屋根塗装を検討するにあたり「縁切り(えんきり)」や「タスペーサー」という耳慣れない言葉を知り、一体なにを指しているのか分からず戸惑う人がいるでしょう。
スレート屋根の仕上げには欠かせない作業で、水はけをよくして雨漏りを防いだり、屋根内部の結露を防いだりといった役割があります。
この記事では、縁切りとタスペーサーの基本的な概要を紹介しつつ、それぞれのメリット・デメリット、施工の仕方など詳しく紹介していきます。
屋根塗装におけるタスペーサー、そして縁切りとは?
そもそも「縁切り(えんきり)」とは?
スレート屋根(カラーベスト、コロニアル)を塗装するときには、「縁切り(えんきり)」という作業が欠かせません。
そもそもスレートとは粘板岩を薄く加工した屋根材で、屋根に使うときにはこれを敷き詰めて固定します。
スレート同士が重なる部分には、雨水や湿気を逃すための隙間が必要です。
ところが屋根を塗装すると一時的にこの隙間を塗料で埋めてしまいます。ここに再度カッターなどで隙間を作る作業を「縁切り(えんきり)」と呼びます。
「タスペーサー」とは?
「タスペーサー」とは、株式会社セイムから販売されている商品名を指すもので、クリップのような形の部品です。
従来の縁切りではその工程において、カッターや皮スキ(金属製のヘラ)などを道具として用いてきました。職人の手作業によって、屋根の隙間の詰まりをひとつずつ処理していくのです。
しかしタスペーサーは、スレートの重なる部分に差し入れるだけで隙間を作ることができます。
通常の縁切りは丸1日ほどの作業時間が必要でしたが、タスペーサーの場合は2~3時間と大きく時間が短縮されることに。
また職人によって仕上がりに差ができることも無くなります。
そのため現在はタスペーサーを使って縁切り作業をすることが増えているのです。
スレート屋根の縁切りをしないと起こるトラブル
毛細管現象
「毛細管現象」とは、細い管のような空間の中を、液体が浸透していく現象です。
たとえば飲み物にストローを差したとき、ストローの中の液体の方がグラスの水面よりも高くなるのも、この現象が起こっているからです。
スレート同士が重なり合っている部分に細い空間が生まれると、ストローのように雨水などを吸い上げてしまう可能性があります。
毛細管現象が発生しないように、縁切りでしっかりと隙間をつくってあげる必要があるのです。
屋根内部の結露
家の中と外では、気温差が生じます。
内部で生じた温かい空気は上昇し、天井や屋根裏に到達。
内部が暖められている一方で外側が冷えている状態では、気温差によって結露が生じてしまうのです。
結露した水分を逃がすために縁切りでつくった隙間が必要です。
屋根材の劣化や腐食
縁切りをしないと水を吸い上げてしまううえ、屋根下地に浸み込んでいってしまいます。
過度な湿気を帯びた屋根材は、腐食などの劣化症状を引き起こすことに。
またカビや細菌の発生も考えられます。繁殖した菌やカビは、アレルギーやシックハウスの原因にもなり、健康面に不安をもたらします。
屋根塗装の劣化を見過ごすと、屋根全体の寿命を縮めてしまう可能性があるので注意が必要です。
雨漏り
屋根にとって最大のトラブルと言ってもよい「雨漏り」。
浸水してきた雨水の逃げ道が無いことで、屋根の下地に染みこんでいきます。
その結果、下地の木材などが腐食していき、劣化が激しくなることで雨漏りを起こすのです。
タスペーサーを使うメリット
従来のカッターなどを使った縁切りと比べて、タスペーサーを使うことには以下のようなメリット・デメリットがあります。
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作業時間・費用の短縮になる
カッターや皮スキを用いた縁切りは、塗装後の乾燥が不十分だと、縁切りをした後に隙間が再びふさがってしまう恐れがあります。
そのため仕上げ塗装が終了してから数日、湿度が高く雨天時が続くなどするとそれ以上の期間を空けるのが普通です。
一方でタスペーサーは、下塗り・中塗り・上塗りと3回ある工程のうち、下塗りが完了した時点で挿入できます。
そのため乾燥させる時間が縮小でき、カッターや皮スキによる作業も必要なくなるのです。
通常の縁切りは1日以上かけて作業しますが、タスペーサーを使うと2~3時間で済んでしまいます。
作業時間を短縮できることで、人件費が抑えられるのです。
手作業によるミス・トラブルが減る
乾燥した塗料は硬くなります。縁切りは、硬化した塗料によって塞がれた部分を取り除くため、どうしても作業ミスによるトラブルはつきものなのです。
カッターや皮スキで硬くなった塗料を剥がす際に、除去する部分以外にひび割れを生じさせてしまうことがあります。
また屋根を足跡で汚してしまう、体重がかかった部分が損傷するなどのリスクも。
タスペーサーは下塗りが完了した時点で挿入できるので、塗装完了後に屋根を汚したり損傷したりするリスクがなくなります。
タスペーサーを使用するデメリット・注意点
タスペーサーの使用によるデメリット・注意点は以下。
