ホスピスとは終末期の患者が、穏やかに最期のときを過ごすための施設です。
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家族や本人が余命宣告を受けた際に入居に迷わないよう、ホスピスで受けられるケアの内容や、かかる費用などを具体的に紹介します。
この記事を監修した専門家
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ケアタウン総合研究所 代表
高室 成幸
ホスピスとは?緩和ケアとは異なる?
ホスピスとは余命が短いと分かっている人が、亡くなるまでの間、医師・看護師・介護士などの専門家による各種ケアが受けられる施設です。
「ホスピス」という用語はそもそも、病気などで回復が見込めない、または治療を望まない方を対象に、苦痛を和らげるためのケアを指します。
日本では本来の意味に加えて、ホスピスケアを受けられる施設を「ホスピス」と呼ぶようになりました。そのため「ホスピス」は終末期にともなう苦痛の緩和ケア、またはそのケアを行う施設と覚えておきましょう。
ホスピスケアを受けられる場所は、「緩和ケア病棟」がある病院や、「ホスピスプラン(看とり)」に取り組む介護施設が該当します。
緩和ケアとホスピスは異なる?
病気の苦痛を和らげるケアという点で、緩和ケアとホスピスに明確な違いはありません。ただしホスピスは主に余命宣告をされた終末期の方が対象です。
緩和ケアは終末期にともなう体の痛みだけでなく、心理社会面、スピリチュアルな面にも着目し、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)をめざします。
ホスピスの対象は終末期の苦痛を和らげたい方
ホスピスの入所を希望する人は、終末期の苦痛を緩和して、穏やかに過ごし、人生を終えたいと考える方です。終末期とは現在の医療による回復が見込めず、余命が残り1カ月~3カ月と判断されてから亡くなるまでの期間を言います。
主にはがんなどの悪性腫瘍で余命宣告を受けた方ですが、非がん系(腎不全や心不全などの循環器系疾患,肺炎や慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器系疾患,パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経系疾患など)の患者もいます。
回復の見込みがないことが前提の緩和ケアなので、「入所する本人が、余命について理解していること」がとても大切です。
病院や介護施設との違い
治療や延命が目的ではない
一般的な病院では、患者の症状に応じた治療を行います。ただしホスピスや緩和ケア病棟では、延命に必要な治療や投薬などは行いません。
ただし少しでも苦痛少なく過ごせるように、「鎮静薬の投与」や「人工的な水分・栄養の減量・中止」や「マッサージ」などをする場合はあります。
症状や苦痛を軽減させるための治療を行うことはあっても、病気を治す目的での治療は行わないのが病院と異なる点です。
家族と一緒に過ごせる工夫がされている
ホスピスには、できるだけ家族と一緒に過ごせるように工夫がされている施設が多く存在します。
たとえば一般的な入院病棟とは異なり、家族の面会時間に制限を設けず、一度に大人数が面会できるようにするなどです。
家族と親密な時間を過ごせるように「家族室」や「宿泊施設」を備えている場合もあり、自宅に近い雰囲気でくつろぐことができます。
施設によって対応内容や設備が異なりますが、できる限り入所者の希望が叶うようにさまざまな配慮がされています。
レクリエーションなどの機会を設ける場合も
本人が明るい気持ちで過ごせるようにレクリエーションなどの機会が設けられていたりする場合もあります。
ただし複数名で集団生活を送るわけではないので、一般的な介護施設や有料老人ホームとは異なります。
ホスピスはあくまでも患者個人に対し、身体や精神の苦痛を和らげるケアを行う場所です。
ホスピスで受けられるケアの内容
ホスピスでは医師や看護師だけでなく、ソーシャルワーカー・介護士・栄養士・理学療法士など、さまざまな分野の専門家が必要に応じて入所者のケアをします。
さらにホスピス、緩和ケア病棟を行っている医療法人などの理念によって、受けられるケアの内容も多岐にわたるのが特徴です。
痛みのコントロール
終末期の患者の中には、激しい痛みや苦痛を伴う症状に悩まされる人もいるものです。ホスピスでは患者が少しでも心おだやかに過ごせるケアを行います。
