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相続税が非課税になるのはいくらまで?税額を減らす要素や計算方法をわかりやすく解説

最終更新日: 2022年12月16日

「相続税っていくらからかかるんだろう」「なるべく多くの遺産を引き継ぐ方法が知りたい」とお悩みではありませんか。

相続税は遺産総額が3,600万円以下であれば非課税です。また相続税をさらに減額できる「非課税財産」や「特例」といった要素があります。これらを利用すれば、より多くの遺産を引き継ぐことができるでしょう。

本記事では相続税がかかる基準額や税金を減らす要素、注意したい点について解説します。

この記事を監修した税理士

京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台

 

相続税は遺産総額が3,600万円以下であれば非課税

相続税は遺産総額が3,600万円以下であれば非課税

相続税は遺産総額が3,600万円以下であれば必ず非課税となります。その理由は、相続税に適用される基礎控除の存在です。

基礎控除とは「ケースを問わず遺産総額から控除できる金額」です。相続税は各種控除を適用したあとの金額で計算されるため、遺産総額が基礎控除よりも小さければ税額もゼロになります

基礎控除の額は法定相続人の数によって異なり、最低額は3,600万円です。したがって遺産総額が3,600万円以下であれば、法定相続人の数やケースを問わず、必ず相続税が非課税になります。

相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」

相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数 」です。法定相続人が1人の場合は 3,000万円+600万円×1人=3,600万円 となります。

基礎控除の額は法定相続人の人数によって、以下のように増えていきます。

法定相続人の数 計算式 基礎控除の額
1人 3,000万円+600万円×1人 3,600万円
2人 3,000万円+600万円×2人 4,200万円
3人 3,000万円+600万円×3人 4,800万円
4人 3,000万円+600万円×4人 5,400万円

法定相続人が3人の場合、遺産総額が基礎控除の4,800円以下であれば、相続税が非課税です。

法定相続人とは「相続税法で定められた、財産を相続する権利を有する人」

基礎控除の金額は法定相続人の数によって変動します。そもそも法定相続人とは「民法で定められた、財産を相続する権利を有する人」を意味する用語です。

遺言などによる特別な指定がない限り、遺産は法定相続人が承継します。

法定相続人には被相続人との関係性によって「相続順位」が決まります。

相続順位 被相続人との関係性(代襲相続人)
第1順位 子(孫)
第2順位 父母(祖父母)
第3順位 兄弟姉妹(甥姪)

※法定相続人がすでに亡くなっている場合「代襲相続人」に相続権が与えられます。代襲相続人とは「相続人の子孫」のことです。例えば子が亡くなっており、孫がいる場合には、孫が法定相続人となります。

法定相続人になるのは「被相続人の配偶者」と「もっとも相続順位の高い人」のみです。たとえば配偶者・子供2人・父母がいる場合、法定相続人となるのは配偶者と子供2人の計3人です。

相続税をさらに減額できる2つの要素

相続税をさらに減額できる2つの要素

基礎控除以外にも相続税の減額ができる要素があります。

【相続税を減額できる2つの要素】

  • 非課税財産:相続税の対象にならない遺産
  • 特例・その他控除:条件次第で適用でき、相続税の減税につながる制度

相続税の額を最小限にするためには、非課税財産や、適用できる特例・その他控除の確認が欠かせません。

①相続税が課されない「非課税財産」

非課税財産とは「相続・遺贈によって取得する財産のうち、相続税の計算対象とならないもの」です。具体的にはお墓などの宗教的な財産や、死亡保険金・死亡退職金などが該当します。

正しい相続税額を計算するためには「相続財産のなかに、非課税財産に該当するものがないか」確認することが大切です。

相続税の非課税対象となる財産は、相続税法で明確に規定されていますが、細かな条件がついていてわかりにくいものもあります。不明点や不安があれば、税理士などの専門家に相談すると安心です。

