「お墓を継ぐ人がいない」「費用が高い」「家族と同じお墓に入りたくない」という理由で、お墓はいらないと考える人は増加しています。
近年では墓石を建立する伝統的な形以外に、さまざまなスタイルが登場し、故人や遺族の要望や希望から、お墓の形を選べるようになりました。
お墓がいらない場合の供養の方法や費用、墓じまいの流れ、注意点を解説します。
この記事を監修した専門家
日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
二村 祐輔
お墓を作らない場合の葬送方法
いわゆる「おひとりさま」の場合、遺骨を家においたままにすると、本人が逝去した後に引き取り手がいなければ、最終的には遺骨の行き場が失われます。
多くの場合、無縁仏として寺などに預けられますが、他の親族や周囲の人の負担になりかねません。かといって、勝手に破棄してしまうようなことも法律上問題があります。
お墓を作らない場合は、これまでのように区画を得て墓石を建立しない「墓所」も選択可能です。以下5つの葬送方法について解説します。
- 納骨堂
- 永代供養墓
- 海洋散骨
- 樹木葬
- 自宅墓
納骨堂の特徴と費用
- メリット:一般墓に比べ費用が比較的安い、屋内が多く天候に無関係、宗教・宗派が不問、立地が良い
- デメリット:専有のスペースに納める容器の数が決まっている、個別保管が原則だが、契約終了後は合祀される場合もある
- 費用相場:1人あたり10万~100万円
納骨堂とは遺骨の安置を目的とした施設です。納骨堂には「ロッカー式」「仏壇式」「自動搬送式」など、さまざまな方式があります。
ロッカー式は細かく区切られた棚に扉が付いた形式です。駅にあるコインロッカーに形が似ていることから、ロッカー式納骨堂と呼ばれています。
仏壇式は仏壇の下に遺骨を納められるスペースが付いている形式です。自動搬送式は電磁式カードを読み取らせると、自動的に遺骨の収納容器が運ばれてきます。参拝者は、参拝スペースに運ばれた遺骨の前でお参りできます。
永代供養墓の特徴と費用
- メリット:一般墓に比べ費用が割安、供養や管理は施設を有する寺院に任せられる。納骨の際には原則宗旨・宗派不問のことが多い。
- デメリット:個別収蔵の場合、契約期間を過ぎると合祀される。また最初から合祀で容器の区別がない場合(他の遺骨とともに一括収蔵)は、納骨後に分骨や改葬ができない。事前に家族や親族の理解を十分に得ておく必要がある。
- 費用相場:1人あたり10万~40万円
永代供養墓は、祭祀すべき喪主に代わって、寺院などの宗教者が一定の供養を行う形式です。納骨堂や樹木墓地など、寺院境内にある場合は、これらを永代供養墓ということになります。
永代とは永久という意味ではありません。それぞれの施設や宗教的な慣習で、契約や供養の期間のことが定められています。永代供養墓の遺骨の収蔵スタイルには、「個別保管」(個別の容器で保管)「合葬保管」(不特定多数の遺骨と混在して保管)があるのが一般的です。これらを保管だけではなく、まとめて供養する場合「合祀墓」と言います。
個別墓は一般墓と同じように、容器ごと個別に収蔵するものや、夫婦、家族単位で複数の遺骨を納める形式です。
集合墓は1つのモニュメントや、一施設総体を祭祀対象とした多数の遺骨が納められたお墓を指します。それぞれの納骨者は、石碑に順番に刻字、または金属プレートに刻印して表記されるのが一般的です。
合祀墓は、収蔵された遺骨をまとめて供養祭祀するお墓のことで、必ず供養のための司祭者がいます。納骨堂や樹木墓などさまざまなスタイルのなかで、おもに寺院境内に設えられた施設や区画の形式です。一例では供養塔や観音像などを祭祀対象として、その下に埋葬されることもあります。なかには別区画で、ペット専用の個別墓や集合墓を用意している施設もありさまざまです。
