人材不足の折、企業では通年採用が一般的になってきました。入社が決まると、保険証の発行のために、「資格取得届」の作成と提出をしなければなりません。
事前に個人情報や個人番号(マイナンバー)などの資料回収を説明しておくと共に、給与額や交通費から報酬月額を決めます。申請書の書き方や提出先など、詳しく見ていきましょう。
社会保険の資格取得届とは
入社日が決まると、保険証の発行のために資格取得届を作成します。事業主は、保険証の作成のために、どのような情報を事前に集める必要があるのか、被扶養者の有無で違いはあるのかなど、注意点をあらかじめ整理しておきましょう。また提出先と提出期限も確認し、早めに保険証が渡せるように手配しましょう。
資格取得届とは
従業員の入社日が決まると、「被保険者資格取得届」を作成します。
資格取得届には、事業所の整理記号と番号を記載すると共に、従業員に関する個人情報や個人番号、給与を元に算出される報酬月額などを記載します。
提出先は健康保険組合や年金事務所です。提出期限は5日以内のため、入社前から情報を集め、入社日には書類が提出できるよう準備をしておきましょう。
社会保険の加入条件を確認
下記に該当する場合は、国籍などの身分に関わらず各社会保険の被保険者となります。
事業所に常時使用される人(正社員・契約社員・嘱託などの常勤)
給与体系 | 従業員の年齢 | 社会保険 |
月給 | 70歳まで | 健康保険・厚生年金保険に加入 |
70歳以上75歳まで | 健康保険のみ加入
※厚生年金保険は70歳以上被用者として保険料徴収なし |
パート・アルバイト(時給者)
事業所の規模により加入要件が異なります。
(1)一般の事業所の場合
常時使用される人と比べて、下記のどちらとも要件を満たす場合は、被保険者になります。
労働時間 | 1週の所定労働時間が常時使用される人の4分の3以上 |
労働日数 | 1ヶ月の所定労働日数が常時使用される人の4分の3以上 |
(2)被保険者数が101人以上の企業(特定適用事業所)の場合
以下全ての要件を満たす場合は、被保険者になります。ただし大学生など昼間学生は加入しません。
週の所定労働時間 | 20時間以上であること |
雇用期間 | 1年以上見込まれること |
賃金月額 | 8.8万円以上見込まれること |
被扶養者の確認
入社した従業員に家族がいる場合は、扶養に入るか確認しましょう。扶養には、所得税法上の扶養と社会保険上の扶養の2つの考え方があります。税法上の扶養と社会保険上の扶養は必ずしもイコールにはなりません。例えば80歳の父母を扶養したいという申し出の場合は、所得税法上の扶養を指します。75歳になると後期高齢者医療に加入するため、社会保険の扶養に入ることが出来ないからです。
社会保険上の扶養とする場合は、資格取得届と一緒に「健康保険被扶養者異動届」を記載し提出します。
資格取得届の記入例と書き方
資格取得届の用紙は日本年金機構のホームページからPDFまたはエクセル形式でダウンロードが出来ます。従業員から集めた情報を記載すると共に、事業所の捺印をして書類を完成させましょう。扶養家族がいる場合は本人の捺印も必要になりますので、事前に案内をしておきましょう。
事業所整理記号、事業所番号
事業所整理記号と事業所番号は、事業所ごとに決まっています。事業所整理記号は、管轄する年金事務所の番号と事業所ごとに指定されたかな(例:港2 あいう)から成り立ちます。
また事業所番号は事業所ごとに定められた5桁の番号です。共に社会保険を適用した際に発行される適用通知書や毎月送られてくる納入告知書などに印字されています。従業員ごとに異なる番号ではないため、事前に確認しておきましょう。
④種別
種別は、厚生年金基金への加入の有無により異なります。該当する項目に丸をつけましょう。
事業所が厚生年金基金に加入していない場合
※確定拠出年金や確定給付年金加入事業所の場合は、下記のいずれかに丸をつけます。
