精進落としとは遺族が葬儀や法要の後に振る舞う食事です。かつては四十九日忌の法要が終わった後に行われていましたが、現在は葬儀や火葬の後にそのまま行われるケースが増えています。
もともと精進落としには、忌明けで通常の生活に戻る節目の会食という意味がありました。しかし時代が変化し精進落としのタイミングが変わるにつれ、食事をとる意味合いも変化しています。
現在の精進落としは、葬儀に来てくれた参列者や僧侶に対して、感謝とねぎらいの意味を込める大切な慰労の場です。
精進落としで実際に出す料理やマナー、注意点について理解しておきましょう。
この記事を監修した専門家
日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
二村 祐輔
精進落としとは
精進落としは葬儀や法要の後に、遺族が準備する食事です。精進落としの由来や、通夜振る舞いとの違いを確認しましょう。
精進落としの由来と意味
もともと遺族は故人への供養の意味を込めて、四十九日間、日々の精進が求められました。四十九日忌の法要後に設ける会食の席を、普段の食事に戻る区切りの意味で「精進落とし」と呼んでいたのです。
しかし現在では、葬儀後間もない時期に何度も親族が集まることが難しくなっています。そのため四十九日忌の法要を待たずに、葬儀当日の「繰り上げ初七日忌法要」の後に精進落としを行うことが多いです。
そのため精進落としの目的も、参列者や僧侶へのおもてなしをする場という意味合いに変化しています。
なお精進落としは仏教の考え方です。宗派や地域によっては、仕上げ・精進明け・忌中祓い・壇払い・お斎等々と呼ばれます。神式で精進落としに該当する食事の呼び方は「直会(なおらい)」です。
初七日忌法要とは
初七日忌法要とは本来、故人が亡くなってから7日目に営まれる法要です。しかし現在は前倒しをして、葬儀当日に「繰り上げ初七日忌法要」として執り行うケースが増えています。そのため精進落としも、葬儀日の火葬・拾骨・法要のあとに行われるのが一般的になりました。
通夜ぶるまいとの違い
現在の葬儀でふるまわれる主な食事は、精進落とし以外に、通夜ぶるまいもあります。通夜ぶるまいとは、通夜後にふるまわれる食事のことです。
1人ずつお膳で食事を出す精進落としと異なり、通夜ぶるまいでは、人数分の食事を用意する必要はありません。料理に少し口をつける程度で退席するのが、一般的であるためです。
通夜ぶるまいは通夜の参列者なら、誰でも参加できます。通夜の人数は事前に把握しにくいため、通常は大勢でつまめるサンドイッチ・寿司・オードブルなどを盛り込んだ大皿で出すことが多いでしょう。
精進落としが慰労の意味合いを持つのに対し、通夜ぶるまいは、故人を供養する意味合いであることが特徴です。
精進落としの料理
精進落としは意味やタイミングだけでなく、料理の内容も時代とともに変化しています。本来ふるまわれるべき料理と、現在の料理について解説します。
本来は精進料理をふるまう
かつては四十九日忌法要の忌明けまでは、慎み深く精進料理で過ごしてきました。故人が亡くなってから四十九日の法要を終了することで、日常復帰をします。そこでは「ご馳走」を振る舞って、1つの区切りとしていました。
本来の精進料理とは、仏教の教えを反映し、殺生を避けて作られた料理のことを指します。肉・魚・卵・甲殻類・乳製品は、精進料理では使えません。
「五葷(ごくん)」と呼ばれる5種類の食材(ネギ・ニラ・ニンニクなど)も、食欲を増進させるため、避けるべきとされています。
精進料理にふさわしい食材は、野菜・果物・穀物・海藻・豆類です。煮物・けんちん汁・がんもどき・胡麻豆腐・野菜の天ぷらといった料理が、精進料理としてよく出されます。
現在は特に決まりがない
現在では精進落としの料理に関して、特に決まりはありません。精進料理にこだわる必要はなく、参加者に喜んでもらえそうな料理を自由に決めて提供することが可能です。
