外壁は建物の劣化を防ぎ、室内の環境を良好に保つために重要な役割を担っています。損傷などが見られるようになったら外壁塗装が必要ですが、モルタル外壁を検討する人は多いものです。特徴やメリット、寿命、費用などについて解説します。
モルタル外壁とは?
「モルタル外壁」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。国内の外壁塗装でよく採用されている工法です。
耳馴染みのある言葉ですが、どのようなものかよく分からないという人も少なくありません。そこで概要について見てみましょう。
モルタル外壁の特徴
「モルタル」とは水と砂、セメントを混合した塗材を指します。これを金属製の網である「ラス」などの上から塗り付け仕上げるものが「モルタル外壁」と呼ばれています。
近年では住宅の外壁を形作るパネル型式の外壁材である「サイディングボード」の普及も進んでいますが、それ以前に主流だった工法として、全国的に取り入れられてきました。
さまざまな状態に仕上げられる特性を持っているため、多様なデザインを可能にします。幅広いニーズに対応できる点も、普及に一役買いました。
モルタル外壁の登場により国内の家作りは大きく変わったといえます。外壁塗装の主軸を担う存在であったといえるでしょう。
1990年代以前はモルタルが主流
その歴史は古く、ヨーロッパでレンガ造りの建物に用いられていた工法です。石造建築のごとく見せる目的で、積んだレンガの表面に塗装するために考案された塗装法だといわれています。
この技術が国内に持ち込まれたのは明治時代のことです。西洋文化の輸入にともなって、数多くの洋風建築が建造されるようになったことで、一気に広まりました。
1923年の関東大震災もモルタル外壁の普及を後押ししています。災害によって木造建築が次々と燃え広がる一方、優れた耐火性を示したことが高く評価されたのです。
こうして日本の外壁塗装において主流となり、最もポピュラーな工法として認識されてきました。1990年代以前の建築物においては、圧倒的なシェアを誇っていた工法です。
モルタル外壁塗装の耐用年数
強靭さや耐火性の高さとあわせて、外壁塗装には寿命の長さも求められます。住宅は長期にわたって使用し続けるものであるため、いくら高性能でもすぐに劣化してしまっては困ります。
気になる耐用年数について確認しましょう。
塗装する時期の目安
住宅を建設する際にモルタル外壁塗装を採用した場合、標準的な耐用年数は30年といわれています。外壁の寿命としては、十分な期間といえるでしょう。
ただし定期的なメンテナンスが必要な点は、よく理解しておきましょう。一度塗ったらそのままで30年間維持できるというわけではありません。
再塗装する時期としては10年をひとつの目安とするとよいでしょう。定期的にメンテナンスを行い、外壁の劣化や損傷を防いでいく必要があります。
新築の建売住宅を購入した場合は、最初の5年でしっかりと点検することをおすすめします。ここで劣化が進行していたら、早めの塗装が必要です。
建売住宅では販売価格を下げるために、各部にコストダウンを図っている場合があります。塗装に関しても耐用年数の短い塗材を使っている可能性があるのです。そのため新築だからと安心せずに、早めの点検が重要と考えましょう。
モルタルの劣化症状の例
表面にチョークのような粉が付着する「チョーキング」は、劣化のサインといえます。外壁に軽く触れたときに、粉が手に付く状態であれば注意が必要です。
0.2~0.3mm程の幅のひび割れが生じる「ヘアークラック」も劣化の症状です。細いひびを髪の毛になぞらえ、そう呼ばれています。雨水の浸透を招き、雨漏りの原因になるだけでなく、湿気で建材の腐食を引き起こす要因にもなるのです。
対して「構造クラック」は0.3mm以上の幅で深さ5mm以上ある大きなひび割れを指します。放置すると基礎の強度が下がり、建物そのものを支えられなくなるリスクがあるのです。
「塗膜の膨れ」が起こるケースもあります。ひびなどから侵入した雨水が直射日光によって温められると、体積が膨張します。そして塗膜を内側から押し出すようにして膨らませてしまうのです。
モルタル外壁の塗装費用
外壁工事は頻繁に行うものではありません。それゆえ初めて検討する人も多くいます。
構想を進めるにあたって、コスト面は大いに気になることでしょう。塗装費用の相場について解説します。
30坪程度の住宅で60~120万円程度
30坪規模の住宅を例に考えてみます。塗装費用をトータルで見ると、60〜120万円程度が必要といえるでしょう。その内訳を理解するために、標準的な工程を紹介します。
- まず足場を組み立て下地処理を行います。養生シートやネットを張り、飛散防止策を施します。
- 高圧洗浄で表面の汚れを落とします。汚れたままだと塗料の付きが悪くなるためです。
- ひび割れや剥がれがあれば補修を行います。その上に塗装すると劣化を早めてしまうためです。
