットで会話もできるので安心です。
優良な行政書士を探すポイントは、実績と料金体系をチェックすることです。離婚に関する優良な記事をたくさん書いているか、そして過去に公正証書の作成実績があるか確かめましょう。相場と比べて料金が安すぎたり、料金体系が不透明だったりする場合にはトラブルの種があります。
離婚時には公正証書を作成してトラブル回避
離婚公正証書の作成には公証人手数料のほか、受け取り時の諸費用や契約内容に応じた費用がかかります。公正証書の作成は必須ではないため、離婚時にかかる費用を抑えるのを優先して作成しない人もいるでしょう。
しかし公正証書は離婚後のトラブルを未然に防ぐ上で、非常に重要な文書です。離婚後にトラブルが発生すると、公証人手数料よりも大きな費用がかかる可能性が高いため、きちんと作成しておくのが無難でしょう。
公正証書は自分でも作成の手続きを進められますが、行政書士にサポートしてもらえば、効果的な公正証書を効率的に作成できます。公正証書を作成する際は、行政書士への依頼も合わせて検討するといいでしょう。