個人事業主として独立すると、働き方や税金、社会保険など、さまざまな点で会社員との違いが生じます。起業してから慌てないためにも、個人事業主のメリットとデメリットの両方を理解しておくことが大切です。
この記事では、会社員と比較したときの個人事業主のメリット・デメリットや、個人事業主になるための手続き、個人事業主が法人化を検討するときのポイントを解説します。
この記事を監修した税理士
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台
会社員と比較した個人事業主のメリット
個人事業主は会社員のように就業時間や場所を企業から指定されることはなく、定年制度によって特定の年齢までしか仕事ができないということもありません。働く時間や場所、年齢を気にせず自由に働けるのが個人事業主のメリットであり魅力です。
また青色申告特別控除を受けられたり、赤字を繰り越したりできるなど、税金面でもメリットがあります。
働く時間や場所に縛られず自由に働ける
会社員の場合は企業から決められた時間や場所で働かなければいけませんが、個人事業主は自分で自由に決めることができます。職業によって程度の差はありますが、会社員のように通勤に時間を取られたり働く時間や場所に縛られたりすることはありません。
融通が利きやすいため体調が悪い場合には比較的休みやすく、業務時間をうまく調整すれば子育てや介護との両立もしやすい点が個人事業主のメリットです。
仕事を休むとその分だけ収入は減りますが、自己管理をしっかりできてスケジュール調整を上手にできる人であれば、会社員時代よりワークライフバランスを達成しやすくなります。
能力に応じて収入が上がる
日本の企業は年功序列型賃金制度を採用していることが多く、会社員はどんなに仕事を頑張っても賃金がほとんど上がらないことが少なくありません。
一方で個人事業主の場合は仕事をやった分だけ収入が増え、頑張った結果として取引先から評価されれば報酬を上げてもらえる可能性があります。会社員のように社内での年次が上がり給与が増えるのを待つ必要はなく、自分の能力次第で収入を増やせる点がメリットです。
また、会社員は配属された部署の業務が自分に向かず能力を十分に活かせないことがありますが、独立して個人事業主になれば自分で仕事を選べるので能力を活かしやすくなります。
年齢を気にせず働くことができる
企業に勤めると定年までしか働けず、雇用延長制度などが導入されている会社であっても働ける年齢に上限があるのが一般的です。それに対して個人事業主の場合は年齢を気にせず働くことができ、健康で元気なうちはいつまでも仕事を続けられます。
時代の変化とともに少しでも長く働きたいと考える人が増える中、仕事をする上で年齢制限がない点は個人事業主の大きなメリットです。
会社員の場合は、定年退職後に新しい仕事を探すのに苦労したり何を仕事にするか迷ったりすることがありますが、個人事業主であれば今までの仕事を続けられるのでそのような心配はありません。
最大65万円の青色申告特別控除を受けることができる
個人事業主の確定申告の方法には、白色申告と青色申告の2種類があります。このうち青色申告は、一定の要件を満たす人が税務署に申請して承認を受けると利用できる申告方法です。
確定申告を青色申告で行えば最大65万円の「青色申告特別控除」を適用でき、所得額が特別控除額の分だけ下がるため税負担を軽減できます。
青色申告制度を利用するためには、原則として青色申告をする年の3月15日までに手続きが必要です。青色申告については以下の記事で詳しく解説しているので参考にして下さい。
赤字を3年間繰り越したり損益通算をしたりできる
個人事業主が事業を行って損失が出た場合、他の一定の所得区分で生じた利益と相殺できる「損益通算」を適用できます。さらに損益通算をしても損失が残る場合には、青色申告者であれば赤字を最大3年間繰り越すことができ、その年に生じた損失を前年の利益と相殺する損失の繰り戻しも可能です。
会社員の場合は損失の繰り越しや繰り戻しはできず、勤務先から受け取る給料を他の所得で生じた損失と損益通算することができません。個人事業主は開業直後の時期に初期投資などで費用がかかり赤字になることも少なくありませんが、損益通算や損失の繰り越しによって税負担を軽減できる場合があります。
家族への給与を経費にできる
