「農園を継いでくれる後継者がいない……」「外国産の安い農作物との価格競争が厳しい……」後継者不足や外国産の作物に悩んでいる農家の方は多いのではないでしょうか。
今後もこのままの状態が続けば、個人経営のままで農業を続けていくのが難しくなっていくかもしれません。
農業を法人化するとは何か
農業の法人化を簡単にご説明すると、個人ではなく会社で農業をすることです。農業の法人化には様々なメリットがあります。まずは、そんな農業法人についてチェックしていきましょう。
農業法人とは
農業法人は、農業を営む法人の総称です。ただし、学校法人や医療法人のように法的に定められた名称ではなく、任意に用いられるものです。
農業法人になるには、農地所有適格法人の要件を満たさなければなりません。これは後に詳しく説明します。
二種類の法人形態
農業法人は「会社法人」と「農事組合法人」の2つの形態に分けられます。
会社法人は営利を目的とした法人形態で、一般の会社と同じように有限会社や株式会社などの形態があります。営利目的で設立されるものなので、農業と関連のない事業を行うことも可能です。また、農民以外の人でも法人の構成員として参加することが可能です。
一方、農事組合法人は、組合員の共同の利益を増進することを目的に設立される法人のことで、共同利用施設等の設置を行う1号法人と、農業を営む2号法人に分けられます。会社法人と違って、農事組合法人が行える事業は農業関連のものに限られます。
農地所有適格法人とは
農地所有適格法人は農業経営を行うことのできる法人のことです。農地所有適格法人になるためには、以下の要件を満たすことが必要です。
農地所有適格法人の要件 | |
法人形態 | 株式会社(非公開会社に限る)、持分会社又は農事組合法人 |
事業要件 | 売上高の過半が農業(販売・加工等を含む) |
構成員議決権要件 | 農業関係者が総議決権の過半を占めること |
役員要件 | 役員の過半が農業の常時従事者(原則年間150日以上)であること、かつ役員又は重要な使用人のうち1人以上が農作業に従事(原則年間60日以上)すること |
農業法人を設立するには
ひとくちに農業法人といっても様々な形態があるので、まずはどの形態にするのかを決めましょう。株式会社を設立するのが一般的ですが、将来の方向性が違えば、選ぶべき法人の形態も異なってきます。まずは法人化する目的を明確にし、どの形態を選んだらいいのかをよく話し合って決めましょう。
農業法人の設立手続きは、一般の会社を設立する場合とほぼ同様です。
会社設立の方法についてまとめたものがあるので、ぜひこちらも参考にしてみてください。
農業を法人化すべき人とは
ここまで農業法人について述べてきましたが、実際に法人化すべき人とはどんな人なのでしょうか。
年収400万円以上の人は、法人化したほうが税率が安くなります。
他にも、以下の条件に当てはまる方は、ぜひ一度法人化を検討してみましょう。
・跡取りや後継者がいない
・高齢化などの問題により、家族経営で行き詰っている ・安い外国産の農作物の流入に不安を感じている ・大規模な農地を抱えの大きな負担となっている |
こうした悩みを抱えている農家が周囲にたくさんいる場合は、法人化のチャンスです。というのも、会社経営は家族のみではなく、なるべく大きな規模で行ったほうがリスクの分散やコスト削減につながるためです。
法人化のメリット
農業法人のメリットについてこれまで何度かお話してきましたが、改めてご説明すると、法人化する最大のメリットは人材確保と事業継承のし易さです。 他にも対外信用力の向上や国の支援など、経営上、制度上ともに大きなメリットがあります。具体的にどのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
人材の確保
法人化する際は登記などの法廷義務が伴うため、社会的信用力が増大し、対外的なイメージも良くなります。
法人化すれば社会保険への加入が可能になることから、必然的に福利厚生が充実するでしょう。安心して働ける労働環境が整備されれば、有能な人を集めやすくなるので、人材確保の面で有利です。
後継者を育てたいと考え始めたときが、法人化を検討するひとつのタイミングだといえるでしょう。
事業継承のし易さ
法人と個人は別人格であるため、経営者がいなくなっても事業は継続することが可能です。そのため、 預金口座が凍結されるような心配はありません。また、役員変更で経営者の交代が行われるので、親族でなくても後継者となり、事業を継続することができます。
さらに株式会社の場合は、相続税についても法人であれば株式を相続するだけで足りるため、事業用資産の凍結などの問題が発生することもありません。生前に少しずつ株式を移行することで、相続税の節税に繋がります。
上記のことから、事業継承のしやすさも法人化のメリットの一つです。
経営・税制上のメリット
法人化するとなると、より正確な財務管理が求められるため、経営管理能力が向上するメリットがあります。また、法人化すると法人税が適用され、所得税が適用される個人事業主の農家と比べて、税制面で様々なメリットを得られるようになります。
経営・税制上のメリットは以下の通りです。
・経営者としての意識改革を促進
