サトウカエデという花木をご存知でしょうか? サトウカエデはカナダの国花であり、国旗でも印象的なメープルマークの葉をつける落葉高木です。
サトウカエデはメープルシロップの材料になる樹液を分泌するのが特徴で、秋には紅くなった葉が美しい紅葉も楽しめます。庭の植栽や盆栽としても人気のサトウカエデの特徴や魅力、育て方を徹底解説していきます。
サトウカエデとは
植物名 | サトウカエデ |
学名 | Acer saccharum |
科名 / 属名 | ムクロジ科 / カエデ属 |
原産地 | カナダ、北米 |
開花期 | 4月~5月 |
花の色 | 黄緑色 |
樹高 | 20~40m |
特性 | 落葉性、耐寒性、紅葉する |
サトウカエデはムクロジ科カエデ属の落葉高木です。日本でよく見る「モミジ」を大ぶりにしたような直径7~15cmほどの大きさの葉をつけ、秋になると美しく紅葉するのが特徴です。また春には黄緑色の小花を枝先にたくさん咲かせます。
サトウカエデの果実は翼のような形状をしている「翼果」で、長さは約3~5cmです。緑色の実は7月~9月ごろになると褐色に変化し、風で回転しながら飛び散っていきます。
耐寒性が非常に高く、サトウカエデはカナダの南東部、ケベック州などを中心とした一部の地域で自生しています。
サトウカエデはカナダの国花
サトウカエデはメープルシロップで有名な「カナダ」の国花です。学名は「Acer saccharum」で「ムクロジ科カエデ属」の落葉高木です。
カナダに自生する樹木は、樹高30~40mにまで成長して大きな葉を付けます。しかし日本に自生しているものは、そこまで大きくは育ちません。また鑑賞用に、庭木や鉢で盆栽としても栽培されています。
栄養価の高いメープルシロップが取れる
サトウカエデの樹液はメープルシロップの原材料です。ホットケーキなどにかけると甘く食べられるシロップが、樹液からできていたなんて驚きですね。
サトウカエデの樹液を煮詰めて作られたメープルシロップは、同じ甘味料である上白糖やハチミツよりも低カロリーです。またカリウムやマグネシウムなどのミネラル、ビタミンやアミノ酸など日本人が不足しがちな栄養分を豊富に含んでいます。
またメープルシロップの世界最大生産国はカナダです。サトウカエデの原生林が広がるカナダ南東部で主に生産されており、なかでもケベック州は世界の約70%、カナダ産の約90%を誇ります。
残り約10%の生産地は、オンタリオ州・ニューブランズウィック州・ノバスコシア州です。
盆栽にも向いていて育てやすい
耐暑性や耐寒性が低い植物を屋外で育てる際、寒い季節や暑い季節には屋内へ移動させなくてなりません。しかしサトウカエデは、耐暑性・耐寒性が高い植物です。そのため北海道から沖縄まで、国内全土において季節に関係なく屋外栽培できます。
また本来サトウカエデは大きくなる植物ですが、剪定によってサイズをコンパクトに調整可能です。また深さのない器でも根を安定させて、美しい樹形をキープしやすい点から「盆栽向き」の植物として人気があります。
サトウカエデの栽培環境
サトウカエデを元気に育てるためには、どのような環境が適しているのでしょうか?環境によっては秋に紅葉しないこともあるので注意が必要です。ここでは栽培における日当たりや、土の選び方について紹介します。
日当たりのよい場所を好む
落葉高木のサトウカエデを美しく紅葉させたいならば、日光が欠かせません。ただし強い日差しに当てると、葉が傷ついて紅葉しなくなってしまいます。
特に西日の日差しは強いため、置き場所には注意しましょう。西日や直射日光が当たらない日なたに置いて、秋の彩りを楽しみましょう。
土は水はけと水もちのバランスがよいものを
サトウカエデを植え付ける際には、水はけと水もちのバランスがよい土壌に植え付けるようにしましょう。
たとえば排水性の高い土には、有機物を多く含んだ腐葉土が挙げられます。水はけが悪いと、土中の根が酸欠状態となり「根腐れ」を起こしてしまいます。
またサトウカエデは乾燥が苦手な植物です。そのため水もちのよい土でないと、乾燥して枯れてしまいます。
サトウカエデを植え付ける際には、排水性の高い腐葉土を30%ほど、保水性の高い赤玉土を70%ほど混ぜた用土を使うようにしましょう。自分で用土を混ぜて作るのが面倒な人は、市販の園芸培養土を代用しても問題ありません。
サトウカエデの育て方