海洋散骨の特徴と費用
- メリット:お墓を用意するよりも費用が抑えられる、お墓の維持費が不要、墓参りがいらない
- デメリット:家族や親族の理解を得にくい、遺骨が手元に残らない
- 費用相場:代行業者に依頼する場合は5万円前後、遺族も乗船する場合は10万~30万円
海洋散骨は遺骨を粉末状にして、定められた規則に従って海に撒く葬送方法です。故人にゆかりのある海や、遺族の思い入れのある海に撒きます。
散骨は代行業者に依頼するか、遺族も乗船して散骨するかにより、費用が大きく変わるのが特徴です。また散骨料金のほかに遺骨を粉末状にする粉骨の料金に、1人あたり2万円程度かかります。
樹木葬の特徴と費用
- メリット:自然豊かな場所が多い、お墓の世話や維持費が不要、遺骨が土に還る、宗教・宗派が不問
- デメリット:里山型はアクセスが不便、家族や親族の理解を得る必要がある、納骨後は改葬できない
- 費用相場:1人あたり5万~80万円
樹木葬は墓石の代わりに樹木を墓標とするお墓の形です。埋葬場所によって「里山型」「霊園型」があり、納骨方法は「個別型」「集合型」「合祀型」の3つのタイプが主流です。
里山型は人里離れた山などにシンボルツリーを植えて、遺骨を埋葬します。霊園型は寺院や公園のような庭園に、シンボルツリーや花木を植えて埋葬する方法です。
費用は納骨方法によっても異なります。個別型が一番高く20万~80万円、集合型は15万~60万円、合肥型は5万~25万円かかるでしょう。また家族で1つのシンボルツリーを植樹する場合は、1区画100万円以上かかることもあります。
自宅墓の特徴と費用
- メリット:故人を身近に感じられる、お墓の費用が不要になる、いつでもお墓参りができる
- デメリット:いずれは納骨する日が来る、遺骨の管理が粗末になりやすい、世帯によっては遺骨もそのまま残されて処分に苦慮することが多い
- 費用相場:数万~数十万円
自宅墓とは別名「手元供養」とよばれる方法です。室内のインテリアに組み込んだり、仏壇の中に小箱で収めたり、またアクセサリーとして加工し身に着ける人もいます。田舎のお墓に埋葬することに心残りがある場合や、身近に遺骨を安置しておきたい場合など、自宅安置への希望にはさまざまな思いがあるようです。いずれにしても骨壺をそのまま自宅で保管するということは少ないのですが、それなりの心がまえなどは必要でしょう。
なお管理していた人が亡くなった場合、遺骨だけが取り残されてしまう可能性がある点にはとくに注意すべき点です。
自宅墓にかかる費用は安置や祭祀スタイルによります。すべての遺骨を、火葬場からの収骨容器ごと、そのまま置いておく場合には、全く費用は掛かりません。手元供養的なインテリアスタイルで、遺骨の一部分のみお墓代わりに安置・祭祀する場合は、残りの遺骨処分も含めて10万~30万円くらいの予算をみておくと良いでしょう。
今あるお墓を墓じまいする方法
すでにあるお墓を廃することを「墓じまい」といいます。墓じまいを行うためには、費用はもちろん、法的な手続きや、境内墓地ならば菩提寺とのやり取りも必要です。
必要な書類の手配と手続きの流れ
墓じまいして別の墓所に「改葬」する際に必要な書類は、「改葬許可証」です。
遺骨をお墓から取り出すときや、別の場所に納骨する際に、お寺や霊園からの「埋葬の証明」が必要になります。そこでお墓の所在する市区町村役場に「改葬許可申請書」(改葬届)を提出して、「改葬許可証」を取得しなければなりません。これらは「墓地、埋葬等に関する法律」に定められています。
改葬許可証を申請・取得する流れは、おおむね以下の通りです。
- 今後の葬送先の管理者から「受入証明書」を受け取り、認印をもらう
- 現在お墓が所在する市区町村役場から「改葬許可申請書」を取得
- 現在の埋葬元の管理者から「埋蔵(埋葬)証明書」を受け取る
