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湯灌とは故人の身体と魂を浄める儀式。行う意味や基本マナー、流れを解説

最終更新日: 2022年12月05日

湯灌は故人の身体に水やお湯を注ぎかける古くからの行いごとです。現代では、ご遺体の洗浄や身支度を整えるなどをして、故人をきれいにします。

「湯灌の儀」と呼ばれる一連の流れは、故人を送り出す上で重要な儀式です。

湯灌の儀はどういった流れで行われ、何に気を付けると良いのでしょうか。湯灌の儀の基本知識や、立ち会う際のマナー、似ている儀式との相違点について解説します。

この記事を監修した専門家

日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
二村 祐輔

湯灌とは【故人の身体と魂を浄める儀式】

湯灌のイメージイラスト

湯灌とは故人の遺体にお湯を注ぎかけて、清浄なものにする行いごとです。現世でのケガレや苦悩を洗い淨め、来世にはまた清らかに生まれ変われるように手を差し伸べます。

生まれたての赤ちゃんが産湯に浸かるのと似た儀式であることからも、送る側の願いが感じられるでしょう。宗教的な意義も含む一連の流れは、「湯灌の儀」と呼ばれます。

また湯灌には伝統的な湯灌と現代的な湯灌がある点を覚えておきましょう現在では湯灌のための簡易的な浴槽設備をしつらえて、シャワーでご遺体を洗浄するのが一般的です。簡易的にはアルコール綿で遺体を拭くだけで、設備を使用しない「清拭」だけのこともあります。

湯灌の儀の費用相場

喪服の女性

湯灌の儀は葬儀の基本プランに含まれないケースが一般的です。湯灌の儀を執り行うには、追加料金を別途支払う必要があります。基本プランに含まれるのか否か、事前に確認することが大切です。

湯灌の儀にかかる費用の相場は、設備と専門の人材をお願いする場合は、10万円前後かかります。簡単な「清拭」や「死化粧」だけの場合は5万円前後です

湯灌の儀を行う場所とタイミング

合掌をする葬儀スタッフ

湯灌の儀は葬儀場あるいは故人の自宅で行います。葬儀社に依頼すれば、専門の湯灌師が儀式を進めてくれるでしょう。ただし湯灌を自宅で行うためには、移動式の簡易浴槽など持ち込む必要があり、費用がかさむこともあります。

湯灌の儀を行うタイミングは、納棺の前です湯灌の儀には決まった手順があるため、時間をみておく必要があります。準備を始めてから、着付けと化粧まで終えるのにかかる時間は、60~90分です。なお湯灌の儀は、納棺の儀とあわせて行われることもありうます。

湯灌の儀の流れ

湯灌のイメージ画像

湯灌の儀は逆さ水の儀式から始まり、洗体と洗髪、最後に着付けと化粧をします。とくに逆さ水の儀式では、立会人の手伝いが必要です。

湯灌の儀の前の口上

まずは浴槽を葬儀場の一室か自宅に用意し、遺体を運び入れます死後硬直などを考慮して、専門のスタッフが対応するのが一般的です。

儀式の準備ができて立会人がそろったら、湯灌師(あるいは納棺師)が、湯灌の解説をすることもあります。立ち会っている遺族や親族は説明を聞いて、儀式への心構えを整えます。

逆さ水の儀式

口上が終わったら、水温を調節した湯を足元から胸元まで順番にかける「逆さ水の儀式」です。。湯加減を調節するときに普通は水を加えて適温にしますが逆さ水の儀式では、浴槽に水を張り後からお湯を入れます。

逆さ水の儀式は葬送儀礼における逆さごとの一例です。普段とは逆の手順を踏み、生者と死者を区別します。また死後の世界は現世の写し鏡のように、全てが反対とされているとの説もあります。

洗体と洗髪

続いて湯灌師が身体や髪を洗浄し、そのあと髭や顔の産毛を剃ったり、爪を整えたりという手当もなされます故人が使っていたシャンプーや、石けんなどを使うことも可能です。

洗体と洗髪が完了したら、遺体に付いた水滴をタオルで拭き取り、髪は軽くドライヤーで乾かします。タオルでの拭き取りは、立会人が手伝う場合もあるでしょう。

着付けと化粧

拭きあげが終わったら死装束などに着せ替えお化粧を施します着付けでは白装束を着せるのが伝統的な慣習ですが、故人が愛着を持っていた服を着せることも可能です。着付けでも立会人の手伝いが求められる場合があります。

化粧は女性だけでなく男性にも施すのが一般的です。死後は時間と共に体温が下がって血色が変化するので、生前の姿に少しでも近づけると安心できます。くしを使って髪の毛をとかし、整髪料を付けて髪型を整える場合もあるでしょう。