たとえば身体の痛みを軽減させるための、鎮静薬の投与・点滴・呼吸のサポートなどです。こうした「緩和ケア」にも該当する痛みを和らげる治療は、がん患者が余命宣告を受けていない時期から行われる場合もあります。
精神的なサポート
終末期の患者に起こりがちな、毎日の過ごし方への不安や、死への恐怖などに対する、さまざまな精神面のケアも行われます。
できるだけ家族と過ごす時間を増やし、また季節を感じられるイベントやコミュニケーションの場を設けられているのが特徴です。精神的な苦痛を減らし、安心して過ごせる工夫がなされています。
またホスピスによっては「心理療法士」のカウンセリングを受けることも可能です。希望すれば僧侶や牧師など、宗教家によるサポートを受けられる場合もあります。
看取りケア
「看取り」とは人が亡くなるまでのプロセスを見守ることです。看取りケアは、患者が自分らしい最期を迎えるためのケア全般を指します。
看取りケアは、身だしなみを整えたり、食事や排せつの介助を行ったりと、日常生活を不安なく過ごせるようなケアが基本です。
患者は苦痛を和らげてもらいつつ、「人間の尊厳を保った状態」で、最期まで日常生活を送れるようにサポートしてもらえます。
患者と家族の社会的なケア
ホスピスでは社会福祉支援の専門家である「ソーシャルワーカー」による、ケアを受けられます。間もなく亡くなる人には、さまざまな社会的手続きが必要になるケースが少なくありません。
ソーシャルワーカーは患者本人だけでなく、家族からの相談にも乗ってくれます。たとえば医療費や生活費といった経済的な問題がある際に、関連機関への連絡や調整を行うのもソーシャルワーカーの役目です。
また途中で在宅ケアに切り替えることになり、介護士や看護師などのスタッフが必要になったときも、相談に乗ってもらえるでしょう。
ホスピスケアを受けられる「緩和ケア病棟」「ホスピスプラン」の特徴
ホスピスケアはどんな病院でも受けられるわけではありません。どのような施設で受けられるのか、どういった特徴があるのか確認しましょう。
「緩和ケア病棟」がある病院
病院に併設されているホスピスを「緩和ケア病棟」と呼びます。患者本人が自身の身体の状態を理解して、病気の治療よりも苦痛を緩和する治療を優先したいと考えたのであれば、入院できます。
緩和ケア病棟を備えている病院の一般病棟に入院していた場合は、緩和ケア病棟に移るのがスムーズでしょう。ホスピスへ移りたいとき、カルテや患者の情報などが共有されるためです。
同じ敷地内にある病棟に移るだけなので、新たにホスピスを探さずに済むといったメリットもあります。健康保険が適用されることもあり、費用面が心配な人にとっても安心です。
厚生労働省から承認を受けた緩和ケア病棟は、「緩和ケア病棟入院料1」と「緩和ケア病棟入院料2」の2種類があります。
緩和ケア病棟入院料1が適用されるためには、緩和ケアに対し相当な実績があることに加え「平均入院日数が30日未満、かつ入院までの待機日数が14日以内」「転院を除いた退院・死亡退院患者の割合が、15%以上」といった条件を満たすことが必要です。
緩和ケア病棟入院料2は実績が緩和ケア病棟入院料1よりも緩めの基準となっています。
「ホスピスプラン」のある介護施設
ホスピスプランを備えた介護施設に入る方法もあります。近年は介護施設で終末期を迎える人が増えてきたため、需要に応えようと、ホスピスプランを用意する介護施設が増えました。家族の同意のうえ、「看取り介護加算Ⅰ、Ⅱ」が設定できます。
すでに介護施設に入所している場合、その施設が「ホスピスプラン」に取り組んでいるならスムーズに移行できるでしょう。
ホスピスにかかる費用
緩和ケア病棟やホスピスプランのある介護施設に入るには、いくらかかるのでしょうか。ホスピスへの平均的な滞在期間についても解説します。
緩和ケア病棟への入院費は月額10~15万円
緩和ケア病棟として厚生労働省に認められている病院では、入院にかかる費用が定額制です。入院期間が長くなるほど、1カ月あたりの費用が安くなる仕組みになっています。
令和4年度診療報酬改定から算出した、1日当たりの費用は以下の通りです。75歳以上で年収約370万円以下であれば、1割負担となります。
入院期間が30日以内の費用 | 緩和ケア病棟入院料1 | 緩和ケア病棟入院料2 |
---|---|---|
1割負担 | 5,107円/日 | 4,870円/日 |
3割負担 | 15,321円/日 | 14,610円/日 |
ここに毎日の食費(1食100円~400円程度)や差額の費用、個室の場合は個室料金が加算されます。