洋食や中華料理を問わず、和食では生ものが入った懐石料理・寿司などがよく選ばれています。幅広い年齢層の人が参加するため、季節の食材を使った料理や煮物など、誰でも食べやすい料理を盛り込むのがおすすめです。お酒を提供しても構いません。
ただし鯛や伊勢海老などおめでたい席で出される食材は、避けたほうが良いと考えられます。あくまでもおもてなしすることが基本なので相応の振る舞いを提供しましょう。
精進落としの流れ
精進落としの会席はどのような流れで進むのでしょうか。喪主の立場で覚えておきたい、精進落としの流れを紹介します。
開会の挨拶~献杯
精進落としでは最初に喪主が、開会の挨拶を行います。参加者がそろった時点で、葬儀が無事に終わったことに対する感謝の気持ちを伝えましょう。挨拶は1分程度で簡潔にまとめるのがポイントです。
挨拶では縁起の悪い「忌み言葉」を使わないように、注意する必要があります。「たびたび」「くれぐれも」などの重ね言葉や、四・九・死去といった死を連想させる忌み言葉は控えましょう。
挨拶の後は乾杯の代わりに献杯を行います。杯を軽く持ち上げ、普段のトーンで「献杯」と発生しましょう。一般的な宴会のように、大きな声を出したり杯を打ち鳴らしたりするのは、マナー違反です。
開会の挨拶から献杯までは、喪主が行うとスムーズですが、献杯は他の人に頼むことも可能です。喪主以外の人が献杯を担当する場合は、故人との関係や自己紹介を行いましょう。
宴席
献杯が終わったら宴席に移ります。故人をしのびながら、ゆっくりと食事をしてもらいましょう。通常の酒宴のような騒がしい雰囲気にならないように気を付けることも重要です。
喪主や遺族は、参加者それぞれに挨拶をし、感謝の気持ちを伝えます。お酌をする場合もありますが、粗相のいないように注意しなければなりません。
宴席の時間は1時間半から2時間くらいを目安に終了します。しばらくは親戚が集まる機会がない可能性もあるため、席中に今後の納骨や法要などについて日程の相談をしておけば、スムーズに準備を進められます。
閉会の挨拶
精進落としの閉会の挨拶も、基本的には喪主が行います。あらためて感謝の気持ちを述べ、今後のスケジュールが決まっている場合は、閉会の挨拶で参加者に案内しておきましょう。
挨拶の中で「お開き」という言葉は使いません。乾杯やお開きという言葉は、一般的にお祝いの場で使います。「ご散会させていただきます。」や「閉会とさせていただきます。」などの言葉を使用しましょう。
精進落としの帰りには、引き出物(粗供養品)や手土産などを渡すこともあります。会場を出る際に1人ずつ挨拶をしながら渡すと良いでしょう。宴席中に配って回ったり、あらかじめ席に置いておいたりする方法もあります。
精進落としのマナー
現在の精進落としは比較的自由な要素が多いものの、守るべきマナーもいくつかあります。参加者に失礼な印象を与えないようにマナーを守って、節度あるふるまいを心がけましょう。
席次は遺族が下座
精進落としを行う会場の席は、誰がどこに座ってもよいわけではありません。精進落としに限らず、さまざまな人が集まる場所では、上座や下座を意識した席次に注意しましょう。
席が複数ある場合の席次は、入口から最も遠い場所にある席が上座、入口に最も近い席が下座です。気を遣う順に上座から座ってもらい、気を遣わない人は下座に座ります。
精進落としに僧侶が参加する場合、僧侶が最上席です。続いて故人の会社関係者や友人・知人と座り、入り口付近には遺族や親族が座ります。作成した席次表を見ながら案内したり、席に名札を置いたりすれば、スムーズに案内できるでしょう。
参加者をあらかじめ決めておく
精進落としは誰でも参加できる通夜ぶるまいと違い、火葬まで残った親しい人などを、あらかじめ予定して参加していただきます。
個別にお料理を出すので、人数の把握は大変重要です。あらかじめ参加者を決めておけば、料理の数を正確に把握でき、料理の過不足を補えます。予算や故人との関係性を考慮し、参加してほしい人に声を掛けておきましょう。
