「施主(せしゅ)」とは、葬儀費用を負担する人を指す言葉です。喪主が遺族の代表として葬儀の運営や当日の挨拶を行うのに対し、施主は葬儀にかかる金銭面を取り仕切ります。
一般家庭の葬儀の場合、遺族が喪主と施主を兼任して葬儀費用を負担することが多いです。ただし喪主以外の遺族が施主として、葬儀の費用を負担するケースがあります。また故人の立場や生前の職業などによっては、企業が施主となり葬儀費用を負担する場合もあるでしょう。
施主は喪主とともに、葬儀において中心的な役割を担っています。いざという時に困らないためにも、「喪主」と「施主」の具体的な違いや、施主の決め方、施主が葬儀において行うべきことを確認しましょう。
この記事を監修した専門家
葬送儀礼マナー普及協会 代表理事
岩田昌幸
「施主」と「喪主」は何が違う?
遺族の代表である「喪主」は、多くの人が聞いたことがあるはずです。一方で喪主とともに、決めなければならない役割に「施主」があります。
葬儀での役割分担を徹底するためには、両者の違いをしっかりと理解しておくことが大事です。
【喪主と施主の違いのポイント】
- 「喪主」は遺族の代表者
- 「施主」は葬儀の費用を支払う人(または企業)
- 一般家庭の葬儀の場合、喪主が施主を兼任することが多い
- 喪主と施主が分かれている場合、葬儀の進行は協力して行う
喪主とは
喪主は葬儀全体を取り仕切る役であり、遺族の代表者です。葬儀の責任者として最終的な決定権を持っているので、通常は故人の家の当主や、家長が担当することになります。家長以外でも、血縁関係者が務めることが多いです。
喪主は葬儀社やお寺の僧侶と打ち合わせをして運営を取り仕切り、葬儀当日には遺族を代表して参列者に挨拶をします。
施主が分かれている場合は、協力し合いながら葬儀の打ち合わせや当日の進行を行う形です。
施主とは
施主は葬儀費用を負担し、金銭的な面を取り仕切るのが主な役割です。全体の予算を決めた上で、葬儀の内容や全体の進行を決める権限を持っています。
たとえば企業の経営者や重役などが亡くなったときに行う「社葬」では、喪主は故人の遺族が務めますが、企業の担当者が組織を代表して施主を担うというケースは多いです。
喪主は遺族の代表として喪に服す必要があるため、かつては施主が葬儀の進行を取り仕切る場合もありました。現在でもその名残が残っている地域もあります。
なお遺族に葬儀費用を負担する余裕がない場合、故人の友人や知人が施主となる場合も珍しくありません。
施主と喪主を同じ人が兼ねる場合が多い
施主と喪主はもともと役割が違いますが、両者を同じ人が兼ねるケースが多いので、同じものだと考えている人も少なくありません。
実際に通常の家庭のお葬式では、喪主が施主を兼ねて、費用を出すところから葬式の打ち合わせ、進行、挨拶回りまで担うのが一般的です。
また喪主以外の遺族が費用を分担して出していても、施主を設けないことも多いでしょう。
施主はどう決めるのがよい?
喪主は一般に、遺言で決まった人か、配偶者、それ以外は長男、次男、長女というように血縁の近い順から務めるのが一般的です。
一方施主はどのように決めるべきなのでしょうか。
費用負担できるのであれば誰でもよい
施主を担う人を決めるとき、特別なルールや条件はありません。葬儀費用を負担できるのであれば、基本的に誰が担っても問題ないです。必ずしも遺族が担う必要もありません。
ただし慣例的に、故人との関係が深い者が担うケースが多いでしょう。
なお地域によっては、慣習で施主になるべき立場が決まっている可能性もあるので、注意が必要です。葬儀を執り行った経験がある人に、確認してみるとよいでしょう。
社葬の場合は企業が施主を担う
企業の創業者や経営者、役員などが亡くなった場合や、社員が殉職した場合などに、「社葬」が行われるケースがあります。
社葬の場合、施主は企業、喪主は遺族の代表が務めるのが一般的です。施主である企業の取締役会で、葬儀の運営を担う代表者の「葬儀委員長」が選出されます。葬儀委員長は会社のトップが担うことが多いでしょう。
施主の具体的な仕事
施主と喪主が違う場合、施主は主に金銭面を取りまとめる役割を担います。葬儀当日は、施主が喪主のサポートに回るケースが多いでしょう。
施主が担うべき仕事について、一例を紹介します。合わせて喪主の仕事についても確認しておきましょう。
葬儀費用の支払い
施主の大きな役割の1つが、葬儀費用の負担です。葬儀全体にかかる費用を把握して、支払えるように用意しておきましょう。葬儀費用を葬儀社へ支払うタイミングは、葬儀後1週間以内であることが多いです。