青色申告者が税務署に事前に届出をすると、家族に支払った給与を必要経費に算入できます。対象となる家族は生計を一にする15歳以上の者で、事業に従事できる期間の半分以上の期間に渡って青色申告者が営む事業に専ら従事している配偶者やその他の親族です。
経費として計上できるのはあくまで労務の対価として適正な額までですが、給与額が多ければその分だけ所得税を軽減できます。家族と一緒に事業を行えば、給与として家族に渡した額だけ節税できる点が個人事業主のメリットのひとつです。
家賃や水道光熱費の一部を経費として計上できる
個人事業主が事業で使う店舗や事務所にかかる家賃などの費用は経費として計上できます。また事務所と自宅を兼ねている場合も、家賃や水道光熱費の一部を必要経費に算入できます。
家賃や水道光熱費などの金額を生活費に対応する部分と事業に関連する部分に分けて計算し、事業に関係する費用を経費計上できる「家事按分」と呼ばれる制度です。合理的な基準に基づいて業務遂行上必要な費用を計算できる場合には、その分を経費として計上でき、税負担を軽減することができます。
会社員と比較した個人事業主のデメリット
会社員と比較すると個人事業主には多くのメリットがありますが逆にデメリットもあります。メリットとして紹介したものの中には、見方を変えるとデメリットになり得るものが少なくありません。
会社員から個人事業主になる場合に抱えるリスクや、独立開業するときにかかる費用や手間についてしっかりと理解しておくことが大切です。
収入が不安定
個人事業主は、会社員のように毎月決まった額の給与を受け取れるわけではありません。仕事が十分にある時期もあれば逆に仕事が少ない時期もあり、収入がどうしても不安定になりがちです。
また会社員の場合は収入がマイナスになることはありませんが、個人事業主が事業で赤字を出せば全て自己責任であり、働くほど損失が出て収入がマイナスになることもあります。
もちろん事業が軌道に乗れば収入は安定しますが、事業が軌道に乗るまでに何年もかかることも珍しくありません。その場合には収入が不安定な時期が長く続くことになります。
確定申告が必要になる
会社員の多くは年末調整を通じて納税が完了し、勤務先が代わりに納税手続きを行うので納税者本人が手続きをする必要は基本的にありません。しかし個人事業主は所得税の申告や納税を自分でやらなければならず、所得の生じた年の翌年に原則として確定申告が必要です。
確定申告をするには収入や経費を集計して所得税を計算し、申告書を作成して提出する手間がかかります。起業して個人事業主になったばかりの時期は慣れない確定申告に戸惑うことも多く、事前の準備から申告まで時間がかかることも少なくありません。
帳簿付けが必要になる
会社員と違って個人事業主には、一定の帳簿を作成して法定期間にわたって保存する義務があります。帳簿を作成すれば経営状態やお金の流れを把握しやすくなるなどのメリットはありますが、事業経営に忙しい中で帳簿の作成に時間や手間を取られる点がデメリットです。
保存が義務付けられている帳簿の種類は青色申告と白色申告で異なりますが、どちらの場合でも法定の帳簿を作成・保存しておき、税務調査が入ったときに提示できるようにしておかなければいけません。帳簿を作成していないと青色申告を取り消されるなどの不利益を被る可能性があります。
支払う社会保険料が高くなる
会社員は給与が支払われる際に社会保険料が天引きされますが、社会保険料のうち本人が負担しているのは半分だけで残りの半分は会社が負担しています。それに対して個人事業主の場合は社会保険料の全額を自分で負担しなければいけません。
また配偶者が国民年金の第2号被保険者に該当しない場合、会社員の配偶者は第3号になり保険料がかかりませんが、個人事業主の配偶者は第1号になり保険料がかかります。
個人事業主は社会保険料が高くなることが多く、その一方で会社員のように厚生年金はないため老後の年金額は少なくなりがちです。国民年金だけであれば年間で約78万円しか受け取れません。年金だけで生活するのが難しければ、他の収入源を確保する必要があります。
失業手当の給付を受けられない
会社員が職を失った場合には失業手当を受け取ることができますが、個人事業主の場合は失業手当の給付を受けられません。