前もって参加者に声を掛けておくことで、自分は参加すべきなのか、参加者が迷うこともなくなります。故人や遺族との関係性が微妙な人の中で、精進落としに呼ばない人にも、その旨を伝えておくと親切です。
僧侶にも声を掛ける
精進落としには遺族や参加者だけでなく、僧侶をねぎらう意味もあります。僧侶にも参加をお願いしましょう。断られると分かっている場合も、ひと言声を掛けるのがマナーです。
僧侶が精進落としに参加しない場合は、無理に引き留めません。封筒に「御膳料」と表書きし、お車代などと一緒に渡しましょう。御膳料の相場は5,000~1万円が目安です。
お車代や御膳料はお布施とは別にお包みするのがいいでしょう。お布施を渡すタイミングは状況により異なりますが、お車代やお膳料はそのつど帰りがけにお渡しするのが一般的です。
精進落としの費用相場
精進落としは何度も行うものではないため、適切な費用を選びたいところです。一般的な費用の相場を把握し、予算を考える際の参考にしましょう。
5,000~1万円が目安
精進落としの費用相場は5,000~1万円です。あまりにも高いとお金がかかってしまう一方、安すぎると参加者よっては失礼な印象を与えてしまいます。参加者が少ない場合は、1万円程度で用意する場合もあるようです。
参加人数や料理の種類を考慮し、予算に収まる範囲で、食べ切れそうな量の料理を選びましょう。料理以外にお酒・お茶・ジュースなどの飲み物代もかかります。
火葬の直後に精進落としを行う場合は、火葬場付近の食事処を前もって確認しておくことも重要です。葬儀の日程が決まったら、早めに予約を入れておきましょう。
精進落としの費用は相続税控除の対象
葬儀にかかった費用は、相続財産から控除することが可能です。相続財産から差し引ける金額が大きいほど、相続税を安く抑えられます。
例えば葬儀費用が200万円で、適用税率が10%の場合、単純計算で20万円の税負担を軽減することが可能です。葬儀に直接関わる費用は、精進落としを含めて相続財産から控除できます。
葬儀費用を相続税から控除するためには、支払った分の領収書を保管しておくことが重要です。お布施の領収書を発行してもらえない場合は、支払記録を残しておきましょう。
精進落としで迷う場合は葬儀社に相談
精進落としは葬儀に参列いただいた方や、僧侶に感謝の気持ちを表す場です。かつては四十九日後に行われていましたが、現代では葬儀当日の火葬後、繰り上げ初七日忌法要後などに行うのが一般的になっています。
料理はとくに精進に配慮しません。あくまでもおもてなしのお料理ですが、あまり祝い膳のようなにぎにぎしいものは避けます。
精進落としは地域や宗派でルールが異なるため、迷うことがあれば葬儀社に相談しましょう。
葬儀社を探す場合は、一括で見積もりを集められる「ミツモア」を活用するのがおすすめです。簡単な入力作業を行うだけで、最大5社から最適な提案を受けられます。
監修者:二村 祐輔
日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
『葬祭カウンセラー』認定・認証団体 主宰
東洋大学 国際観光学科 非常勤講師(葬祭ビジネス論)
著書・監修
- 『60歳からのエンディングノート入門 私の葬儀・法要・相続』(東京堂出版) 2012/10/25発行
- 『気持ちが伝わるマイ・エンディングノート』 (池田書店) 2017/9/16発行
- 『最新版 親の葬儀・法要・相続の安心ガイドブック』(ナツメ社) 2018/8/9発行
- 『葬祭のはなし』(東京新聞) 2022年現在連載
など多数
コメント
葬祭における飲食には、「共食」という概念があります。同じ空間の中で、同じものを共に食するという、儀式的な意図です。そのため故人霊前にも同じお料理を「陰膳」としてお供えします。最近では精進落としとはいいながら、本格的な精進料理を出すことがありますが、それはそれで新鮮な印象になるでしょう。ただし通常の懐石料理よりも高価な場合もあります。基本的には忌明けなので「ご馳走」を振る舞います。