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医療費控除の計算方法!いくら戻るのかの具体例をシミュレーションで紹介

最終更新日: 2024年01月19日

今まで医療費控除のための確定申告はしたことがないけれど、「去年は家族が大きな病気をした」「妊娠・出産をした」などで医療費がかかったため確定申告がしたい。

こんなとき、医療費控除はどんな項目があって、控除額をどう計算するのかなど、分からないことがいろいろと出てきますよね。

そこでこの記事では、医療費控除の計算手順や対象となる項目、そして具体的には何円戻ってくるのかを分かりやすく説明していますので、ぜひチェックしてください。

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

安田亮(公認会計士・税理士・1級FP技能士)1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格、2010年京都大学経済学部経営学科卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応等を経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。

医療費控除とは

医療費控除は1年間の医療費が原則として10万円を超えた場合(※)に使える所得控除の制度です。
(※)総所得金額が200万円未満の場合、支払った医療費の5%を超える分が適用されます。

医療費控除は年末調整では適用できないため、会社勤めの方でも確定申告が必要であり、医療費控除を受けると、その金額が所得から差し引かれ、節税が可能となります。この章で詳しく説明します。

医療費控除とは?対象期間と対象者

医療費控除とは1月1日から12月31日の1年間にかかった医療費が10万円(※)を超えたとき、超えた分を所得から控除してもらえる制度です。この控除によって所得税と住民税が安くなります。

(※)所得が200万円以下の場合は医療費が所得の5%を超えた場合に適用されます。

最高で200万円まで控除されるので、高額な医療費がかかった年には大きく節税することが可能です。納税者本人だけでなく、生計を共にする家族全員の医療費が医療費控除の対象となります。

医療費控除を受けるには、確定申告を行わなければなりません。通常、確定申告期間は翌年の2月16日から3月15日までで、3月15日が土曜・日曜・祝日の場合は翌平日に延長されます。

確定申告の義務がない給与所得者などの場合、還付申告のみであれば、翌年の1月1日から5年間が申告期限です。

医療費控除はふるさと納税と併用できる

ふるさと納税と医療費控除は、同時に使うことが可能です。ただしワンストップ特例制度を利用すると、確定申告しても特例制度は適用されません。

ふるさと納税と医療費控除を併用する場合は、どちらも確定申告をして、それぞれの控除を申請する必要があります。

なお、医療費控除とふるさと納税を併用すると、ふるさと納税の控除上限額が減る点に注意しましょう。

医療費控除が各種所得控除に組み込まれているため、医療費控除を申告すると課税所得が減り、住民税の所得割額も減少するためです。医療費控除を申告する額から2%を差し引いた金額がふるさと納税の控除上限額の目安となります。

医療費控除の対象になる費用

医療費控除の対象になる治療費

医療費控除の対象になるのは、主に治療費や入院費です。ただし控除されるかどうか判断に迷う項目もあるでしょう。どんな費用が控除の対象になるのかを具体的に紹介します。

医療費控除になるもの一覧

病気の治療にかかった費用はほとんどが医療費控除の対象で、健康保険が適用されない治療でも多くの場合対象になります。

診察・検査・治療

  • 医師に支払った診察費、検査費、治療費
  • 処方箋による薬代
  • 病院間の情報提供のための診断書や紹介状の作成費
  • 治療に必要なマッサージ、ハリ、お灸の費用
  • 治療に必要な松葉杖、義足の購入費
  • 治療が必要な病気が見つかったときの健康診断、人間ドックの費用

入院・通院

  • 入院費、入院時の食事代
  • 医師の指示による差額ベッド料金
  • 通院のための交通費
  • 電車、バスでの通院が困難な場合のタクシー代金

出産

  • 定期検診の費用、交通費
  • 出産費用
  • 助産師の分娩介助料
  • 流産した場合の治療費、入院費
  • 母体保護法に基づく妊娠中絶の費用

歯科

  • 虫歯の治療
  • 金歯、セラミック(ポーセレン)、インプラントを含む入れ歯
  • 子どもの歯列矯正、不正咬合の歯列矯正

眼科

  • 視力回復のためのレーシック手術
  • 白内障の多焦点レンズを使用する先進医療の手術
  • 斜視の治療など、医師が治療に必要と認めたメガネ、コンタクトレンズの購入費

