労務に関わるトラブルを防ぐには、労務リスクについて知っておくと役立ちます。
労務リスクの基礎的な知識とともに、代表的な労務リスクの種類をチェックしましょう。日ごろから取り組めるトラブル回避策や、企業が実施すべき対策も紹介します。
労務リスクとは、労働問題発生の可能性がある事案
労務リスクとは労働問題が発生する可能性を秘めた社内事案を指しています。
具体的には、雇用関係の不当割り当てやハラスメント、長時間労働などの事案が挙げられます。労務リスクがトラブル化すると、従業員が企業に対して、労働条件の改善や金銭を求め、損害賠償請求や社会的地位の低下などを招きかねません。
現代の日本社会においては、どの企業もこの労務リスクとは隣り合わせと言われています。だからこそどれだけの種類の労務リスクがあり、対策をしっかりと行う「労務リスクマネジメント」の必要性が叫ばれているのです。
労務リスクを把握し適切に対策する「労務リスクマネジメント」は、企業にとって重要な義務となりつつあるのです。
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よくある労務リスク5種
リスクを回避するには、具体的にどのような事例があるのかを知らなければ難しいでしょう。
以下5種の労務リスクはどんな内容なのかを知っておくと、おおかたの労務トラブルは回避できます。
- 過重労働、残業代の不払い
- メンタル・ハラスメント
- 労働契約
- 労働災害
- 情報漏洩
ケース1.過重労働・残業代の不払い
労使間で起こるトラブルの中でも代表的なものは「過重労働」です。長時間労働は心身に悪影響を及ぼし、過労死に至る危険性があることも知られています。
また疲れ切った状態で働き続ける社員ばかりになると、生産性の低下を招くともいわれています。過重労働を招いているのは残業代を支払わない「サービス残業」の横行です。
労働基準法で制限されているサービス残業ですが、実際には多くの企業で実施されています。労働基準監督署の指導が入り不払いだった割増賃金が支払われたケースだけでも、1,611社・合計98億4,068万円に上るのです。
過重労働・残業代の不払いに関する労務トラブルは、主に以下のようなケースが報告されています。
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ケース2.メンタル・ハラスメント
「メンタル・ハラスメント」が引き起こす社員の精神状態の不調は、社会問題として扱われることも多い労務リスクです。パワハラ・セクハラ・マタハラなどさまざまなハラスメントがあります。
共通しているのは、受けた人が感じた苦痛が重視される点です。指導のつもりの言動も、受けた側が不調をきたすほどの苦痛を感じていればハラスメントとされます。
主観が重視されるため対策が難しいですが、社会的信頼の低下につながるおそれもあり、対策が必要です。
メンタル・ハラスメントに関する労務トラブルは、主に以下のようなケースが報告されています。
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ケース3.労働契約
労働契約法や労働基準法で定められたルールを守らずに労働契約を結んだり、不当な「リストラ」や「不当解雇」も労務リスクのひとつです。
やむを得ない事情があったとしても、トラブルや訴訟に発展しやすい分野です。特に正当な理由や適切な手続きを踏まずに行った解雇は、敗訴につながる可能性が高いでしょう。
労働契約に関する労務トラブルは、主に以下のようなケースが報告されています。
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ケース4.労働災害
安全管理が不十分な職場では「労働災害」が引き起こされる可能性があります。労働災害が起こると、保険料の支払いが発生しますし、負傷者や遺族から損害賠償請求されることもあるでしょう。
また人材や社会的信頼の損失も、企業にとって大きなダメージです。1度発生すると社員にも企業にも大きな損害が発生するからこそ、安全に仕事に取り組める環境を確保する安全管理が欠かせません。
労働災害に関する労務トラブルは、主に以下のようなケースが報告されています。
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ケース5.情報漏洩
顧客情報や従業員の個人情報などの適切な管理は、企業に義務として定められています。
万が一、情報漏洩が引き起こされると多額な損害賠償や社会的信頼の低下、さらには行政処分が課せられることもあります。
企業の個人情報管理方法は、改正個人情報保護法で定められているため、法律に則った正しい運用を行いましょう。
情報漏洩に関する労務トラブルは、主に以下のようなケースが報告されています。
