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遺産分割協議書は必要?作成のメリットや専門家の活用法を解説

最終更新日: 2024年06月28日

遺産分割協議書は必ずしも必要とは限りません。どのような場合に作成すべき書類なのでしょうか?必要なケースと不要なケースを判断しやすくなるよう、具体的に解説します。遺産分割協議書を作成するための手順も、併せて紹介します。

遺産分割協議書の作成が必要なケース

遺産分割協議書

遺産分割協議書は「誰」が「どの財産」を「どのような割合」で引き継ぐかを、明示するための書類です。遺産分割の割合が法定相続分と異なる場合や、名義変更などの手続きに必要な場合に、遺産分割協議書を作ります。相続をめぐるトラブルを回避したい場合にも、作成すると役立つでしょう。

法定相続分とは異なる割合で遺産を分割する場合

民法で定められている相続の割合が法定相続分です。特に取り決めがない場合、遺産は法定相続分にのっとって法定相続人が引き継ぎます。この場合には遺産分割協議書がなくても、相続の手続きが可能です。

一方で相続人が引き継ぐ割合が法定相続分と異なるのであれば、遺産分割協議書を作成しなければいけません。相続人全員で話し合い、合意した内容をもとに遺産分割協議書を作り、記載されているとおりに遺産分割を進めます。

名義を変更する遺産がある場合

引き継ぐ財産の中に不動産や自動車が含まれていると、名義変更を行う際に遺産分割協議書が必要です。相続財産が全て現金や預金であれば、割り算で計算すれば簡単に分けられます。

不動産や自動車を相続人全員で等分に引き継ぎ、共有するよう名義変更することも、法律上は可能です。ただし実際に家や土地を、等分して分けられるわけではありません。

次の世代への相続のことも考えると、誰か1人が引き継ぎ、その1人の名義に変更した方がスムーズです。この名義変更の際に「どの相続人が引き継ぐのか」「他の相続人の同意を得ているのか」を確認するために、遺産分割協議書を使います。

相続税を申告する場合

引き継ぐ遺産が多く相続税の申告が必要な場合にも、遺産分割協議書が必要です。相続税を申告するときの提出書類に、「遺産分割協議書の写し」が含まれています。

相続税の申告が必要なのは、相続財産が「3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)」で計算する基礎控除の金額を超える場合です。例えば法定相続人が配偶者1人と子ども2人の3人のケースでは、相続財産が4,800万円以下ならば相続税がかからないため、遺産分割協議書も必要ありません。

トラブルを防ぎたい場合

遺産分割協議書には法定相続人全員で合意した内容を記載します。作成しておけばいつ誰が見ても、どのように遺産を分けることに決まったのかが一目瞭然です。

分割する割合が書面で明確になっていなければ、あとから「こんな話は聞いていない」と、決定した分割割合を変えるよう要求される恐れもあります。遺産分割協議書を作成しておけば、このようなトラブルの回避も可能です

確かに合意し作成した書類であることを確認できるよう、相続人全員の署名捺印も得る必要があります。

遺産分割協議書作成が必要ないケース

相続が発生したからといって、必ず遺産分割協議書が必要なわけではありません。スムーズに相続が進む状況ならば、遺産分割協議書を用意しなくても進められます。

相続人が1人しかいない場合

法定相続人が1人のみの場合、相続財産は100%その1人が引き継ぎます。誰が何をどのような割合で分けるのか決める必要がないため、遺産分割協議書は不要です

もともとほかに相続人がいない場合はもちろん、以下の場合にも遺産分割協議をせずに相続できます。

  • 相続人が遺産の引き継ぎを拒否する「相続放棄」
  • 亡くなった被相続人が特定の相続人へ財産を引き継がせない「廃除」
  • 相続人が犯罪などの理由で相続人になれなくなる「相続欠格」

法定相続分で遺産分割する場合

遺産分割を法律で定められている以下の割合のとおりに行う場合、誰がどの割合で資産を引き継ぐかは、法律で明確になっています。改めて書類に残す必要はないため、遺産分割協議書は不要です。

法定相続人 分割割合
配偶者・子ども 配偶者:2分の1
子ども:全員で2分の1(2人なら4分の1ずつ)
配偶者・直系尊属 配偶者:3分の2
直系尊属:全員で3分の1(2人なら6分の1ずつ)
配偶者・兄弟姉妹 配偶者:4分の3
兄弟姉妹:全員で4分の1(2人なら8分の1ずつ)

ただしトラブルが予想される場合には、法定相続分で分割する場合にも、遺産分割協議書を作っておくと安心です

遺言書に従って遺産を分割する場合

財産を残して亡くなった被相続人が、法的に有効な遺言書を生前に作成していた場合、遺言書で指定されているとおりに相続するのであれば、遺産分割協議書は不要です

ただし遺言書があっても法的に有効な要件を満たしていない場合や、分割の割合を指定している財産に漏れがある場合は、遺言書による遺産分割ができません。この場合には法定相続分にのっとって相続を進めるか、遺産分割協議を行い分割割合を決めます。

遺産が現金・預金のみの場合

引き継ぐ資産が現金や預金のみの場合には、遺産分割協議書は必要ありません。金融機関で預金を相続するための手続きを行う際に、遺産分割協議書を求められる場合もありますが、なくても手続きは可能です。