男性 | 1 |
女性 | 2 |
坑内員 | 3 |
厚生年金基金に加入している場合
男性 | 5 |
女性 | 6 |
坑内員 | 7 |
⑤取得区分
該当する項目に丸をつけましょう。多くの場合は1に該当します。
一般の事業所で雇用する場合 | 1 |
共済組合から一般企業への出向の場合 | 3 |
船員保険の任意継続被保険者の場合 | 4 |
⑥個人番号[基礎年金番号]
個人番号または基礎年金番号を記載します。個人番号の導入から数年経過し、現在は個人番号と基礎年金番号は紐付けされています。いずれか必ず記入しましょう。
⑦取得(該当)年月日
入社日(雇用契約の開始日)を記入します。
⑧被扶養者
社会保険上の扶養の有無を記載します。被扶養者がいない場合は無し、いる場合は有に丸をつけます。社会保険法上と所得税法上の扶養は少し異なるため、気をつけましょう。
⑨報酬月額
報酬月額とは、報酬と現物給与の合計から算出されます。
報酬
報酬とは、基本給のほか役付手当、残業手当などの手当を加えたもので、臨時に支払われるものや3カ月を超える期間ごとに受ける賞与等を除いたものです。もし通勤手当を6ヶ月定期で支払う場合は、按分して1ヶ月分の金額を加算します。
現物給与
現物給与とは通貨ではなく現物で支払うものです。例えば会社で定期を購入して渡す場合は、その1か月分の定期代です。なお、社宅の貸付や食事などの提供を行う場合は、日本年金機構で定めた価額を元に計算します。
⑩備考
少し特殊なケースの際に使用します。該当する場合は丸をつけましょう。
70歳以上被用者該当 | 70歳以上で新たに雇用契約するとき | 1 |
2以上事業所勤務者の取得 | 2つ以上の会社で常勤(各事業所それぞれでおおよそ週30時間以上勤務)として雇用契約するとき
役員が複数会社を経営している場合などの際にも使用します |
2 |
短時間労働者の取得 (特定適用事業所等) |
101人以上の特定適用事業所で被保険者(週20時間以上30時間未満の勤務)として雇用契約するとき | 3 |
退職後の継続再雇用者の取得 | 60歳以上で定年となり、契約変更のために資格を喪失・再取得するとき | 4 |
資格取得届の提出先や添付書類
資格取得届を記載した後は、5日以内に申請書を提出します。また20歳以上60歳未満の配偶者を社会保険の扶養にする場合は、国民年金の第3号被保険者の申請も必要です。
それぞれの申請書類の提出先を押さえると共に、健康保険が協会けんぽの場合と健康保険組合の場合の対応の違いなどを大まかに見てみましょう。
提出先と添付書類
資格取得届および被扶養者異動届の提出先は以下の通りです。
事業所が協会けんぽに加入している場合
申請書類 | 提出先 |
健康保険厚生年金保険被保険者資格取得届 | 事業所を管轄する年金事務所
(郵送の場合は広域事務センター) |
厚生年金保険被保険者ローマ字氏名届(外国籍の場合) | |
被扶養者異動届・国民年金第3号被保険者関係届 | |
国民年金保険第3号被保険者ローマ字氏名届(配偶者が外国籍の場合) |
事業所が健康保険組合に加入している場合
申請書類 | 提出先 |
健康保険被保険者資格取得届 | 事業所が加入する健康保険組合 |
健康保険被扶養者異動届 | |
厚生年金保険被保険者資格取得届 | 事業所を管轄する年金事務所
(郵送の場合は広域事務センター) |
厚生年金保険被保険者ローマ字氏名届(外国籍の場合) | |
国民年金第3号被保険者関係届 | |
国民年金保険第3号被保険者ローマ字氏名届(配偶者が外国籍の場合) |
提出期限
法定期限は事実発生から5日以内です。協会けんぽの場合は、法定期日を過ぎても遡及認定は可能です。ただし健康保険組合は、各規約によって対応方法が様々です。
認定が厳しい健康保険組合では書類到着が5日(営業日ではなく暦で5日)を過ぎると、遡及認定を受けることができず、届出日認定になることもあります。遅延理由書を求められることもあるため、被扶養者がいる場合は特に注意しましょう。
