会社を転職するにあたって、やるべき手続きは多くあります。なかでも住民税関連の手続きは複雑でわかりにくいことも多く、後にトラブルに繋がるケースもあるため注意が必要です。
転職時の住民税に関する手続きは、転職先が決まっているかどうか、いつ退職するかなどによって異なります。自身がどのパターンに当てはまるのか把握しておきましょう。
本記事では転職に伴う住民税の手続きについて、パターンごとに詳しく解説します。
この記事を監修した税理士
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台
転職時の住民税の手続き
転職後も会社に勤める場合、徴収方法は転職前と同じく特別徴収になります。すでに転職先が決まっていれば「給与所得者異動届出書」の作成を依頼して手続きを行うのが一般的です。この書類は転職前の職場・転職先の職場それぞれが記入する欄があり、職場同士でやり取りが必要です。
なお以下の場合は、転職前の職場と転職先でのやり取りをせずに、住民税関連の手続きを行います。
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住民税の納付方法には特別徴収のほかに普通徴収があります。納付方法は選べるわけでなはなく、対象となる人が明確になっています。
【語句解説:特別徴収】
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【語句解説:普通徴収】
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退職後すぐに転職した場合
退職してすぐに転職した場合、転職後も特別徴収を続けるための手続きが必要です。
【手続きの流れ】
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手続きは会社側が行うため、本人が居住地の役場にまで出向く必要はありません。記入に際して必要な情報などを伝えれば、あとは職場側で対応してもらえます。
届出書の提出が滞りなく行われると、転職後もスムーズに特別徴収が実施されます。
ただし手続きが遅れた場合、天引きできなかった分の住民税を普通徴収で支払わなくてはなりません。自治体から届いた納付書を使い、期日までに必ず納付が必要です。
転職前の職場と転職先のやり取りがない方法
転職前の職場と転職先のやり取りをせずに手続きをするには、退職時に一度普通徴収に変更し、転職後に特別徴収へ切り替えます。
特別徴収へ切り替える際は、転職先から自治体へ「特別徴収切替届出書」を提出してもらいます。自身で行う手続きは特にありませんが、書類の作成に際して、転職先へ「住民税額の決定通知書」の提出が必要です。届出書を自治体に提出した翌月から特別徴収が実施されます。
住民税の決定通知書には、前職での給与額や社会保険料などの記載がありますが、社名は明記されていません。
ただし転職先で雇用保険の手続きを行うにあたって、前職から受け取る「雇用保険被保険者証」の提出が求められます。こちらの被保険者証の内容から、転職先に前勤務先の名称などがばれるケースはあります。
ただし前職に関する無許可での調査は違法のため、自分で話さない限り詳しい情報まで伝わる可能性はかなり低いです。
転職先が決まっていない場合の住民税の手続き
転職先が未定の場合や個人事業主になる場合、普通徴収もしくは一括徴収で納付します。どちらの納税方法になるかは、退職する時期によって異なります。
1月から5月の退職なら一括徴収、それ以外の時期は原則として普通徴収です。ただし希望すれば、好きな徴収方法を選べるケースがあります。
住民税は前年の所得に対して発生するため、前年の所得に住民税が課されていれば退職後でも納付しなければなりません。
住民税の支払いが遅れると、納付期限の翌日から延滞金が発生するため、遅延なく納付することが大切です。どうしても支払えない場合、払えないとわかった時点で早めに市町村の担当者などに相談する必要が必要です。
【語句解説:一括徴収】
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1月1日~5月31日に退職した場合
1月1日~5月31日に退職した場合、住民税は原則として一括徴収となります。納税者本人が行う手続きは特にありません。職場側で一連の手続きを行います。納付も会社側が行うため、納付漏れが起こらない点が大きなメリットです。
なお6月時点でも転職先が未定の場合、以降は普通徴収となります。自治体から届く納付書を使い、自身で納税が必要です。
6月1日~12月31日に退職した場合
6月1日~12月31日に退職した場合、納付方法は基本的に普通徴収です。手続き自体は会社側で行うため、自身でやることは特にありません。ただし納付は自治体から届く納付書を使って自身で行う必要があります。
なお希望すれば住民税の一括徴収も可能です。手続き・納付は転職前の会社側が行います。
一括徴収は納付の手間がかからないというメリットがあります。一方で普通徴収は、退職のタイミングによっては住民税を分割で支払えるため、少しずつ納められる点がメリットです。
転職した時の住民税の金額
転職した後、その年の税額に変化はありません。住民税の金額は前年の所得額によって決まり、転職後の収入は翌年6月以降に支払う住民税の課税対象になります。転職が理由で住民税が高くなることはないため、税額への影響に対する心配は不要です。
ただし退職のタイミングによっては一括徴収となり、一時的に住民税が高いと感じる可能性があります。しかしあくまで「高く見えるだけ」であり、年間で支払う住民税の合計額自体は同じです。
なお住民税は、1月1日時点に住所のある自治体に6月から翌年5月にかけて納付します。
転職時の住民税に関する注意点
住民税は所得税に比べ計算方法が複雑です。うっかり手続きを忘れてしまい、延滞税を取られてしまうこともあるので注意しましょう。
転職で引っ越したときも納付先は旧住所の自治体
住民税は納付者の居住地の自治体に納めます。しかし、引っ越しをしても、すぐに引っ越し先の自治体に住民税を納付するわけではありません。住民税は1月1日時点で居住している自治体に前年の1月~12月分を納めると定められているからです。
普通徴収に切り替えて納付書払いをする場合、1月1日時点の住所に基づいて旧住所の自治体から納付書が届きます。
転職したら住民税が二重に徴収される?
