家族が病院や自宅で亡くなったとき、葬儀を執り行うまでの間、ご遺体を安置しておく必要があります。ご遺体の安置場所は、ご自宅、斎場・葬儀場の安置施設、火葬場併設の安置施設が一般的です。
自宅やそれ以外で遺体安置する際の注意点、ご逝去から遺体安置までの流れを解説します。宗教別の安置方法も見ていきましょう。
この記事を監修した専門家
葬送儀礼マナー普及協会 代表理事
岩田昌幸
遺体安置とは?
「遺体安置」とはご逝去から葬儀が行われるまでの期間、特定の場所でご遺体を保管しておくことです。
日本にはご逝去後24時間以内の火葬を禁じる法律があるため、ご遺体は最低でも1日以上安置する必要があります。かつては仮死の見落としにより、24時間以内は蘇生する可能性があったためです。なお現在は医療が発展して正確な死亡判定ができるため、蘇生の可能性はほとんどなく、法律だけが残っている状態と言えます。
たとえば病院で死亡判定を受けた場合は、ご自宅や斎場の安置室に搬送して安置するのが一般的です。病院ではご逝去後にいったん霊安室に移動されることもありますが、利用時間は3時間から半日程度で、長時間にわたる遺体安置はできません。そのためすぐに他の場所に搬送する必要があるのです。
またご自宅で亡くなった場合も、自宅で安置が難しい場合は斎場の安置室に移動することができます。
ご遺体を安置する期間
ご逝去から火葬までの期間は2~3日ほどの場合が多いため、遺体安置も2~3日に渡るのが一般的です。
ただし年末年始や大型連休など、葬儀場や火葬場が混雑している時期には、1週間ほど安置が必要なケースもあるでしょう。年始など、葬儀場や火葬場の休日と重なった場合にも、安置期間が長くなります。
安置の期間が長くなると、安置施設の利用やドライアイス代などで費用がかさむため注意しましょう。具体的な安置期間は、葬儀社との打ち合わせで葬儀日程を決める際に確定します。
ご遺体の安置場所
ご遺体を安置するのに適切な場所はどこでしょうか。代表的な遺体安置場所を3つ紹介します。
自宅に安置する
代表的なご遺体の安置場所の1つが「自宅」です。仏間などに布団を敷き、北枕にしてご遺体を寝かせます。枕はなくても構いません。仏教の場合、小さな祭壇である「枕飾り」を故人の枕元に飾ることが一般的です。
自宅に安置するメリットは、家族だけでゆっくりと最後の時間を過ごせる点、安置場所の費用がかからない点が挙げられます。「故人を自宅に帰してあげたい」という想いから、自宅を選ぶ場合もあるでしょう。
自宅で安置する場合、部屋の温度を下げる、ドライアイスでご遺体を冷やすなど、ご遺体の保存状態を保つための対策が必要です。葬儀社に相談し、手順や管理方法について教えてもらうと良いでしょう。
なおひと昔前までは自宅での安置が主流でした。しかし現在はマンションの高層階で搬入が困難だったり、安置する部屋を確保できなかったり、近隣へ配慮したりと、住環境の変化により安置できないケースもあります。そもそもご自宅で安置できるのかどうかは事前に確認が必要です。
斎場・葬儀場に安置する
斎場や葬儀場にも安置室が設けられており、葬儀を執り行うまでご遺体を安置できます。斎場や葬儀場であれば、ご遺体の管理や面会の対応も含め、必要な作業を担当者に委任できるためご遺族の負担はほとんどありません。
またご遺体の保管に適した空間に安置できる点、搬入がしやすい点、通夜や葬儀の際に搬送する手間がない点もメリットです。
【ご遺体の安置に特化した安置施設も】
近年は、葬儀場の中でも、ご遺体の安置に特化した安置施設もあります。通称「遺体ホテル」と呼ばれ、仮眠ができる施設です。安置場所として提供されているため、搬入がしやすく、ご遺体の管理をスタッフに任せられる点がメリットと言えます。
ただし安置をする日数分の費用が発生するため、計画的な利用が重要です。また火葬場が混雑している時期は、予約を取ることが困難な可能性もあるでしょう。
故人との面会や付き添いに制限が設けられている場合もあるため、あらかじめ施設の空き状況や利用規約を確認しておく必要があります。
火葬場併設の安置施設に安置する
火葬場に併設された安置施設を利用するケースもあります。ただし施設ごとに環境は異なり、面会時間が限られていたり、面会すらできない施設もあります。
故人への付き添い可否、安置方法などを、搬送前にしっかりと確認する必要があるでしょう。日数に応じた費用がかかる点は、斎場・葬儀場と同様です。
ご遺体を安置するときの注意点
ご遺体を安置するときは、どのような点に注意すればよいのでしょうか。遺体安置の際の代表的な注意点を、3つ紹介します。
クーラーやドライアイスでご遺体を冷やす
ご遺体は長い時間にわたり安置していると、腐敗していくものです。とくに自宅の場合、常温のままでは腐敗が進んでしまうため、対策が欠かせません。
