社会保険の扶養に入るための条件は「収入要件を満たすこと」と「対象家族の範囲に含まれること」の2つです。扶養に入るには両方を満たす必要があり、扶養に入っていても要件を満たさなくなると扶養から外れます。
家族のパート収入や年金収入がいくらまでだと扶養に入れるのか、社会保険の仕組みを理解しておくことが大切です。社会保険の扶養条件や所得税の扶養条件との違いについてわかりやすく解説します。
社会保険の扶養条件① ~配偶者のパート収入~
配偶者を社会保険の扶養家族にできるのは、配偶者の年収が一定額未満という条件を満たす場合です。基準額以上の収入があると扶養には入れません。
基準額は原則として130万円ですが、ケースによっては180万円が基準になります。税制上の条件である103万円・150万円・201万円と間違えやすいので、混同しないように注意しましょう。
「130万円の壁」とは?
配偶者が社会保険の扶養家族になれるのは、原則として配偶者の年間収入が130万円未満の場合です。年間収入が130万円以上だと被保険者(扶養する人)の扶養から外れることになり、別途社会保険に加入して自分で保険料を払わなければいけません。
家族の扶養に入って保険料負担が生じないようにするには、年間収入を130万円未満に抑える必要があり、これがいわゆる「130万円の壁」です。年間収入とは、扶養家族に該当する時点および認定された日以降の年間の見込み収入額を指します。
年間収入には給与収入だけでなく、交通費、雇用保険の失業等給付や健康保険の傷病手当金、出産手当金なども含まれる点に注意が必要です。パート収入など給与収入がある場合は、一般的に直近3ヶ月の収入状況を基準に年間130万円以上かどうかを判断します。
130万円以上でも被扶養者に該当する条件
60歳以上または障害者の場合、基準額は130万円ではなく180万円です。年間収入が130万円以上でも、180万円未満でその他の条件を満たす場合には家族の扶養に入れます。
106万円以上の場合、2022年より条件拡大に注意
2021年9月現在の法律では、パートなどの短時間労働者(労働時間が通常の労働者の4分の3未満の人)が従業員数500人超の企業で働く場合、賃金が月額8.8万円以上など一定の条件を満たすと社会保険に加入しなければいけません。条件に該当した場合には家族の社会保険の扶養に入るのではなく、自分が社会保険に加入する仕組みです。
この規定が2022年10月から改定され、500人超ではなく100人超の企業が対象になります。賃金月額8.8万円以上、つまり年間でおよそ106万円以上を稼ぐ人の中には、この法改正によって新たに社会保険の加入義務が生じる人がいるということです。また、2024年10月からは従業員数50人超の企業が対象となる予定です。
社会保険の加入要件に該当すると家族の扶養からは外れて、自分自身で社会保険に加入して保険料を納めなければいけません。年収が106万円以上の人は、パートなどをしている勤務先が新たに対象になるのかどうか、事前に確認するようにしましょう。
なお8.8万円以上かどうか判定する際の賃金とは、あらかじめ決まっている賃金を指します。賞与や残業代、通勤手当などは含めません。
103万円、150万円、201万円は税制上の条件
社会保険の扶養条件である130万円や180万円と混同しやすい金額に、103万円・150万円・201万円があります。これは所得税の計算で使う、税制上の条件に関する金額です。
配偶者の年間給与収入が103万円を超えると所得税の配偶者控除の適用を受けられず、150万円を超えると配偶者特別控除の控除額が満額より少なくなります。
また配偶者の年間給与収入が201万円までであれば配偶者特別控除の適用を受けられますが、202万円以上になると適用を受けられません。
社会保険の扶養条件② ~親の扶養条件~
定年退職した後などで収入がない高齢の人にとっては、社会保険料などの負担は少しでも軽くしたいところです。条件を満たして子の社会保険の扶養に入れれば、保険料を負担せずに社会保険の適用を受けられます。
親が子の社会保険の扶養に入れるかどうかを判断する際、ポイントになるのが年金の取り扱いと年齢の2点です。親の年齢が75歳以上だと子の扶養家族にはなれません。
年金を受給している親の場合
老齢年金や障害年金、遺族年金などの公的年金は、所得税法上は非課税で税額計算に含まれません。しかし社会保険の扶養条件の判定では本人の収入額に含まれます。
そのため親の年金額が130万円(60歳以上または障害者の場合は180万円)以上だと子の扶養家族にはなれません。
