「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」は社会保険に関する手続き書類のひとつです。会社の経営者や個人事業主は、健康保険・厚生年金保険の加入条件に該当すると、5日以内に新規適用届を出さなければいけません。
この記事では、社会保険の加入義務が生じる条件や新規適用届の書き方、添付書類を紹介します。加入義務がある場合は記入例を見ながら新規適用届を作成して、期限までに年金事務所に提出しましょう。
この記事を監修した社労士
ドラフト労務管理事務所 - 大阪府大阪市東成区中道
社会保険とは?
会社を作ったり従業員を雇ったりすると、社会保険に関する様々な手続きが必要になります。経営者にとって社会保険は欠かせない知識のひとつです。
社会保険の仕組みや加入義務が生じる条件、新規適用届をはじめとした手続き書類の書き方など、社会保険について正しく理解するようにしましょう。
まずは日本の社会保険制度の概要や、加入義務が生じて新規適用となるタイミングについて解説していきます。
社会保険とは?健康保険と年金保険、労働保険について
保険とは将来起こり得る様々なリスクに備えるためのもので、社会全体でリスクに備える公的な保険制度が社会保険です。普段から皆で保険料を出し合って資金を貯めておくことで、病気・ケガ・死亡・介護・労災など万が一の場合でも、必要な給付を受けられるようになっています。
日本の社会保険にはいくつかの制度があり、主なものを挙げると次の4つです。
健康保険 | 病気やケガ、出産、死亡などに備えるための保険制度。普段から健康保険料を払うことで医療費がかかっても自己負担は原則3割で済む。職業や年齢によって加入する健康保険制度が異なり、一般的に会社員は協会けんぽや組合健保、自営業者は国保、75歳以上の人は後期高齢者医療制度に入る。 |
年金保険 | 働いている世代(現役世代)が年金保険料を負担し、高齢者などが年金を受け取れる制度。主な給付には老齢年金や障害年金、遺族年金がある。自営業者が入る国民年金の保険料は定額で全額自己負担。会社員が入る厚生年金は給与額に応じて保険料が変わり、企業と従業員で半額ずつ負担する。 |
雇用保険 | 失業した場合でも生活に困らないように給付を行う制度。働いているときに雇用保険料を払うことで万が一失業した場合でも失業手当などを受け取れる。育児や介護で休んで収入が途絶えた場合には育児休業給付金や介護休業給付金が支給される。 |
労災保険 | 業務中や通勤途中に労働者が負傷した場合や死亡した場合、障害状態になった場合などに、労働者や遺族が給付を受けられる制度。業務外の事由で医療費を払うと健康保険から給付が出るが、業務上の事由(労災)で医療費がかかる場合や仕事を休んだ場合は労災保険から療養給付や休業給付が出る。 |
一般的に「狭義の社会保険」とは健康保険と年金保険の2つを指し、「広義の社会保険」とは労働保険(雇用保険・労災保険)も含めた4つを指します。
社会保険の新規適用とは?
社会保険の新規適用とは、法律で定められた社会保険の加入要件に該当することで、事業所や従業員に新たに社会保険が適用されることです。
法定の条件に該当する場合、社会保険への加入は義務であり必ず加入しなければいけません。社会保険制度で加入義務が生じる条件については後述しますが、健康保険や厚生年金保険など各制度で条件が定められています。
社会保険の加入のタイミング
社会保険の加入要件に該当すると法定の期限までに加入の手続きを終える必要があります。主な届出書類の提出期限は以下のとおりです。
健康保険・厚生年金保険 |
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雇用保険・労災保険 |
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新規適用届や雇用保険適用事業所設置届は「事業所」が社会保険の適用を受けるときに提出する書類です。被保険者資格取得届は「個々の従業員」が社会保険の適用を受けるときに提出する書類になります。
健康保険・厚生年金保険の新規適用届は5日以内、雇用保険・労災保険の保険関係成立届は10日以内に提出が必要です。社会保険の手続き書類の中には、提出期限までの日数が短いものがあるので注意してください。
「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」の提出が必要になる場合とは?