医療費控除にならないもの一覧
病院に支払ったお金がすべて医療費控除の対象になるわけではありません。

診察・検査・治療

  • 予防注射
  • 保険会社や勤務先に提出する診断書の作成費
  • 医師、看護師への謝礼
  • 健康診断、人間ドックの費用(何も病気が見つからなかった場合)
  • 美容整形、美容目的のシミ取り

入院・通院

  • 医師の指示以外の差額ベッド料金
  • 入院時のパジャマ購入費、レンタルテレビ料金
  • 車で通院したときのガソリン代、駐車料金

出産

  • 里帰り出産のための交通費
  • カルチャーセンターなどでの無痛分娩指導の受講料
  • 母体保護法に基づかない違法な妊娠中絶

歯科

  • 美容目的の歯列矯正
  • ホワイトニング
  • 歯垢除去

眼科

  • 近視、老眼の視力矯正のためのメガネ、コンタクトレンズ(眼科で検眼、処方した場合も控除の対象外)

セルフメディケーション税制はOTC医薬品が対象

セルフメディケーション税制を選択した場合に控除の対象になるのは、厚生労働省が指定した約1,800種類のスイッチOTC医薬品です。

スイッチOTC医薬品とは、元々処方箋薬だったものがドラッグストアで購入できるようになった薬品のことです。

対象商品は、厚生労働省のホームページの「セルフメディケーション税制対象品目一覧」で確認できます。

対象商品のパッケージには次のようなマークが印刷されているので、ドラッグストアでもチェックできます。

医療費控除の計算方法

医療費控除の金額は、以下の計算式で求められ、最大で200万円まで所得控除を受けられます

実際に支払った医療費の合計額 – 保険金などで補てんされる金額 – 10万円
(※)その年の総所得金額等が200万円未満の場合は、総所得金額等の5%の金額

保険金で補填される金額は、医療費の支払い金額を上限として差し引かれて計算されます。他の医療費から引かれることなく、引ききれない金額はそのまま残ります。

1年間の医療費を計算する

病院の領収書からも計算できますが、医療費の額を計算するもっとも簡単な方法は、健康保険組合から定期的に送られてくる「医療費のお知らせ」を保管しておき、1年分を合算することです。

「医療費のお知らせ」には、家族全員分の①受診年月、②病院名、③患者負担の額が書かれています。この患者負担分に通院のための交通費などを加えた額が医療費控除の計算のベースになります。

マイナポータルで医療費を一括確認できる

国が提供するマイナポータルというアプリを使えば、1年分の医療費を手軽に取得でき、集計や計算の手間がかかりません。

マイナ保険証を利用して医療費控除を行う手順は以下の通りです。

①マイナンバーカードを取得する

マイナ保険証を使用して医療費控除を行うためには、最初にマイナンバーカードの取得が必要です。未取得の場合は、カードの発行手続きを行いましょう。

②マイナンバーカードを健康保険証として登録する

マイナンバーカードを手に入れたら、健康保険証として利用するために初回登録が必要です。初回登録にはスマートフォン、パソコン、またはセブン銀行ATMを利用でき、自治体の窓口でも対応している場合があります。

マイナンバーカードを健康保険証として登録することで、マイナポータルを通じて医療費の情報をチェックできるようになります。

③マイナポータルで医療費通知の情報を確認する

マイナポータルから医療機関の名称や、医療費の窓口負担額などを閲覧できます。医療費通知情報は受診月の翌々月11日から確認可能です。

【所得が200万円以上】医療費から、受け取った保険金と10万円を引く

医療費の自己負担分に交通費などを加えた額が全額控除の対象になるわけではなく、そこから

  • 10万円を差し引く
  • 加入している保険から下りた保険金を差し引く

必要があります。その結果残った金額が所得から控除されます。

ただし、保険金が治療費よりも多く下りた場合は、その病気にかかった治療費分だけ差引けば大丈夫です。例えば、入院費用に5万円かかったが保険金は7万円下りた、という場合は2万円得をしているということになりますが、マイナスの医療費は無いので0円となります。