②相続税が発生しても条件次第で減税できる「特例・その他の控除」

特例・その他の控除は「遺産総額が基礎控除を超えて相続税が発生する場合でも、条件次第で減税できる制度」です。相続人の配偶者に適用できる「配偶者控除」をはじめ、相続人の年齢や条件によって適用できる制度などもあります。

特例・その他の控除は自動で適用されるわけではなく、相続税の申告時に自身で手続き・対応が必要です。適用条件や控除額、必要書類などの入念な確認が求められます。

相続税の対象にならない非課税財産

相続税の対象にならない非課税財産

相続税の対象にならない非課税財産に該当する主な例を紹介します。

【非課税財産の主な例】

  • 宗教的な財産
  • 公共団体への寄付
  • 弔慰金※
  • 死亡保険金※
  • 死亡退職金※

※これらの財産は、一定の計算式によって算出された額までが非課税です。超過分は相続税の課税対象となります。

これらの非課税財産を控除すれば、相続税の計算対象となる遺産総額が小さくなり、相続税が減額もしくは非課税になるかもしれません。

宗教的な財産

宗教的な財産とは「日常礼拝や法事・お彼岸でのお参りなどを行うためのもの」です。

【宗教的な財産の具体例】

  • 墓地
  • 墓石
  • 霊廟
  • 仏壇
  • 仏具
  • 神棚
  • 位牌

なお相続税の非課税財産と認められるのは「日常礼拝に必要と認められるもの」のみです。純金製の仏像のように他に転売が可能なものや、投資や趣味の目的で所有していた仏具などは非課税財産には該当しません。

また仏壇やお墓などの購入目的で組むローンは、相続税の債務控除には適用できないため注意が必要です。

公共団体への寄付

相続財産を公共団体へ寄付した場合、寄付した分は相続税の非課税財産となります。

【公益団体の具体例】

  • 独立行政法人
  • 国立大学法人・公立大学法人
  • 公益社団法人・公益財団法人
  • 私立学校法に規定する学校法人の一部
  • 日本赤十字社
  • 社会福祉法人
  • ユニセフ

国や地方公共団体といった行政機関へ寄付した分も非課税財産となります。

なお非課税財産とするには、3つの条件を満たす必要があるので注意しましょう。

【非課税財産にするための3つの条件】

  • 相続や遺贈によって取得した財産である
  • 相続税の申告期限までに寄付する
  • 相続税の申告書に財産の明細書や証明書類など、非課税財産の適用に必要な書類を添付する

弔慰金

弔慰金とは「亡くなった方の勤め先から故人の家族へ支払われるお見舞金」です。亡くなった方の弔い、故人への慰めを表します。

弔慰金は家族に支払われるお金であり、被相続人が所有していた財産ではありません。そのため原則として、相続税の計算対象にはならないのです。ただし弔慰金が高額の場合、非課税枠を超える部分は相続税の課税対象となります。