- 塗装を行います。通常、下塗り・中塗り・上塗りという工程です。
- 現場を撤去し廃棄物の処理などをして完了です。
以上の工程にかかる一般的な費用は、次の通りです。
工事内容 | 費用 |
足場 | 12~15万円 |
高圧洗浄 | 2~6万円 |
養生 | 5~10万円 |
補修 | 5~30万円 |
下塗り・中塗り・上塗り | 7~54万円 |
防水加工 | 35~45万円 |
ゴミ処分費 | 1~3万円 |
モルタル外壁塗装の仕上げ法
さまざまな外観を可能にする仕上げ法の各種類について、主流の5タイプを紹介します。それぞれの内容を掘り下げていきましょう。
リシン吹付
塗料に砂を混ぜて吹き付ける工法です。ザラザラした表面を持ち、落ち着いた独自の風合いをかもし出します。シックなたたずまいの住宅などに適した方法です。
マットなテイストにより住宅全体に温もりを感じさせる効果があります。初期費用が手頃な点も魅力です。そのため1970年以降の住宅需要が大いに高かった時期には、非常に多くの現場で採用されました。
吹付タイル
専用の機材であるタイルガンを使い、3回の重ね塗りで仕上げます。骨材を使用しないことで比較的柔らかく仕上がり、そのためひびが入りにくい点が特徴です。耐久性を求める人に適しています。
仕上げ方法は2つに大別されます。「中粒仕上げ」は紙粘土に似た塗材を吹き付けて、凹凸のある状態に仕上げる方法です。「押さえ仕上げ」は使用する塗材は同じものの、吹き付けた後にローラーやコテを使って表面を押さえます。
タイルガンによる仕上がりは、住宅に立体感を生む効果があります。建物のビジュアルに重厚さが加わるでしょう。ひび割れや汚れが生じにくい点もメリットです。
一方で作業中に塗料が飛散しやすく、施工時の音が大きいため、近隣への配慮は欠かせません。
スタッコ吹付
「スタッコ」は「化粧しっくい」とも呼ばれ、骨材や結合剤、水を材料とする塗材です。水を含ませ湿った柔らかい状態で塗りますが、完成時にはとてもに硬い状態になり、耐久性を生みます。
塗装方法としては5~10mmの厚さで吹き付ける工法です。高級感や重厚感が備わることから、高い人気を誇っています。そのためコンクリートブロックなど、美観に難がある建材に有効です。
スタッコ吹付を施した後に、角をローラーでつぶす仕上げ方もあります。表面積に広がりを持たせることから、通気性と耐久性の向上が図れるのです。
リシンかき落とし
まずリシン吹付を施工します。続いて剣山などを用いて表面を引っかくことにより、表面をザラついた仕上げにする方法です。
通常のリシン吹付にひと手間加えることで、落ち着いた風合いを生み、重厚感が備わります。さらにかき落とし作業をすることで表面積が増え、高い通気性も生まれるのです。
高級感のある仕上がりと耐久性の向上は、大きなメリットといえます。しかし作業の工程が増えるため、コストはどうしても上がってしまうでしょう。
左官仕上げ
職人の手によってコテで模様を付けて仕上げる方法です。伝統的な工法といえ、丁寧な作業でおしゃれな雰囲気を求める人におすすめします。
熟練の職人にかかれば多様なデザインを施すことが可能です。そのためそれぞれの住宅に合った、オリジナルな外観を完成させられます。独自性は左官仕上げの最も大きなメリットといってもよいでしょう。
職人による作業には、人の手でなければ生み出せない「味」があります。そこからかもし出される高級感には、深い魅力が備わっているのです。
モルタル外壁のメリット
モルタル外壁が国内の住宅建設で大いに活躍したことには、それなりの理由があります。期待できるメリットについて確認しておきましょう。
防火性に優れている
優れた防火性は最大のメリットといってよいでしょう。地震が多く火の元への注意が不可欠な日本の生活環境において、防火性は重要かつ不可欠な要素です。
使用するケースが増えたサイディングボードは、外壁に1枚ずつ設置するように施工します。対してモルタル外壁は建物の外周を取り囲むように塗布し、施工するのです。そのため隙間が生まれず、火が移るリスクを軽減するのです。
素材にもセメントや砂、水など、不燃性の高い材料が使用されています。つまり素材そのものが火に強い性質を持っているといえるのです。
耐久力がある
モルタル外壁の耐用年数は、一般的に30年といわれます。定期的なメンテナンスは必要ですが、基礎的な耐久力の高さは、暮らしを守る建材として安心感を抱けるものです。
30年という耐用年数もメンテナンスの仕方によっては大幅に延ばせます。適切な手入れを施すことで、半永久的に寿命を延ばすことも可能なのです。長期的に見ればコストの節減にもつながるでしょう。
サイディングボードのように継ぎ目が生まれないため、揺れに強いという性質も持っています。地震が起こっても住宅が倒壊しにくい面にも心強さがあります。
意匠性(デザイン性)が高い
住宅はオーナーにとっては貴重な財産です。毎日暮らす場所だけに、自分だけの居場所であってほしいと願う人は多いでしょう。