社会保険のうち、健康保険・厚生年金保険の適用を事務所が新たに受ける場合に、年金事務所に提出するのが「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」です。
保険の適用の仕方によって、事業所は強制適用事業所と任意適用事業所の2種類に分類されますが、いずれの事業所になる場合でも新規適用届の提出が必要です。
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社会保険の手続きを適切に行うためには、そもそも自分の会社が強制適用事業所にあたるのかどうか、判断できなければいけません。強制適用事業所と任意適用事業所それぞれの定義や違いを押さえるようにしましょう。
社会保険加入が必須の「強制適用事業所」に該当する場合
社会保険への加入が強制となる強制適用事業所とは次のいずれかに該当する事業所です。要件に該当した場合は、該当した日から5日以内に新規適用届を年金事務所に提出します。
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法定16業種には、製造業・土木建築業・鉱業・電気ガス事業・運送業・清掃業・物品販売業・金融保険業などが該当します。個人事業では、法定16業種に該当しない場合や該当しても従業員数が5人未満の場合、健康保険・厚生年金保険への加入義務は生じません。
一方で法人の場合は、従業員を雇用していない一人社長の会社も含めて原則加入義務が生じるので、会社を設立したときに新規適用届を年金事務所に提出することになります。
なお強制適用事業所にあたるかどうかを判定する際、従業員数に含める人と含めない人がいる点に注意が必要です。アルバイトやパートなどの短時間労働者のうち、労働時間が正社員の4分の3未満の人の中には社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用対象外となる人がいます。
詳しくは以下の記事で解説していますが、判断に迷った場合や新規適用届の書き方などが分からない場合は社労士に相談しましょう。
社会保険加入が義務ではない「任意適用事業所」として申請する場合
強制適用事業所の条件に該当せず健康保険・厚生年金保険への加入義務がない場合でも、任意で加入することができます。任意で加入できるのは次の条件を満たす事業所です。認可を受けるとその日から任意適用事業所として社会保険が適用されます。
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任意適用事業所として認可されると強制適用事業所と同様に扱われます。普段から健康保険料や厚生年金保険料を納付して、必要なときに給付を受けられる点は強制適用事業所と同じです。ただし後述するように新規適用届の添付書類が強制適用の場合と異なるなど、手続きの際に異なる点があります。
社会保険の新規適用の手続き方法と必要書類
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の強制適用事業所に該当する場合や任意適用の申請をする場合、手続き方法は以下のとおりです。
提出時期 | 強制適用の場合は5日以内に提出、任意適用の場合は従業員の半数の同意後すみやかに提出 |
提出先 | 事業所の所在地を管轄する年金事務所 |
提出書類 | 新規適用届、添付書類 |
提出方法 | 窓口申請・郵送申請・電子申請のいずれかの方法 |
ここでは社会保険の新規適用手続きについて解説していきます。この後の「社会保険の新規適用届の書き方」の章を確認して新規適用届を作成しつつ、ここで紹介する添付書類についても役所などで取得して早めに揃えるようにしましょう。
社会保険の新規適用届 必要書類
強制適用事業所に該当する場合と任意適用の認可の申請をする場合で、新規適用届に添付する書類が異なります。
強制適用事業所に該当する場合
強制適用事業所に該当して新規適用届を提出する場合、主な添付書類は以下のとおりです。
法人の場合 | 登記簿謄本(登記事項証明書)、法人番号指定通知書等の写し |
個人事業主の場合 | 事業主の世帯全員の住民票 |
登記簿謄本や住民票はコピー不可のため原本を提出します。提出日から遡って90日以内に発行したものを提出してください。法人番号指定通知書のコピーを添付できない場合は、国税庁法人番号公表サイトで確認した法人情報の画面を印刷して添付しても問題ありません。
また法人事業所の所在地が登記上の所在地と異なる場合や、個人事業所の所在地が住民票の住所と異なる場合は、賃貸借契約書のコピーなど事業所所在地を確認できるものを別途添付する必要があります。
保険料口座振替納付申出書など他にも書類が必要になる場合があるので、新規適用届に添付する書類については事前に年金事務所に確認するようにしましょう。
