自宅葬とは自宅で行うお葬式です。慣れ親しんだ自宅で落ち着いて葬儀を行え、また式場などの制約がない分自由な形式をとれます。その一方、自宅内でのセッティングや場所の確保、近所への配慮といった計画も綿密に必要です。
自宅で葬儀を行う場合の流れや費用、注意したい点を解説します。
この記事を監修した専門家
日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
二村祐輔
自宅葬とは
自宅葬では、一般的には故人の自宅で葬儀を行います。集合住宅が増えた関係で自宅葬の実施は現在少ないですが、感染症拡大の影響で、再び注目を集めている葬儀の形式の1つです。
亡くなった人の自宅で葬儀を行うこと
自宅葬とは文字通り、亡くなった人の自宅で行うお葬式のことです。式場を借りて行う場合と比べ、時間や進行の自由度は高い傾向にあります。
たとえば自宅葬では故人の好きだった食べ物を並べたり、ペットも参列したりすることが可能です。
故人が慣れ親しんだ自宅で、気兼ねなくお葬式を行えるのが自宅葬のポイントでしょう。
現在は珍しい葬儀の1つ
自宅葬を行う家族は全体の5%のみです。
自宅葬が減少した背景には、核家族の増加と住宅事情が挙げられます。昔は多くの人が広い平屋に住んでおり、近所付き合いも現代と比べれば盛んでした。しかし時代が進むにつれ、人々が都心部に住むようになって、核家族が増えています。
都心部は集合住宅が多く、十分なスペースの確保や近所との連携が難しくなったこともあり、自宅葬を選ぶ人は激減しています。
しかし昨今ではコロナ禍の影響もあり、人数を絞って行われる自宅葬が、再び注目を集めています。自宅葬の中でも、家族や親しい友人のみを呼ぶ家族葬が増加中です。
自宅葬を行う際の流れ
自宅葬の大まかな流れは一般葬と同じです。ご遺体を自宅に安置後、葬儀社と打ち合わせをして、お通夜、葬儀・告別式、出棺、火葬の順番で執り行います。
ご逝去当日(1日目) | ご遺体搬送・安置 葬儀社と打ち合わせ |
翌日(2日目) | 納棺 お通夜 |
翌々日(3日目) | 葬儀・告別式 火葬 |
ご遺体安置・搬送
ご臨終を迎えたら、医師から死亡診断書を受け取りましょう。その後、ご遺体を委自宅に搬送して安置します。
自宅のベッドや家具などを片づけて、なるべく広いスペースを確保しましょう。
葬儀社との打ち合わせ
ご遺体安置が終わったら、喪主を決めて、お葬式日程や進行といった具体的な打ち合わせを、葬儀社を交えて行います。
自宅葬は一般葬と異なり、自宅の大きさに合わせた祭壇の準備や導線整備をする必要があります。そのため自宅葬に慣れている葬儀会社に依頼するのがおすすめです。
納棺
お通夜が始まる前に納棺を行います。納棺とは遺族や親族のみが集まって行う、遺体を布団から棺に移動させる儀式です。
タオルで故人の体を拭いたり、お湯で身体を清める「湯灌(ゆかん)」を行ったりすることもあります。
納棺が済んだら、お通夜の準備を行いましょう。
お通夜・通夜振る舞い
お通夜は故人と過ごす最後の夜です。弔問客が訪れる場合は、受付対応や香典の受け取り、芳名帳への記帳案内を行いましょう。
お通夜では菩提寺の僧侶による読経中に、参列者がそれぞれお焼香をします。
お通夜が終わったら、弔問客に通夜振る舞いを用意しましょう。通夜振る舞いとは、故人を偲びながら取る食事です。
葬儀・告別式
お通夜の翌日の日中に、式次第の進行に沿って葬儀・告別式を行います。式中の焼香の順番などが厳密に決まっている地域もあるので、注意が必要です。
お別れの時間や喪主挨拶のち、出棺、火葬となります。
火葬
式が終了したら出棺をし、火葬場へ向かいます。遺体を搬送します。火葬にかかる時間は、1~2時間程度です。
火葬後は収骨を行います。収骨が終わったら、解散が一般的な流れです。所定の場所へ移動し、お葬式の締めくくりと慰労を兼ねて会食をすることもあります。
自宅葬を行うメリット
自宅葬には、自宅で行うお葬式ならではのメリットがあります。メリットを3つ紹介します。
慣れ親しんだ自宅で故人を送れる
亡くなる前は長らく入院をしていたり、施設に入所していたりする人も少なくありません。「自宅に帰りたい」と思っていた人も多いでしょう。
故人が慣れ親しんだ自宅でお別れをできることが、自宅葬の大きなメリットです。故人が自宅葬を希望していたら、検討する価値は十分にあります。遺族にとっても故人にとっても、思い出が詰まった場所でお別れができるため、温かみのある葬儀にできるでしょう。
時間を気にしないでよい
自宅葬なら時間を気にせず、故人をお見送りできます。たとえば式場を借りてお通夜を行う場合は夕方18時ごろから2~3時間が一般的ですが、自宅葬ならそのような制約もありません。
また自宅であれば、周囲の目を気にせず泣いたり、故人に話しかけたりできます。最後の時間を、故人やご遺族とともにゆっくり過ごせるでしょう。
準備や後片付けに多少の手間はかかりますが、それでも時間を気にしなくて済む点は、大きなメリットです。
式場使用料といった費用がカットできる
斎場や寺院でお葬式を行う場合、式場使用料やお礼などが必要です。たとえば公営の斎場でしたら、2万円~10万円ほどかかります。
自宅葬の場合はその分をカットできるため、金銭的負担の軽減につながるでしょう。
