ミツモア

献体するとどうなる?登録手順や実行の流れ、葬儀について解説

ぴったりの葬儀屋・葬儀社をさがす
最終更新日: 2023年03月15日

献体の実行や手続きには本人の意思だけでなく、家族の同意が必要です。医学への貢献において大きな意義のある献体ですが、実際行うには何を考慮すべきか分からない方も多いのではないでしょうか。献体するメリットやデメリットを踏まえながら、実行する際の具体的な流れ、葬儀の進め方について網羅的に解説します。

この記事を監修した専門家

城北さくらクリニック
副院長 犬丸真理子

献体とは?なぜ必要なのか

病室の様子

献体とはどのような行為を指し、なぜ実行する必要があるのでしょうか。献体の概要や意義、日本における歴史と現状を解説します。

そもそも献体とは

献体とは解剖学の研究・教育に役立てるために、死後医学や歯学の大学に対して遺体を提供する行為です。無償・無条件が前提のため、提供したことによる報酬は発生しません

献体の対象は生前に大学または、関連団体に献体登録を行って「献体のために遺体を提供したい」という意思表示をした人のみです。

年齢制限は団体によって異なります。成人以上であれば問題ない場合や、60歳以上のみとする場合があるため事前に確認しましょう。

意思表示をした献体登録者が亡くなると、遺族や関係者が故人の意志にしたがって、手続きを行います。その後問題なく遺体が大学に引き渡されれば、献体が行われます。

献体の歴史と現状

日本での献体のはじまりは、1970年代にまでさかのぼります。当時から解剖学実習の重要性は認知されていたものの、解剖に利用できる遺体が少ない実情がありました。

医学教育が滞る危機的な状況に対して、「遺体を役立てて欲しい」と自ら大学側に申し出る声が集まります。こうした篤志(社会事業への協力)団体が日本各地に作られ、献体は発展してきました

現在は全国に62もの献体篤志家団体があります。令和3年3月時点で献体登録者数は30万人を超え、登録を一時的に見合わせている大学も増えてきました。

ただし登録者数は都道府県ごとに差があるのが現状です。十分な登録者が集まっておらず、献体への協力を呼びかけている大学もあります。

参考:公益財団法人 日本篤志献体協会

献体を行うメリット

病院の外観

献体を行うメリットを2点紹介します。

医学の発展に貢献できる

献体を行う意義は、自らの遺体の提供によって、医学や歯学の教育・発展に参加し、次世代のために貢献できる点でしょう。

医師や歯科医師を目指す学生は、大学での解剖学実習によって、人体や解剖学についての基礎的な知識を習得します。昨今は看護師や、理学療法士・作業療法士などの教育でも、解剖学実習が必要視されるようになりました。

解剖には正常解剖(系統解剖)・病理解剖・法医解剖の3つがありますが、献体で提供されたご遺体は正常解剖に用いられます。正常解剖とは教育や研究を目的に、人体の構造を知るために行われる解剖です。

また新しい医療発展のための研究に、遺体が利用されるケースもあります。

搬送・火葬費用を削減できる

献体をする場合、遺体を大学に搬送する費用や火葬費用などは、基本的に大学が負担してくれます。献体をするための登録費用や、手数料なども不要です。

自身の死後、家族の費用負担を少しでも軽くしたいと考える方にとってはメリットでしょう。

ただし葬儀費用や戒名・納骨にかかる費用は自己負担です。死後発生する全ての費用が、無料なわけではない点に注意しましょう。

そもそもの献体の目的は、医学や歯学の研究・教育に貢献することです。葬儀費用を節約するために行う行為ではない点を認識しておく必要があります。

献体を行うデメリット

考えるシニア女性

献体を行う際、ご家族の方に生じるデメリットを2つ紹介します。医学に貢献するという志は尊重すべき一方、デメリットを考慮した上で意思決定をしましょう。

ご遺体が戻るまでに時間がかかる

大学に引き渡した遺体が火葬され、遺骨となってご遺族の元に戻るまでの期間は、一般的に1~2年、長ければ3年ほどです

ご遺体が大学に引き渡されると、まず腐敗を防ぐための処理をはじめ、さまざまな準備が施されます。この期間が約3~6ヶ月です。

また解剖実習自体にも、約3~7ヶ月の期間を要します。解剖実習は大学の時間割に応じて、毎年決められた時期に行われるのが一般的です。大学側に保管されている遺体の数が多い場合などは、翌年の実習まで保管されるケースもあります。