サトウカエデは地植えと鉢植えのどちらの方法でも栽培可能です。しかしそれぞれ育て方が異なる点もあるので、事前に理解しておきましょう。ここでは水やりのタイミングや肥料の与え方など、基本の育て方について解説します。
水やりは鉢植えのみ夏に行う
サトウカエデの水やりは、鉢植えの場合のみ夏に行ってください。鉢植えは地植えのように根が張らないため、水分を吸い上げにくい性質があります。そのため気温が高く乾燥しやすい夏は、水切れを起こしやすくなるので注意が必要です。
また夏に水分が足りないと秋に葉が色づかなくなるため、紅葉が楽しめません。夏は朝・夕の1日2回、たっぷりと水やりしましょう。また葉が乾燥すると、茶色くなったり萎れたりします。そのため適度に葉水も行ってください。
地植えの場合、基本的に水やりは必要ありません。ただし地植えにして根付くまでは、土が乾燥していたら水を与えましょう。
肥料は寒肥として有機物や緩効性を施す
サトウカエデには春の成長期に向けて、休眠期に有機質肥料と緩効性化成肥料を混ぜたものを「寒肥」として与えましょう。タイミングは落葉直後です。
サトウカエデの株を大きくしたいときには、成長に合わせて足りない栄養分を肥料で補う「追肥」が効果的です。4〜5月と9〜10月の成長期に、寒肥と同じ種類の肥料を株の周りに与えましょう。
植え替えは2〜3年に1回行う
鉢植えでの植え替えは、2~3年に1回を目安に行います。休眠期の1~2月が最適です。根を軽くほぐして、変色した部分をハサミなどで切り落としてから、今使用している鉢よりも一回り大きなサイズの鉢を用意して植え替えましょう。
また鉢から庭への植え替えは、12~3月頃が目安です。植え付ける場所の土に、現在の鉢よりも大きめの穴を掘り、腐葉土を混ぜてから移動させましょう。
水はけがあまりよくない土の場合には、排水性を高めるために軽石などを敷いてから植えてもOKです。
きれいな紅葉を楽しむための3つのポイント
サトウカエデは秋になると葉を美しく紅葉させます。しかし、いくつかのポイントを抑えておかないと、サトウカエデはきれいに紅葉してくれません。
サトウカエデのきれいな紅葉を楽しむための3つのポイントを解説します。
昼夜で大きな寒暖差のある環境で育てる
サトウカエデは寒暖差の大きな環境下で育つことによって、葉を紅葉させる色素成分の「アントシアニン」を多く合成します。アントシアニンの合成は温度と光の条件が大切なポイントで、15度ほどの温度差が鮮やかに紅葉するための条件です。
1日の最低気温が8度を下回り、5~6度以下になると紅葉が加速的に進みます。昼夜の寒暖差が大きくなり、色素が多く合成されることによって、美しい紅葉へと変化していくのです。
程よい日当たりを与える
サトウカエデを美しく紅葉させるためには、日当たりの条件も重要です。
紅葉の色を決定する色素のアントシアニンを合成するには、温度差だけではなく日光などによる「光量」が必要になってきます。そのため、サトウカエデを育てる際には日当たりのよい場所で育てるようにしましょう。十分な日光が当たる場所であれば、美しい紅葉が期待できます。
しかし、西日などの強い日差しが長時間当たる環境は避けるようにしましょう。強い日差しを浴び続けると「葉焼け」を起こして変色してしまい、高揚しなくなる可能性があります。
強い日差しは避け、日照時間をある程度確保できる場所で育てることが大切です。
乾燥しすぎないように水やりをする
サトウカエデの葉は乾燥に弱く、適切な水やりを施さないと、葉がしおれて紅葉しなくなってしまいます。
真夏などの乾燥しやすい時期に水やりを怠っていると「乾燥しすぎていることに気づかなかった」という事態になりかねません。夏の暑い日は、サトウカエデの水分状態をこまめにチェックするよう心がけましょう。
サトウカエデを盆栽で育てる時の道具
盆栽では用途に合わせて、様々な道具を使います。すべてを最初から揃える必要はありません。これから盆栽をはじめる人は、まず最低限必要な道具だけを揃えておきましょう。ここからは最初に揃えておきたい道具について紹介していきます。
剪定するのに必要なハサミ類
盆栽とは木や草の自然な美しさを、小さな鉢に凝縮してその姿を楽しむ方法のことです。そのためコンパクトなサイズをキープして樹形を整えるために、剪定が欠かせません。
種類豊富な剪定ハサミのなかでも次の2種類のものを用意しておくとよいでしょう。
- 盆栽ハサミ
- 又枝切りハサミ
盆栽ハサミ