弔慰金の非課税枠は「亡くなった理由が業務上か業務外か」によって異なるので注意しましょう。

業務上の理由で亡くなった場合の計算例

業務上の理由で亡くなった場合「亡くなった時の普通給与額×36ヶ月分」が非課税枠です。

たとえば業務中の事故が原因で亡くなっており、普通給与額が50万円だったとします。

このときの弔慰金の非課税枠は「1,800万円」です。

【非課税枠の金額】

50万円×36ヶ月=1,800万円

弔慰金の額が1,500万円だった場合、1,800万円の非課税枠以下なので、弔慰金の全額が非課税財産となります。

一方で弔慰金が2,000万円の場合、2,000万円-1,800万円=200万円 より、超過した200万円は相続税の課税対象です。

業務外の理由で亡くなった場合の計算例

業務外の理由で亡くなった場合、弔慰金の非課税枠は「亡くなった時の普通給与額×6ヶ月分」です。

たとえば業務とは関係のない病気が原因で、普通給与額が50万円だったとします。

このときの弔慰金の非課税枠は「300万円」となります。

【非課税枠の金額】

50万円×6ヶ月=300万円

弔慰金の額が200万円だった場合、非課税枠である300万円以下 なので、弔慰金の全額が非課税財産となります。

一方で弔慰金が500万円の場合、500万円-300万円=200万円 で、非課税枠を超えた200万円は相続税の課税対象です。

死亡保険金【非課税なのは500万円×法定相続人の数まで】

死亡保険金とは「生命保険金のうち3つの要件すべてを満たしたもの」です。

【死亡保険金の3つの要件】

  • 保険料を被相続人が負担
  • 被保険者が被相続人
  • 生命保険金の受取人が生きている

原則として死亡保険金は相続財産にあたります。

しかし、受取人が相続人の場合は 「500万円×法定相続人の数 」まで死亡保険金が非課税となります。

たとえば法定相続人が3人の場合、死亡保険金の非課税枠は 「1,500万円」 です。

【非課税枠の金額】

500万円×3人=1,500万円

死亡退職金【非課税なのは500万円×法定相続人の数まで】

死亡退職金とは「亡くなった方の勤め先から支払われる退職金」です。一般的に退職金は配偶者に、配偶者のいない場合は子供に支払われます。

死亡退職金は「亡くなってから3年以内に支給が確定した分」が相続税の対象となります。

ただし、死亡退職金のうち 「500万円×法定相続人の数 」は非課税です。

たとえば法定相続人が2人の場合、死亡退職金の非課税枠は「1,000万円」となります。

【非課税枠の金額】

500万円×2人=1,000万円

相続税を減らせる特例やその他の控除

相続税を減らせる特例やその他の控除

相続税には条件を満たすことで適用できる「特例や控除制度」があります。これらの制度を活用すれば相続税を減らすことが可能です。

【相続税の特例・その他控除の主な具体例】

  • 小規模宅地等の特例
  • 配偶者の税額軽減
  • 未成年者控除
  • 障がい者控除
  • 相次相続控除
  • 暦年課税にかかる贈与税額控除
  • 相続時精算課税にかかる贈与税額控除

これらの特例・制度は適用条件や控除額に細かな規定があるため、事前によく確認するようにしましょう。

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例は「自宅や事業所を相続財産として受け継ぐ場合に利用できる特例」です。土地の評価額を最大80%減額できる制度なので、相続税の金額に大きく影響します。

小規模宅地等の特例は、相続する宅地の種類によって、限度面積および減額割合が異なります。具体的な内容を表にまとめました。

種類 限度面積 減額割合 適用条件
居住用宅地(被相続人が居住していた住宅) 330平方メートルまで 80% ※表の下部に記載
事業用宅地(事務所用) 400平方メートルまで 80% 事業を引き継ぐ相続人が、土地を取得し引き続き事業を継続する
事業用宅地(貸付用) 200平方メートルまで 50% 相続人が土地を取得し、かつ貸付事業を継続する

※住宅で小規模宅地等の特例の適用を受ける条件は、被相続人との関係性によって異なります。

【被相続人との関係性と適用条件】

  • 配偶者:無条件で適用可能
  • 同居親族:相続開始時から相続税の申告期限までその家屋に住み、所有すること
  • 別居親族:家なき子特例の要件をすべて満たす

たとえば配偶者が評価額1億円の居住用宅地330平方メートルを相続によって取得したとします。その場合80%の減額が可能となり、土地の評価額を2,000万円として扱うことが可能です。

家なき子特例

家なき子特例とは「故人と同居していなかった親族でも、要件を満たせば居住用宅地として小規模宅地等の特例を受けられる制度」です。5つすべての要件を満たす必要があります。

【家なき子特例の5つの要件】

  • 被相続人に配偶者がいない
  • 被相続人と同居していた相続人がいない
  • 相続開始前の3年以内に日本国内にいる3親等内の親族または親族の経営する法人が所有する家屋に住んだことがない
  • 相続開始時に住んでいる家を過去に一度も所有したことがない
  • 相続開始時から相続税の申告期限まで、引き続きその家屋を所有する(売却しない)

