確定申告時に所得税を納付しますが、一定の条件を満たす場合は「予定納税」として確定申告の時期以前に所得税の一部を納めなくてはいけません。どのような方が予定納税を納めることになるのか、また、納める時期や税額の計算方法について解説します。
予定納税を怠ると延滞税が発生することもあるので、条件に該当する場合は必ず期限内に納めましょう。
この記事の監修税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
所得税の予定納税とは
確定申告で前年の所得を申告する場合は、所得税の納付は原則として確定申告期間内に行ないます。一年分の所得税となるとかなり高額になることもあり、場合によっては、期限内に全額を用意することが難しいケースもあるでしょう。しかし、「予定納税」の制度が適用される場合にはまとめて所得税を納付する必要がないため、負担も軽減されます。
所得税の予定納税とは
所得税の予定納税とは、前年分の所得を基に計算した所得税額(復興特別所得税額も含む)の一部をその年に納付することです。ただし、すべての方が予定納税の対象になるわけではありません。前年の所得や所得税額などから計算された「予定納税基準額」が15万円以上の場合のみ予定納税を行ないます。
確定申告は「前年の所得」を申告するため、その際に支払う所得税も正確には前年の分です。そのため、前年の所得が多いと確定申告時に納める所得税額も多くなります。その年の1月、2月の所得が少ない場合には、確定申告時にまとめて所得税を納めることが難しくなることもあるでしょう。
しかし、予定納税で所得税の一部をすでに納めているのなら、確定申告時は残額だけを納付すればよくなります。本来の納付期間に負担なく所得税額を納めるためにも、予定納税は役立つ制度と言えるでしょう。
予定納税の対象となる所得は?
予定納税の対象となるのは、5月15日の時点で確定している前年分の所得金額や税額などを基に計算した予定納税基準額が15万円以上の場合のみです。予定納税基準額は以下の計算式で求めます。
なお、「前年分の総所得金額」には、恒常的に発生すると考えられる所得金額だけが含まれます。例えば不動産所得などのすでに保有している資産から発生する所得は、恒常的に得られる所得と考えられるでしょう。また、農業所得も一年限りの所得となる可能性は少ないと判断できます。
しかし、譲渡所得や一時所得、雑所得に関しては、所得がその年限りとなることが多いため、「前年分の総所得金額」には含めません。これらの所得はなかったものとみなして前年分の総所得金額を求め、予定納税基準額を計算します。
譲渡所得や一時所得などが存在しない場合は、基本的に前年度と同じ所得税額がそのまま予定納税基準額になると考えておきましょう。
給与所得者が予定納税の対象となる場合
給与所得者は給与から所得税が源泉徴収されているため、基本的には予定納税の必要がありません。しかし、前年に不動産所得や農業所得などがあり、5月15日の時点で確定している前年分の所得金額や税額などを基に計算した予定納税基準額が15万円以上あると計算される場合には予定納税を行ないます。
ただし、給与以外に収入がない方であっても、給与が2,000万円を超える場合は別です。給与が2,000万円超の方は原則として年末調整を行なわないので、各自が確定申告をし、前年分の所得税額を納めることとなります。予定納税基準額も15万円以上になると考えられるため、予定納税対象者となるでしょう。
予定納税額と納付期限
「給与所得者以外の方」と「給与所得者で給与外所得を確定申告する方」、また「給与所得が2,000万円を超える方」のうち、予定納税基準額が15万円以上の方は予定納税を行ないます。予定納税対象者は、予定納税時期に予定納税額を納付しないと延滞税が発生することがあるため注意が必要です。予定納税額の計算方法と納付時期について見ていきましょう。
予定納付額の計算方法
予定納税は年に2回あり、1期分の予定納税額は予定納税基準額の1/3です。そのため、予定納税基準額が分かれば、予定納税額も計算することができます。
以下の3つの条件すべてに該当かつ前年分の申告納税額が15万円以上の場合、予定納税基準額は前年分の申告納税額と同額です。
- 前年の所得金額に、山林所得や退職所得などの分離課税所得(※)や、譲渡所得、一時所得、雑所得、平均課税を受けた臨時所得が含まれていないこと
- 前年の所得に外国税額控除が適用されていないこと
- 前年分の所得税に災害減免法が適用されていないこと
(※)株式などによる配当所得は分離課税対象の所得ですが、前年分の所得金額に含まれている場合でも、前年分の申告納税額は予定納税基準額と同額になります。