例えば親が国民年金の老齢基礎年金を受け取っている場合は、満額受給でも約78万円であり扶養に入れる可能性が高くなりますが、厚生年金の老齢厚生年金の場合は、受給額が年間で130万円を超えて扶養に入れない場合があります。
後期高齢者医療制度等に加入している親の場合
75歳以上の人は後期高齢者医療制度に加入します。74歳まで別の医療保険に加入していた場合でも、75歳になると後期高齢者医療制度に移る仕組みです。
74歳まで子の扶養に入っていた場合でも75歳以降は後期高齢者医療制度に強制加入となるため、扶養から外れることになります。また75歳以上の親が加入している後期高齢者医療制度を抜けて子の扶養に入ることはできません。
社会保険の扶養条件③ ~大学生、他~
学生でアルバイトをしている子や個人事業主、退職者が家族の中にいる場合も、社会保険の扶養の収入条件は他の場合と基本的に同じです。年収130万円(60歳以上または障害者の場合は180万円)未満が扶養に入るための条件のひとつになります。
ただし学生の場合は年金保険料に注意が必要で、個人事業主や退職者の場合は年収の見込額の考え方に注意が必要です。
学生アルバイトの収入条件
学生が家族の扶養に入るためには年収が130万円未満である必要があります。
年収が130万円以上の場合は親など家族の扶養には入れず、自分で社会保険に加入して保険料を払わなければいけません。加入する社会保険はケースによって異なりますが、自治体が運営する国民健康保険に加入するのが一般的です。
また130万円以上もの収入がある学生の場合、社会保険関係では年金の保険料にも注意しなければいけません。所得額が次の額を超えると公的年金の学生納付特例の適用対象外になります。
- 128万円+扶養親族等の数×38万円+社会保険料控除等
この金額以上の所得を得ている学生は特例を受けられず、年金保険料の納付が必要になります。国民年金の第1号被保険者に該当する場合の保険料額は16,610円(令和3年度)です。
個人事業主や退職者の収入条件
年収が130万円未満であれば個人事業主や退職者でも家族の扶養に入れます。例えば開業届を出して個人事業主になったからといって、家族の扶養に入れない又は扶養から外れるといったことはありません。(ただし健康保険組合の中には、独自に規定を設けて加入条件が追加されている場合があります)
そして個人事業主や退職者の収入条件を考える際、注意が必要なのが年収の見込額の求め方です。例えば起業したばかりや退職したばかりで、起業や退職をする前と後で状況が大きく変化している場合は、前ではなく後の状況に基づいて見込額を判断します。パート収入がある配偶者などのように、直近3ヶ月間の給与をもとに考えるわけではありません。
独立前や退職前に会社に勤務していた頃に収入を得ていた場合でも、現在収入がなければ家族の扶養に入れる場合があります。家族が加入している健康保険組合などに扶養条件を確認するようにしましょう。
失業給付金や出産手当金を受給中は注意
社会保険の扶養条件である年収130万円未満かどうかを判断する際、勤務先から受け取る給料やパート代などだけでなく、失業給付金や出産手当金なども年収に含めて判定します。
そのため例えば退職して失業給付を受給する場合、受給額によっては要件を満たさないことがあるため注意が必要です。その場合は家族の扶養には入れず、国民健康保険などに加入しなければいけません。
また健康保険組合によっては独自に規定を設けて、失業給付や出産手当の日額が一定額以下であることを扶養条件のひとつにしている場合があります。
社会保険の扶養条件④ ~家族関係と居住条件~
社会保険で家族の扶養に入るためには、収入要件に加えて一定範囲内の家族であることが要件になります。対象範囲に含まれない家族は扶養には入れません。
さらに対象となる家族の中には被保険者との同居が要件になる人とそうでない人がいます。扶養に入れる人の範囲や同居の有無など扶養条件を正しく理解しておくことが大切です。
被保険者の家族とは
社会保険の扶養に入れる家族とは、被保険者に生計を維持されている3親等以内の家族です。親等とは親族関係の遠近を表す単位で、例えば両親や子は1親等、祖父母や兄弟姉妹、孫は2親等にあたります。
税制上の規定とは異なり、社会保険の場合は婚姻届を出していない内縁関係の配偶者も扶養の対象です。
同居の有無について
3親等以内の家族の中には、被保険者と同一世帯であること、つまり同居して家計を共にしていることが扶養に入るための条件になる人がいます。
①同一世帯要件が不要な家族
- 直系尊属
- 配偶者(内縁関係の配偶者を含む)
- 子、孫、兄弟姉妹
②同一世帯要件が必要な家族
- ①以外の3親等以内の親族
- 内縁関係の配偶者の父母や子