家なき子特例でも、限度面積および減額割合は「小規模宅地等の特例」と同じです。限度面積は330平方メートル、減額割合は80%となります。

配偶者の税額軽減

配偶者の税額軽減とは「被相続人の配偶者に適用できる制度」です。配偶者が取得した遺産額のうち「1億6,000万円と法定相続分のどちらか大きいほう」が控除可能となります。

相続人が配偶者と子供の場合を考えます。

このとき配偶者と子供の法定相続分は、それぞれ遺産の2分の1です。ただし子供が複数いる場合、子供の法定相続分である2分の1の金額を子供の人数で等分します。

遺産総額が1億6,000万円以下の場合、配偶者の法定相続分は8,000万円以下です。そのため「1億6,000万円」が控除可能となり、配偶者の相続財産は全額控除されます。

もし遺産総額が4億円の場合、配偶者の法定相続分は2億円です。そのため「2億円」が控除可能となります。ですので配偶者の相続財産が2億円以下であれば、こちらも相続税は非課税となります。もし遺産分割協議の結果により、配偶者の相続財産が2億円を超えた場合、控除可能額となる2億を超えた部分は相続税の課税対象です。

なお配偶者の税額軽減を適用するには、3つの要件をすべて満たす必要があります。

【配偶者の税額軽減を適用する3つの要件】

  • 法律上婚姻関係にある
  • 相続税の申告書を提出する
  • 遺産分割協議が完了している、もしくは申告期限後3年以内の分割見込書を提出する

未成年者控除

未成年者控除は「法定相続人となる子供が未成年の場合に適用できる控除制度」です。満18歳(令和4年3月31日以前は満20歳)になるまでの年数1年につき10万円が控除されます。

たとえば相続開始時に13歳だった場合「50万円」を相続税額から控除可能です。

【未成年者控除額】

(18歳-13歳)×10万円=50万円

なお1年未満の年は繰り上げて1年にカウントされます。

障がい者控除

障がい者控除は「法定相続人が障害者である場合に、相続税額から一定額を控除できる制度」です。満85歳になるまでの年数1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)が控除額となります。

たとえば相続開始時に50歳の場合「350万円」が控除可能です。

【障がい者控除額】

(85歳-50歳)×10万円=350万円

なお1年未満の年は繰り上げて1年にカウントされます。

相次相続控除

相次相続控除とは「相続の開始10年以内に、被相続人が相続により財産を得ている場合に適用できる制度」です。たとえば相続人から見た祖父が5年前に死亡し父が相続を受け、その父が死亡して相続が発生した場合に適用できます。

短期間で相続が重なることにより、相続税の負担が大きくなりすぎるのを防ぐための制度です。

前回の課税総額を1年につき10%ずつ下げていった額を、今回の相続税から控除できます。

たとえば祖父が2017年に亡くなって、父が2019年に亡くなった場合を考えましょう。ただし次の条件があるとします。

  • 祖父の相続のときに父が課税された相続税額:2,000万円
  • 祖父から父が相続した財産の総額:1億2,000万円
  • 父から相続された遺産の総額:1億円
  • 長男が相続した遺産の総額:8,000万円
  • 経過年数:2年

このとき長男の相似相続控除額は「1,280万円」となります。

【相似相続控除額】

2,000万円×{1億円/(1億2,000万円-2,000万円)}×(8,000万円/1億円)×{(10-2)/10}=1,280万円

なお相次相続控除は、前回納めた相続税の一部を控除する制度です。したがって前回の相続に関する相続税を納めていない場合は適用できません。

暦年課税にかかる贈与税額控除

暦年課税にかかる贈与税額控除は「相続開始の3年前までに贈与された財産に対する、贈与税額を控除する制度」です。

相続税を回避する目的で生前贈与が行われることが少なくありません。そのような節税を防止するため、相続開始の3年前までに贈与された財産は相続税の対象となります。

一方ですでに贈与税を支払った分まで相続税の対象とすると、二重課税となってしまいます。そのためすでに支払った贈与税は、相続税の控除対象となるのです。

相続時精算課税にかかる贈与税額控除

相続時精算課税制度とは「60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子・孫へ生前贈与をする際に利用できる制度」です。こちらの制度を利用すると、贈与税は通常よりも低い税率で計算されます。