失業手当をはじめとした雇用保険は、会社員など事業主と雇用関係にある人のための保険制度であり、雇用保険料を負担していない個人事業主は対象外だからです。
仮に経営が悪化して事業を廃業した場合でも、会社員のように失業手当の給付を受けて生活することはできません。事業がうまく行っていれば問題ありませんが、個人事業主の場合は社会の変化や取引先の都合などで急に経営状況が悪化することもあるので注意が必要です。
個人事業主になるのに必要な届出や手続き
個人が事業を開始して個人事業主になるには、事業開始後の一定期間内に税務署や自治体に届出をする必要があります。
税務面でのメリットを活かすためにも、開業したことを届け出て個人事業主として登録しておくことが大切です。起業して個人事業主になる場合には、必要な手続きを事前に確認した上で漏れなく対応するようにして下さい。
個人事業主になるために必要な届出
個人事業を開始したら開業日から1ヶ月以内に「個人事業の開業届出書」を税務署に提出します。提出先は納税地の税務署で、納税地の税務署とは一般的に住所地を管轄する税務署です。開業届出書の用紙は以下のサイトからダウンロードできます。
また、個人事業主になるためには事業開始等申告書を都道府県税事務所に提出する必要もあります。用紙の名称や書式、提出期限などは自治体によって異なるので、ご自身が事務所を開設する地域の都道府県税事務所に確認するようにして下さい。東京都であれば開業日から15日以内、大阪府であれば2ヶ月以内が手続き期限です。
個人事業主になるための手続き
開業届を作成したら税務署に、事業開始等申告書を作成したら都道府県税事務所に提出します。従業員を雇う場合は「給与支払事務所等の開設届出書」も税務署に提出し、労働基準監督署や公共職業安定所で社会保険関係の手続きも必要です。
また青色申告を選択する場合は青色申告承認申請書を税務署に提出します。申請期限は原則として青色申告をする年の3月15日までです。ただし事業を開始したのが1月16日以降の場合は、開業日から2ヶ月後が手続き期限になります。
法人と比較した個人事業主のメリットとデメリット
法人と比べると個人事業主にはメリットもデメリットもあります。新たに事業を始めるとき、個人事業主のほうが良いのか法人化したほうが良いのかはケースバイケースです。
事業を行う上では個人事業主のメリットとデメリットの両方を押さえることが大切です。
個人事業主のメリット
法人と比較したときの個人事業主のメリットとしては、主に手続きや税金の面で負担が少ないことが挙げられます。
開業手続きが簡単
前述したように、個人事業主になるためには税務署に開業届を、都道府県税事務所に事業開始等申告書を提出すれば良く、開業手続きが簡単でそれほど手間はかかりません。
それに対して法人化する場合は会社設立のための手続きが必要で、定款の作成や認証、登記申請などに時間と手間がかかります。個人事業主であれば届出書の用紙を入手してから作成・提出まで比較的短期間でできる点がメリットです。
開業や廃業に費用がかからない
個人事業主が開業や廃業の手続きをする場合は手続き自体に費用はかかりません。開業や廃業に関する届出を出せば手続きは基本的に終了するので、費用がかからない点が個人事業主のメリットです。
しかし法人の場合は開業するときや廃業するときにある程度の費用がかかります。設立登記にしても解散登記にしても登記費用がかかりますし、司法書士などの専門家に手続きを依頼すれば報酬の支払いも必要です。
所得が少ないうちは税負担が軽い
個人事業主に課される所得税と法人に課される法人税では税率が異なります。所得が少ないうちは所得税の方が税率が低いため、法人化せずに個人事業主として事業を行ったほうが有利です。
新たに事業を始める場合、経営が軌道に乗って所得が増えるまで時間がかかることも少なくありません。開業直後の所得が低い時期を個人事業主として過ごせば税負担を抑えることができ、法人化した場合に課される法人住民税の均等割を納付する必要もなくなります。
会計処理が容易
個人事業主の場合は会計処理が比較的容易で、所得税の申告手続きである確定申告は専門家に依頼せずに自分でやることも充分に可能です。e-Taxを使えば自宅にいながらパソコンで所得税の納税手続きまで終えられます。
しかし法人化すると会計処理が煩雑になり、自分で決算申告をするのは簡単ではありません。公認会計士や税理士に依頼するのが一般的で、専門家に任せることで適切な会計処理ができるものの費用がかかる点がデメリットになります。