盆栽ハサミは植物の枝や茎を切るためのハサミです。刃や柄が太く、持ち手が大きく作られています。持ち手部分が、自分の手の平と同じサイズのものを選ぶと使いやすいでしょう。
又枝切りハサミ
又枝切りハサミは、盆栽ハサミでは切れないような、3mm以上の太さの枝や枝元を切る際に使う道具です。見た目を整えるための根切りやこぶ切りにも使えます。
針金と切る道具
盆栽では木や枝を固定する際に「針金」を使います。アルミ製・銅製・合金製など種類が豊富です。アルミ製と合金製は銅製よりも柔らかく扱いやすい反面、枝や木を固定する力は銅製よりも劣ります。
一方で銅製は、固定すると硬くなるため枝や木の固定にぴったりです。太さは固定する枝の1/3が目安になります。
針金は植物の種類に合った材質や太さを選ぶことが重要なので、初心者は園芸店でプロに相談してから購入すれば安心です。また針金を使う場合には「針金切(はりがねきり)」も用意しておきましょう。針金を切るだけでなく、外すときにも使えます。
その他手入れに必要なもの
その他手入れに必要な道具は、以下の2点です。
- ピンセット
- ジョーロ
ピンセット
手入れ中に枝が折れたり葉を落としてしまったりすると、美しい樹形が台無しです。そのため盆栽では、発生した虫や雑草などを取り除く際は、ピンセットを使用して丁寧に行いましょう。
ジョーロ
水やりで必要なジョーロも用意しておきましょう。放水の勢いが強いと土が流れてしまうため、盆栽で使用する場合には注ぎ口が小さく、穏やかな水流で水やりできるものがおすすめです。
サトウカエデの盆栽の作り方
基本の育て方や道具を揃えたら、さっそくサトウカエデの盆栽を作ってみましょう。むずかしいイメージを抱く人もいるかもしれませんが、意外に簡単です。ここでは作り方を手順ごとに、わかりやすく解説します。
鉢に針金を通して土を入れる
まずは鉢に針金を通して土を入れていきましょう。この作業で必要な道具は以下の6点です。
- 盆栽用の鉢
- 植え付け用の用土
- 鉢底ネット
- ごろ石
- 針金
- 針金切
作業は以下の手順で行います。
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【手順2】で針金を通す際には、土と木を固定する針金は少し長めにとっておきましょう。また針金部分にもしっかりと用土を埋め込んで、植えつけたときに根と土の隙間が生まれないようにします。
準備できたら植え付ける
鉢の準備を終えたら植え付けましょう。必要な道具は以下の7点です。
- 下準備をした鉢
- 盆栽ハサミ
- サトウカエデの株
- 針金切
- 割り箸などの棒
- 盆栽用ピンセット
- ジョーロ
作業手順は以下の通りです。
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水やりの際には鉢底から流れ出る水が透明になるまで、根元にたっぷりと与えましょう。
盆栽の手入れ方法
植物は時間とともに成長していきます。そのため盆栽では伸びた枝や葉を切り取るなど、手入れをしないと樹形が乱れて見た目が悪くなります。ここからは芽摘みと葉刈り、剪定のやり方をそれぞれ紹介していきましょう。
芽摘みで枝を調節する
「芽摘み」とは伸びた芽を取り除き、樹木のバランスを整えながら小枝を増やすために行う手入れ方法のことです。ピンセットで新芽を摘み取って減らすことで、枝が伸びて樹形が乱れるのを防ぎます。
サトウカエデだけでなく一般的に植物は、上部に付いた頂芽に優先して栄養を与え、成長させる性質があります。そのため上部の芽を放置していると、上にばかり成長してバランスが悪くなってしまうのです。
芽摘みをすれば脇芽にも栄養が運ばれて、樹形のバランスを整えやすくなります。
葉刈りで風通しをよくする
「葉刈り」とは対で生えている葉の1枚を切り落としたり、葉を縦半分に切ったりして、風通しをよくするために行う手入れ方法です。葉が生い茂ると風通しが悪くなってしまい、株が弱ってしまいます。
ただし葉刈りは樹木にとって、大きな負担となる作業です。そのため作業前には肥料を与えて体力を付けておきましょう。負担を軽減させれば、刈り取り後2~3週間で新芽が付きやすくなります。
剪定は春と冬に行う
サトウカエデの剪定は春と冬の2回です。季節によって、剪定の方法が異なります。春の剪定に適した時期は、新しく生えてきた枝の表面が、しっかりと成長してきた5月中旬頃です。
