骨上げ(こつあげ)は遺体を火葬した後に残った骨を、遺族などが拾い上げて、骨壺に納めていく儀式です。「収骨/拾骨(しゅうこつ)」と呼ばれることもあります。日本独特の慣習で、海外ではあまり例を見ないでしょう。
骨上げにはルールや決まった流れがありますが、地域によってその内容が異なります。大切な儀式なので、地域のルールに従って行うのが望ましいです。骨上げの由来や一般的な方法を紹介します。
この記事を監修した専門家
葬送儀礼マナー普及協会 代表理事
岩田昌幸
骨上げのやり方
骨上げには決められた手順や方法が存在します。手でつかんで拾い上げるのは、原則的に禁止です。
骨上げの手順は係員が指示を出してくれるので、基本的はその案内に従いましょう。一般的な流れを紹介します。
火葬後、収骨室に移動
火葬が終わると、休憩室などで待っていたご遺族に係員が声をかけてくれます。案内に従って、骨上げを行う収骨室に移動しましょう。
棺を載せていた台の上に、遺体を焼いた後の骨が残ります。遺族などがその台を囲み、横に係員が付き添って骨上げの開始です。
箸を使って拾い上げる
骨上げは2人1組となって、故人と血縁が近い順から実施するのが基本です。
ペアになった2人が1つの骨を箸で持ち上げ、順番に骨壺に納めていきます。1人が骨を拾い上げて、もう1人に箸で渡す方法で進める場合もあるので、これも係員の指示に従うと良いです。
骨を拾う順番も決まってはいるものの、係員の誘導に従って進めれば問題ありません。一般的には足の骨から、頭の方に向かって拾っていきます。
最後に喉仏を拾う
骨上げの最後に喪主または故人に近い親族が、「喉仏」を拾います。喉仏とは「第二けい椎」と呼ばれる、背骨を構成する骨の1つです。成人男性の喉に見られる、突起部分の骨とは異なるもので、女性の体にもあります。
背骨の一部に「仏」という名称が付けられているのは、座禅を組む仏様に似た形状のためです。故人の体内に宿る仏様であると考えられ、大切に扱われるようになりました。
遺体の状態や火葬の状況によって、喉仏がそのままの形できれいに残っている場合もあれば、形が崩れてしまいばらばらになっている場合もあります。
喉仏がきれいに残っていると「生前に善い行いをした証」とする言い伝えもありますが、火葬の状態によって変わりますので、あまり気にする必要はないでしょう。
埋葬許可証を骨壺に入れる
拾い上げた骨を骨壺に納め終えたら、係員が骨壺を白木の箱に入れます。そこに丁寧に綿袋(きんたい)をかけて、持ち運びがしやすい形にしてくれるでしょう。
骨箱の中には「火葬許可証」も一緒に納めます。遺体を火葬するにあたり火葬場に提出する「火葬許可証」に、火葬執行済の印が押された書類です。納骨時に必要となる書類であるため、忘れないように入れてもらいましょう。
なおこの書類を「埋葬許可証」と称することもありますが、正確には法律では埋葬とは遺体を土中に葬ること、つまり土葬を意味するので正しい表現ではありません。
通常は係員が骨箱に入れてくれるものですが、念のため一緒に確認することが大切です。
骨上げのマナー
骨上げを行う際には決められたマナーがあります。地域によって異なりますが、一般的なマナーを把握しておくとよいでしょう。
拾い上げる人の順番
骨上げに参加する人は一般的に喪主と親族です。そのほかに親しかった友人や知人が、参加する場合もあるでしょう。一般的には男女が1組になり、2名体制で箸で拾い上げ骨壺に収めます。
また骨を拾い上げる人の順番も決められているでしょう。まずは喪主や故人と近しい血縁関係にある人から、骨を拾い上げます。それ以降は故人との関係の深さに従い、進めていくのが一般的です。
最後に喉仏を拾う際には、喪主を含む2名で行います。ペアとなる方は、喪主と近い親族か、故人と縁の深い方です。基本的に立つ位置や拾う人の順番については、係員から指示があるため、それに従いましょう。
拾う骨の順番
拾い上げる骨の順番にも、決められたルールがあります。自分の近くにある骨を拾えばよいわけではありません。
足の骨からスタートし、腕・腰・背骨・肋骨・歯・頭蓋骨と、基本的に体の下部の骨から、上部の骨へという順番で拾い上げるのが一般的です。
拾い上げた骨は骨壺に納めます。上記の順で骨壺に入れていけば、足が下という順番になるでしょう。生きているときと同じ姿で、骨壷に納めようという意図があるとされます。
最後に喪主が喉仏を骨壺に納めて、骨上げの儀式が完了です。ただし拾い上げる骨の順番には、地域による違いもあります。次に何を拾うのかは係員の指示に従いましょう。
拾う骨を落としてしまったらどうする?