なお葬儀全体の取りまとめは喪主の役割のため、葬儀社との打ち合わせは喪主が行います。
ただし施主が支払いを担当する以上、葬儀の打ち合わせに施主も参加することもあるでしょう。
お布施の準備
葬儀当日に渡すお布施も用意しなければいけません。
お布施は法事を担当した僧侶に対して包むもので、日本消費者協会のデータによると40万円前後です。ただし地域や葬儀費用によって異なります。
地元で葬儀を執り行った経験のある身内がいれば、目安を聞いてみるとよいでしょう。葬儀社に相談するのもおすすめです。寺院に直接聞いても問題ありません。
僧侶にお布施を渡すタイミングも地域やお寺によって異なるので、事前によく確認しておきましょう。
香典の管理と香典返しの対応
お通夜や葬儀・告別式で受け取った香典の管理も、施主が担当することがあります。なお弔問客から香典を受け取ったり、返礼品を渡したりする役割は受付係が担います。受付係は主に、遠縁の親戚や知人、友人などに依頼することが多いです。日頃から付き合いのある隣人や、近所の知り合いが担当してくれる場合もあります。
受付係から喪主の代わりに香典を受け取ったら、香典の費用や芳名帳をしっかり管理しましょう。葬儀後には香典と芳名帳を確認の上、お礼状とともに香典返しを送ります。
香典返しは受け取った香典に対するお礼です。葬儀を無事に終えた旨を伝えるための、贈り物の意味も含まれています。本来は四十九日法要が過ぎてから贈るものとされていますが、現在は当日に即日返しとして渡すことも多くなりました。
受けた香典の1/3~1/2程度の金額が、香典返しの目安とされています。贈るのは後に残らない品物にするのが慣例で、タオルや菓子類などが一般的です。掛け紙や表書きのマナーなどもあるので、事前に確認しておきましょう。
葬儀全体の取りまとめや挨拶は「喪主」が行う
金銭面のまとめ役を施主が担うため、喪主は葬儀全体の運営や、当日の挨拶に集中することが可能です。
葬儀の前には葬儀会社と打ち合わせて、葬儀の日時や場所、内容、予算・費用などを決めていきます。関係者への訃報連絡や寺院とのやり取り、供花の順番決めなども、喪主の重要な仕事の1つです。
当日は、葬儀が始まるまでは、受付で個別に挨拶をします。お悔やみの言葉を受けることも多いので、丁寧にお礼を伝えましょう。
喪主にとって最も重要な仕事は、葬儀中に参列してくれた人に対する全体挨拶です。一般的にお通夜の閉式時や、告別式の開式・閉式時に、故人が生前にお世話になったことに対する感謝や、参列に対する感謝を述べます。
挨拶文は事前に考えておく必要がありますが、葬儀社がどういった文言にすべきかアドバイスしてくれたり、例文を出してくれたりする場合も多いので、うまく活用するとよいでしょう。
施主の服装マナー
葬儀中は施主・喪主にかかわらず喪服が基本です。ただしお通夜の前までは、平服でも問題ないとされています。
喪服は男性の場合、黒のスーツに加えて靴やネクタイなど、白のシャツ以外は他者から見える部分を必ず黒色に統一します。女性の場合も同様で、身につけるものは黒で統一しましょう。アクセサリーも派手なものは避けるのがマナーです。
人によっては喪服を所有していない場合もあるでしょう。その場合は家族や友人などから借りるか、レンタルサービスを利用するのがおすすめです。スーツだけでなく靴やネクタイなども、まとめて借りられます。
施主と喪主の役割を理解しよう
葬儀における施主とは、主に葬儀費用を負担する人を指します。喪主と同様、葬儀の中心を担う役割です。一般的には喪主と施主を兼任する場合が多いため、どちらの仕事も覚えておくと役立つでしょう。
ただし言葉の定義としては役割が明確に異なります。実際に施主と喪主を分ける場合は、事前に担うべき役割をよく確認しておきましょう。
施主や喪主の役割を理解したうえでスムーズに葬儀を執り行うには、不明点を質問しやすい葬儀社に葬儀を依頼することも重要です。
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監修者:岩田昌幸
葬送儀礼マナー普及協会 代表理事
葬送儀礼(臨終から葬儀、お墓、先祖供養等)が多様化している中で、「なぜそのようにふるまうのか」といった本来の意味を理解し、そうした考え方や習慣を身につけられるよう「葬送儀礼マナー検定」を実施しています。メディア監修多数、終活・葬儀・お墓関連セミナーも実施しています。
コメント
施主はもともと仏教用語で、施しを行う者という意味でした。葬儀の際は喪主と施主を兼ねるケースが多いのですが、例えば夫の葬儀で妻が喪主、子供が施主というケースもよくみられます。