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労務トラブルへのリスク対策方法
労務トラブルへの対策は、ルールの周知や理解のほか、万が一のときの相談先を設定しておくとよいでしょう。それぞれの対策について具体的に見ていきます。
就業規則を明確にする
従業員の労働条件や服務規律を定めているのが「就業規則」です。スムーズな組織運営のために欠かせないルールのため、あらかじめ明確にし、周知しましょう。
法的には事業所の従業員数が10人以上のときに作成・届出をしなければいけません。しかしトラブル防止のため、届出の義務がない規模であっても作成しておくとよいでしょう。
ルールが明確であれば、やっていいこと悪いことが分かりやすく、行動の指針になります。また単に作って周知するだけでなく、メンテナンスを続けることもポイントです。
法改正に対応しているか、内容に不足はないかなどをチェックし、適切に運用しましょう。
相談窓口の設置
トラブルの防止には「相談窓口」の設置も検討しましょう。負担は増えるかもしれませんが、重大なトラブルを未然に防ぎ、リスクの芽を小さなうちに摘み取ることができるようになります。
相談窓口を作るだけでなく、研修やマニュアルの整備を進め、適切に機能する体制作りも重要です。例えばハラスメントの相談を受けたとき、速やかに事実確認し、配置転換といった具体的な対処を取れるようにします。
社内窓口のほか、弁護士といった専門家に相談できる外部の相談窓口も設けるとよいでしょう。
雇用慣行賠償責任保険への加入
雇用慣行賠償責任保険とは、従業員から損害賠償責任を負ったときの費用や紛争経費を補償・補填する保険です。
労務トラブルは金銭的リスクだけでなく社会的信用の低下など、それ以外の損失もあるため、起こさない努力をするのが先決ですが、起こってしまった場合の対処も考えなければなりません。
雇用慣行賠償責任保険はハラスメント、不当解雇、差別行為、人権の侵害、不当な評価などのさまざまな方面でケアが可能です。企業の業種や規模などで、各社プランが変わるため、よく検討してから加入することをおすすめします。
労務トラブルを防止する日常的なリスクマネジメント策
労務リスク対策は、日常的に従業員に刷り込むことで効果を得るものも多くあります。
中でも特に行った方が良い具体策を3つご紹介いたします。
労働基準法やコンプライアンス、セキュリティ研修の導入
「労働法」を理解することも重要です。労働基準法・労働者派遣法・労働組合法・労働安全衛生法・最低賃金法など、多くの労働に関わる法律を総称し労働法と呼びます。
なかでも法令違反が多いのは労働基準法です。実際に違反に関わった管理職だけでなく、企業も罰則を科されるため、法令を正しく理解していなければいけません。
頻繁に法改正される分野でもあり、その都度新しい内容を理解するのもポイントです。今後の法改正の方針もチェックし、自社が条件を満たせるよう準備を進める必要もあります。
1on1や日頃のコミュニケーションを増やす試みの実施
トラブルが起こるときには何かしらの予兆があります。それに気づき先手を打って対策するには、従業員同士の「コミュニケーション」がポイントです。
信頼関係に基づいたコミュニケーションがあれば、ちょっとした問題を気軽に相談できます。例えば作業中の動線が悪く他の従業員とぶつかった、〇〇さんの調子が悪そう、特定の従業員に負担がかかっているなどです。
これらはどれも日常的に起こり得ることですが、トラブルに発展する芽でもあります。小さな芽のうちに摘み取れば、大きな問題に発展しません。
コミュニケーションを深めるには、部下からの報告を求めるのではなく、上司から話しかけ確認するのが基本です。
労務管理システムを導入
「労務管理システム」の導入もトラブル防止に役立ちます。勤怠管理をデジタルで実施することで、適切な給与を支給できているか・過重労働になっていないかなどを把握しやすくなるのです。
データは働く環境の改善にもつなげられます。労務リスクの低減はもちろん、生産性向上にも役立てられるでしょう。
事前の対策で労務トラブルを回避しよう
企業と従業員の間で労働問題が発生するリスクを労務リスクといいます。過重労働や残業代の不払い、ハラスメント・労働災害・不当解雇などが代表的です。
これらのトラブルを回避するには、日ごろのコミュニケーションや労務管理システムの導入が役立ちます。また就業規則の周知徹底や労働法の理解・相談窓口の設置もポイントです。
トラブルを大きな問題になるまで放置すると、企業は大きなダメージを負う可能性があります。従業員の働きやすい環境作りのためにも、企業の存続のためにも、労務リスクを減らす管理が重要です。
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