通常よりも長めの箸を使って骨を運ぶ以上、骨上げ中に骨を落としてしまうことがあるかもしれません。骨を落としてしまったら、係員の指示を仰ぎましょう。
慌てて拾いなおしたり、落とした骨を隠そうとしたりする行為はNGです。故人のお骨を大切に扱うためにも、正直に申し出て指示に従いましょう。
地域によって異なる場合がある
骨上げのやり方やマナーは、大きく分けて西日本と東日本で違いがあります。特に大きな相違点は拾い上げる骨の量です。西日本では骨の一部のみを骨壺に納めますが、東日本では全ての骨を拾い上げます。
そのため西日本と東日本では、使用する骨壺のサイズが東日本の方が大きい傾向です。ただし西日本でも一部の地域では、全ての骨を納める場合があります。
また火葬場の係員や運転手に、3,000~5,000円の心付けを渡す風習もあるため注意しましょう。一方で心付けを不要な地域もあります。地域の風習について分からない場合は、葬儀社に確認するのがよいでしょう。
骨上げの箸には意味がある
骨上げで箸を利用する点は「この世からあの世への橋渡し」という意味が込められているとのことです。
また長さがそろっていない1対の箸を使用することもあります。長さが揃っていない意味は、「亡くなった後の世界のルールは現世とは正反対」という考え方を反映しているためです。
こうした日常の慣習や常識をひっくり返す行為は「逆さごと」と呼ばれ、箸の材質も、竹製と木製などあえて異なるものを使います。
「逆さごと」は、あの世とこの世の区別をつけるとともに、非日常的な行為をもって不幸を断ち切るという意味が込められているのです。
骨上げをしたくない場合は?
骨上げは基本的に喪主や親族が行いますが、悲しみのあまり参加したくない人もいるものです。幼い子どもにとってはショッキングな光景で、つらい気持ちになる場合もあるでしょう。骨上げを行うことに抵抗がある人は、無理に参加する必要はありません。
遺族が火葬に立ち会えない場合など、そもそも骨上げ自体を行わないケースもあるでしょう。骨上げを実施しない場合は、事前に葬儀社の人に伝えれば、代わりに骨壺に納めてくれます。
骨上げの後の流れ
火葬と骨上げを終えた後の流れを解説します。分骨の方法についても確認しておきましょう。
遺骨は後飾り祭壇で供養する
骨上げした後は、遺骨を自宅の「後飾り祭壇」に置き供養します。後飾り祭壇とは四十九日法要まで設ける、仮の祭壇です。主に関西地方では「中陰壇」とも呼ばれています。
遺骨を後飾り祭壇に置いた後は、僧侶にお経をあげてもらいましょう。この儀式を「還骨法要(かんこつほうよう)」と呼びます。その後喪主や遺族が焼香を行えば、葬儀は全て完了です。この後、僧侶を招いて食事会を開催することもあるでしょう。
後飾り祭壇は基本的に葬儀社の人が用意してくれます。葬儀費用に含まれている場合が多いため、遺族が用意する必要はほとんどありません。
後飾り壇は北側や西側に向けて設置するのが一般的ですが、これも葬儀社の人に相談して決めるとよいでしょう。
分骨は事前に伝えよう
遺族によっては分骨を希望する場合もあります。その際は早い段階で葬儀社の人に分骨の希望を伝え、手配してもらいましょう。事前に伝えておけば火葬の際に、分骨する分だけ骨壺を用意してくれます。
ただし分骨したお骨を埋葬する際には「分骨証明書」が必要です。分骨した数だけ必要になるため、火葬場で分骨証明書を発行してもらいましょう。
火葬して一度骨壺に納めた骨を後から分骨しようとすると、手間と費用がかかります。お墓に納めた骨壺を取り出すには、墓石を動かさなければなりません。さらに骨壺をお墓に戻す際に開眼供養なども必要になるため、お寺との調整が必要です。
そのため分骨するのであれば、火葬のタイミングで行うのがベストといえます。
骨上げは故人を送り出す大切な儀式
骨上げは火葬した後に残った骨を、遺族などが拾い上げ骨壷に納骨する儀式です。日常生活では目にしない光景の中で進められる儀式のため、最初のうちは戸惑う人もいるかもしれません。しかし骨上げは故人を送り出す、大切な儀式です。
一般的には2人1組になって箸で拾いますが、地域によって風習が異なる場合もあります。係員が拾う順番やペアを案内してくれるので、それに従えば問題ないでしょう。もし手順を間違えてしまったときも、係員の指示を仰ぎます。
適切に骨上げを実施し、故人を安らかに送り出しましょう。
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監修者:岩田昌幸
葬送儀礼マナー普及協会 代表理事
葬送儀礼(臨終から葬儀、お墓、先祖供養等)が多様化している中で、「なぜそのようにふるまうのか」といった本来の意味を理解し、そうした考え方や習慣を身につけられるよう「葬送儀礼マナー検定」を実施しています。メディア監修多数、終活・葬儀・お墓関連セミナーも実施しています。
コメント
普段の食事では、食器の上で2人一緒に同じ料理を挟む、異質の箸を一対にして使うといったことが、葬儀を連想させる動作であるためタブーとされています。葬儀に関係するしきたりは、普段の私たちの生活にも浸透していると言えるでしょう。