相続時精算課税制度によって支払った贈与税額は、贈与財産とその他の相続財産の合計によって算出した相続税額から控除します。これが相続時精算課税にかかる贈与税額控除です。

なお相続時精算課税にかかる贈与税額控除で控除しきれない金額については、贈与税の還付として申請が可能です。

法定相続人の構成によって法定相続分が変わる

法定相続人の構成によって法定相続分が変わる
画像提供:PIXTA

法定相続人が相続できる遺産の割合として、法定相続分が法律で定められています。

そんな法定相続分は、法定相続人の構成によって割合が変わります

法定相続人の構成 法定相続分
配偶者のみ 全額
配偶者・子(孫) 配偶者2分の1・子は2分の1を人数で割る
配偶者・父母(祖父母) 配偶者3分の2・父母は3分の1を人数で割る
配偶者・兄弟姉妹(甥姪) 配偶者4分の3・兄弟姉妹は4分の1を人数で割る

配偶者がいない場合の計算方法はパターン問わず同じで「相続順位の高い人たちが、全額をその人数で割った金額」が法定相続分となります。

たとえば配偶者がおらず子供が3人の場合、法定相続分を3で割った金額が子供の相続される金額です。

法定相続分とは遺産の総額から基礎控除を除いたもの

法定相続分とは「民法で定められた、法定相続人一人あたりの相続割合」です。

相続割合が遺言書に明記されている場合、遺言に沿って相続を行います。遺言書の作成がない場合は遺産分割協議によって相続割合を決めますが、スムーズに進まないケースが珍しくありません。

協議がうまくいかない場合、遺産分割に際して調停や審判を行います。その際、法定相続分が遺産分割の基準となることが一般的です。

法定相続人を考える際に注意が必要な場合

法定相続人を考えるにあたって、被相続人の状況に応じて注意が必要です。

ケース カウントの方法
養子がいる 実子がいる:養子1人のみ法定相続人にカウント

実子がいない:養子2人まで法定相続人にカウント可能

相続放棄があった 相続放棄をした人に遺産相続はされませんが、法定相続人としてカウントします

配偶者と実子2人がいて、実子のうち1人が相続放棄をしても、法定相続人は3人

内縁の夫・妻がいる 法律上の婚姻関係がなければ、法定相続人としてカウント不可

相続税を出すための計算方法【具体例で解説】

相続税を出すための計算方法【具体例で解説】

【相続税の計算方法】

  1. 遺産総額を計算する
  2. 基礎控除額を差し引く
  3. 相続税の総額を計算する
  4. 相続税を分割して各人が納めるべき金額を計算する
  5. 相続税を減らせる特例やその他の控除を差し引く

計算順序の入れ替えや各計算式のちょっとしたミスは、相続税を正しく計算できない原因となるため注意しましょう。

①遺産総額を計算する

最初に遺産総額を計算します。遺産総額の計算には、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産(負債)も使います。

遺産として扱われる具体的な財産は以下のとおりです。また今回は計算例に使うため金額も当てはめます。

  • プラスの財産:9,000万円
  • みなし相続財産:300万円
  • 相続開始の3年前に行われた贈与の財産:300万円
  • 相続時精算課税によって取得した財産:200万円
  • 借金などマイナスの財産:800万円
  • 葬式費用:200万円