任意適用事業所として認可を申請する場合
強制適用事業所に該当しない事業所が、社会保険の任意適用を受けるために新規適用届を提出する場合、主な添付書類は以下のとおりです。
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住民票や公租公課の領収証はコピー不可のため原本を提出します。任意適用申請書の用紙は以下のサイトからダウンロードが可能です。記入例や書き方も掲載されています。
従業員の資格取得手続きに必要な書類
正社員など社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用対象となる従業員を雇った場合、従業員に社会保険が新規適用されることに伴って提出する書類は、主に次の2つです。事業を開始したときに提出する場合は、新規適用届とともに5日以内に提出します。
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 | 添付書類は原則不要 |
健康保険 被扶養者(異動)届(従業員に家族がいる場合) | 続柄を確認できる書類(住民票の写しなど)や収入を確認できる書類などを添付して提出 |
いずれの届出も、ケースによって添付書類の有無や種類が異なることがあるので、事前に年金事務所に確認するようにしてください。用紙は以下の日本年金機構サイトからダウンロードでき、記入例や書き方も掲載されています。
また被保険者資格取得届の書き方は次の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
社会保険の新規適用届 提出方法
社会保険の新規適用届は窓口や郵送で提出するか電子申請で提出します。提出先は事業所の所在地を管轄する年金事務所です。
管轄の年金事務所は以下の日本年金機構サイトから確認できます。
新規適用届の提出後に交付されるもの
新規適用届や被保険者資格取得届を提出して受理されると、年金事務所から「適用通知書」と「資格取得確認及び標準報酬決定通知書」が届きます。健康保険証も届くので従業員に渡すようにしてください。
適用通知書に記載されている事業所整理番号と事業所番号は、社会保険の各種手続きをするときに必要になる番号です。適用通知書は紛失しないように大切に保管しましょう。
また資格取得確認及び標準報酬決定通知書には、被保険者の氏名や標準報酬月額が記載されています。標準報酬月額とは毎月納める社会保険料の計算の基礎になる金額です。社会保険の新規適用後は保険料の納付義務が生じるので、事業主負担分と従業員負担分をあわせて翌月末までに納付するようにしてください。
社会保険の新規適用届の書き方
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の新規適用届の用紙は以下の日本年金機構サイトからダウンロードできます。
表面と裏面それぞれに記入が必要です。以下で紹介する記入例や書き方を参考にしながら、実際に新規適用届を作成してみましょう。
社会保険の新規適用届 表面の記入例
新規適用届の表面では上の記入例のように、社会保険の適用を受ける会社や個人事業の所在地、業種などを記入していきます。主な項目の書き方は以下のとおりです。なお事業所整理記号など「※」が印字された項目は記入する必要はありません。
㋑事業の種類 | 日本年金機構の事業所業態分類票を確認して該当するものを記入 |
⑦事業所所在地 | 都道府県名を除いて記入 |
➉事業所名称のフリガナ | 株式会社を「カ」、有限会社を「ユ」、合名会社を「メ」、合資会社を「シ」と略して記入 |
⑪現物給与の種類 | 現物給与(=食事の提供、住宅貸与、被服支給及び定期券支給など通貨以外のもので支給する給与)に該当するものすべてを〇で囲む |
⑰健康保険組合名、㋓厚生年金基金名 | 設立している健康保険組合がある場合や厚生年金基金に加入している場合に記入 |
㉒個人・法人等区分 | 該当する区分を〇で囲む。㉒で「2:個人」を選択した場合、㉓㉕㉖は記入不要 |
㉓番号等区分、㉔番号 | 法人の場合は原則「1:法人番号」を選択して法人番号を記入 |
社会保険の新規適用届 裏面の記入例
新規適用届の裏面では上の記入例のように、給与の形態や締切日、支払日、社会保険に加入する従業員数などを記入していきます。主な項目の書き方は以下のとおりです。
㋖給与形態、㋗諸手当の種類 | 該当するものすべてを〇で囲む |
㋚従業員数等 | 従業員数とそのうち社会保険に加入する者の人数を記入。また社会保険へ加入しない従業員がいる場合は、その者の人数や勤務形態を記入 |
労働保険(労災保険・雇用保険)の手続きの流れと必要書類
