無宗教の葬儀は宗教的な儀式を省いた葬儀です。仏式や神葬祭のように、宗教的な作法と宗教者による司祭は行われません。
故人の好きな音楽を流したり、故人を偲ぶ動画を流したりといった自由な形式をとれるのが無宗教葬の特徴です。
一般に無宗教葬儀には2つの執り行い方があります。お葬式を「葬儀」と「告別式」に分けた場合、その両方を無宗教で行うものと、対外的な対応である「告別式」だけを無宗教で行うケースです。
本記事では告別式だけを行う場合を「無宗教葬」として解説します。無宗教の葬儀の内容や、知っておきたいメリット・デメリットを確認しましょう。
この記事を監修した専門家
日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
二村祐輔
無宗教の葬儀とはどんなもの?
無宗教の葬儀は、宗教者を呼ばず宗教的な儀式も行わない葬儀です。
自由葬ともいわれる無宗教の葬儀は、故人や遺族の希望によってさまざまな演出がなされます。たとえば故人の思い出をナレーション付きで紹介したり、故人が好きだった曲を生演奏で流したりすることが可能です。
また近年では「直葬」「火葬式」を無宗教で行うことも浸透しつつあります。。直葬・火葬式とは通夜や葬儀、告別式を執り行わず、火葬のみを行う形式です。
故人が高齢で親戚や知人が少ない場合や、葬儀費用をできるだけ抑えたいと考える場合も直葬・火葬式が利用されます。
無宗教の葬儀の流れ
告別式を無宗教で行う、一般的な流れを紹介します。無宗教の式では、とくに決まった流れはありません。自由に内容を決められます。
献奏は故人の好きだった曲を流しながら、故人の思い出を語る時間です。参列者入場や献花中も、生演奏を流すこともあります。
臨終~納棺 | 遺体を清拭し納棺後、会場へ移動 |
告別式 | 参列者入場 開式の言葉 黙とう 献奏 お別れの言葉 弔電の拝読 感謝の言葉 献花 閉式の言葉 |
出棺・火葬 | お別れの儀の後出棺 火葬場へ移動 |
会食 | 近親者やあらかじめ指名された友人などで会食 |
また無宗教の告別式を開始する前に、遺族の意向で葬儀の読経を行うこともあります。
無宗教の葬儀を行うメリットとデメリット
無宗教葬は自由な形式で故人を見送れる一方で、身近な親族の理解や合意を得ておく必要があります。また埋葬する場所が菩提寺の境内墓地などの場合には、事前に住職の理解と承諾を得ておかないとトラブルになりかねません。
メリットとデメリットを把握したうえで、葬儀の形式を検討しましょう。
メリット①形式にとらわれない自由な葬儀が可能
「自由葬」とも呼ばれる無宗教葬は、宗教的な作法に順じず、故人が生前から希望していた遺志を踏まえて、遺族が自由に企画できます。
無宗教の葬儀では故人の愛した品々を展示したり、好んだ花々をふんだんに飾ったりと独自の演出が可能です。開催する会場もさまざまで、自宅はもちろん、斎場や葬儀会社のホール、火葬後であればホテルやレストランの宴会場などで行います。
希望を盛り込んだ集まりにしたい場合、無宗教の葬儀に慣れている会社に依頼すれば、演出や会場の提案を行ってくれるでしょう。
デメリット①親族の理解を得られにくい
従来の葬儀の形にこだわる人や、宗教を信仰している人は宗教者を呼ばない葬儀に違和感を覚える可能性があります。
日本の葬儀は仏式が多いため、葬儀は仏式で執り行うのが一般的であると考える人も少なくありません。無宗教の葬儀を執り行うときは、葬儀のスタイルを決める前に親族の理解や合意を得ることが何よりも重要です。
デメリット②納骨を断られるケースがある
菩提寺(ぼだいじ)があり先祖代々の墓に埋葬を予定している場合は、とくに注意が必要です。無宗教の葬儀について住職の理解や承諾を得られないと、後日納骨できない可能性があります。
無宗教での葬儀を考えている場合は必ず菩提寺へ事前に相談しましょう。無宗教葬を選んだ理由を丁寧に説明し、理解を得ることが大切です。
こうしたケースの場合は、近親者のみでの葬儀(密葬)を仏式で営んだ後に、世間的な対応としての「告別式」(本葬)を無宗教で行う事例も多くあります。
無宗教の葬儀にかかる費用
無宗教の葬儀は宗教的な縛りがないため、宗教者へのお布施などを抑えられます。ただし自由度が高い分、演出に凝り過ぎると多くの費用がかかるため注意しましょう。
参列者50名ほどで行うのであれば、100万~200万円ほど見積もっておくのがおすすめです。費用を抑えたいときは参列者を限定したり、演出を控えたりする工夫をしましょう。
また直葬・火葬式のみ執り行うことも可能です。
無宗教の葬儀に参列するときのマナー
無宗教の葬儀にも服装や香典にマナーがあります。焼香の代わりに献花が行われるケースもあるので合わせて解説します。
服装は一般的な喪服を着用
無宗教の葬儀も参列する際の服装は、一般的な葬儀と同じと考えたほうがよいでしょう。
喪主と遺族は格式の高いブラックフォーマル、親族や参列者は略式喪服であるブラックスーツやアンサンブルを着用します。喪家から「平服でお越しください」といわれたときのみ略式の喪服にしましょう。
男性は白いワイシャツに黒無地のネクタイ、ポケットチーフやネクタイピンは付けません。
女性は黒いストッキング、安定感のあるプレーンなパンプス、光沢のない黒いバッグを用意します。メイクを薄めにして結婚指輪以外のアクセサリーは控えます。
無宗教の葬儀では数珠は使いません。
香典の表書きは「御霊前」か「御花料」
香典は故人の祭壇に供えるお香や、供物を金銭に変えたものですので、無宗教の葬儀にも香典は用意しましょう。仏式用の水引の付いた不祝儀袋でなく、白無地の封筒を利用しても問題ありません。
表書きは宗教にこだわらない「御霊前」「御花料」とし、その下に送り主の名をフルネームで書きます。香典の相場は一般的な葬儀の香典と同じ金額を用意します。両親の場合は5万~10万円、祖父母や兄弟は3万~5万、親族は1万~5万円が目安です。
焼香ではなく献花を行う
無宗教の葬儀では仏式の焼香を行いません。焼香は仏教で定められた拝礼作法です。香を手向ける意味や意義はさまざまですが、無宗教葬では基本的に行いません。無宗教葬では、黙とうで哀悼の意を伝えます。
また焼香の代わりに、参列者がそれぞれ献花をするケースが多くあります。献花とは祭壇の前に置かれた献花台に花を捧げる儀式です。1人ずつ順番に花を捧げ、黙とう・礼をして席に戻る流れが一般的です。
無宗教の葬儀後の供養は何をする?