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スレートが割れやすくなる可能性がある
そもそもスレート屋根が劣化していて耐久性が落ちている場合、タスペーサーを使用することで割れやすくなる可能性があります。
タスペーサーを設置する際にはスレート屋根を持ち上げますが、その際にかかる負荷で、割れてしまうことがあるのです。
基本的には、しっかりメンテナンスをしていれば、ほとんど心配はありません。
ちなみに、1996~2008年頃のスレート屋根は、アスベスト(石綿)に代わる屋根材が模索されていた時期で、耐久性に難がああるものが多く販売されていました。
こちらも割れやすい可能性が高いため、注意が必要です。
タスペーサーが必要ない場合もある
スレートの隙間が4mm以上空いているときには、タスペーサーは機能しません。
タスペーサーによって隙間をあけるまでもなく、十分な広さが確保できているためです。この場合はタスペーサー挿入しても固定されずに落ちてしまいます。
また、たとえば南向きで太陽熱にさらされる屋根面は自然に反ってきて、自然と隙間があくため不必要なことも。
さらに屋根の勾配が15度以下の緩やかな屋根や、スレートの形状によっても必要ない場合があるので、設置の際は業者に診断してもらうのがよいでしょう。
費用が安くなるかどうかは、見積書を確認
タスペーサーを使うことで、従来よりも大幅に縁切りの施工時間は短縮されます。
そのため人件費はコストカットできますが、費用自体が安くなるかどうかは、しっかりと見積書を確認しましょう。
というのも、タスペーサーを使うなら当然タスペーサーを購入する必要があります。
使用する数や、屋根面積の広さによっては、必ずしもタスペーサーを使った方が安いとは言えないのです。
そのため縁切りの費用については見積書を確認して、業者と相談しながら進めるのがよいでしょう。
タスペーサーを使う屋根塗装の手順
屋根を塗装する手順は、従来の縁切りもタスペーサーを使う場合も、以下のようになります。
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従来の縁切りは、④までの工程がすべて完了したあとで、1日~数日にわたり乾燥させてから行います。また、工期は1日程度です。
一方でタスペーサーの挿入は、③と④のあいだに行います。
下塗りした塗料を乾燥させる必要はありますが、上塗りが終わってから乾燥を待つ必要がありません。またタスペーサーの挿入は、数時間程度で終了します。
シングル工法とダブル工法
タスペーサーの取り付け方には、シングル工法とダブル工法の2つがあります。
1枚のスレートに対し1つのタスペーサーを使う場合はシングル工法、2つのタスペーサーを使う場合はダブル工法です。
屋根材の大きさが91cmの場合はダブル工法、60cmの場合はシングル工法で施工するのが一般的。
またどちらの工法も、スレート左右の端から15cm内側に取り付けるのが正しい位置です。
タスペーサーの種類や費用相場
タスペーサーの種類 「01」や「02」って?
株式会社セイムによって販売されているタスペーサーには、3つの種類があります。
タスペーサー01は、溶剤に強い素材で出来ており、他の2つよりも反りが大きく、強い反発力を持っています。
タスペーサー02は、スレートに傷んでいる部分がないときに使用できるタイプです。他の2つに比べて反発力が小さいのが特徴です。
タスペーサー03は、スレートや下地が傷んでいるときに使用できるタイプです。01と同じで弾力性が強く、また広いスペースをつくることが出来ます。
基本的には黒色のみですが、02のみ茶色の製品があります。
タスペーサーを使うときの費用相場
タスペーサー1個当たりの単価は、10~50円です。
またスレート1枚につき2個タスペーサーを使用するため、1㎡あたり10個程度が必要。
80㎡から100㎡ほどの一般的な屋根だとすると、使用するタスペーサーは800~1,000個です。
タスペーサーを使うときの縁切り費用相場は、全体で3~5万円が目安。
ちなみにカッターや皮スキを使用する従来の縁切りは、約3万円程度です。
業者や使用するタスペーサーの種類によっても異なるため、見積もり時に確認しましょう。
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タスペーサーについて、従来の縁切りと比べたメリット、施工のときの注意点、また費用相場などを詳しく紹介してきました。
スレート屋根には欠かせない縁切り作業、不備があると水はけが悪くなり雨漏りや下地の腐食につながってしまいます。
工期や仕上がりなどのメリットから、タスペーサーを使うことで満足いく屋根塗装にできることが多いでしょう。
ただしタスペーサーを使用する必要のない屋根などもあるので、まずは業者に診断してもらうことをおすすめします。
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