- 内縁関係の配偶者の死亡後における父母や子
なお同一世帯であるかどうかは実態で判断します。例えば入院中で住居が別々になっていても、家計を共にしている状態であれば、同一世帯要件を満たしているものとして扱われる場合があります。
国内居住が必要になる
社会保険の扶養に入れる人は原則として日本国内に住所を有する人です。この条件は国内居住要件と呼ばれるもので、住民票が日本にあるかどうかで判断されます。以前はこの要件はありませんでしたが、2020年4月から条件として追加されました。
例えば一定期間にわたって海外で生活している場合でも、日本に住民票があれば国内居住要件を満たします。海外生活をしているという理由だけで扶養から外れるわけではありません。
また海外への短期間の留学や出張などは例外的に扱われます。住民票が国内にない場合でも、日本国内に生活の基礎があるものと認められれば、扶養に入ることが可能です。
社会保険の扶養条件⑤ ~生計維持関係について~
社会保険の扶養家族になれるのは被保険者となる人に生計を維持されている人です。生計維持関係にない家族は、たとえ収入要件など他の条件を満たしていても扶養には入れません。
ここではどのような状況にあると生計維持関係が認められるのか、判断の基準について紹介します。
「生計維持関係にある」状況とは
生計維持関係にあるかどうかは原則として次の基準で判断します。
- 同居の場合:被扶養者の年収が被保険者の年収の2分の1未満かどうか
- 別居の場合:被扶養者の年収が被保険者からの仕送り額未満かどうか
例えば家族が同居しているケースで被保険者の年収が160万円、被扶養者の年収が80万円未満の場合、「被扶養者の年収が被保険者の2分の1未満」と「被扶養者の年収が130万円未満」の2つの条件を満たすため、社会保険の扶養家族に該当します。
例外的に生計維持関係が認められるケース
同居の場合に生計維持関係が認められるのは、原則として被扶養者の年収が被保険者の年収の2分の1未満の場合です。しかし2分の1以上の場合でも、130万円未満かつ被保険者の年収を上回らず生計が維持されていると認められるときは、扶養に入れることがあります。
そのため年収が2分の1以上の場合でも、まずは被保険者が加入している健康保険組合などに問い合わせて、扶養家族になれるかどうか確認するようにしましょう。
所得税の扶養控除対象となる条件
一定の条件を満たす家族がいる場合、所得税を計算する際に税率をかける前の金額から一定額を控除できます。扶養控除や配偶者控除、配偶者特別控除と呼ばれる控除制度です。要件を満たして一定額を控除できれば税負担を軽減できる場合があります。
社会保険と所得税では扶養家族の考え方が違うため、扶養条件を混同しないように注意しましょう。
所得税の扶養控除対象者の範囲
所得税法上の扶養家族とはその年12月31日(納税者が年の中途で死亡した場合は死亡時)に次の4つの要件すべてを満たす人です。
- 16歳以上の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族)、配偶者又は都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人である
- 納税者と生計を一にしている
- 年間の合計所得金額が一定額以下である
- 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと
社会保険の扶養家族と異なり、所得税法上の扶養家族には内縁関係の妻や夫は含まれません。
同一生計がどうかは、同居して養われていれば基本的に生計を一にしているものと認められます。例えば大学生の子が一人暮らしをしている場合でも、仕送りを受けて生活している場合は一般的には同一生計の扱いです。
また所得税法上の扶養家族に該当するためには、次に解説する所得基準を満たす必要があります。
所得基準と控除額
配偶者がいる場合に適用を受けられる配偶者控除・配偶者特別控除と、その他の親族がいる場合に適用を受けられる扶養控除では、所得基準や控除額が異なります。
配偶者控除
配偶者控除の適用を受けられるのは、配偶者の合計所得金額が48万円以下(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)の場合です。
配偶者だけでなく納税者本人の所得にも条件があり、納税者本人の所得が1,000万円以下でなければいけません。控除額は以下の表のとおりです。なお老人控除対象配偶者とは70歳以上の配偶者を指し、一般の控除対象配偶者とはそれ以外の配偶者を指します。
配偶者特別控除