・家計と経営の分離による、経営管理の徹底 ・所得の分配による事業主への課税軽減 ・役員報酬の給与所得化による節税 ・退職給与等の損金算入 ・欠損金の9年間繰越控除(個人の場合は3年間) ・農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)貸付限度額が個人3億円、法人10億円 ・社会保険、労働保険の適用による農業従事者の福利厚生増進 ・農業系の融資や補助金を受けられる |
法人化のデメリット
農業の法人化はメリットばかりではありません。一般的な法人の場合と同じようなデメリットが存在します。特に社会保険料は小規模な法人にとって大きな負担となり、経営に失敗しやすくなるので注意が必要です。
ひとつひとつのデメリットをチェックしていきましょう。
社会保険料の負担
法人化した場合、給与や報酬が高くなればなるほど、社会保険料の負担が大きくなっていきます。
個人事業主が加入する国民健康保険であれば、一世帯当たり年間89万円以上の支払いは求められません。
一方、健康保険の場合は、給与の月額と通勤交通費の合計、適用事業所所在地の保険料率によって支払い額が決まることになっており、料率は一般的に10%前後となっています。厚生年金保険料は平成31年度の東京都で料率18.300%なので、給与に対する社会保険料の料率は約30%となり、事業主が負担するのは15%です。
社会保険料分が上乗せされることを考えて法人化しないと、経営を維持していくのが難しくなってしまうでしょう。
設立・維持に費用がかかる
株式会社を設立するときは、定款認証、登録免許税、司法書士報酬などを合わせて最低でも20万円かかります。また設立した後は会計が複雑化するため、手間が増えるデメリットが存在するのです。税務申告や会計事務などを専門家に依頼すれば手間が省けますが、新たに専門家に報酬を支払わなければならず、コスト増は避けられません。
農業をしながら会社も経営するというのは大変です。維持費用を節約しようとして無理をすると、本業に支障をきたして、事業自体が失敗するケースもあり得るでしょう。
赤字でも納税義務が発生
法人住民税の均等割というものが存在するため、利益がなかったり赤字の場合でも、7万円の納税義務が発生します。税理士を雇っている場合、その分の費用もかかってしまうため、売上の少ない法人化だと節税効果を望むのは非常に難しいと言えるでしょう。
農業の場合は天候などの不安定要素が大きいため、赤字リスクは避けられません。様々なリスクを勘案した上で、法人化するタイミングを慎重に検討しましょう。
オススメの形態は「農事組合法人」
株式会社を設立する費用がない、もう少し安い費用で法人を設立したいという場合は、農事組合法人の設立を検討してみましょう。法人化のデメリットを最小限に抑えるには、農事組合法人の形態をとるのが最善だと言えます。
農事組合法人とは
農事組合法人とは、農業を共同で営むための法人です。組合員が共同して農業経営を行うことになるので、株式会社などと比べると規模は小さくなります。そのため、家族経営の農業や集落営農を法人化する場合に使われるのが一般的です。
農事組合法人を設立することによって、TPPやEPAなど外国の安い農作物が国内に流入していること、各家庭の子供が跡を継がず外部から呼び寄せる必要があること等、諸問題の解決が可能になります。
法人化のデメリットである社会保険への加入も、組織的に管理することで負担を軽減することができます。また、組織的に農作物の育成と出荷等を管理すれば、他業種との連携や国外への輸出も可能です。
設立までの流れ
農事組合法人を設立するには、3人以上の農民が発起人となる必要があります。農事組合法人の設立までの流れと、実施者を以下にまとめました。
実施者 | 行動 |
発起人 | ・発起人会の開催準備
・設立の事前打ち合わせ ・発起人会の開催 ・事業目論見書の作成 ・定款の作成 ・役員の選任 |
理事 | ・出資金の払込
・法務局へ設立登記の申請 ・税務署など諸官庁への届出(農事組合法人は都道府県知事にも届出) |
発起人が行うのは、役員の選任までの手続きです。役員の選任が行われた後は、発起人から理事に設立事務の引き渡しが行われます。
設立手続きの流れは、株式会社を設立する場合と似ていますが、農事組合法人の場合は定款認証や登録免許税、印紙税が不要です。設立時の費用を安く抑えられるのが、農事組合法人の大きなメリットだと言えるでしょう。
設立する上での注意点
農事組合法人の組合員は農民が主体となるため、発起人に農業者がいない場合は設立することができません。そのため、新しく農業を始めようとする人だけで農事組合法人を設立することは、まず無理だと言えるでしょう。
理事も全員、農業者である必要があります。農事組合法人として行うことができる事業も、農業の経営や農作業の共同化に関する事業などに限られているので注意が必要です。
農事組合法人の場合は、農民以外の人から出資を募ることはできません。農民であっても、定款に定める地区内に住所を有する組合員でなければ、出資できない条件になっています。株式会社のように組合員資格のない不特定多数の人から出資を募ることはできないので注意しましょう。
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