ただし1~3に該当せず、前年分の課税総所得金額と分離課税の上場株式等にかかる課税配当所得にかかる所得税額から源泉徴収税額を控除し、計算した金額と当該金額の復興所得税額の合計額が15万円を超える場合は、予定納税が必要です。
予定納税を納付する時期
予定納税の第1期は7月1日~7月31日で、第2期は11月1日~30日です。それぞれ予定納税額の1/3を納めましょう。
予定納税の納付方法
予定納税はさまざまな方法で納付することができます。定められた期限内に納付する場合でも、納付方法によっては手数料が発生したり特定の場所に出向いたりすることもあるので注意が必要です。予定納税に利用できる主な5つの方法や、それぞれの方法について手数料の有無や納付場所を解説します。
直接納付
「直接納付」とは、予定納税の納付書を使って、納税額に相当する現金を直接納めることです。管轄の税務署の窓口だけでなく、金融機関の窓口でも直接納付が可能なので、行きやすい場所で納めましょう。
なお、納付書は管轄の税務署で受け取ることが可能です。金融機関でも納付書を受け取れることがありますが、在庫を切らしている可能性もあるので、事前に税務署で受け取っておくようにしましょう。
直接納付を利用する場合には、手数料は発生しません。また、領収書をその場で受け取ることができます。
振替納税
確定申告で毎年所得税を口座振替によって納付している方は、予定納税も口座振替によって「振替納税」することが可能です。今まで口座振替で所得税を納付していない方も、今後は毎年口座振替で所得税を納付しようと考えているならば、初回のみ銀行口座からの振替手続きをしておきましょう。引き落としを希望する口座の金融機関窓口もしくは税務署に口座振替依頼書を提出すれば、2回目以降は自動的に予定納税分が引き落とされます。
なお、振替納税は手数料不要で利用できます。ただし、領収書を受け取ることはできないため、領収書が必要な方は直接納付などを利用してください。
電子納税(ダイレクト納付)
「電子納税(ダイレクト納付)」は「振替納税」と同じく口座振替を利用した納税方法で、初回のみ税務署で手続きすれば2回目以降はオンラインで予定納税を納付することが可能です。ただし、振替納税では最初の手続きとして口座振替依頼書を提出しますが、電子納税は最初に「e-Taxの利用開始手続き」を行なう点が異なります。以下の手順で電子納税を実施しましょう。
- 管轄の税務署かオンラインで「ダイレクト納付利用届出書」の提出を行ない、e-Taxの利用開始手続きをする
- 税務署もしくはe-Taxでダイレクト納付の利用口座の登録手続きをする
- e-Taxで納税額を申請する
電子納税は手数料不要で利用できます。ただし、領収書は発行なされないため、領収書が必要な場合は直接納付などを利用しましょう。
クレジットカードでの納付
予定納税を「クレジットカード納付」することもできます。以下の手順でクレジットカード納付の手続きをしてください。ただし、予定納税額が1,000万円以上もしくはクレジットカードの利用限度額を超える場合は利用できません。
- 「国税クレジットカードお支払サイト」をパソコンやスマートフォン、タブレットなどで開く
- 納付者の氏名や住所、管轄の税務署を登録する
- 納付する税金の種類や金額を入力する
- 納付に用いるクレジットカード情報を登録する
- 入力内容を確認したうえで、「納付手続完了」ボタンをクリックする
クレジットカード納付を利用すると、納付額に応じた決裁手数料が発生します。また、領収書は発行なされないので、必要に応じて納付手続完了ページを印刷しておきましょう。
コンビニエンスストアでの納付
税務署からバーコードがついた予定納税の納付書が送付された場合には、「コンビニ納付」を利用できます。税務署から送付されていない場合や納付書を紛失した場合には、税務署に出向いてバーコード付き納付書の交付を受けることでコンビニ納付を利用可能です。なお、バーコード付きの納付書はほとんどすべてのコンビニ窓口でご利用いただけます。
バーコード付きの納付書がない場合は、国税庁のホームページから予定納税用のQRコードを作成・出力し、LoppiもしくはFamiポートが設置されたコンビニで納付が可能です。Loppiはローソンやミニストップ、Famiポートはファミリーマートに設置されています。
コンビニ納付は手数料不要です。領収書は発行なされませんが、振込金受領証は受け取れますので保管しておきましょう。
ただし、コンビニ納付を利用できるのは、納付額が30万円以下の場合のみです。予定納税額が30万円を超えるときは、他の方法で納付しましょう。
予定納税を納め忘れた場合の延滞税
予定納税は第1期分に関しては7月1日~7月31日、第2期分に関しては11月1日~11月30日の期間中に納付しなくてはなりません。納付期間中に予定納税を納め忘れた場合や、口座残高不足などの理由により納付が完了していない場合には延滞税が発生します。延滞税は日割りで計算され、延滞期間が長引くほど延滞税額も高くなるのでご注意ください。