マイナスの財産と葬式費用は、遺産総額から差し引いて計算します。

今回の例であれば遺産総額は「8,800万円」です。

【遺産総額】

9,000万円+300万円+300万円+200万円-800万円ー200万円=8,800万円

②基礎控除額を差し引く

続いては基礎控除額を差し引きます。基礎控除額は 「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。

今回は配偶者と子供1人、計2人の法定相続人がいる場合を例とします。その場合基礎控除額は「4,200万円」となります。

【基礎控除額】

3,000万円+600万円×2人=4,200万円

よって遺産総額から基礎控除額を差し引いた金額は「4,600万円」となります。

【基礎控除額を差し引いた金額】

8,800万円-4,200万円=4,600万円

③相続税の総額を計算する

相続税の総額を計算します。この段階では控除や特例などを考えません。基礎控除を引いた遺産総額を法定相続分で割り振って、取得金額に応じた税率をかけ、控除額を差し引きます。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
〜1,000万円 10% なし
〜3,000万円 15% 50万円
〜5,000万円 20% 200万円
〜1億円 30% 700万円
〜2億円 40% 1,700万円
〜3億円 45% 2,700万円
〜6億円 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

今回は配偶者と子供1人のため、各人の法定相続分は2分の1です。これまでに計算した金額を表に当てはめて計算します。

【配偶者の相続税額】

  • 取得額:4,600万円÷2=2,300万円
  • 相続税額:2,300万円×15%-50万円=295万円

※子供の計算式・相続税額も同じ金額になるため省略します。

よって相続税の総額は590万円となります。

【相続税の総額】

295万円+295万円=590万円

④相続税を分割して各人が納めるべき金額を計算する

これまでの計算式は、法定相続分を用いて計算しました。しかし相続税の正しい金額を出すには、実際の取得割合に応じた計算が必要です。

今回は配偶者が70%、子供が30%を相続によって取得したとします。この場合の相続税額は配偶者が「413万円」で、子供が「177万円」です。

【それぞれの相続税額】

  • 配偶者:590万円×70%=413万円
  • 子供:590万円×30%=177万円

⑤相続税を減らせる特例やその他の控除を差し引く

最後に相続税を減らせる特例や、その他の控除制度を差し引きます。

今回の場合、配偶者は配偶者の税額軽減により、相続税が非課税です。

また子供が未成年であれば、未成年者控除の適用が可能になります。

今回は子供を満15歳と仮定して計算してみましょう。その場合の未成年者控除額は「30万円」です。

【未成年者控除額】

(18歳-15歳)×10万円=30万円

30万円を相続税額から控除できるため、制度適用後の最終的な相続税額は「147万円」になります。

【子供の払うべき相続税額】

177万円-30万円=147万円

相続税の申告における注意点

相続税の申告における注意点
画像提供:PIXTA

相続税にはさまざまな控除や特例制度があるため、遺産相続が発生しても、相続税が発生しないケースが少なくありません。しかし相続税が発生しないからといって、必ずしも申告不要とは限らない点に注意が必要です。

相続税の申告が必要か判断するために、3つのパターンをおさえる必要があります。

【相続税の申告が必要か判断する3つのパターン】

  • 遺産の総額が基礎控除額以下なら申告は不要
  • 相続税が発生した場合は申告する必要がある
  • 特例やその他の控除を利用して非課税になった場合も申告が必要になる

遺産の総額が基礎控除額以下なら申告は不要

遺産の総額が基礎控除額以下であれば、いかなる場合でも相続税は発生し得ません。このように非課税だった場合は、相続税について申告不要です。

ただし相続財産に負債が多く遺産相続によって損をする場合など、相続放棄をしたほうが有利なケースもあります。相続放棄を行う際は申告が不要ですが、申告とは別に相続放棄の手続きが必要です。

相続税が発生した場合は申告する必要がある

遺産総額が基礎控除額を超えると相続税が発生します。相続税が発生した場合は、相続税の申告が必要です。

相続税の申告期限は「相続の開始を知った日から10ヶ月後」です。一見余裕がありそうですが、必要書類の取り寄せや計算などに時間がかかります。ですので早いうちから準備を進めるようにしましょう。