夏であればクーラーで18度以下に部屋を冷やす、冬であれば暖房の使用は控えるなど、部屋の温度をできるだけ低い状態に保ちます。親族など付き添いの人がいる場合には、体調に合わせて調整するようにしましょう。
同時にドライアイスを使って、ダメージを与えないようにご遺体を冷やし、溶けてきたら取り替えます。ご遺体を冷やす大きなサイズのドライアイスは、葬儀社に相談すれば準備してもらえます。
部屋の温度調節やご遺体の管理が難しい場合は、斎場・葬儀場への安置を検討しましょう。
付き添い・面会ができるかを確認する
ご自宅以外で安置する際には、付き添いや面会ができるかを確認しておきましょう。仮眠施設がなければ、面会はできても夜間の付き添いはできません。
仮眠施設が備わっている斎場・葬儀場の安置室であれば、付き添いが可能です。しかし設備が十分に整っていない安置室の場合、通夜や葬儀の当日まで、対面できない可能性もあります。
また付き添いや面会ができる人数が限られていたり、日数や人数に応じて、追加料金が発生したりすることもあるでしょう。
そのため安置場所を決める際には、付き添い・面会ができるかについて、制限や費用も含めた確認が必要です。葬儀社との打ち合わせの段階で、故人と一緒に最後の時間をゆっくり過ごしたいと伝えておけば、要望を踏まえた提案が受けられるでしょう。
搬送距離や安置期間で費用がかさむ
ご遺体搬送や安置にかかる費用は、条件次第で高額になるケースがあります。
安置場所までの搬送にかかる費用は、距離によって決まるのが一般的です。10km以内であれば1万~3万円が相場で、それ以降は10kmごとに2,000~5,000円が加算されます。
また地域、時間帯、利用する交通手段によっても、費用が変わるでしょう。近距離の移動の場合、葬儀社によってはパッケージ料金に搬送費が含まれています。
斎場・葬儀場、民間施設を利用する場合は、施設の利用料金も必要です。費用相場は1日あたり約5,000~3万円で、ドライアイスの費用が1日1万〜2万円ほど加算されます。
自宅に安置する場合も、ドライアイスや枕飾りなどの費用を考えておきましょう。枕飾りは1万~3万円ほどが目安です。
遺体安置の期間が長くなるときは、ご遺体の状態を衛生的に保つためエンバーミングという処理を追加で行うケースもあります。エンバーミングの費用相場は15万~25万円です。
ご逝去から安置までの流れ
ご逝去から遺体安置までの手順を紹介します。詳しい流れを把握しておき、いざという時に慌てないようにしましょう。
「末期の水」を行う
ご逝去の判断は病院の担当医師、またはかかりつけ医師の死亡確認によって行われます。ご逝去後は遺族の希望があれば、故人の枕元で「末期(まつご)の水」の儀式を行います。
末期の水はもともと仏教に由来したものですが、現在は習俗として広く行われている儀式です。「亡くなった後の世界で喉が渇かないように」「故人が生き返るように」などの願いが込められています。
筆や割り箸の先に水で湿らせた脱脂綿などを巻き、立ち会った看護師や家族・近親者が故人の唇を湿らせます。末期の水を行う順番は、故人と血縁の近い方から一般的です。
清拭・湯灌
末期の水を行った後は、「清拭(せいしき)」と「湯灌(ゆかん)」を行います。
清拭はご遺体の露出している部分を、アルコールに浸したガーゼや脱脂綿などを使って、きれいに拭き清める儀式です。このとき体液の流出を防止するために、ご遺体の穴に詰め物をする場合もあります。
一方湯灌は、故人の体や髪を洗って清める儀式です。清拭と湯灌は、自宅で亡くなった場合は遺族が行うケースもあります。
故人によっては、闘病中ゆっくり湯船に入れなかった方もいるでしょう。そのため体をきれいにして納棺に備えるのが、清拭と湯灌の目的です。また故人が無事に成仏できるように、体のケアを行うという意味合いもあります。
着替え・死化粧
ご遺体を清めたら故人用の新しい衣装へと、着替えを行います。故人の衣装は「死装束」と呼ばれる、白い浴衣を用いるのが慣習です。しかし近年は死装束に限定せず、故人が生前に気に入っていた服を用いるケースも増えています。
着替えが終わったら次は死化粧です。死化粧は葬儀に参列する人たちに、できるだけ安らかな姿を見てもらうため、生前の顔に近づける目的で行われます。
もともとは女性だけの儀式でしたが、現在は男性にも薄化粧を施したり、髪や髭・眉を整えたりする場合も少なくありません。
死化粧をは葬儀社の人や、専門の担当者が行います。希望に応じて、故人が愛用していた化粧道具を使ったり、遺族が一緒に行ったりする場合もあるでしょう。
ご遺体の搬送車を手配する
病院でご逝去された際など、亡くなった場所のまま安置できない場合には、搬送車を手配して安置場所まで移動させます。自力での搬送は、体液の流出やご遺体の損傷といったリスクがあるため、避けるのが無難です。