冬の剪定は落葉後の秋から2月頃に行います。サトウカエデの枝には出液水といわれる樹液が流れていますので、落葉後、出液水が動いていない時期に太い枝も剪定しておきましょう。枯れた枝や茂った枝を切ることで、風通しがよくなり病気を防げます。
また剪定では、切り口が病気になる可能性があります。そのため手で折れる場合には、ハサミを使わずに折り取っても問題ありません。
サトウカエデが注意すべき病害虫
サトウカエデは比較的丈夫な植物なので、病気や害虫がつきにくいと言われています。しかし、いくつかの病気と虫には注意しなくてはなりません。ここではサトウカエデがかかりやすい病気と、発生しやすい害虫について解説します。
サトウカエデがかかりやすい病気
サトウカエデがかかりやすい病気は以下の2種類です。
- うどんこ病
- すす病
うどんこ病とは、カビが白い粉状となって発生する病気です。日当たりと風通しのよい屋外に置いていても、空気中に浮遊しているカビ菌が付着すれば発症してしまいます。すす病もカビの一種で、葉や枝などがすすのように黒く変色していきます。
いずれの場合にも発症すると、葉が弱って成長に必要な光合成が働かなくなり、最悪の場合には枯れてしまうので注意が必要です。発症してしまったら、早めに薬剤を散布するなどの対処をしましょう。
サトウカエデにつく害虫
テッポウムシとアブラムシには注意しましょう。テッポウムシとはカミキリムシの幼虫の呼び名です。春の終わりから秋にかけて発生しやすく、幼虫が成虫へと成長して、幹の中から外へ出るときに大きな穴が空きます。
穴が空いてしまった場合には、すでに幹の内部に食害を受けていると考えられますが、ダメージの大きさは素人には判断できません。心配な人は樹木医に相談するとよいでしょう。
またアブラムシはどの植物にも付くと言われている害虫です。サトウカエデの新芽に寄生して養分を吸い取り、株を弱らせていきます。またアブラムシの排泄物は、すす病の原因にもなるため注意が必要です。
いずれの害虫も殺虫剤に弱いので、発見したらすぐに殺虫剤を散布するようにしましょう。
「カエデ」と「モミジ」の違いについて
「カエデ」と「モミジ」は、秋になると葉が色づいて、紅葉が楽しめる樹木としてイメージされる代表的なものでしょう。よく似たイメージのため、実は2つの違いがわからない人は多いのではないでしょうか?
ここではカエデとモミジの違いについて解説します。
「モミジ」は日本特有の言葉
カエデとモミジはどちらも「ムクロジ科カエデ属」の植物です。植物学的にはモミジ属は存在せず、モミジとカエデを区別する決まりはありません。
しかし、カエデが英語で「maple」と表記するのに対し、モミジは「Japanese maple」と表記されます。このことから、モミジは日本特有の呼び名であることがわかります。ではなぜ「モミジ」という字が充てられるようになったのでしょうか。
かつての日本では、秋に葉が色づいて紅葉することを「もみづ」と言いました。それが由来となって、カエデのなかでも特に真っ赤に紅葉するものをモミジと呼ぶようになったようです。
なお紅葉を楽しむのは、日本だけではありません。カナダの全長800kmの「メープル街道」では、9月下旬から10月上旬のサトウカエデの紅葉時期になると、世界中から観光客が集まります。
「カエデ」と「モミジ」の見分け方
黄色く色づくカエデと、真っ赤に色づくモミジですが、色づき以外に見分け方はあるのでしょうか?
植物学的には明確な区別は定められていませんが、日本では葉の切れ込みが深いものがモミジ、切れ込みが浅いものをカエデと呼んで区別しています。
モミジの葉は切れ込みが深く入っており、代表的なイロハモミジは赤ちゃんの手のような形をしていると言われています。
一方カエデの葉は切れ込みが浅く、カエルの手のような形が特徴です。「かへるで」が語源となっており、変化してのちに「カエデ」と呼ばれるようになりました。
ただし、カエデとモミジを言い分けているのは日本だけのようです。
サトウカエデを育てて紅葉を楽しもう
サトウカエデは庭のない人でも、盆栽を作ってベランダでも栽培できる植物です。耐寒性と耐暑性に優れているため、基本の育て方と手入れ方法さえマスターしておけば、初心者でも比較的育てやすい品種でしょう。
ただし病害虫には注意が必要です。発見したらすぐに薬剤や殺虫剤などを使用して、早めの対処を心がけてください。上手に育てて秋に色づく姿を楽しみましょう。