【所得が200万円未満】医療費から、受け取った保険金と総所得の5%を引く

1年間の所得が200万円未満の場合は、10万円ではなく、所得×5%の額を差し引きます。

たとえば所得が100万円の場合は、100万円×5%で5万円を医療費の合計から差し引きます。保険金が下りたときの扱いは、所得が200万円以上の場合と同じです。

シミュレーションツールを使うと計算がカンタン

医療費控除の金額は、シミュレーションツールを利用すると簡単に計算できます。

その年の実際に支払った医療費の総額と総所得金額を入力すれば、医療費控除の対象金額や還付金額がわかります

そのほか保険金などで補填される金額を入力すれば、より正確に計算できるでしょう。

医療費控除でいくら戻る?還付金の計算方法

医療費の控除額が計算できたら、それに基づいて還付金を計算します。所得額が高いほど所得税の税率が上がるので、控除額が同じでも還付金は所得が多いほど多くなります。

医療費控除の還付金の計算式は以下です。

返ってくる金額=医療費控除額×所得税率

所得税率は所得に応じて変わる

医療費の控除額が20万円だったとすると、源泉徴収された所得税はいくら返ってくるのでしょうか?

所得税率が10%の場合は20×10%で2万円が還付されます。
所得税率が15%の場合は20×15%で3万円が還付されます。

このように所得税の還付金は、医療費控除額×所得税率で計算されます。

所得税率の早見表

課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円を超え4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

表にある「課税される所得金額」とは、所得の中から基礎控除や扶養控除、社会保険料控除などを差し引いた額です。

基礎控除などは、会社員の場合は会社がそれを見込んで源泉徴収しているので、改めて確定申告する必要はありませんが、医療費控除は個人で申告する必要があります。

住民税は基本的に還付されず、次年度に支払う税額が安くなる

医療費控除の確定申告をすると、源泉徴収された所得税が還付される他に、住民税も安くなります。しかし住民税は現金で還付されるわけではなく、次年度の住民税が安くなるという形で減額されます。

住民税は前年度の所得に対して課せられる税なので、確定申告すれば申告年度の翌年の住民税が安くなるのです。

住民税の税率は、所得の額に関係なく一律10%です。その中の6%が市町村税で、4%が都府県民税です。

たとえば課税所得が400万円の人は、所得税が20%で80万円、住民税が10%で40万円となります。所得税は80万円から上表にある「控除額」42万7500円が引かれた分が実際に納める税金ですが、住民税にはこういう控除がないので、まるまる40万円納めなければなりません。

住民税が還付される場合とは

通常は現金で還付されることがない住民税ですが、すでに住民税を支払ってしまった過去の年度の医療費控除を申告したときは、指定した銀行口座への振込みという形で現金が還付されます。

医療費控除は過去5年間の分が申告可能です。

医療費控除の計算例を実際にシミュレーション!

医療費の控除額と還付される金額を、さまざまな3つのケースでシミュレーションしてみましょう。

主婦Hさんの場合

55歳の専業主婦Hさん

夫の年収 700万円
家族構成 妻と子供の三人暮らし
医療費 24万円

夫の年収700万円から給与所得控除や配偶者控除、扶養控除、社会保険控除などもろもろの控除額を差し引いたHさんの夫の課税所得は約370万円であると計算されたと仮定します(あくまで概算)。

課税所得が370万円である場合、Aさんは所得税約31万円を源泉徴収されていると考えられます。そこから医療費控除によって還付される金額は以下のようになります。

医療費控除の金額:24万円-10万円=14万円

還付される所得税の金額:14万円×20%(所得税率)=2万8,000円

これから支払う住民税が軽減される金額:14万円×10%(住民税率)=1万4,000円

会社員Aさんの場合

会社員Aさん

年収 500万円
家族構成 妻と子供の三人暮らし
医療費 28万円(子どもの骨折による入院費など)
保険金 6万円

年収500万円から給与所得控除や配偶者控除、扶養控除、社会保険控除などもろもろの控除額を差し引いたAさんの課税所得は約230万円であると計算されたと仮定します(あくまで概算です)。