延滞が2か月未満の場合
延滞期間が2か月未満の場合には、年2.5%(※1)の税率で延滞税が発生します。例えば納付予定の予定納税額が50,000円で納税期間を30日超えた場合の延滞税は次のとおりです。
50,000円×30日÷365日×2.5%=102.73…=102円(※2)
(※1)税率は毎年変動あり
(※2)1円未満の端数は切り捨て
なお、延滞税額が1,000円未満と計算される場合は、実際には納付の必要はありません。そのため、上記のケースでは実際の延滞税額は0円となります。
延滞税を納付する際には、延滞税の計算の元となる本税(この場合は予定納税)も同時に納付しなくてはいけません。金融機関の窓口か管轄の税務署で納付手続きをしましょう。
延滞が2か月以上の場合
延滞期間が2か月以上の場合には、最初の2か月分に関しては年2.6%の税率で延滞税を計算し、2か月を超えた部分に関しては年8.8%(※1)の税率で延滞税を計算します。例えば納付予定の予定納税額が50,000円で納税期間を200日超えた場合の延滞税は、1年を365日とすると以下のように計算できるでしょう。
最初の2か月分の延滞税:50,000円×60日÷365日×2.5%=204.47…=204円(※2)…A
2か月を超えた日数分の延滞税:50,000円×(200日-60日)÷365日×8.8%=1,687.67…=1,687円(※2)…B
延滞税の合計額:A+B=1,891円
(※1)税率は毎年変動あり
(※2)1円未満の端数は切り捨て
延滞が2か月未満のときと同様、延滞税額が1,000円未満の場合は納付不要です。
予定納税が支払えない場合の減額申請
予定納税額が前年度より少ないと見積もることができる場合には、予定納税の減額申請を行なえることがあります。また、災害によって納税が難しいと考えられる場合にも、予定納税の減額申請を行なうことが可能です。具体的にどのようなケースで予定納税の減額申請が可能なのか、また、いつまでに減額申請を行なえるのかについて見ていきましょう。
減額申請の対象
廃業や災害、営業不振などの事情で昨年よりも著しく収入が減ったときには、予定納税の減額申請を行なえることがあります。
予定納税を行なう年の6月30日時点で、その年の所得税と復興特別所得税の合計額が予定納税基準額よりも少ないと見積もることができる場合には、その年の予定納税の減額申請を行なうことが可能です。また、10月31日の時点で、その年の所得税と復興特別所得税の合計額が予定納税基準額よりも少ないと見積もれる場合には、第2期分の予定納税の減額申請を行なえます。
7月1日以降に起こった災害による損失があり、なおかつその年の所得税と復興特別所得税の合計額が予定納税基準額よりも少ないと見積もった場合には、第1期分あるいは第2期分の予定納税の減額申請を行なうことが可能です。
減額申請の申請期限
どの期間分の予定納税を減額するかによって申請期限が異なります。必ず期限内に管轄の税務署で所定の手続きを行なうようにしましょう。なお、期限日が土日あるいは祝日にあたるときは、その次の平日が期限日となります。
- 第1期分と第2期分の予定納税を減額する場合:7月1日~7月15日
- 7月1日以降に災害に逢い、第1期分あるいは第2期分の予定納税を減額する場合:災害に逢ってから2か月以内
- 第2期分の予定納税を減額する場合:11月1日~11月15日
減額申請の手続き方法
予定納税の減額申請は、管轄の税務署で手続きを行ないます。「予定納税の減額申請書」を管轄の税務署長に提出し、承認された場合に減額が可能です。
なお、予定納税の減額申請書は、国税庁のホームページからダウンロードして印刷できます。税務署が遠い場合や忙しい場合には、自宅などで減額申請書を作成し、管轄の税務署長宛に送付しましょう。
予定納税額と実際の納税額に差があった時の手続き
業績不振や廃業、休業などの理由により、実際の納税額が前年よりも減ることもあるでしょう。また、反対に業績向上により、実際の納税額が前年より増えることもあります。新たに配偶者控除や扶養控除などが適用されたり控除額が変わったりすることもあるかもしれません。
上記のように、予定納税額と実際の納税額に差がある場合の手続きについて見ていきましょう。
実際の納税額より予定納税額が少なかった場合
予定納税額が実際の納税額よりも少ない場合には、特に手続きをする必要はありません。所得税額と予定納税として納付した合計額の差額を、確定申告の際に納付しましょう。
実際の納税額より予定納税額が多かった場合
予定納税額が実際の納税額よりも多い場合には、還付申告を行なうことで払いすぎた税金を取り戻せます。
還付申告とは
