遺体搬送とは、病院から自宅や斎場などの安置所にご遺体を移動させることです。葬儀社が手配する寝台車で搬送することが一般的ですが、自家用車でも搬送することは可能なのでしょうか。遺体搬送できる乗り物や、業者に依頼した場合の流れ、費用の相場などを紹介します。
この記事を監修した専門家
葬送儀礼マナー普及協会 代表理事
岩田昌幸
遺体搬送できる乗り物
遺体搬送は自家用車でも行えるのでしょうか。遺体搬送できる乗り物は、実は法律によって定められています。
一般的には寝台車。霊柩車との違いも
遺体搬送に使用される乗り物は、寝台車や霊柩車が一般的です。車検証上は「霊柩車」ですが、多くの場合、病院や安置所から自宅・葬儀場などに搬送する際は寝台車、葬儀場から火葬場まで搬送する際は霊柩車と使い分けて呼称されています。
寝台車はストレッチャーごと人を乗せられる車です。故人だけでなく、けが人や病人などを乗せることができるほか、付添人が同乗できることも特徴です。
霊柩車は棺に納められたご遺体を搬送しやすい仕様の車両です。霊柩車というと白木や漆塗りの輿が搭載されている、黒い車体の宮型霊柩車を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし現在では、一目で霊柩車とわからない、ミニバンタイプや黒色以外の洋型霊柩車が多くなっています。
自家用車の利用は法律違反ではない
遺族の自家用車で運ぶことは、法律上問題はありません。ただしご遺体の損傷や衛生面でのリスクがあります。安全かつ衛生的に運ぶには、ストレッチャーや棺を個人で用意し揺さぶられないように固定する作業が必要です。
自家用車での運搬は負担が大きいうえ、ご遺体が損傷し体液などが流れ出し感染症のリスクもあるため、基本的には業者に依頼すべきでしょう。
第三者が運ぶ場合は許可を得た車両のみ
ご遺体を業務の中で搬送する場合、法律上では貨物扱いとなります。そのため第三者が運ぶ際は、国土交通省から許可を得た車両でなくてはなりません。
また搬送車両についても国から認可を受ける必要があります。許可を得た車両には、引越し業者のように緑色のナンバーが付与されるので、必要に応じて確認しましょう。
搬送先が遠い場合は船舶や航空機も
ご遺体の搬送先が遠い場合は、車両ではなく船舶や航空機が使用されます。たとえば離島から搬送する際には、船舶や航空機が利用されるでしょう。
搬送経路が陸続きでなければ、車両との組み合わせで搬送します。一般的に船舶より航空機の方が費用はかかりますが、港や空港から搬送先までの距離によっては、金額が逆転する場合もあるでしょう。
陸続きの搬送では基本的に車両が選択されますが、距離によっては航空機の方が費用を抑えられる可能性があります。約700~800kmを超える移動の場合には、車両より航空機の方が、短時間で費用も安くなる可能性が高いでしょう。
遺体搬送の流れ
ご遺体を搬送する際は業者への連絡が必要です。ご逝去後、遺体搬送する流れを紹介します。
ご遺体の身だしなみを整える
病院で亡くなったことを確認したら、医師によって臨終が告げられます。その後「末期の水」や「エンゼルケア」が行われます。末期の水はご遺体の口元を湿らせる儀式、エンゼルケアはご遺体の身だしなみを整えるケアです。一般的に、ご遺体を拭いて体を洗浄し、死装束を身に着け、死化粧を施します。
エンゼルケアをどこまで行うかは地域の慣習や病院の対応により異なるでしょう。病院で亡くなった場合、エンゼルケアは看護師が行うケースもあります。また搬送して安置した後に改めて行うこともあるため、葬儀社に確認しておきましょう。
ご遺体のケアにはエンゼルケアだけでなく、「エンバーミング」という方法もあります。ご遺体の防腐処理や殺菌、修復を目的としており、行うのはエンバーマーという専門職です。火葬までの日程が一週間以上開いてしまうなど、ご遺体を安置する期間が長い場合や、長い病床生活や事故により面影が薄れてしまった場合に復元を目的として行われます。
葬儀社へ搬送を依頼する
ご遺体を病院などから自宅や斎場の安置所に搬送するため、葬業社に依頼して車両を手配します。なお故人が病院で亡くなった際は、病院が提携している葬儀社しか、ご遺体の搬送ができないというケースもあるでしょう。
そうした場合は指定の葬儀社にご遺体搬送のみを依頼し、別の葬儀社に葬儀をお願いすることも可能です。もちろんそのまま遺体搬送と葬儀を、一緒に依頼しても構いません。
故人が亡くなる可能性について前もって分かっているような場合には、事前に病院に確認したり、葬儀社を選定したりしておくと良いでしょう。
安置先を確保
遺体搬送を業者に依頼することと合わせて、安置場所を決定します。安置場所は、自宅または葬儀社や斎場の安置室が一般的です。火葬場に保冷施設や霊安室などがあれば、火葬場に搬送することもできます。