個人事業主のデメリット
法人と比較したときの個人事業主の主なデメリットとしては、税制面での優遇が少なく社会的信用度が低いこと、そして無限責任である点が挙げられます。
税制面での優遇が少ない
個人事業主は法人に比べて経費として認められる範囲が狭い点がデメリットです。経費として計上できる費用が少なければ、税率をかける前の金額が上がり税負担が増える場合があります。
また青色申告の申請をして承認を受けると赤字を翌年以降に繰り越せますが、個人事業主の場合は最大でも3年しか繰り越せません。4年以上経過してから利益が出ても過去の損失と相殺することができず、最大で10年繰り越せる法人に比べると税制面で不利になります。
個人事業主は社会的信用度が低い
個人事業主は法人より融資の審査で落ちやすくなり人材確保などで不利になることがあります。融資の審査をする金融機関からすれば個人事業主より法人のほうが信頼できますし、職を探していて採用に応募する人にとっても社会的信用度が高い法人のほうが安心です。
個人事業主とは契約を結ばず取引先を法人のみに限定している企業もあるので、社会的信用度が低い個人事業主は仕事を受注する上でも不利になることが少なくありません。
個人事業主は無限責任
個人事業主は事業で赤字が出た場合でもすべて自分で責任を負わなければいけません。法人化して株式会社や合同会社を設立した場合は自分が出資した範囲内で責任を負う有限責任ですが、個人事業主の場合はすべての責任を経営者が負う無限責任です。
事業に失敗した場合でも借入金の未返済額があれば、個人事業主本人が全責任を背負って返済しなければいけません。責任の範囲という点で個人事業主はリスクが高く、法人と比較したときのデメリットのひとつと言えます。
個人事業主が法人化するメリットとデメリット
個人事業主は法人化したほうが良い場合と法人化せずに個人事業主のまま仕事を続けたほうが良い場合があります。
法人化のメリットやデメリット、法人成りをするかどうかの判断基準は、個人事業主として働くのであれば知っておくべき知識のひとつです。個人事業主が法人化した場合のメリットとデメリット、それぞれについて確認していきましょう。
個人事業主が法人化するメリット
個人事業主が法人化すれば税制面を中心にさまざまなメリットがあります。
経費として認められる範囲が広くなる
法人は個人事業主に比べて経費として認められる範囲が広いため、節税につながります。例えば法人の場合は事業主本人に払う給与を経費として計上できますが、個人事業主ではこのような取扱いはできません。
役員の自宅を法人名義で借りれば家賃の一部を経費として計上できるなど、経費の取扱いで有利な点が多いことが法人化のメリットです。個人事業主では経費計上できず法人化すれば経費計上できる費用が多い場合は、法人化したほうが税負担を軽減できる場合があります。
所得が多くなると税負担が軽くなる
個人事業主にかかる所得税と法人にかかる法人税は税率が異なります。所得が多い場合は基本的に所得税よりも法人税の課税対象にしたほうが税負担が少なく済むため、事業が軌道に乗って所得が増えてきたら法人化したほうが有利です。
ただし所得がいくらよりも多くなったら法人税のほうが有利なのかはケースによって異なり、法人化すべき所得額の基準がいくらかは一概には言えません。
例えば個人と法人では経費計上できる費用の額が変わって所得額に違いが生じることがあり、税率をかけた後の税額がどう変わるかは個別にシミュレーションが必要になります。事業税や住民税も考慮に入れて税負担の比較をしなければいけません。
赤字を最大10年間繰り越すことができる
法人の場合も個人事業主と同じく、青色申告の承認を受ければ赤字を翌年以降に繰り越せます。ただし個人事業主と法人では繰り越せる期間が異なり、個人事業主が最大3年間なのに対して法人は最大10年間繰り越しが可能です。
また大企業の場合は繰り越した赤字のうち控除できる額の上限が決まっていますが、資本金1億円以下の中小企業等であれば控除額の制限はありません。繰り越した赤字を全額控除でき、10年以内に利益が出れば繰越済の損失と相殺することができます。
法人は社会的信用度が高い