提出方法
年金事務所や健康保険組合への持参、郵送、電子申請などで提出します。
資格取得届の受理後
協会けんぽ加入事業所が、年金事務所窓口に取得届を持参する場合、一旦広域事務センターへ申請書は回送されます。その後審査を行い不備が無い場合はデータが登録されます。事務センターでデータ登録を終えると、2日後以降に協会けんぽから事業所に保険証が発送されます。
通常期でも保険証の到着までに約10日程度かかりますが、春の入社シーズンは1ヶ月程度かかることもあります。事前申請はできないため、あらかじめ時間がかかることを従業員へ伝えておきましょう。なお、健康保険組合の場合、持参したその場で保険証を発行して貰うことができます。
健康保険証がすぐに必要な場合
協会けんぽの場合、保険証が事業所に届くまでに時間がかかります。もしすぐに病院へ行きたいという場合は、被保険者資格取得届と併せて「健康保険被保険者資格証明書交付申請書」を申請しましょう。これは保険証代わりに使えるものですが、この交付のために日本年金機構でデータ登録が早まり、結果として保険証発行までの期間が短くなります。
「健康保険被保険者資格証明書交付申請書」は年金事務所への窓口持参でも構いませんが、その場で発行が出来ない場合もあります。事前に最寄りの年金事務所に問い合わせしてみましょう。
資格取得届以外の入社時の手続き
健康保険と厚生年金の手続きを終えた後は、雇用保険の手続きも行います。被保険者資格取得届の申請に際し、必要な情報を集めると共に、60歳を超えてから入社する場合は、雇用保険から雇用継続給付を受けることができるかもしれません。受給要件を満たしているか確認するために、雇用継続給付についても簡単にみていきましょう。
雇用保険の加入手続き
社会保険と同様に入社日(雇用契約の開始日)以降に「雇用保険被保険者資格取得届」を作成、提出します。
提出先 | 事業所を管轄するハローワーク |
提出期限 | 翌月10日まで |
従業員から雇用保険被保険者証を回収し、被保険者番号を記載します。もし被保険者番号が分からない場合は、雇用保険に加入していた前職の会社名を備考に記載します。
高年齢雇用継続給付の手続き
入社をした従業員が60歳以上という場合、雇用保険から「高年齢雇用継続給付」を受けることが出来るかもしれません。これは60歳以上の雇用保険に加入している従業員の賃金が、60歳到達時の賃金と比べて75%以上下がっている場合に受けることができる制度です。ただし、雇用保険に継続して加入している期間(被保険者期間)が5年以上ないと受給資格がありません。
入社した従業員が申請を希望する場合、転職前に基本手当(失業給付)をもらっていないことを確認すると共に、給与額が60歳到達時よりも減額されているか確認しましょう。また60歳到達時より下がっている場合でも、上限として支給限度額が設けられています。毎年8月1日に変わりますので受給が出来るか確認しましょう。
なお転職に際して基本手当をもらっている場合は、その残日数により「高年齢再就職給付金」を受けることができます。あわせて要件をみておきましょう。
まとめ)社会保険の資格取得届は書類を速やかに回収が鍵
資格取得届は、必要な情報が揃っている場合は簡単な手続きです。しかし、家族の個人番号の回収が遅くなるなど、必要な情報が何かを事前把握しておかないと、その分保険証の発行に時間がかかってしまいます。
このような業務は、社会保険の専門家である社会保険労務士に依頼することも出来ます。手続き漏れが無いように専門家に任せることも検討してみましょう。
特定社会保険労務士からのコメント
上野社会保険労務士事務所 - 福岡県筑紫野市天拝坂
この記事を監修した社労士
上野社会保険労務士事務所 - 福岡県筑紫野市天拝坂
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