自宅以外に搬送する際は早めの決定が必要になるため、事前に調べる、または葬儀社に相談しておくのがおすすめです。
死亡診断書を受け取る
遺体搬送の準備が整ったら、医師から「死亡診断書」を受け取りましょう。死亡診断書はその後の手続きを進めるために重要な書類です。
家族が亡くなった際は、逝去を知ってから7日以内に、役所に「死亡届」を提出しなければなりません。この死亡届は死亡診断書と一体となっています。
また火葬場で火葬を行う際には「火葬許可証」が必要になりますが、役所に死亡届を提出した際に入手が可能です。つまり死亡診断書がなければ火葬ができないと言えます。
遺族年金や生命保険などの請求においても死亡診断書が必要になるため、あらかじめ10枚程度のコピーを取っておくと良いでしょう。
葬儀社が到着したら、ご遺体をストレッチャーに乗せ、寝台車まで運んで搬送します。
遺体搬送にかかる費用の相場
遺体搬送は、距離が長ければ長くなるほど、金額が上がります。搬送費用だけでなく深夜料金や待機料金などオプション料金が発生する場合もあるでしょう。遺体搬送に必要な費用の相場を紹介します。
近距離の場合
病院から自宅までの搬送など近距離搬送の場合には、主に霊柩車などの車両を使用します。費用の相場は10km以内だと約2万円です。それ以上の距離になると、10kmごとに3,000~5,000円が加算されます。
葬儀社によっては、ある程度の走行距離は、葬儀プランの費用に含まれているでしょう。ただし搬送に必要な棺やドライアイス、防水シーツなどは別途費用が発生する業者もあります。
事前に遺体搬送にかかる費用の内訳を確認しておくと良いでしょう。
中・長距離の場合
中・長距離の搬送となると、船舶や航空機が利用される場合もあります。車両で移動する場合でも、高速道路が使用されるでしょう。
船舶を利用する場合の費用の相場は、たとえば東京湾から伊豆諸島の距離で約15万~25万円です。港に着いてから自宅などの安置所までは、車両の走行距離に応じて変動します。航空機を利用する場合の相場は、国内では約20万~30万円です。
一般的に船舶と航空機を利用する場合、棺の料金は搬送料金に含まれます。中・長距離だと金額が高くなるケースもあるため、場合によっては搬送せず、現地での火葬を選択する遺族もいます。夏場や海外で亡くなった場合、とくにそうした措置を取るケースが多くなるでしょう。
自家用車で搬送する場合の注意点
基本的に遺体搬送は、ご遺体が傷ついたり感染症が拡大する危険性から、業者に依頼するべきです。
ただしどうしても自家用車で搬送したい場合もあるでしょう。自家用車で遺体搬送する際のポイントと、注意点を紹介します。
ご遺体を棺に入れる
ご遺体を搬送する際は、必ず棺に入れて運びます。棺に入れるだけでなく、防水処理も施しましょう。生きている人間と違って全身の筋肉が緩んでいるため、体液が外に流出してしまうためです。
ご遺体をそのまま座席に乗せてしまうと、シートが汚れてしまいます。体液が流出すると車内が汚れるだけでなく、感染症のリスクもあるため、注意が必要です。
仮に棺に入れず寝かせたまま搬送しても、体液が外に漏れます。棺に入れてご遺体をしっかり保護しましょう。
なるべく揺れない車両にする
車両は軽自動車など狭い車両では運べません。なるべく後部座席がフルフラットになる、広い車両を選びましょう。ご遺体を車両に入れる際は、担架やストレッチャーに載せ、ベルトでしっかり固定します。
普通乗用車だとこれらを入れるスペースが確保できないため、ミニバン以上の大きさの車が必要です。なるべく揺れない車両を選ばないと、ご遺体が破損する恐れもあります。
適切な遺体搬送方法を選択しよう
遺体搬送する際は距離に応じて、霊柩車や船舶、航空機などを利用します。亡くなった人は法律上、貨物扱いです。第三者がご遺体を運ぶ場合、国土交通省から許可を得た乗り物でなければ、遺体は運べません。
自家用車での搬送は法律上問題ありませんが、体液が外に漏れたりご遺体が破損したりするリスクがあるため、基本的に業者に依頼すべきと言えます。適切に遺体を搬送し、故人が安らかに眠れるよう見送りましょう。
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監修者:岩田昌幸
葬送儀礼マナー普及協会 代表理事
葬送儀礼(臨終から葬儀、お墓、先祖供養等)が多様化している中で、「なぜそのようにふるまうのか」といった本来の意味を理解し、そうした考え方や習慣を身につけられるよう「葬送儀礼マナー検定」を実施しています。メディア監修多数、終活・葬儀・お墓関連セミナーも実施しています。
コメント
ご遺体の搬送は基本的に葬儀社に依頼しましょう。自家用車の運搬はさまざまなリスクがあり、推奨できません。長距離となる場合も、まずは葬儀社に連絡を取り、相談すると良いでしょう。