いつもは、家族の医療費を合わせても10万円未満なので、医療費控除のために確定申告をしたことはありませんでしたが、今年は申告しようと考えています。

課税所得が230万円であるとすると、Aさんは約13万円を源泉徴収されていると考えられます。そこから医療費控除によって還付される金額は以下のようになります。

医療費控除の金額:28万円-6万円(保険金)-10万円=12万円

還付される所得税の金額:12万円×10%(所得税率)=1万2,000円

これから支払う住民税が軽減される金額:12万円×10%(住民税率)=1万2,000円

フリーターBさんの場合

フリーターBさん

年収 150万円
医療費 12万円(胃潰瘍での入院費など)
保険金 2万円

Bさんは毎月のバイト代が88,000円を超えるため会社が源泉徴収をしています。Bさんは医療費控除の確定申告をすることで、いくら還付金を受け取れるのでしょうか?

Bさんの課税所得は、年収150万円(収入)から給与所得控除や社会保険控除などもろもろの控除額を差し引いたAさんの課税所得は約29万円であると計算されたと仮定します(あくまで概算です)。

医療控除の金額は、12万円-2万円(保険金)-1万4,500円(課税所得:29万円×5%)=8万5500円となります。

よって、還付される金額は、8万5500円×5%(所得税率)=4,275円です。また、これから支払う住民税が軽減される金額は、8万5500円×10%(住民税率)≒8,000円(千円未満切り捨て)となります。

医療費控除の確定申告の簡単な流れ

医療費控除を受けるには、個人事業主だけでなく、サラリーマン、アルバイト、パートなどの方も確定申告が必要です。医療費控除の手続きについて、以下ではステップごとに詳しく説明します。

  • 必要書類を集める
  • 医療費控除の明細書を記入する
  • 確定申告書を提出する

インターネットで確定申告書作成コーナーを利用すれば、手書きが不要で簡単・便利です。

この章で流れを詳しく説明します。

必要書類を集める

医療費控除に必要な書類は以下の通りです。

  • 確定申告書
  • 医療費控除の明細書
  • 健康保険の医療費のお知らせ
  • 本人確認書類

また、医療費の領収書は提出しなくてもいいですが、確定申告期限から5年間は保管しておく必要があります。

医療費控除の明細書を記入する

次に、医療費控除の明細書には、かかった医療費を書き込みます。医療を受けた人や病院、治療費代などの項目を明細書に丁寧に書き込み、医療費の総額を記入します。医療費控除の金額計算しやすくするため、指定された枠に適切な数字を順番に入力していきましょう。

具体的な書き方については以下をご参照ください。

確定申告書を提出する

確定申告書と一緒に医療費控除の明細書を提出します。

提出方法には、e-Taxを使って申告する方法、郵便または信書便で住所地の税務署に送付する方法、そして住所地の税務署の受付窓口に直接提出する方法の3つがあります。確定申告書の記入方法については、以下をご覧ください。

医療費控除を上手に活用しよう

医療控除の計算方法を解説

医療費が10万円を超えたとき、あるいはドラッグストアで購入した薬(スイッチOTC医薬品)の代金が1万2000円を超えたときは、確定申告をすると払いすぎた所得税が還付され、翌年の住民税も安くなります。

健康保険組合から郵送される「医療費のお知らせ」や領収書を保管して確定申告をし、しっかり節税しましょう。

わからないことは税理士に聞くのも手

ガンの治療などで高度先進医療を受けた時などは医療費が高額になりますが、控除額について分らないことも出てくると思います。そんなときは税理士に相談するのも選択肢の1つです。

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監修税理士からのコメント

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

医療費控除は5年前のものでも確定申告すれば所得税の還付を受けられます。分からない場合は税理士に相談してみましょう。