葬儀社をはじめとする専門業者に依頼するのが、最も確実な方法でしょう。葬儀社が決まっていない場合は、病院に紹介された業者に搬送のみを依頼するのも手です。搬送方法は寝台車のほかに、飛行機や船舶を利用するケースがあります。
自宅に搬送する場合には、あらかじめスペースの確保や、搬入搬出経路の確認をしておきましょう。斎場・葬儀社や民間の安置施設なら、搬送前に連絡すれば施設のスタッフが対応してくれます。
搬送車を手配したら、死亡確認を行った医師から発行される、死亡診断書を受け取りましょう。死亡診断書は死亡届の提出や、ご遺体搬送などに使用する書類です。
宗教別の遺体安置方法
遺体安置の具体的な方法は宗教によっても異なります。仏式や神式・キリスト教式の遺体安置の方法について、それぞれ確認しましょう。
仏式の安置方法
仏式の場合には、ご遺体の頭を北側に向けて安置する「北枕」が基本です。北枕はお釈迦様が亡くなったときの状態とされる、「頭北面西右脇臥(ずほくめんさいうきょうが)」が由来です。北側に頭を向ければ、お釈迦様のもとに行けるとされています。
顔に白い布を乗せ、手は胸元で組ませて数珠をかけましょう。布団には魔除けの意味を込めて「守り刀」を、枕元には「枕飾り」と「野膳(やぜん)」を供えます。
枕飾りとは白木の小台の上にろうそく、お線香、香炉、花立てなどのお参り道具を備えた、簡易的な祭壇です。野膳としては水、一膳飯、枕団子を供えます。
もともと仏式では、薄い敷布団の上に寝かせるのが一般的でした。しかし最近は場所の都合から、ベッドを利用するケースも増えています。
ただし宗派・地域によって多少の違いがあるでしょう。
神式の安置方法
神式の場合も北枕やご遺体の体勢といった、基本的な安置方法は、仏式とほとんど同じです。ただ胸元で組んだ手に、数珠をかける必要はありません。
また枕飾りにも少し違いがあり、小台の上にはろうそく2本・榊(さかき)・御神酒・水・塩・洗米などを供えます。
同じ神式でも地域ごとに、安置方法が異なるケースもあるため注意しましょう。
キリスト教式の安置方法
キリスト教式の遺体安置の場合、仏式や神式の北枕のように、枕の向きに決まりはありません。状況に応じて変えても問題はないものの、日本では仏式や神式と同じく北枕に安置することが多いでしょう。
テーブルの上に白い布をかけて、十字架や燭台、聖書、花などを置きます。花は必ず生花を供えると決まっているため、注意が必要です。故人の手には十字架を持たせます。
安置の準備が整ったら、神父または牧師に祈りを捧げてもらう流れです。燭台のろうそくには火を点け、消えないように見守ります。
適切な遺体安置は葬儀社に依頼しよう
遺体安置を適切に行うには、信頼できる葬儀社に依頼するのがおすすめです。遺体搬送では搬送用シートや寝台車が必要なため、ご自身で行うのは避けたほうが良いでしょう。また自宅安置ができない場合、安置場所の手配も任せられます。
信頼できる葬儀社を選ぶには、複数業者から見積もりをとる「相見積もり」がおすすめです。料金やサポート内容、安置する際の付き添い・面会条件などを総合的に比べれば、希望を満たす葬儀社が選べるでしょう。
また口コミをチェックすればトラブル回避にもつながり、安心して葬儀まで任せられます。効率的に相見積もりを取るなら、ミツモアを利用してみましょう。
いくつかの質問に答えるだけで最大5社から見積もりが取れるので、簡単に比較検討できます。
正しい方法でご遺体を搬送・安置しよう
故人が亡くなった際には末期の水、清拭・湯灌、着替え・死化粧などの手順を踏んだのち、葬儀まで特定の場所でご遺体を保管します。
遺体安置が行われる場所としては、自宅や斎場・葬儀社の安置室、火葬場併設の安置施設などが一般的でしょう。どの場所に安置するかによって、状態保存のしやすさや付き添い・面会の可否、必要な費用などは大きく異なります。
また宗教によっても安置方法が異なるため、心配な場合は懇意にしている寺院や教会に事前に確認しておきましょう。
ご遺体の搬送や安置は、葬儀社に依頼が可能です。最適な葬儀社を探すなら、複数の業者から一括で見積もりが取れる、ミツモアも利用してみてください。
監修者:岩田昌幸
葬送儀礼マナー普及協会 代表理事
葬送儀礼(臨終から葬儀、お墓、先祖供養等)が多様化している中で、「なぜそのようにふるまうのか」といった本来の意味を理解し、そうした考え方や習慣を身につけられるよう「葬送儀礼マナー検定」を実施しています。メディア監修多数、終活・葬儀・お墓関連セミナーも実施しています。
コメント
ご遺体の安置は、搬送から安置まで適切に行う必要があります。衛生面を考えても無理にご自身で行おうとせず、葬儀社などプロの力を借りて行うと良いでしょう。自宅以外の場所に安置する場合は、付き添いや面会時間を良く確認してください。