例えばみずほ銀行では作成している場合にのみ、遺産分割協議書を提出します。また三菱UFJ銀行は遺産分割協議書がなくても、相続人全員で引き継ぐ共同相続で手続きが可能です。

ただし法定相続人全員の印鑑証明を提出する必要があるため、手続きのために協力してもらえるよう、事前に伝えておくとスムーズです。

遺産分割協議書を作成する手順

遺産分割協議書

遺産分割協議書を作成するには、どのような手順で進めるのがよいのでしょうか?4ステップに分け、完成までの流れを紹介します。

法定相続人の確定

まず行うのは遺産を引き継ぐ法定相続人の確定です。遺産を引き継ぐ資格のある人が明確にならなければ、遺産分割の話し合いができません。法定相続人を確定するには、亡くなった被相続人の戸籍謄本を、生まれたときから死亡まで確認します。

例えば被相続人に離婚歴がある場合、死亡したときの配偶者が把握していない、前妻との子どもがいるかもしれません。婚姻関係にない相手との間に子どもをもうけているケースも考えられます。

全ての法定相続人がそろってから協議をスタートしなければ、合意したあとに、新たな法定相続人が見つかる可能性もあるでしょう。協議をやり直さなければいけない事態になるかもしれません。

相続すべき財産の確定

次に行うのは引き継ぐ財産がどこからどこまでなのかを、明確にすることです。遺産相続では預金・有価証券・不動産などのプラスの財産に加え、借入金といったマイナスの財産も引き継ぎます。不動産は引き継ぎたいけれど借入金は引き継がないというように、相続する財産を選べません。

たくさんのプラスの財産を引き継いだとしても、それを超えるマイナスの財産があれば、遺産相続によって損をする結果になってしまいます。マイナスの財産が多い場合には、相続をしないよう相続放棄も含めて検討しなければいけません。

法定相続人にとってベストな選択ができるよう、財産を正確に把握する必要があります。

分割する遺産を確定

法定相続人と相続財産が確定したら、誰が何をどのような割合で引き継ぐのか、遺産分割協議で決めます。遺産分割協議は法定相続人全員で行わなければならないものの、映画やドラマのように大きな部屋に全員が実際に集まる必要はありません。

どのように分割するか記載した書類を作成し、順番に郵送して全員分の署名捺印を集めてもよいでしょう。法定相続人が遠方に住んでいる場合でも、遺産分割協議書の作成を進めやすい方法です。

遺産分割協議書の作成

協議の結果全ての法定相続人から合意を得られたら、その内容を遺産分割協議書へまとめます。専用の用紙や決まった書式はなく、パソコンでも手書きでも構いません。合意した内容が分かりやすく記載されていればOKです。

作成した遺産分割協議書には、誰がどの遺産を引き継ぐのか、協議で合意した内容がすぐに分かるよう記載されているでしょうか?また法定相続人全員が署名捺印を行い、人数分の遺産分割協議書を作成して、各自が保管します。

相続財産が多い場合には、全てを一覧にした財産目録も作ると、何があるか把握しやすくなり便利です。

専門家への依頼も視野に入れよう

行政書士

遺産分割協議書は誰でも作れる書類ですが、専門家に依頼するとよりスムーズに作成できます。弁護士や行政書士にはどのような場合に依頼するとよいのでしょうか?

弁護士に依頼するケース

弁護士に遺産分割協議書の作成を依頼するとよいのは、協議でトラブルが起こっているケースやトラブルに発展しそうなケースです。弁護士であれば遺産分割協議書の作成と併せ、トラブル解消へ向けた交渉や調整を実施できます。

例えば「この財産を譲る代わりにあちらの財産は必ず相続したい」というような交渉を行い、遺産分割協議の内容を依頼者の希望が実現するよう調整する役割を担うのが、弁護士です。

また第三者である弁護士が話し合いの場にいることで、全員が冷静さを保ちやすくなります。結果的に話し合いがスムーズに進みやすくなることも期待できる方法です。

行政書士に依頼するケース

行政書士への依頼が向いているのは、すでに遺産分割協議が終了し、法定相続人全員で合意できた状態のタイミングです

相続財産に不動産が含まれている場合、書類の作成に加えて名義変更の手続きも全て行政書士へ任せられます。弁護士よりもコストを抑えられるため、気軽に相談しやすいのも特徴です。

遺産分割協議書の作成を行っている行政書士を探すなら、ミツモアを利用するとよいでしょう。質問に回答していくだけで、複数の行政書士から見積もりが送られてきます。予算内で依頼できる行政書士を効率的に探せるサービスです。

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遺産分割協議書で相続トラブルを防ごう

相続が発生すると、誰がどの財産を引き継ぐのか法定相続人全員で話し合う、遺産分割協議を実施します。そこで合意した内容について遺産分割協議書を作成すべきか否かは、ケースバイケースです。

問題なく相続の手続きが進みそうで、名義変更の手続きに遺産分割協議書が不要であれば、遺産分割協議書は必要ありません。反対にトラブルの発生が予想される場合には、遺産分割協議書を作成しておくと、避けられる可能性があります。

また必要に応じて弁護士や行政書士といった専門家へ依頼すると、よりスムーズに遺産分割協議書の作成や名義変更の手続きを実施可能です。

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