無宗教の葬儀を行った後は、法要や納骨をどうしたらよいのか迷うケースもあります。四十九日法要と納骨の方法について確認しましょう。
四十九日法要は行う?
無宗教の場合、仏式のしきたりを取り入れる必要はありません。
しかし法事のような席を設けることは、故人との関わりがあった人たちにとって、心の区切りを付けるよい機会となるでしょう。そのため親族や友人・知人が故人を偲ぶ会として、会食の席を設けるケースも多いようです。
近年では僧侶だけ呼べるサービスもあります。葬儀は無宗教形式にしたものの、四十九日法要を執り行い、読経を上げていただくことも可能です。
納骨はどうするの?
菩提寺に無断で無宗教の葬儀を行ってしまった場合は、境内墓地への納骨を断られるケースがあります。宗教に関係のない埋葬を希望する場合は、「霊園」など誰でも入れる墓地をあらかじめ探す必要があるでしょう。
または埋葬以外の方法を検討します。埋葬以外で納骨する方法は以下です。
納骨堂 | 建物の中に設けられた収蔵庫に納骨する方法です。室内で管理できることから、都心に多く見られます。プランに応じて期間が選べ、寺院が経営母体の場合は永代供養も可能です。
納骨時は宗旨・宗派不問でも、納骨後は寺院の宗旨により「檀家になる」といった条件もあるので注意しましょう。 保管方法は個別保管と合葬保管の2種類です。納骨堂全体の施設を、合祀・合葬墓としていることもあります。 |
合葬墓(がっそうぼ) | 不特定多数の遺骨をまとめて埋葬する方法です。容器ごとに個別に保管する場合や、まとめて合葬する場合もあります。
野外に1つのモニュメントを共有していることが多く、一般墓の建墓に比べて費用が抑えられるのが特徴です。モニュメントが樹木などの場合は、樹木墓といわれます。 なお合葬墓は管理者が一般の霊園や公営です。そのため管理はなされますが、「供養」は遺族が行います。 |
合祀墓(ごうしぼ) | 主に寺院境内の合葬区画で、個別あるいは多数との合葬として、野外にモニュメントを共有する形式です。
モニュメントが樹木などの場合に、樹木墓、樹林墓と呼ぶこともあります。最近では芝生に個別のプレートを埋め込むなどの庭園スタイルも人気です。 合祀墓は管理者が寺院なので、基本的には永代供養で、継承者が不要の場合が多いでしょう。 |
海洋散骨 | 故人の希望で海に遺骨をまきます。遺族は海が見える場所から、いつでも故人を偲ぶことが可能です。
墓所の購入・維持費や継承者は一切不要ですが、散骨のための船を準備する必要があります。 また散骨するにはさまざな条例・規制があるため、勝手には行えません。まず5㎜以下のパウダー状に遺骨を粉砕します。散骨する場所は海岸から5マイル以上の沖合でなければなりません。航路、養殖、漁場、観光景観に関わる厳しい規制があります。 また山間地など散骨する場合、その土地の所有者(地主)の許可がないと、刑法の「死体遺棄罪」に問われ重罪です。 |
周囲の理解を得ながら自由な葬儀を
自由な形式の無宗教葬では、故人や遺族の希望を最大限叶えられるでしょう。
ただし無宗教で行う分、周囲の理解を十分得ておく必要があります。喪主自身がメリットやデメリットを理解したうえで、親族や菩提寺に説明するよう心がけましょう。
無宗教の葬儀を希望するときは、無宗教の葬儀に詳しい葬儀社を選ぶことが大切です。葬儀の進行だけでなく、周りの方々への説明についても、適切なアドバイスを得られるでしょう。
監修者:二村祐輔
日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
『葬祭カウンセラー』認定・認証団体 主宰
東洋大学 国際観光学科 非常勤講師(葬祭ビジネス論)
著書・監修
- 『60歳からのエンディングノート入門 私の葬儀・法要・相続』(東京堂出版) 2012/10/25発行
- 『気持ちが伝わるマイ・エンディングノート』 (池田書店) 2017/9/16発行
- 『最新版 親の葬儀・法要・相続の安心ガイドブック』(ナツメ社) 2018/8/9発行
- 『葬祭のはなし』(東京新聞) 2022年現在連載
など多数
コメント
日本人の死生観は、特定の神仏に対する信仰心から育まれたわけではなく自然信仰の一面が強いでしょう。それでも仏教的な作法や道徳観などは、しっかり生活文化の中に根付いています。供養手法としても馴染みやすかったのかもしれません。そのため、あえて無宗教対応にこだわると、いろいろな自己規制がストレスになるかもしれない点には注意しましょう。