多様な仕上げが可能で、それぞれに独自のテイストを備えているモルタル外壁であれば、好みの意匠で完成させられます。デザイン性の高さも忘れてはいけない大きな魅力です。
より細かい点にまでこだわるならば、熟練の技を身につけた職人による左官仕上げを検討しましょう。伝統と歴史に裏打ちされた技術で、高級感に満ちたオリジナルな住宅が完成します。
モルタル外壁のデメリット
日本の住宅作りを支えてきた工法ですが、よい面ばかりではありません。注意すべき点も存在します。
採用した後に後悔しないために、デメリットについても事前に把握しておくことが大切です。
ひび割れ(クラック)が起こりやすい
モルタル外壁は壁全面に塗材を塗布していく工法です。そのため外壁に継ぎ目がありません。継ぎ目がないことは防火性向上や耐久性維持という利点がある一方で、ひび割れ(クラック)が起こりやすいというデメリットがあるのです。
外壁は直射日光を浴び、強い紫外線を直に受けます。くわえて気温や湿度といった環境の変化があります。さらに時おり発生する地震の揺れは、外壁に大きなダメージを与えるのです。
このような要因により負荷がかかった外壁は、ひび割れを引き起こしやすくなります。外壁工事の中でもモルタル塗装はクラックを生じさせやすい工法といわざるを得ないでしょう。
汚れが目立ちやすい
外壁は外から見た際の印象にも大きく影響するため、できるだけ良好な状態を維持しておきたいものです。美しい外観はそれだけで住宅のイメージをアップさせます。
モルタル外壁の弱点のひとつが、汚れの目立ちやすさです。またカビ・コケが発生しやすい面もあります。気が付いたときは早めの対処が大切です。
防汚性を備えた塗料や、防カビ剤やコケを寄せ付けない溶剤を混ぜた塗料も開発されています。これから塗装を行うならば、そのような効果を持つタイプを選択することも一案です。
職人によって仕上がりが変わってしまう
吹き付け作業には職人としての技術が求められます。塗装という作業は簡単なものではありません。プロとして受注し高い品質を備え、かつ見た目もきれいに仕上げるには、経験が必要になるのです。
職人によって技術力には差があります。熟練の職人であれば早く、そしてきれいに作業を進められるでしょう。一方で技術が未熟であれば、当然ながら品質は低下してしまいます。
各所で人の手による作業が必要なだけに、作業する人によって仕上がりのクオリティーが変わってしまう点は知っておきましょう。
モルタルで外壁塗装する際の注意点
長期間にわたる効果を期待する外壁塗装だけに、塗装方法を決定する前に、できるだけ細かい点にまで目を届かせておきたいものです。
モルタル外壁塗装を施すにあたって、注意すべき点についてチェックしておきましょう。
定期的に外壁のチェックが必要
使用年月が経つにつれ水を吸収する性質が、モルタルにはあります。そして吸収した水が熱せられ膨張することで、塗膜を損傷させる可能性があるのです。
内側から押し出されるように膨らんだ塗膜は、ひび割れや剥がれが生じやすくなります。そこから雨水が侵入すると、建材の腐食や雨漏りにつながるのです。また塗膜の劣化は家全体の耐久性も低下させます。
劣化を進行させず損傷を未然に防ぐためには、定期的なチェックが欠かせません。一定期間ごとに気を配り、安全な状態をキープしましょう。
下地が寿命を迎えていると張り替えが必要
外壁塗装はあくまでも壁の表面に塗料を塗り、壁面を補強する作業です。建物の構造を作り変えるものではありません。
住宅の経年劣化により下地はいつか寿命を迎えます。また事故やトラブルなどによって、下地自体が損傷している場合もあるでしょう。
そのような状態になると塗装で回復することはできません。下地の張り替えが必要な場合があるのです。
業者によって価格が違う
モルタル外壁塗装は人の手によって作業する工程が多い工法です。吹付作業は専用の機械を使用するものの、機器を扱う職人の技術力の差によって仕上がりが大きく異なります。
作業に関しては業者ごとに質が異なるように、考え方も違います。そして受注する価格にも差が生じるのです。業者によって費用が異なることはよく理解しておくべきでしょう。
中には相手が素人であることにつけ込んで、不当に高い金額を請求する悪徳業者がいないとも限りません。適正で納得できる金額で発注するためにも、複数の業者から相見積もりをとることをおすすめします。
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住宅は安全な暮らしを送る上で重要な場所です。外壁塗装は住宅の劣化を防ぎ、事故を防止する役割を担っています。
重要なものだけに常に良好な環境をもたらしてくれる工法を選択したいものです。そして工事には信頼できる業者選びも重要です。
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