- 受入証明書と、改葬許可申請書や埋蔵証明書を役所に提示し「改葬許可証」を申請する
- 「改葬許可証」を受領して、遺骨を新しい埋葬先へ持参する
- 納骨する
通常は改葬届申請の記入欄に『埋葬の証明』欄があるので、そこに現墓地の管理者の認め印をもらいます。改葬許可証は移転先ではなく、現在のお墓がある市区町村で申請しましょう。
用紙はそれぞれの施設に用意されています。
墓じまいの作業の流れ
墓じまいは、一般的に以下の流れで行います。
- 家族や親族との話し合い
- 受け入れ先の検討
- 埋葬元への相談
- 改葬許可申請
- 閉眼供養
- 遺骨取り出し
- 墓石撤去・更地工事
- 受け入れ先へ納骨
墓じまいを行うには、現在遺骨が埋葬されている寺や霊園での埋葬の事実証明が必要です。また寺院境内のお墓を廃墓にする場合は、遺骨を取り出す前に、「閉眼供養」などの儀礼対応がなされると良いでしょう。
それから実際の工事に入り、墓石の撤去や敷地の復元など、原状復帰の更地状態にします。墓石撤去や更地にする工事には、重機や人件費が必要です。
石材店の施工費用は1㎡あたり10万~15万円が相場と考えましょう。
なお家族や遺族からの了承を得るところから、新たな埋葬先へ納骨するまで、半年以上かかるケースも珍しくありません。心身ともに負担が伴う点には注意しておきましょう。
お墓をいらないと判断するときの注意点
お墓をいらないと決断するのは、なかなか容易なことではありません。またお墓についてきちんと決めないままであったり、遺骨を家に置いていたりした場合にも問題が起こります。
墓じまいで起こりがちなトラブルや、その後に起こる可能性のある問題点を把握しておきましょう。
親族とトラブルになる
墓じまいを決行するか否かは、お墓を継いだ人の一存では片づけられない問題です。先祖代々の墓になると、関係者が相当な人数になります。全員が納得するまで話し合うには、時間も手間もかかります。
親戚間のトラブルにつながりやすいので、時間をかけてでも全員から承諾を得ましょう。お墓を引き継ぐ人は直系親族でなくてもよいので、墓じまいに反対する親族に、管理を任せるというのも方法の1つです。
菩提寺から離檀しにくい
お墓が遠くて管理も難しいため墓じまいを菩提寺に持ちかけたところ、法外な離檀料を請求されたというケースがあります。離檀料は明確に決まっていないため、菩提寺から提示された金額をそのまま支払う檀家も少なくありません。離檀料によるトラブルの多くは、突然墓じまいの話を持ちかけた場合に見られます。
菩提寺の側からすれば、年間の護寺会費や以降の法要などのお布施が遺失利益になり、なかなか応じづらい事情もあるでしょう。気分を害さないようにまずはこれまでの感謝を伝えて、今後の気持ちや世帯の状況などを素直に伝えるのが正攻法です。
そのうえで快くご理解を頂いたのならば、些少でも「お包み」を差し上げて、故人の気持ちに成り代わり礼を尽くすことになります。お包みの一例としては、年間護寺会費の「10年分」、護寺会費が年間5,000円なら5万円ほどが良いでしょう。
遺骨が行き場を失う事態も
お墓をなくした時点で、その後の子孫が納骨できなくなります。次世代の葬送手段を考えることに派生させてしまうのは懸念でしょう。
またお墓の跡継ぎがいないまま放置すると、「無縁墓」となります。無縁墓はその名の通り、縁者がいないお墓のことです。管理費の支払いが滞ると霊園の管理者がお墓を処分し、遺骨は無縁仏として葬られます。
遺骨を埋葬しないまま、自宅に置いている人は、意外に多いようです。その住民が亡くなった後の残置物の中から、骨壺が出てきたという話も聞かれます。この場合もいずれ無縁仏として寺に預けられますが、遺骨を発見した人や供養する寺院に大変な迷惑をかけてしまう点に注意しましょう。
お墓がいらない人はなぜ増えている?