社会保険の新規適用の対象となる事業所の条件は社会保険制度ごとに異なります。労災保険・雇用保険の場合は健康保険・厚生年金保険とは異なり、原則として労働者を1人でも雇用している事業は強制適用です。
労働者を雇用すると労災保険・雇用保険の新規適用の手続きが必要になります。以下で紹介する手続きの流れを確認して、期限までに届出を行いましょう。
労災保険・雇用保険の新規適用手続きの流れ
労働保険では、保険の適用のされ方によって事業所が一元適用事業所と二元適用事業所の2つに分類され、手続きの流れが若干異なります。労災保険と雇用保険がまとめて適用されるのが一元適用事業所、分けて適用されるのが二元適用事業所です。
二元適用事業には建設業や農林水産業などが該当し、それ以外の事業は一元適用事業になります。一元適用事業の場合、新規適用の手続きの流れは以下のとおりです。
まずは保険関係成立届を労働基準監督署に提出し、その後、その年度分の労働保険料を概算保険料として申告・納付することになります。提出期限はそれぞれ10日以内と50日以内です。
またハローワークに雇用保険適用事業所設置届を10日以内に、各従業員の雇用保険被保険者資格取得届を翌月10日までに提出します。
手続きで必要になる書類
労災保険・雇用保険の新規適用に伴い、手続きで必要になる主な書類は以下のとおりです。ただし添付書類はケースによって異なる場合があるので、あらかじめ所轄の労働基準監督署や公共職業安定所に確認するようにしてください。
提出書類 |
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添付書類 | 【事業主関係の書類】
【被保険者関係の書類】
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保険関係成立届の書き方は以下の記事で紹介しています。記入例も掲載しているので参考にしてみてください。また概算保険料申告書の作成では、保険料計算に含まれる賃金が何かなど専門的な知識が必要になります。書き方が分からない場合は、社会保険の専門家である社労士に相談・依頼しましょう。
社会保険の新規適用届の留意点
仮に会社の設立登記の手続きに時間がかかり、新規適用届に添付する登記事項証明書を手続き期限までに取得できなかった場合、罰則を科されるのでしょうか?
ここでは、社会保険の新規適用届の提出が遅れたときの取扱いについて紹介していきます。万が一新規適用届を期限までに提出できなかった場合は、以下で紹介する内容を踏まえつつできるだけ早く手続きをするようにしてください。
新規適用届は5日以内に提出 遅れた場合はどうなる?
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の新規適用届は法律上、5日以内の提出が義務付けられています。しかし実際には、添付書類を揃えるまでに時間がかかったり手続きをうっかり失念していたりして、5日を過ぎてしまうケースがあることも確かです。
その場合の取扱いですが、法定期限より多少遅れても年金事務所等が受け付けてくれることが多いので、5日以内に間に合わない場合でもすぐに届出を行いましょう。後述するように未加入だと罰則を科されることがありますが、悪質な場合などでなければ罰則を科される可能性は高くありません。
届出は1日でも早く行うことが大切なので、書類の書き方や手続き方法がよく分からない場合は、社労士に相談・依頼するようにしてください。
社会保険に加入していなかった場合の罰則
社会保険に未加入だと日本年金機構によって加入の勧奨が行われ、加入を勧奨しても自主的に加入しない事業所には年金事務所の職員による加入指導が、加入指導にも従わない場合には立入調査が、それぞれ行われます。
加入勧奨の段階で加入手続きをすれば、罰則を科される可能性は低くなるので、年金事務所から連絡があった場合にはすぐに手続きをするようにしてください。
社会保険の加入義務に違反した場合、最大で過去2年分の保険料を徴収されることがあり、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金を科される可能性があります。
監修社労士のコメント
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法律で定められた社会保険の加入条件に該当すると新規適用の手続きが必要です。健康保険・厚生年金保険では新規適用届を提出し、労災保険・雇用保険では保険関係成立届を提出することになります。
今回は新規適用届の書き方や記入例、添付書類を紹介しましたが、社会保険の手続き方法がよく分からず戸惑う人もいるでしょう。社労士に任せれば手続きをスムーズに進められるので、書類の作成や提出は社労士に依頼することを検討してみましょう。
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