還付申告とは払い過ぎた税金の還付を受けるための手続きです。翌年の確定申告期間内に行ないますが、翌年の1月1日以降なら2月15日以前に申請できます。土日と祝日を除く開庁日に管轄の税務署で所定の手続きを行ないましょう。
還付申告の期限
還付申告は対象となる所得税が発生した年の翌年に行ないますが、還付に関しては過去5年間にさかのぼっての申告も可能です。例えば令和3年には平成28年分までの還付申告ができます。
還付を受けるために必要な手続き
還付申告は、確定申告書で行ないます。確定申告書は税務署で受け取ることもできますが、国税庁のホームページからもダウンロードして印刷できますので、利用しやすい方法で入手しましょう。
確定申告書に必要事項を記入し、必要書類を添付して管轄の税務署に提出・送付すれば還付申告手続きは完了です。後日、過払い分が計算されて払い過ぎた所得税額が、指定した口座へ還付されます。
還付加算金とは
納付期限を過ぎて税金を納めた場合は、延滞した日数分の延滞税が発生します。反対に、納税額が実際の納税額よりも多い場合には、還付額に対する「還付加算金」を、納税した日(※1)の翌日から還付額が決定するまでの日数分受け取ることが可能です。
還付加算金は年7.3%か特例基準割合のどちらか低いほうが適用されます。特例基準割合とは、延滞金や還付加算金の算定などに適用される一定割合です。毎年変動しますが、国税庁ホームページでその年の割合を調べられます。基本的には年7.3%よりも低いため、還付加算金は特例基準割合から求めることが可能です。
例えば確定申告期間の終了日が3月15日で、予定納税として300,000円支払い、実際の所得税額が50,000円、その年の特例基準割合が年2.5%だったとしましょう。所得税の還付額が250,000円であることが5月10日に決定した場合は、以下のように還付加算金は900円と計算することができます。
250,000円(※2)×2.5%×56日÷365日=958.90…=900円(※3)
(※1)納付期限よりも納税した日が早い場合は納付期限の翌日から還付額が決定するまでの日数分の還付加算金が発生
(※2)還付額は10,000円未満を切り捨て
(※3)還付加算金は100円未満を切り捨て
なお、還付加算金が1,000円未満と計算される場合は、実際には還付加算はありません。
納税準備預金を活用しよう
前年度よりも所得が大幅に増えた場合には、確定申告時に多額の所得税を納める必要があります。一括納付が難しいときは猶予制度もありますが、災害や盗難、納税者の病気・負傷などの特定の条件を満たさなくてはいけないため、必ずしも猶予を受けられるとは限りません。万が一の場合に備えて「納税準備預金」の活用を検討してみましょう。
納税準備預金とは
納税準備預金とは、納税用の資金を準備するための預金のことです。金利が通常の普通預金よりも高く、なおかつ利息が非課税となるため、効率よく納税用の資金を用意できます。ただし、原則として納税以外の目的での引き出しは、災害やそのほか止む得ない事由などが発生した以外では利用できません。万が一納税以外のために引き出した場合は利息は非課税ではなくなります。
納税準備預金を利用するには
納税準備預金は、納税準備預金に対応している金融機関ならどこでも利用することが可能です。複数の納税準備預金をすることも可能ですが、納税以外の目的で引き出す場合には非課税が適用されないことにご注意ください。
また、納税準備預金は、自動振替による納税に対応していることが一般的です。口座振替で納税をする方は、振替先の金融機関で納税準備預金をすると便利でしょう。
監修税理士のコメント
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
まとめ
所得税を予定納税することで、確定申告時に所得税をまとめて納める必要がなくなります。所得税が高額な場合には、負担が大きく軽減されるでしょう。また、金融機関の納税準備預金を活用すれば、納税用の資金を効率よく用意することができます。所得税を口座振替で納付している場合は、振替先の金融機関で納税準備預金について尋ねてみましょう。
ミツモアで税理士に見積もり依頼をしよう
ミツモアでは、あなたにぴったりのプロを見つけるサービスを提供しています。
ミツモアで簡単な質問に答えて見積もり依頼
ミツモアでは簡単な質問に回答するだけで自分にピッタリの税理士が探せます。
最大5件の無料見積もりの中から、あなただけの税理士を見つけましょう!
チャットで見積内容の相談ができる
やりとりはチャットで簡単。空いた時間に税理士と直接内容の確認ができます!
顧問税理士をお探しの際は、ぜひミツモアをご活用ください。
監修税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通