少子化・核家族化の影響や家庭事情により、お墓を作らない、お墓はいらないという人が増えています。それぞれの事情を詳しく解説します。
お墓を継ぐ人がいない
少子化や核家族化により、お墓を継げる人が減っています。お墓を守る人がいなくなると、維持費が支払われず撤去されるか、そのまま放置されて無縁墓になってしまうでしょう。
後継ぎがいない場合や子供に迷惑をかけたくない場合、自分の代で墓じまいをしようと考える方も増えています。
お墓の費用が高い
お墓を維持するには、毎年さまざまな費用がかかります。霊園を利用している場合は、墓地管理費として最低でも年間5,000~1万円の費用が必要です。
菩提寺にお墓がある場合は、毎年一律の護寺会費(お墓の管理費なども含む)や回忌法要のお布施、またお寺によってはお彼岸やお盆の「付け届け」など、いろいろなお付き合いが派生します。場合によっては本堂などの改装や修復などの負担として、寄付金の要請なども割り当てられることもあるでしょう。
これらを負担と考える人も多くいますが、代々の菩提寺を自身、家族のよりどころとして生活の中の「情操」としていることもあり、お寺の存在とその価値観は人それぞれです。
【お布施などの一例】
- 年間の護寺会費など・・3,000~3万円
- 法要の読経御礼:3~5万
- 彼岸供養・施餓鬼供養(お盆):3,000~5,000円
お墓が遠方にある場合は、現地に行くために交通費や宿泊費も必要になるでしょう。代行でお墓の掃除を頼むにしても、相場は2万~3万円です。お墓を持つと管理費がかかるため、維持が難しいと考える人も少なくありません。
お墓に入りたくない
配偶者と一緒のお墓に入りたくない、姑と一緒のお墓は嫌だと考える人たちや、お墓に対する因習や固定観念のイメージから敬遠する人もいます。
近年では自由意思が尊重されるようになり、お墓に入る、またはお墓を作るという判断も、個人の裁量に任されるようになりました。さらにお墓以外のさまざまな葬送の方法もあり、選択肢が増えています。そのため慣習に従って決められたお墓に、入らなければならないという意識も、薄れつつあるようです。
お墓の将来は時間をかけて考えよう
高度経済成長期の時代には、広大な敷地を持つ大型霊園が続々と開園し、石材店によるお墓の市場化が進みました。その後の核家族化や少子化、高齢化の時代を迎え、お墓の跡継ぎ問題によって「お墓はいらない」「お墓を作らない」という時代に変化しつつあります。
お墓は一旦建てると閉じる際にお金や根気が必要です。将来お墓をどのような形にするのか、じっくり考えておく必要があるでしょう。
監修者:二村 祐輔
日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
『葬祭カウンセラー』認定・認証団体 主宰
東洋大学 国際観光学科 非常勤講師(葬祭ビジネス論)
著書・監修
- 『60歳からのエンディングノート入門 私の葬儀・法要・相続』(東京堂出版) 2012/10/25発行
- 『気持ちが伝わるマイ・エンディングノート』 (池田書店) 2017/9/16発行
- 『最新版 親の葬儀・法要・相続の安心ガイドブック』(ナツメ社) 2018/8/9発行
- 『葬祭のはなし』(東京新聞) 2022年現在連載
など多数
コメント
「墓じまい」はブームです。お墓や供養に対する変遷は、大きな流れでみるとおおよそ150年くらいの幅で移り変わっています。お葬式やお墓の庶民的発端は平安時代後期といわれていますが、「○○家之墓」は明治以降の「流行」です。以来、現在がその変革の時期に来ています。最近では「家」を基調としないイメージ的な墓碑銘が増えてきました。「夢」「愛」「望」「想」・・これをみてもその変わり目が感じられます。