余命宣告を受けた家族を持つ人の中には、リビングウィルという言葉を耳にした人もいるのではないでしょうか。
リビングウィルの意味やポイント、書き方を解説します。大切な人に安らかな最期を迎えさせたいと思った際に、参考になるでしょう。
この記事を監修した専門家
城北さくらクリニック
副院長 犬丸真理子
リビングウィルとは?
そもそもリビングウィルとは何なのでしょうか。リビングウィルの意味や、似た言葉との違いを解説します。
自分の治療方針について希望を表明すること
「リビングウィル」とは意思能力があるうちに、自分の終末期における、医療選択の希望を表明することです。
現代の医療では危篤の状態に陥っても、延命措置ができます。ただし辛い思いをしてまで、生き続けるのは本望ではないと思う人もいるでしょう。
回復の見込みがないと分かった場合に、延命治療をせずに、安らかに死を迎えたいという意思を示す指示書がリビングウィルです。
リビングウィルは「尊厳死(※)」の選択肢を与えることにつながります。
※人間としての尊厳を保ったまま、死を迎えること
遺言書やエンディングノートとの違い
リビングウィルと似た言葉に「遺言書」がありますが、内容と、法的効力の有無が異なります。遺言書は自分の死後に関する意思、特に財産の相続などについて書き残す書類です。正式な形式に則って書いた遺言書は、法的な効力を有します。
一方でリビングウィルは、生前の治療方針についての希望を表明した書類です。現在の日本において、法的効力はありません。
また「エンディングノート」も混同されがちな存在といえるでしょう。エンディングノートとは治療の方針の希望を含め、死ぬまでにやりたいことや、死後の各種手続きに必要な書類の保管場所などを記したノートです。
家族の負担を減らす目的で作られるため、広義ではリビングウィルともいえます。
15歳以上であれば誰でも作成可能
リビングウィルは「病状が深刻な人が書くもの」というイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし実際には15歳以上であれば、誰でも書けます。
リビングウィルは死が近づいたタイミングだけでなく、むしろ意思能力がある元気なうちにこそ書くべきといえるでしょう。
現実的には、人生の折り返し地点である50歳を迎えたタイミングで作成するのがおすすめです。
リビングウィルの注意点
リビングウィルを作成するに当たり、知っておくべきポイントがいくつかあります。
本人の意思を叶えるためには、以下のポイントをしっかりと理解しておくことが重要です。
リビングウィル通りが正しいとは限らない
リビングウィルに書かれている内容に従うことが、必ずしも正しいとは限らない場合があります。リビングウィルの内容と、本人が本当に望むことが異なるケースがあるためです。
たとえば呼吸停止時において、人工呼吸器の装着を希望しないと書かれていたとします。しかし痰によって窒息している場合、人工呼吸器を着けない処置は適切とはいえないでしょう。
そのためリビングウィルは、できるだけ具体的に記述することが重要です。もしものときに本人が意思を示せない事態を想定し、あいまいさはできるだけ排除する必要があります。
本人も予測できない事態が起きることも
どれだけリビングウィルを具体的に書いたとしても、想定外の事態は発生するものです。また十数年前に書かれたリビングウィルに従うことが正しいかどうか、疑問に思うこともあります。
そうした場合に備えて、代理人を立てておくとよいでしょう。代理人とは本人の意思能力がなくなった際に、代わりに治療方針を決定できる人です。
代理人を決めておけば、リビングウィルに示されていない事項に関して選択を迫られた際に、周囲の方の意見の食い違いによるトラブルを防げるでしょう。
リビングウィルに関する法律はない
日本には現在、リビングウィルに関する法律が存在しません。そのためリビングウィルは法的効力を持たず、医師が守らなくても問題ないのが現状です。
しかしリビングウィルが、まったく意味を持たないわけではありません。厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では、本人の意思を尊重した治療を行うことが定められています。
家族や医師と繰り返し話し合うことが重要
また家族や医師にリビングウィルの内容を十分に理解してもらわないと、自分の希望が反映されない可能性もあります。
たとえば延命治療は一度始めたら中止するのは困難です。医師の職業的使命は生命を維持することなので、それを中止するという決断を下すのは難しいといえます。延命治療の条件については特に、しっかりとすり合わせて明記する必要があるでしょう。
リビングウィルを作るときには、医師や家族と繰り返し相談することが重要です。自分の状態や、可能な治療法についてよく説明を受け、理解した上で作成しましょう。
リビングウィルの書き方
リビングウィルの書き方について解説します。
前提としてリビングウィルに決まったフォーマットはありません。作文のように自由に書いてもよいです。
一般的には以下の内容を記載します。
- 人工呼吸器や人工水分栄養補給などの延命治療を希望するか
- 自身の治療方針の判断をゆだねる代理人
- かかりつけ医
- その他の希望事項
- 署名・作成日
- リビングウィルの証人名
- 連絡先(本人・証人)
作成は手書きでもパソコンでも構いませんが、署名・作成日のみ、本人であることを証明するため手書きにしましょう。
文章作成が完了したら、本人と承認の印鑑を押します。
なおリビングウィルを作成する際は、意思能力があることが前提です。何よりも重要なのは本人の意思であり、強制されて作った文書は無効です。
コピーして家族や医師に渡す
リビングウィルは本人だけでなく、関係者に持っていてもらうことが重要です。
本人だけが理解している内容の場合、せっかく書いても目に触れなければ意思が伝わりません。関係者分をコピーして、渡しておきましょう。
また原本は重要なため人目に触れず、無くさない場所で管理しましょう。年金手帳や保険証と同じ場所で保管するなど、なるべくわかりやすい場所で管理することが重要です。
書き直しや撤回は可能
リビングウィルは一度書いた後でも、書き直しや撤回が可能です。時間が経って考えが変わることは、誰にでもあるでしょう。
そのため誕生日や年末年始などのタイミングで、定期的に見直すことがポイントです。撤回しない限りは記載した内容が効力を持つので、気が変わったら書き直しましょう。
書き直す際は原本だけでなく、家族や医師が持っているコピーも更新しておく必要があります。混乱させないためにも、古くなったリビングウィルは処分しましょう。
家族や医師としっかり相談しよう
リビングウィルは自分の治療方針の希望を表明する書類です。医療が発達した現代では、高いレベルで延命措置ができますが、そこまでの処置は望まない人もいます。
回復の見込みがないならば、自然に任せることも尊重されるべき考え方です。リビングウィルは本人だけでなく、周囲の人も内容をよく理解しておく必要があります。
本人がどのような最期を望むのか、しっかりと向き合って家族などと話し合いましょう。
監修者:犬丸真理子
在宅療養支援診療所・在宅緩和ケア充実診療所
東京都練馬区練馬1-1-12
城北さくらクリニック 副院長
コメント
ご家族のご要望により、「本人に病名を知らせないでほしい」「余命を知らせないでほしい」と言われることも多いです。こうしたことから、ご本人の尊厳を満たされずにお亡くなりになることがあります。
ご本人に伝える事は、ご本人にもご家族にとってつらい決断ではありますが、その分事前にしっかりと話しあっておくことがとても重要です。
また高齢になれば、認知機能低下が出てくることは人として必然です。それを前提として、会話の中でご本人の希望を汲み取ることも大事なことと感じます。