配偶者特別控除の適用を受けられるのは、配偶者の合計所得金額が48万円超133万円以下の場合です。控除額は配偶者や納税者本人の所得額によって変わります。
扶養控除
扶養控除の適用を受けられるのは、家族の合計所得金額が48万円以下(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)の場合です。家族が次のいずれに該当するかによって控除額が変わります。
- 控除対象扶養親族:扶養親族のうち、年齢が16歳以上の人
- 特定扶養親族:控除対象扶養親族のうち、年齢が19歳以上23歳未満の人
- 老人扶養親族:控除対象扶養親族のうち、年齢が70歳以上の人
- 同居老親等:老人扶養親族のうち、納税者又はその配偶者の直系尊属(父母・祖父母など)で、納税者又はその配偶者と普段同居している人
扶養から外れて社会保険に加入するメリット・デメリット
条件を満たさなくなり家族の扶養から外れると、社会保険料負担が生じるなどデメリットが生じますが、一方でいくつかのメリットもあります。メリットとデメリットを比較して、メリットのほうが大きい場合は、敢えて家族の扶養から外れるのも選択肢のひとつです。
ここでは扶養から外れて自分で社会保険に加入するメリット・デメリットを紹介します。
社会保険加入のメリット
パートなどで得る給料を増やして厚生年金の加入対象になれば、自分で年金保険料を納めることになり老後に老齢厚生年金を受け取れます。老齢厚生年金は収入に応じて将来の年金額が増える仕組みで、社会保険加入によって年金の受給額が増える点がメリットです。
逆に家族の扶養に入って国民年金の第3号被保険者のままだと、将来もらえる年金額は約78万円で、現在の収入に応じて将来の年金額が増えることはありません。
また自分で社会保険に加入していれば傷病手当金や出産手当金の支給対象になります。130万円の壁などを気にせず働けるため、世帯収入を増やせる点もメリットといえるでしょう。
社会保険加入のデメリット
家族の扶養から外れて自分で社会保険料を払うようになると、給料から社会保険料が引かれて手取りが減ってしまいます。控除される社会保険料は給与の総支給額のおよそ20%です。手取りが減ることによる生活への影響は決して小さくありません。
また会社によっては扶養家族がいると扶養手当が出る場合があります。家族が扶養から外れて扶養手当が支給されなくなると、世帯全体では収入が減る点に注意が必要です。配偶者控除や扶養控除などが適用できなくなれば、配偶者の所得税負担が増える点にも注意しましょう。
社会保険の被扶養者となる手続き
扶養条件を満たした家族を社会保険の被扶養者にするには届出が必要です。条件を満たした場合でも自動的に社会保険の扶養に入れるわけではありません。必要書類を揃えて期限までに手続きを終えるようにしてください。
必要な書類と提出先
被保険者が協会けんぽに加入している場合は日本年金機構に、健康保険組合に加入している場合は健康保険組合に書類を提出します。手続きで必要になる主な書類は以下のとおりです。
- 被扶養者(異動)届
- 続柄確認のための書類(被保険者の戸籍謄本や住民票など)
- 収入要件確認のための書類(課税証明書など)
- 仕送りの事実と仕送り額が確認できる書類(該当する場合のみ)
- 内縁関係を確認できる書類(該当する場合のみ)
収入要件確認のための書類は、自営業者であれば直近の確定申告書の写しを、年金受給者であれば年金受給額が分かる年金額の改定通知書を提出します。また被扶養者が別居していて仕送りを行っている場合は、仕送り額が明記されている通帳のコピーや現金書留のコピーなどが必要です。
提出期限
被扶養者となるための手続きは、事実発生の日から5日以内に行うこととされています。提出が遅れると追加で書類の提出を求められる場合があるので、手続きは期限までに行うようにしてください。
監修社労士コメント
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まとめ)社会保険の扶養条件について社労士に相談しよう
社会保険の扶養家族として認められるには、法律で決められた条件を満たす必要があります。年収の基準は原則130万円未満で、60歳以上または障害者の場合は180万円未満です。人によっては同一世帯要件も満たさなければいけません。
社会保険の扶養条件の判定では専門的な知識が必要になり、自分で判断しようとすると迷う場合があります。社労士に相談すれば社会保険の手続きをミスなくスムーズに進められるので、社会保険の扶養条件は専門家である社労士に相談しましょう。
この記事を監修した社労士
ドラフト労務管理事務所 - 大阪府大阪市東成区中道