会社の役員や功労者が亡くなった際に、法人が主体となり開くお葬式が「社葬」です。社葬は頻繁に行うものではないため、費用や段取りが分からない人もいるでしょう。社葬の基本知識や費用の目安、一般的な流れを解説します。
この記事を監修した専門家
日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
二村祐輔
社葬と個人葬は何が違う?
個人葬と社葬の違いは、誰がお葬式を主催するかどうかです。個人葬の場合は、主に遺族が喪主となり葬儀・告別式を営みます。一方社葬の場合は、法人が施主となり主催する形式です。
また参列者や会葬者にも違いがあります。
個人葬では故人の親族や友人、会社の同僚や上司など、その人の交友関係によって、幅広い属性の人が会葬することが一般的です。人数は故人の交友関係にもよりますが、50~100名程度が一般的でしょう。
一方で社葬の主な会葬者・参列者は、取引先や顧客など法人としての関係者が中心です。個人葬に比べ大規模な葬儀となるケースが多いでしょう。
社葬における喪主と施主とは
社葬においては、施主としての法人と遺族代表の喪主で、互いに意思疎通を円滑に図ることが重要です。
運営・費用を負担する「施主」
施主とは式の主催者のことで、お葬式の運営や費用の負担を担います。社葬の場合は、企業が施主の立場です。施主の代表として「葬儀委員長」を置くことが多く、当日の挨拶や取り仕切りは葬儀委員長が主に行います。
葬儀委員長は、会長が亡くなった場合は社長、社長が亡くなった場合は次期社長など、現時点での会社のトップがなることが通例です。ただし外部の方にお願いすることもあります。
遺族代表となる「喪主」
喪主とは遺族の代表のことです。社葬か個人葬にかかわらず、喪主は故人の配偶者や、長男などの遺族代表が務めます。個人葬の場合は、施主と喪主を兼任することがほとんどです。
社葬の場合は施主が企業となるため、代表である葬儀委員長と喪主が連携を取りながら準備を進めます。なお個人経営の会社では、個人葬と同様に施主と喪主を分けないことも多いです。葬儀委員長を設置せず、経理上「社葬」という名目で営むこともあります。
社葬の3つの開催形式
社葬の運営や構成スタイルは、以下3つに分けられます。
- 社葬・団体葬
- 合同葬
- お別れ会・偲ぶ会
社葬・団体葬
遺族が行う個人葬とは別日に行う、企業が主催するお葬式のことです。法人が施主となり、遺族は運営に関与しないケースが多いでしょう。
近親者による「密葬」が営まれた後に、後日「本葬」として開催することが一般的です。施行の日時は、訃報の公示や会場準備の期間なども考慮して1~2カ月前後の場合が多いでしょう。
費用負担は法人が担います。
合同葬
合同葬とは遺族と企業が合同で主催する開催形式です。故人が各種団体やいくつかのグループ法人に属していた場合に、それぞれが主催者として合同で名を連ね、また遺族も併せて主催を担います。
式の流れは一般的なお葬式と変わりません。費用負担は主催を担う団体や遺族それぞれが担います。
お別れ会・偲ぶ会
お別れ会・偲ぶ会に厳密な定義はありません。最近では告別式のみの無宗教的な社葬のスタイルとしして、執り行われることが増えてきました。
ホテルや宴会場にて、故人の業績をたたえるためのブースを設けたり、映像を流したりなど、演出に自由度がある点が特徴でしょう。
社葬と同様に、故人の逝去後1~2か月以内か、密葬から四十九日までの間に営まれることが多いです。
どんな人が社葬の対象者になる?
社葬を行う対象者は、原則会社に大きな貢献をした人です。一般的には社長から役員クラスまでが対象で、そのほか会社に大きく貢献した人や、功績を残した人、業務中の事故で亡くなってしまった人も、対象になることが多いです。
会社の規則に社葬についての取り決めがある場合は、規定に従えば問題ありません。
ただし必ずご遺族の意向を確認するようにしましょう。最終的には取締役会で、社葬の開催が決定されます。
社葬の流れ
社葬当日の一般的な流れは以下です。仏式の「本葬」を例に見ていきましょう。
お別れ会に近い式の場合は、読経や焼香は行わず、葬儀委員長の挨拶や故人の思い出話、黙とうや献花のみを行うこともあります。
- 受付・案内
- 着席
- 導師・式衆入場
- 開式の辞
- 読経・導師焼香
- 弔辞朗読・弔電紹介
- 葬儀委員長(施主)挨拶
- 喪主挨拶
- 指名焼香(※)・参列者焼香
- 導師・式衆退場
-
位牌・遺骨・遺影などのお見送り
- 遺族代表者から、お手伝いの方々に対する謝辞
なお式次第は状況により変わります。
※指名焼香:喪主や葬儀委員長といった、本葬儀で重要な方が行う焼香
社葬当日までの準備
対象者の逝去から社葬当日までに行う一般的な準備は、以下の通りです。
- 臨時取締役会を開く
- 遺族にあいさつをし、社葬をする旨の同意を得る
- 合同葬、社葬、お別れ会といった形式を決める
- 葬儀社と打ち合わせをし、会場や日時を決める
- 社葬のご案内状を送付する
- 当日の役割を決める
まずは臨時取締役会を開き、社葬を行う旨を決定します。社葬施行のための経費を計上するため、議事録を忘れずに取りましょう。次に遺族へ連絡を取り、社葬を行う旨の同意を取り、どの形式で行うかの希望を聞きます。
葬儀の会場と日時が決定したら、関係者に案内状を送付します。社葬当日の役割も決めておきましょう。
社葬当日までには会場の下見や、可能であればリハーサルを行い、スムーズな式運びができるよう準備をしましょう。式が終わったら、会葬御礼の公示や経費の精算を行います。
社葬に強い葬儀社を選ぼう
社葬を滞りなく行うためには、葬儀社選びも重要です。社葬は個人葬よりも規模が大きくなるため、社葬に強い葬儀社を選びましょう。以下の要素を満たしていれば、社葬に強いと判断できます。