引き渡し後はご遺体との対面ができず、いつ返還されるかも事前に知らされるわけではありません。献体を行う際にはこの点も踏まえて、家族としっかりと話し合いをしましょう。

葬儀の日程を決めにくい

献体登録したご遺体は、適切な防腐処置を施すため、亡くなった48時間以内に大学に搬送するのが一般的です。そのため葬儀も48時間以内に行う必要があります

亡くなった日の2日後までに葬儀を行えれば問題ないですが、上手く斎場の予約が取れたりご遺族の都合がついたりするとは限りません。

もし48時間以内に葬儀を行えない場合、ご遺体無しでお通夜や葬儀・告別式を執り行うこととなります。

また火葬は解剖後に大学側で行われるため、お骨上げといった火葬場での儀式はできません。

献体登録の具体的な手順

申請書と届出書

献体の意志を表明するには、医学・歯学の大学または関連団体に、登録の申し込み手続きを行う必要があります。実際に献体の登録をする際の手順を見ていきましょう。

肉親の同意を得る

献体登録の申し込み手続きには、肉親からの同意が必須です。肉親とは同居別居を問わず、配偶者・親・子・兄弟姉妹を指します。

死後に遺体の引き渡しを行うのは、献体登録者本人ではなくご遺族です。ご逝去後、ご遺族の人から1名でも反対の声が上がれば、献体を実行できません。

そのため献体登録を希望するのであれば、家族との話し合いをしっかりと行い、同意を得ておく必要があります。発言力の強い親族がいる場合は特に注意しましょう。

なお献体が終わった後のご遺骨を引き取る遺族がいない場合は、登録を断られることもあります。

医学・歯学の大学または関連団体で手続き

親族の同意を得たら、以下の流れで申し込み手続きを行います。申込先は大学病院ではない点に注意しましょう。

  1. 医科または歯科大学や、献体篤志家団体に問い合わせ
  2. 献体の申込書を請求
  3. 本人が必要事項を記入して捺印
  4. 申込書を返送、団体が受理
  5. 登録日時や団体名が記載された会員証が届く

申し込み団体はご遺体の引き渡しを考えて、できるだけ居住地から近い場所を選ぶのがおすすめです。遠方の場合には、登録を断られるケースが少なくありません。

無事に登録が完了すると会員証が発行されます。会員証は実際に献体する際に必要です。ご家族に会員証の保管場所をしっかりと伝え、紛失しないよう大切に保管しましょう。

なお転居などにより居住地が離れた場合や、心境・状況が変わったときは、連絡をすれば登録の取り消しが可能です。

ご逝去後の引き渡しから返還までの流れ

人さし指を立てる男性

実際に献体が実行されるときは、どのような流れになるのでしょうか。ご逝去後から引き渡し、ご遺骨の返還までの具体的な流れを紹介します。

ご逝去後、電話で引き渡し日を相談

献体登録者が逝去されたら、遺族または身近な人が、献体登録をした大学や団体に電話連絡します。電話連絡先は、会員証を確認しましょう。

連絡をした際に、引き渡しの日時や手順、葬儀の日取り・遺族側の予定・希望などを相談します。

なお献体登録をした大学までの距離や、搬送方法の制限、ご遺体の状態によっては、引き渡しが難しい場合もあるでしょう。

国内旅行中に逝去されたなら、地域の大学を紹介される可能性があります。また死亡場所が外国で搬送に日数を要したり、事件・事故により警察医が解剖する場合は献体ができません。

いずれも自己判断はせずに、まずは登録先に連絡をして指示を仰ぎましょう。

遺体の引き渡し

引き渡しの日時になると、指定の場所に担当者や大学から委託された葬儀社が訪問して、遺体を搬送します

引き渡しの手続きでは、死亡診断書や埋火葬許可証、印鑑が必要になるため、あらかじめ用意しておきましょう。死亡診断書は医師からもらい、埋火葬許可証は役所で発行します。