転職前と転職後の職場で住民税が二重徴収されることはありません。
転職する際に、5月までの住民税を普通徴収か一括徴収によって支払うと、転職先では6月分からしか住民税の特別徴収は実施されないためです。
また1月1日の時点で住所がある自治体のみが、住民税を請求する決まりになっているため、引っ越し前と引っ越し後の自治体が同時期の住民税を請求することはなく、二重徴収されないのでご安心ください。
万が一誤って納付してしまった場合でも、「過誤納通知書」が自治体から送られてきますので、指定口座などの情報を記入し返送することで後日還付金を受け取れます。
前勤務先・転職先がばれる?
転職すると前勤務先から受け取った「住民税の決定通知書」を転職先に提出する必要があります。住民税の決定通知書には、前勤務先の給与収入や支払った社会保険料の記載がありますが、社名の記載はありません。
もしも前勤務先の給与収入がばれたくない場合は、退職時に住民税の普通徴収を選択し確定申告を行えば、ばれることはないでしょう。
しかし住民税の決定通知書と同様に提出を求められる「雇用保険被保険者証」には、前勤務先の情報が載っており、ばれてしまう可能性があります。
それでも転職先が前勤務先について調査することは違法であるため、自分で話さない限りばれることはありません。
住民税が払えない場合
会社員の人がフリーランスになり、所得が減っても住民税は前年の所得に対して課税されてしまいます。そのため住民税が高くて払えない場合が出てくるかもしれません。
どうしても住民税が支払えない場合は、市町村の担当者に相談し、分割払いなどで対応してもらえる可能性もあります。払えないとわかった時点で早めに相談するようにしましょう。
また震災、風水害、火災などによる財産の被害、盗難、納税者またはその者と生計を一にする親族が病気や負傷をした場合など、一定の条件を満たすことで免除される可能性もあります。
住民税の支払いが遅れた際は延滞金が発生
住民税の支払いが遅れると、納付期限の翌日から延滞金が発生するため、遅延なく納付することが大切です。令和3年に納めるべき住民税の延滞金を例にして、計算方法を説明します。
- 納期限後1か月以内:納税すべき額(1,000円未満切り捨て) × 2.4% × 延滞日数 ÷ 365
- 納期限後1か月以降:納税すべき額(1,000円未満切り捨て) × 8.7% × (延滞日数-1か月の日数) ÷ 365
延滞日数が1か月以内のときは、1で求めた数字の100円未満を切り捨てた金額が延滞金となります。延滞日数が1か月を超えるときは、1で求めた数字の1円未満を切り捨てた金額と、2で求めた数字の1円未満を切り捨てた金額を合計して、100円未満を切り捨てた金額が延滞金です。
例えば納期8月31日の住民税300,500円を70日間滞納して11月9日に納付したとします。
- 300,000円 × 2.4% × 30 ÷ 365 = 591.7… = 591円
- 300,000円 × 8.7% × 40 ÷ 365 =2,860.2.… = 2,860円
実際に支払う延滞金は1と2を合計して100円未満を切り捨てた金額なので、591+2,860=3,451=3,400円となります。
転職して住民税の納付書が届かない時は?
転職したときに住民税を普通徴収で支払う場合には、市区町村から届く納付書を使って納付します。万が一、納付書が届かない場合は、自治体役場の市民税課に問い合わせてください。納付期限に確実に住民税を納めるためにも、早めに気付くことが大切です。
住民税の基礎知識
住民税とは都道府県民税や市区町村税の総称のことで、住民票所在地に対して支払う税金です。所得税と異なり住民税は計算方法も複雑であるため、その仕組みをしっかり理解しておく必要があります。
住民税とは1月1日時点の住居所在地に支払う税金
住民税とは都道府県と市区町村それぞれに支払う税金です。
個人の住民税はその年の1月1日現在に住所があったところで、前年度の所得に対して翌年度の6月から翌々年度の5月まで分割して徴収されます。
住所・所得によって税額が変わる
住民税の税率は住民票所在地によって税率が異なり、計算方法も少し複雑です。住民税は、所得割額と均等割額の合計が納税する金額として計算されます。
所得割額とは、所得に対してどの地域でも概ね一律で10%の税率がかけられるもので、所得が多ければ住民税の税額も大きくなります。
一方均等割額とは地域差があり、一例として東京都では個人都民税が1,500円、個人区市町村民税が3,500円、さらに令和5年までは防災対策費として都民税・区市町村民税に500円が加算されることになっています。
住民税の納付方法
住民税の納付方法には自分で納付する「普通徴収」と、毎月の給料から天引きされる「特別徴収」、そして、5月分までの住民税をまとめて天引きする「一括徴収」があります。
普通徴収 | 特別徴収 | 一括徴収 | |
該当者 |
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納付方法 | 納税者自身が納付書を使って納付 | 給与から天引き | 給与や退職金から天引き |
徴収回数 | 年4回(6月、8月、10月、翌年1月)、1回でまとめて納付も可能 | 年12回(毎月給与天引き) | 1回 |
監修税理士からのコメント
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