特例やその他の控除を利用して非課税になった場合も申告が必要になる

遺産総額が基礎控除額を超えたが、特例やその他の控除を利用して、相続税が非課税になるケースもあります。この場合は納税は不要ですが、相続税の申告自体は必要です。

遺産の相続が発生しても相続税の申告が不要となるのは「遺産総額が基礎控除以下である場合」のみです。未成年者控除・贈与税額控除・配偶者の税額軽減など、いかなる場合でも申告をする必要があります。

また遺産分割協議が進まず申告期限に間に合わないときでも、期限内に申告が必要です。この場合は「申告期限3年以内の分割見込書」という書類をあわせて提出します。

生命保険も相続財産として加算されてしまう

生命保険も相続財産として加算されてしまう

生命保険による死亡保険金は、被相続人が生前に保有していた財産ではありません。しかし相続税法において、生命保険は相続財産として加算されてしまいます。

このように「被相続人から引き継ぐ財産ではないが、相続財産とみなされるもの」を「みなし相続財産」といいます。

生命保険などのみなし財産は、遺産総額の計算時に加算が必要です。

生命保険の控除額は「法定相続人の数×500万円」

生命保険はみなし相続財産として加算が必要ですが「法定相続人の数×500万円」の非課税枠が設定されています。たとえば法定相続人が3人の場合、生命保険は1,500万円まで非課税です。

死亡保険金は被相続人の死後、相続人の生活を支えるためのお金です。そのため相続税の対象外となる非課税枠が設定されています。

生命保険に相続税がかかる具体例

生命保険に相続税がかかるのは「死亡保険金が非課税枠より大きく、かつ遺産総額が基礎控除を上回る場合」です。

法定相続人が3人、死亡保険金が3,000万円の場合を例にします。

このときの生命保険の控除額は 「1,500万円」です。

【生命保険の控除額】

500万円×3人=1,500万円

死亡保険金は3,000万円のため「1,500万円」が課税対象となります。

【生命保険の課税対象額】

3,000万円-1,500万円=1,500万円

続いて生命保険以外に遺産がある場合を2パターン考えます。

法定相続人が3人であると仮定すると、基礎控除額は「4,800万円」です。

【基礎控除額】

3,000万円+600万円×3人=4,800万円

生命保険以外の遺産総額が2,000万円の場合、生命保険を含めた遺産総額が「3,500万円」になります。そのため基礎控除額以下となり、相続税が発生しません。

【生命保険を含めた遺産総額】

2,000万円+生命保険1,500万円=3,500万円(<基礎控除4,800万円)

一方で生命保険以外の遺産総額が5,000万円の場合、生命保険を含めた遺産総額が「6,500万円」となります。そのため基礎控除額以上となり、相続税が発生します。

【生命保険を含めた遺産総額

5,000万円+生命保険1,500万円=6,500万円(<基礎控除4,800万円)

生命保険に相続税以外の税金がかかるケースがある

生命保険に相続税がかかるのは「保険料を被保険者が負担していた場合」です。

しかし生命保険に相続税はかからないが、別の税金が発生するケースがあります。

【相続税以外の税金がかかるケース】

  • 保険料を保険金受取人が負担していた場合
  • 保険金受取人・被保険者・保険料負担者がすべて異なる場合

①保険料を保険金受取人が負担していた場合

保険料を保険金受取人が負担していた場合、生命保険に対して所得税が発生します。

【所得税がかかるパターン】

  • 被保険者を被相続人、保険料を負担する人・保険金の受取人の両方が配偶者
  • 被保険者が親、子供が保険料を負担し、保険金の受取人でもある

②保険金受取人・被保険者・保険料負担者がすべて異なる場合

保険金受取人・被保険者・保険料負担者がすべて異なる場合、死亡保険金に対して贈与税が発生します。被保険者の死亡によって発生する保険金ですが、相続税の対象ではないため注意が必要です。