法人は個人事業主より社会的信用度が高いため法人化すれば仕事を受注しやすくなり、融資の審査や人材確保のための採用活動で有利に働くことがあります。
例えば銀行に融資の申込みをする場合、十分な収入があるかだけでなく信頼できる融資先かどうかも、審査をする銀行にとっては重要なポイントです。仮に収入額が同じでも、個人事業主では審査に通らず法人は審査に通る場合があります。
また採用に応募してくる人にとっても、個人事業主か法人かの違いは決して小さくありません。単に個人事業主に雇われる場合と違い、社会的信用度が高い法人に勤務すれば本人の社会的ステータスも上がるため、法人化したほうが優秀な人材が集まりやすくなります。
株式会社や合同会社は有限責任
個人事業主が法人化する場合には会社形態を選択する必要がありますが、株式会社や合同会社であれば有限責任になる点がメリットです。仮に会社が倒産しても自分が出資した範囲で支払い義務を負うだけで、それ以上の責任を負うことはありません。
逆に法人化せず個人事業主のままだと、個人事業主本人が全ての責任を負う無限責任になります。法人化しても融資を受ける際に経営者が連帯保証人になれば実質的に無限責任になりますが、そうでなければ法人化したほうが有限責任になりリスク回避の面で有利です。
個人事業主が法人化するデメリット
個人事業主の法人化には、手続きや費用の面からいくつかのデメリットがあります。実際に法人化を検討する場合は、メリットだけでなくデメリットも理解しておかなければいけません。
会社設立の手続きが煩雑
会社を設立するには定款を作成したり登記申請をしたりする必要があり、個人事業主に比べて手続きが煩雑で手間がかかります。必要書類の準備など慣れない手続きを自分でやろうとすると、思いのほか時間がかかり苦労することも少なくありません。
それに比べて個人事業主として事業を開業する場合は、税務署や都道府県に届出を出すだけで良いので手続き自体は比較的簡単です。会社設立の手続きを司法書士などの専門家に依頼すれば自分でやらずに済みますが、その場合は費用がかかることになります。
会社設立には費用がかかる
会社を設立する際には登録免許税がかかり、株式会社であれば最低15万円、合同会社であれば最低6万円の登録免許税の納付が必要です。電子定款を選択すれば定款用の収入印紙代はかかりませんが、電子定款でなければ4万円の収入印紙代がかかります。
個人事業主として開業する場合はほとんど費用がかからないことと比較すると、会社設立にはどうしても費用がかかる点がデメリットです。さらに会社設立の手続きを専門家に依頼した場合には報酬の支払いが必要になり、さらに費用がかかることになります。
社会保険に加入しなければならない
健康保険・厚生年金保険の強制加入の対象になるかどうかは、個人事業主であれば業種や雇用している従業員の数によって変わります。しかし法人の場合は従業員数などに関係なく強制加入になるため、個人事業主が法人化すると加入の手続きをしなければいけません。
健康保険や厚生年金保険の保険料は従業員と会社が半分ずつ折半する仕組みになっています。加入することで会社として保険料を負担しなければならない点がデメリットです。ただし国民健康保険から健康保険に切り替わり、国民年金だけでなく厚生年金に加入できれば給付内容が手厚くなるため、社会保険への加入は法人化によるメリットと捉えることもできます。
会計処理が煩雑
法人化して会社を設立すると会社法や会計基準に即した会社運営・会計処理が求められます。個人事業主の場合は自分で確定申告をして税務処理を終える人も多くいますが、法人化すると会計処理が煩雑になるため、外部に委託することも少なくありません。
公認会計士や税理士に会計監査や決算申告を依頼すればミスなく会計処理を終えられますが、専門家に報酬を支払うことになり費用がどうしてもかかります。煩雑な会計処理を自分でやると個人事業主のときよりも手間と時間がかかり、専門家に依頼する場合は費用負担が増える点がデメリットです。
赤字でも税金を納めなければならない
事業がうまくいかず赤字だった場合、個人事業主であれば所得税や住民税はかかりません。しかし法人の場合は、法人税や法人住民税の所得割はかからないものの、法人住民税の均等割は課されます。
法人住民税の均等割額は都道府県や資本金の額、従業員数などによって異なりますが、少なくとも7万円程度かかるのが一般的です。仮に事業が赤字で手元資金が十分にないとしても、法人化して会社を設立した場合は税金を納める義務が生じます。