- 対応が柔軟でレスポンスが速い
- 社葬の実績がある
- 見積もりが明快である
葬儀社を選ぶ際は、できるだけ複数の業者から見積もりを取り、料金や対応を比較することがポイントです。ミツモアなら最大5社の見積もりを同時に依頼できます。業者とのやり取りはチャットで行えるので、忙しい中セールス電話がかかってくる心配も不要です。
社葬にかかる費用
社葬にかかる一般的な費用の負担割合は以下の通りです。運営や準備のために必要となる出費(損金扱い)は、通常は会社負担と考えておくとよいでしょう。
企業負担 |
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ご遺族負担 |
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なお亡くなった人の立場や取り決めによって、費用の負担割合が変わるケースもあります。
費用は会場や社葬の規模によって異なる
社葬の費用は会場や規模によって大きく変わるため、決まった相場はありません。しかし目安としては低くて500万円から、大規模な葬儀では2,500万円程度かかる場合があります。
1,000人を超える会社では、1,000万円以上はかかると見てよいでしょう。
費用の内訳は個人葬と大きく変わりませんが、会場費や人件費、飲食費が個人葬に比べて高くなる傾向にあります。
社葬の費用は経費扱いできる
法人税の規定では、社葬を行うことが妥当と認められる場合には、社葬に通常必要な部分の費用について、損金に計上できるとされています。
そのため式場費用、祭壇費用、供花などの一般的なお葬式にかかる費用は、経費に計上できると考えておけば良いでしょう。
香典はすべて遺族の収入になります。また香典返しや墓石代、本葬以外の読経代は経費に計上できません。こうした経費に計上できない費用は、基本的に遺族負担となります。ただし、たとえば法人名義で経費として香典が渡された場合は、香典返しは必要ありません。
葬儀にかかった費用を経費に計上するときは、社葬の実施を決定した取締役会の議事録と、領収書が必要です。
社葬を行うメリット・デメリット
会社目線で見た、社葬を行うメリットとデメリットを解説します。
メリット①遺族の費用負担を軽減
社葬を行うことで、遺族の負担を軽減できます。影響力の大きい人が亡くなった場合、告別式には多くの会葬者が参列することが予想されます。そうすると会場も大きな場所を用意しなければならず、遺族側に大きな金銭的負担がかかるでしょう。
しかし社葬を行えば会社の資金を使って開催できます。かかった費用は福利厚生費などとして、経費に計上することも可能です。
メリット②対外的なアピール
また社葬を行うことで、対外的なアピールにもなります。企業の重要人物が亡くなった際は、企業の先行きについて不安視する声も、一定数あるでしょう。そこで立派な社葬を行うことで、企業内外に先行きが安心であることを示せます。
さらに社葬を行うことで、きちんとしている企業というイメージを与えられるので、社員の団結力も高まるでしょう。
デメリット①手間やスケジュールの負担が大きい
社葬の規模や進行内容によっては、遺族や施主の負担が大きくなる点がデメリットです。
社葬は会社の重要人物の葬儀のため、当日に多くの参列者の来訪が予想されます。誰もが故人を偲ぶために足を運んでくれているので、接遇はないがしろにはできません。弔辞者などの特別な来賓がある場合は、とくにそのご案内や誘導が大切です。
また合同葬の場合は、開催までに十分な時間を見ておく必要があります。普段の業務をしている中、合同先(遺族や多他団体など)との折衝や調整などが発生し、負担が大きくなるでしょう。
社葬に参列するとき香典は必要?
社葬であっても、香典辞退の旨の連絡がない限り、香典は持参しましょう。
香典の金額は、取引関係などによりさまざまです。1万~5万円が相場ですが、故人との関係性により10~20万円包むこともあるでしょう。
ただし社葬の場合、経理処理の関係で香典を辞退しているケースが多いです。代わりに供花を受け付けていることは多々あるので、事前に確認しましょう。
社葬の実施には下準備が重要
社葬はそう多く経験するものではないため、いざというときに、どのような行動を取ればよいか、分からなくなる人も多いでしょう。
社葬・合同葬・お別れ会などを大規模に営むことが予想されている場合などは、主に会社総務が中心となり、企業の危機管理事項として事前に意識しておくべきです。
もし自分が社葬を執り行う立場になったら、まずはあらかじめ段取りや費用面について把握しておきましょう。社葬に詳しい葬儀社に相談することも大切です。
監修者:二村祐輔
日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
『葬祭カウンセラー』認定・認証団体 主宰
東洋大学 国際観光学科 非常勤講師(葬祭ビジネス論)
著書・監修
- 『60歳からのエンディングノート入門 私の葬儀・法要・相続』(東京堂出版) 2012/10/25発行
- 『気持ちが伝わるマイ・エンディングノート』 (池田書店) 2017/9/16発行
- 『最新版 親の葬儀・法要・相続の安心ガイドブック』(ナツメ社) 2018/8/9発行
- 『葬祭のはなし』(東京新聞) 2022年現在連載
など多数
コメント
これまで「社葬」は故人遺族で営む「密葬」の後に、「本葬」というお葬式を公示して、対外的な対応として施行される通例が一般的でした。その場合、施行準備や訃報連絡あるいはご案内のタイミングの関係から、多くは火葬後に十分な日時を置いてからなされていました。いまでは密葬を「葬儀」と捉え、本葬の社葬を「告別式」と位置付けることで、無宗教的な「お別れ会」などとしてホテルで施行される事例が激増しています。