湯灌の儀に立ち会う時のマナー

故人を囲む遺族

湯灌の儀に立ち会う際、どういったマナーがあるのでしょうか。立ち会い可能な関係者の範囲と、服装について確認しておきましょう。

通常は遺族だけが立ち会う

湯灌の儀では故人の肌をさらすことになります。実際はタオルの覆いをし、部屋の仕切りをするなどしてなるべく人目に付かないようにしますが、できれば遺族と親族だけが立ち会うのが良いでしょう

遺族や近親者の中で、年少者には無理に立ち会わせないことも大切です。ただし「死」に向き合うという体験も貴重なものであるため、親の判断で慎重に、配慮した対応をしなければなりません。

地域によっては湯灌の儀と納棺の儀を続けて行います。その場合、親族以外の参列者が立ち会うこともあるでしょう。逆に誰も立ち会わずに、湯灌の儀を済ませてもらうことも可能です。

平服または喪服を着用

湯灌の儀における服装の規定はありません。場の意味を考慮してカジュアルすぎる服装は避け、平服(へいふく)で参加すると良いでしょう。

平服とは普段着のことではなく、喪服よりも自由度の高い礼服です。派手な色は避け、落ち着いた色のスーツやワンピースを着用しましょう。

喪服で参加する選択肢も考えられます。湯灌の儀の後にお通夜を執り行う場合は、途中で着替えるのは面倒に感じるでしょう。最初から喪服で参加しておけば、着替える手間が省けます。

「死化粧」「エンバーミング」との違い

棺の中の手入れをする人

湯灌と同じようなご遺体対応に「エンバーミング」があります。それぞれ同じような印象がありますが、全く異なる処置ですので、十分確認をしていたすべきです。また死化粧などの施術も具体的な内容や目的を確認しましょう。

死化粧と湯灌の儀の違い

死化粧は本来「死者らしく」するための、特別な手立てでしたが、現在ではご遺体のアルコール清拭や着替えと併せて、なるべく生前の顔姿になるようにお化粧をし、身なりを整える行いです。最近は「エンゼルメイク」などと呼ばれています。

これに対して湯灌は「灌」の文字が示す通り、水(お湯)を注いで死者生前の因縁を流し去る、本来は仏教的な行いです。清浄にしたうえで死装束(経帷子)を身に着けさせて、「死者を完成」させます。

関連記事:死化粧・エンゼルケアの流れとポイントを解説。気になる費用も

エンバーミングと湯灌の儀の違い

湯灌とエンバーミングは目的や意味が大きく異なります。

エンバーミングは「遺体衛生保全」といわれて、ご遺体の衛生的な保全処置を臨床的に行うものです。エンバーミングで疫学的な防腐処置を行えば、ドライアイスなどでの冷却保存をしなくても、長期間ご遺体の保全ができます。

また感染症などのリスクを減らすことが可能です。宗教的な意味合いは含まず、具体的には血管にカテーテルを挿入して、体内の血液と防腐剤の入れ替えをする医療的な処置が施されます。

一方湯灌は、現世でのケガレやしがらみを洗い流すという、仏教的な意義を含んだ行いです。ただ結果的に、外見をきれいにして整えることは同じと言えます。

湯灌の儀は大切な別れの儀式

棺に花を手向ける人

湯灌の儀では故人のご遺体をきれいに洗い淨め、死者としてその旅立ちを整えます。故人との決別を図る上でも、たいへん重要な伝統的な死者儀礼です。

湯灌の儀は納棺前のタイミングに、葬儀場または自宅で行われます。また平服あるいは喪服で立ち会い、遺族と親族だけが参加できるのが基本です。

湯灌かエンバーミングかによって費用が異なるため、事前に金額を確認しておく必要があるでしょう。また死化粧や着替えなどの処置についてもあらかじめ確認をしておくのがおすすめです。

湯灌の儀やその他の処置を希望する場合は、葬儀社に事前に相談しておきましょう。

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監修者:二村 祐輔

日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
『葬祭カウンセラー』認定・認証団体 主宰
東洋大学 国際観光学科 非常勤講師(葬祭ビジネス論)

著書・監修

  • 『60歳からのエンディングノート入門 私の葬儀・法要・相続』(東京堂出版) 2012/10/25発行
  • 『気持ちが伝わるマイ・エンディングノート』 (池田書店) 2017/9/16発行
  • 『最新版 親の葬儀・法要・相続の安心ガイドブック』(ナツメ社) 2018/8/9発行
  • 『葬祭のはなし』(東京新聞) 2022年現在連載

など多数

コメント
伝統的な「死者儀礼」の意図は、「死」から「死者」にしていくというプロセスを踏襲することで、死の受容をうながしてきた側面があります。「死」には不条理や悲嘆、憤懣、後悔等々、いろいろな戸惑いがあり、受け入れ難いときも多くあります。仏教の「臨終」や「往生」の作法が庶民化したことで、湯灌も死装束も死化粧も「死者らしく」させていく慣習でした。その過程で私たちは少しずつ心を変成していったのかもしれません。