個人事業主と法人の違いまとめ
これまでご紹介してきた会社(法人)設立と個人事業主の比較を、表にしてまとめました。会社設立と個人事業主で迷っている方は、参考にしてみてください。
個人事業主 | 会社設立 | |
---|---|---|
責任範囲 | 無限 | 有限 |
設立手続き | 開業届の提出のみ | 法務局での設立登記など |
設立費用 | なし | 20〜30万円程度 |
税務作業 | 簡単(個人でも可能) | 複雑(税理士の助けが必要) |
法人住民税 | なし | 毎年最低約7万円 |
赤字繰越 | 3年 | 10年 |
経費計上出来る範囲 | 狭い | 広い |
資金調達 | 融資審査で不利 | 個人より有利 |
社会保険 | 加入義務なし | 加入義務あり |
従業員雇用 | 難しい | 個人より容易 |
個人事業主が法人化するときの手続き
個人事業主が会社を設立して法人化するためには、以下の4つの手続きが必要です。
|
ここではこの4つの手続きの内容について、それぞれ順番に解説していきます。法人化する際の参考にしてください。
定款作成
会社設立をする場合、最初に行う手続きは定款の作成です。定款には必ず定めなければいけない項目があり、次のように決められてます。
会社の事業目的 | 事業目的に含まれないものは手がけられない。そのため、将来的な展望も見据えた事業目的を設定する必要がある。一般的にはメインの事業目的を大まかに書き、「上記に付随する一切の業務」と記載する。 |
会社の商号 | 会社名を記載する。株式会社を設立する場合は、「株式会社」という文字を入れなければいけない。 |
会社の本店所在地 | 「丁目」「番地」「番」「号」など、正式な住所表記で記載する。東京23区の場合は区まで記載するとよい。 |
会社設立時に出資されるもの(資本金) | 出資総額または出資最低額を記載する。 |
発起人の氏名・住所 | 住所は印鑑証明書に記載されているとおりに記載する。 |
定款は自分で作成したり税理士に頼んだりして作成する以外に、必要な項目を入力するだけで自動的に定款を作成できるサイトも活用できます。
資本金の払込
定款が完成したら、次の順番で資本金の払い込み手続きを行います。
|
現在の会社法では、資本金1円以上で会社設立ができます。ただし実際に1円で会社設立または法人化できるかというと、そうではありません。状況や業種にもよりますが、資本金100万円~1,000万円がおおよその目安です。
登記をする
会社の登記をするためにかならず必要な、次の7つの書類を準備します(状況によっては、これ以外の書類も必要です)。
登記申請書 | 必要事項を記入し、会社実印で契印する。 |
定款 | 最初に作成した定款を1部準備する。 |
登録免許税分の収入印紙 | 登録免許税(資本金額×0.7%、下限15万円)分の収入印紙をA4用紙中央に貼り、会社実印で契印する。 |
取締役の就任承諾書 | 取締役の就任を承諾することを証明する書類。 |
取締役の印鑑証明書 | 取締役の印鑑証明書。 |
資本金の払込証明書類 | 先に作成した、資本金の払込手続きの書類。 |
印鑑届出書 | 法人実印の届け出書類。 |
印鑑届出書以外の書類はホッチキスで綴じておきます。登記書類は紙のほか、DVDなどでも提出可能です。
個人事業主廃業届を提出
会社の登記を行ったら個人事業を廃業しなければいけません。個人事業の廃業届出書など必要に応じて書類を提出します。
個人事業の廃業届出書
個人事業を廃業したら「個人事業の廃業届出書」を税務署に提出します。廃業日から1ヶ月以内に納税地の税務署に提出して下さい。
所得税の青色申告の取りやめ届出書
青色申告の承認を受けていた場合は「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を納税地の税務署に提出します。提出期限は廃業する年の翌年3月15日です。
給与支払事務所等の廃止届出書
従業員などに給与を支払っていた場合は「給与支払事務所等の廃止届出書」を納税地の税務署に提出します。廃業日から1ヶ月以内に納税地の税務署に提出して下さい。
事業廃止届出書
消費税の課税事業者が事業を廃止する場合は「事業廃止届出書」を 納税地の税務署に提出します。提出期限は特に決まっていませんが廃業後すみやかに提出して下さい。