なお緩和ケア病棟に入院する場合、入院費は高額療養費制度の対象です。平均的な所得の場合は月9万円ほどが限度額のため、その費用を超えた分は、手続きを行えば払い戻しがあります。
3割負担の場合は一時的に月額45万円ほどを払うことになりますが、結果的には月額9万円ほどの入院料で済むでしょう。ただし入院料以外の食費やベッド代は、高額療養費制度の対象ではありません。
食費は1食100円~400円程度、
介護施設の費用は施設により異なる
ホスピスプランに取り組む介護施設の費用は、1カ月あたり15万~30万円の施設利用料と、5万~25万円の医療・介護費がかかるケースが多いでしょう。
介護施設の利用料では居住費、食費、光熱費、雑費、介護サービス利用料がかかります。介護サービス利用料には介護保険が1~3割負担で適用されますが、居住費・管理費・生活費などは、別途用意しなければなりません。居住費や管理費はホテルコストとも呼ばれ、部屋の種類(個室、多床室)やグレードによって異なります。また看取り介護加算などを利用する場合、追加で費用がかかることを覚えておきましょう。
なお一般的な介護施設の場合は入居一時金が0円~数百万円かかりますが、ホスピスプランの利用目的なら入居期間が短いので「入居金不要」あるいは少額の入居一時金とする施設もあります。この場合、要介護認定を受けていることが前提です。
平均滞在期間は1カ月程度
ホスピスに対して、最期を迎えるまで過ごせる施設というイメージを持っている人もいるでしょう。しかし実際には、入院している間に在宅でのホスピスケアができる体制を整え、以降は通院あるいは訪問医療に切り替えて、緩和ケアを継続する場合が多いです。
入院期間が長くなると、医療機関側が受け取れる報酬が少なくなることから、早期退院を促していることも理由に挙げられます。そのため病院に併設されているホスピス、つまり緩和ケア病棟に入院した場合の平均滞在期間は1カ月以内です。
「終末期を最期まで病院で過ごすつもりで身辺整理をしたのに、退院を促されてしまって行くところがない」といったトラブルも起こっているため注意しましょう。
なおホスピスプランのある介護施設の場合、どこまでの看取りケアを契約しているかによって異なります。サービスに応じた費用や入居期間に応じた費用を支払えば対応してもらえるでしょう。
ホスピスの特徴を知り家族で話し合おう
ホスピスは終末期を迎えた患者の苦痛を、できるだけ取り除き、最期まで人間らしい充実した時間を過ごせる施設です。患者と家族が一緒に過ごしやすいように工夫されており、家族も患者のケアに関われます。
施設の種類は緩和ケア病棟がある病院と、ホスピスプランがある介護施設に分けられ、それぞれ必要な費用が異なる点を押さえておきましょう。
ホスピスへの入居にあたっては、かかりつけ医に相談しながら決めるのが大事です。患者本人の希望を聞きつつ、家族でよく話し合いましょう。
葬儀社を探すならミツモアで
ご家族や本人が終活を意識されているのであれば、葬儀についても検討しておくのがおすすめです。ミツモアのアンケート(2022年9月実施)によると、葬儀について生前に相談しておいた方が、内容も予算も満足度が高いという結果が出ています。
ご本人やご家族ともに納得のいく葬儀を上げるためにも、早めに準備すると良いでしょう。
監修者:高室 成幸(ケアタウン総合研究所 代表)
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全国のケアマネジャーから「わかりやすくて元気が湧いてくる講師」として人気。市町村の地域包括支援センターなどでは地域包括ケアシステムをテーマにした講師として活躍。介護施設の施設長・管理職向けの研修も実績も多い。著書・監修書多数。雑誌の介護特集のコメンテーターとしても活躍。
所属
日本ケアマネジメント学会会員
次世代ケアマネジメント研究会 副理事長 など
著書・監修
『子どもに頼らない幸せ介護計画』(WAVE出版)
『新・ケアマネジメントの仕事術』 (中央法規出版)
『身近な人の施設介護を考えるときに読む本』(自由国民社)
『施設ケアプラン記載事例集』(日総研出版)
『介護の「困った」「知りたい」がわかる本』(宝島社)
『ケアマネジャー手帳2023』(中央法規出版)
など著書・監修書多数。
コメント
これからの日本は「多死社会」です。かつては「病院で死ぬ」ことが一般的でした。これからは緩和ケア病棟だけでなく、ホスピスプランに取り組む介護施設や自宅(在宅看とり)を選ぶ時代です。親や配偶者の「死をどこで迎えるか」。そのためには終末期の本人の3つの苦痛(身体、こころ、スピリチュアル)をどう支えるか、が大切な家族のテーマとなります。