自宅葬を行うデメリット
自宅葬を行う際には、デメリットも把握しておく必要があります。注意点も理解して、スムーズに準備を進めましょう。
近所への配慮が必要
自宅葬を行う場合は、近隣の住民への配慮が必要です。施行の前後には、車や人の出入りもざわつき、お経や線香のにおいなども漂います。
また近隣の住民には、自宅でお葬式を執り行うことを事前に伝えておく配慮が必要です。
このような背景から集合住宅では、集会室を利用してお葬式を行う人も多くいます。事前に管理規約の確認や、管理人への問い合わせをしておきましょう。
祭壇・料理の準備など人手がいる
具体的には、以下の準備が発生する可能性があることを覚えておきましょう。
- 家具などの移動やその復元
- 事前事後の清掃
- 通夜振る舞いの準備・提供・片付け
自宅葬を行うには、最低でも6畳程度のスペースが必要です。葬儀社が準備や撤去をする場合も多いですが、それでもスペースの確保や、撤去後の片付けといった手間は発生するでしょう。
自宅葬にかかる費用
40万円からが一般的
葬儀社に自宅葬を依頼する場合、40万円からが一般的です。最終的な費用は葬儀の規模や、参列していただく弔問客の人数によって変わります。
【自宅で行う家族葬にかかる費用内訳】
- 葬儀費用(祭壇や棺・火葬など最小限の費用)
- 通夜振る舞いや式後の会食などの飲食費用
- 僧侶へのお布施
ただし葬儀社ではさまざまなプランが用意されているため、どの費用がプランに含まれているかは要チェックです。
基本的に僧侶へのお布施は含まれていません。食事や返礼品は、用意してくれることがあります。通夜振る舞い等の飲食代は一人2,000円~、香典返しは当日一律で返礼するなら3,000円以上を見積もっておきましょう。
お布施にかかる費用
自宅葬をした場合に、僧侶に渡すお布施の金額は一般葬と変わりません。お布施の目安は地域によって大きく異なります。
現在はお布施の平均費用も下がってきているようですが、通常、通夜・葬儀の読経や戒名授与などを含めて、30万円くらいを考えているケースが多いです。
費用がわからない場合は、僧侶に直接聞くとよいでしょう。
なお菩提寺との関係や、戒名のランクによっても異なります。ランクの高い戒名は、100万円以上するケースもあるため把握しておきましょう。
お布施の代表的な内訳は、以下の通りです。
- 読経御礼
- 戒名授与
- お車代
- お膳料
お車代は実費に加えて一律5,000円ほどをそれぞれの宗教者へ渡すのが一般的です。お膳料の目安は地域慣例によります。
お布施は通夜後や翌日の式後、あるいは後日お寺に出向いてお渡しすると良いでしょう。
自宅葬でぬくもりのある葬儀を
自宅葬は、昔は普通のお葬式形態でしたが、住環境の変化から現代ではほとんど行われることはなくなりました。しかしコロナ禍により、大人数での集会を避ける目的から、近年再び注目を集めています。
自宅葬の流れは一般葬と大きく変わりませんが、弔問者や会葬者の数は限定せざるを得ない少人数が原則です。また何かと下準備もあります。
それでも故人が慣れ親しんだ自宅でお別れができることは、自宅葬の大きなメリットです。時間を気にすることなく故人を偲べる点も、自宅葬のよいところと言えます。
故人が自宅葬を希望していた場合は、メリットとデメリットを比較した上で検討しましょう。
自宅葬に適した葬儀社の選び方
自宅葬を行う場合は、自宅葬に慣れている葬儀社を選ぶことがポイントです。
一般葬と比べて葬儀社が会場に慣れていないため、葬儀社の技量が大きく求められます。また自宅の規模にあった祭壇の手配や近所への配慮など、気を遣うべき点が多いです。
葬儀社によってはプランの変更を強く進めてくることもあるかもしれません。小規模な自宅葬でも、しっかりと対応してくれる、誠実な葬儀社を選ぶことが大切です。
葬儀社選びに迷ったら、ミツモアを使うのがおすすめです。ミツモアでは住んでいる地域を入力し、簡単な質問に答えるだけで、最大5社の葬儀社に見積もりを依頼できます。日程調整を含む諸々のやりとりも、ミツモア上でできるので、チェックしてみましょう。
監修者:二村祐輔
日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
『葬祭カウンセラー』認定・認証団体 主宰
東洋大学 国際観光学科 非常勤講師(葬祭ビジネス論)
著書・監修
- 『60歳からのエンディングノート入門 私の葬儀・法要・相続』(東京堂出版) 2012/10/25発行
- 『気持ちが伝わるマイ・エンディングノート』 (池田書店) 2017/9/16発行
- 『最新版 親の葬儀・法要・相続の安心ガイドブック』(ナツメ社) 2018/8/9発行
- 『葬祭のはなし』(東京新聞) 2022年現在連載
など多数
コメント
自宅でのお葬式が当たり前であった時代が長く続きました。町内会や組内の人びとは「世話役」ということで、相互扶助としてお手伝いをしたものです。町内の「婦人部」などは、通夜や式後の振る舞い料理のみならず、お手伝いの人びとや遺族、親族の食事までも準備してくれました。その光景は非日常の一場面として、今でも懐かしく思い出されます。子供たちもテンションが上がり、実に「うきうき」とした緊張感を抱いたものでした。