所得税の予定納税の7月(11月)減額申請書
個人事業を廃業することで所得が減り、その年の6月30日の現況や10月31日の現況から判断して予定納税額が多すぎると予想される場合、予定納税の減額申請が可能です。
予定納税のうち第1期分及び第2期分の減額申請をする場合は7月1日から7月15日の間に、第2期分のみ減額申請をする場合は11月1日から11月15日の間に減額申請書を納税地の税務署に提出して下さい。
個人事業主が会社設立するベストタイミング
個人事業主は、どのタイミングで法人化するといいのでしょうか。
一般的には法人の節税効果が個人事業主の節税効果を上回るときと言われます。ここでは、営業利益と売上高からみた法人化のベストタイミングを解説します。
事業利益が800万円を超えたとき
法人の場合、法人税などの税負担は15~23.2%であり、事業利益が増えてもほぼ変わりません。一方で個人事業主の場合、所得税は所得が増えるほど税率が上がります。この累進課税のために最大所得税は45%にもなり、さらに住民税が10%ほど加算されます。
以上のことから、個人事業主の所得税・住民税の合計税率が法人の税率30%弱を上回るタイミングで法人化すると、税率がお得です。個人事業主の事業利益がおおよそ800万円超のあたりが、法人化のタイミングです(所得控除などの条件によって異なる)。
課税される所得金額 | 個人事業主の所得税率 | 法人税率 |
---|---|---|
1,000円~19万9,000円 | 5% | 資本金1億円以下の法人
800万円以下の部分は15% 800万円越えの部分は23.2% 上記以外の普通法人23.2% |
195万円~329万9,000円 | 10% | |
330万~694万9,000円 | 20% | |
695万円~899万9,000円 | 23% | |
900万円~1,799万9,000円 | 33% | |
1,800万円~399万9,000円 | 40% | |
4,000万円~超 | 45% |
売上高が1000万円を超えたとき
消費税の納税義務の有無は、2年前(2事業年度前)の売上高が基準です。売上高が1,000万円を超えると、その年の2年後から消費税の課税事業者になり、納税義務が発生します。
一方で、会社設立から2年間は基準となる期間の売上がないため、消費税は免税されます。そのため、個人事業主の売上高が1,000万円を超えるタイミングで法人化すると、消費税が2年間免除されるのです。
ただし、2年前の売上高が1,000万円以下でも1年前の前半6ヵ月の売上高が1,000万円を超える場合(別途、給与等の支払額による判定も可)、または資本金1,000万円以上で法人化した場合は、消費税が免除されません。
個人事業主になるときや法人化するときは税理士に相談を
個人事業主と会社設立には、それぞれメリットとデメリットがあり、一概にどちらが良いとは言い切れません。事業の内容や手持ち資金などによってどちらを選ぶべきかはケースバイケースです。起業時に迷ったときは、この分野の専門家である税理士に相談するのもおすすめです。
税理士なら経営状況を鑑みて適切なアドバイスをくれる
税理士は税務はもちろん起業関連のプロフェッショナルでもあります。そのため税理士に相談すれば、経営状況などを鑑みて適切かつ専門的なアドバイスをもらえます。
個人事業主を選ぶか法人設立を選ぶかというのは、今後の経営を大きく左右する重要なマターです。この選択を誤らないためにも、税理士に一度コンタクトを取ってみることをおすすめします。
税理士なら確定申告を依頼できる
税理士なら、手間のかかる確定申告の手続きもおまかせできます。個人事業主として事業を始めるにしても、確定申告は様々な細かい作業が必要で、時間がない忙しい個人事業主にはとても大変です。税理士にお願いすればそうした諸々の作業と手続きをすべて代行してもらえます。確定申告のおまかせだけなら手数料もかなり安価で済むでしょう。
監修税理士からのコメント
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この記事の監修税理士
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