引き渡しまでに日数がかかるときは、冷蔵室やドライアイスなどで、遺体の腐敗を防止する必要があります。大学によっては防腐処理を施してくれるため、事前に相談すると良いでしょう。

遺骨が返還される

解剖実習が終了したご遺体は、大学側で火葬されます。その後、ご遺骨が遺族の元に返還される流れです

火葬する日時が大学からご遺族に連絡されるので、このとき分骨の有無や、遺骨返還の希望日時をすり合わせます。火葬の立ち会いができるかどうかも確認しておきましょう。

ご遺族が大学に訪問し、遺骨を受け取るのが一般的です。ただし自宅に持ってきてもらえるケースもあるので、大学への訪問が難しい場合は相談してみましょう。

献体できないケースもある

献体登録をしていても、状況によって献体ができないケースがあります。大学によっても異なるため、事前に確認しておきましょう。

  • 臓器提供のドナー登録も行っている場合
  • 事件や自殺で死体検案が行われる場合
  • 事故にあってご遺体の外傷が激しい場合
  • 死後日数が経過しすぎた場合
  • ご遺体から感染リスクがある場合

臓器提供と献体はどちらの登録も可能ですが、実際は両立できないことが多いです。どちらかを選択する必要があることを覚えておきましょう。

献体登録者の葬儀はどうする?

祭壇の様子

献体登録者の葬儀を行うタイミングや内容は、ご遺体を大学に引き渡す前と後で異なります。

ご遺体引き渡し前の葬儀

ご遺体引き渡し前にお葬式を執り行う場合は、ご逝去後約48時間以内に実施する必要があります

死後日数が経過して、遺体の状態が変化してしまうと献体が実行できません。そのため、48時間以内に大学に遺体を引き渡すのが一般的です。

つまり亡くなった当日または翌日にお通夜を行い、2日後までに葬儀・告別式を行うことになります。非常に慌ただしくなる点に注意しましょう。

なお葬儀が終わった後は、火葬場ではなく遺体の保存場所に出棺します。そのため火葬や骨上げは行わず、出棺後に会食に移るか解散の流れです。

ご遺体引き渡し後の葬儀

遺体を引き渡した後の葬儀・告別式は、ご遺体のない状態で行います。棺はなく、祭壇に添えた遺影に焼香や献花を行うのが一般的です。葬儀社や寺院に事前に説明の上、葬儀の計画を立てましょう。

生前故人と親しかったごく一部の人を招いて、お別れ会のみを行うケースもあります。

スケジュール上はご遺体引渡し前よりも余裕をもって行えますが、「最期に顔を見たい」という要望は叶えられない点を考慮しておきましょう。

なおどちらのケースでも納骨は、遺骨が数年後に返還された後で行われます。法要を行うのも、納骨のタイミングが多いです。

献体の意義と注意点を踏まえて意思決定を

骨壺の入った箱と遺影の額縁

献体は大学や関連団体に自らの遺体を提供して、医学や歯学の教育・発展に参加する意義のある行為です。献体数はかなり増えてきてはいるものの、地域によっては不足している大学もあります。

実際に死後の手続きや、遺体の引き渡しをするのは、献体登録者ではなく家族です。そのため献体の申し込みと実行のためには、本人の意思に加えて、家族の同意が欠かせません。

遺骨が返還されるまでに時間がかかる点や、葬儀のタイミングや方法を考慮する必要がある点も、踏まえて話し合いが必要です。なお献体は無条件・無報酬が原則のため、葬儀費用などは自己負担になります。

献体を行う意味と注意点をしっかりと理解した上で、最適な意思決定をしましょう。

ミツモアで葬儀・お葬式を依頼する

監修者:犬丸真理子

在宅療養支援診療所・在宅緩和ケア充実診療所
東京都練馬区練馬1-1-12
城北さくらクリニック 副院長

コメント
献体は医師、歯科医を含め、医療従事者が登録することが多かったですが、現在は幅広い方が登録しているようです。医師・歯科医を目標とする学生が解剖学を習得すると共に、献体とご家族に感謝の気持ちと、故人のご期待にお応えする責任を持つなどの精神的な教育にもなっています。