たとえば夫を被保険者とし、配偶者である妻が保険料を負担、保険金の受取人に子供を設定する場合などがあげられます。

相続税を減らすためにすぐにできる対策

相続税を減らすためにすぐにできる対策

相続税を減らすための対策として、そもそも相続税の対象となる財産を減らす方法があげられます。

【相続税を減らすためにすぐにできる3つの対策】

  • 土地を購入する
  • 贈与税の特例を利用する
  • 要らない不動産は整理する

土地を購入して相続財産を減らす

相続財産を評価する場合、一般的に土地の評価額は市場価格の80%、建物の評価額は60%とされています。これを利用して、手持ちの現金で土地を購入したり建物を建てることにより、相続財産を減らせる効果があります。たとえば賃貸用マンションを建てれば、相続財産を減らせるだけでなく、小規模宅地の特例による更なる節税が期待できます。

住宅取得等資金贈与を利用して相続税を減らす

住宅取得等資金贈与を活用することにより、贈与税を課せられることなく、親が子供のマイホーム購入資金を援助できるのです。

非課税の限度額は契約の年度や住宅の仕様で異なります。

契約時期 良質な住宅(省エネ住宅など)
一般住宅
住宅用家屋の新築など(消費税率10%適用) 左記以外の住宅用家屋の新築など(消費税率8%適用や個人間売買) 住宅用家屋の新築など(消費税率10%適用) 左記以外の住宅用家屋の新築など(消費税率8%適用や個人間売買)
2020年4月~2021年12月 1,500万円 1,000万円 1,000万円 500万円
2022年1月~2023年12月 1,000万円 1,000万円 500万円 500万円

なお「良質な住宅」とは耐震性能に優れ環境に配慮した仕様で建てられた住宅です。

住宅取得等資金贈与の適用を受けるには要件があります。

【住宅取得等資金贈与の適用要件】

  1. 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、家屋の新築・取得または増改築の対価に充て、住宅を取得し住んでいること。
  2. 登記上の床面積が40平方メートル以上240平方メートル以下で、かつ床面積の2分の1以上が受贈者の居住用であること。

マイホームを購入予定がある場合は、この制度を視野に入れて活用すると、結果として相続税の節税になります。ただし、この特例を使って相続人がマイホームを購入すると、小規模宅地等の特例で居住用が適用できなくなる場合がありますので、どの相続人にどの制度を適用するのか十分な検討が必要です。

要らない不動産は整理する

要らない不動産の整理は、相続税を減らす方法として効果的です。

被相続人の名義である不動産は、相続財産の対象となります。それが不要な不動産であっても、相続財産に該当してしまう以上、相続税の計算にも含める必要があります。不要な財産が理由で相続税が上がるのは大きな損です。

長年使っていない別荘など、現在使っておらず将来も不要と考えられる不動産は、早めに整理してしまいましょう

相続税で困ったら税理士に依頼しよう

相続税を減らすためにすぐにできる対策

相続税について困ったことがあれば、自分で対処しようとせず、税理士に相談・依頼するのが安心です。

相続税に限らず、税金関係はわかりにくい部分が多いです。誤った理解による申告や納税額のミスは、たとえ悪意がなくてもペナルティの対象となる恐れがあります。非常に複雑で難しい内容でありながら、高いレベルでの正確性が求められるのです。

税理士は税務の専門家であり、相続税についても深い知見を有します。そのため相続税に関する確実なアドバイスやサポートが可能です。

無理に抱え込もうとせず、相続税で困ったら、ぜひ税理士にご依頼ください。

監修税理士からのコメント

京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台

相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内となっています。10ヵ月と聞くとかなり余裕があるように感じますが、実際は遺産分割協議や必要書類の収集などするべきことがたくさんあり、時間的な余裕があまりないケースが多いです。また、相続税の計算は複雑であり、慎重に行う必要があります。したがって、相続が発生した場合には、相続税の専門家である税理士に相談するとよいでしょう。

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この記事の監修税理士

京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台

横浜市青葉区を拠点として、個人及び中小規模法人のお客様を中心に税務サービスを提供しております。 「小規模事務所ならではのフットワークの軽さ」「代表税理士の顔が見える安心感の提供」をモットーに、日々お客さんのお役に立てるよう業務に邁進しております。