可憐な白い花を咲かせるネズミモチは、庭木としてもおすすめです。生け垣やシンボルツリーに取り入れれば、花だけでなく実や鮮やかな葉も楽しめるでしょう。
この記事ではネズミモチの特徴や育て方、剪定などの手入れ方法や知られざる実や葉の効能など、その魅力を解説していきます。
ネズミモチの特徴
ネズミモチは濃い緑色の葉と美しい白い花、秋になると実を楽しませてくれる常緑性の花木です。ネズミモチの特徴や名前の由来、花言葉を紹介します。
常緑性の小高木
植物名 | ネズミモチ |
学名 | Ligustrum japonicum |
科名 / 属名 | モクセイ科 / イボタヌキ属 |
原産地 | 日本、中国、朝鮮半島、台湾 |
開花期 | 6月 |
花の色 | 白 |
樹高 | 2~6m |
特性 | 常緑性 |
ネズミモチの栽培カレンダー
ネズミモチは、モクセイ科イボタノキ属に属する常緑性の小高木です。別名「タマツバキ」とも言います。成長すると2~6mほどの高さになります。
原産地は中国や台湾、朝鮮半島、日本と広範囲です。日本では、主に関東以西の低地に多く見られます。
葉は光沢のある卵型
ネズミモチの葉は光沢のある卵形をしています。葉の大きさは長さ4~8cm、幅1~2cmほどです。先端部分は尖っていて厚みがあり、色は濃い緑をしています。
実は黒紫色の楕円形
11月頃に成る実は、黒紫色の楕円形をしています。実の大きさは、おおよそ9mmと小さいです。
ネズミモチの実は食べることができます。少々苦いですが、毒性はないので安心してください。
6~7月に花を咲かせる
ネズミモチは、6月から7月にかけて白い花をたくさん咲かせます。花は5~6cmと小さく、香りが強いのが特徴です。
名前の由来
ネズミモチ(鼠黐)という名前は、「実がネズミのフンに似ていること」「葉がモチノキに似ていること」に由来しています。
ネズミのフンは小さな楕円形です。ツブツブしたネズミモチの実は、確かによく似ています。
モチノキは、モチノキ科モチノキ属に属する高木です。ネズミモチと同様に、葉は全体が1枚の葉身でできている「単葉」です。
両者を見分けるときは、葉のつき方に注目するとよいでしょう。
ネズミモチ |
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モチノキ |
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ネズミモチの効能
ネズミモチの実は、昔から漢方として利用されてきました。効能の一部を紹介します。
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花言葉は「名より実」
ネズミモチの花言葉は「名より実」です。
ネズミモチの実には強心や利尿作用などと言った効能があり、古くから強壮薬として用いられてきた歴史があります。
ネズミのフンから来ている名前よりも、薬としての効能がある実が選ばれてきた背景から、このような花言葉が付けられたのです。
ネズミモチの種類
ネズミモチには、同じ種類に属する品種が5つあります。1つずつ解説します。
トウネズミモチ
植物名 | トウネズミモチ |
学名 | Ligustrum lucidum |
科名 / 属名 | モクセイ科 / イボタノキ属 |
原産地 | 中国 |
開花期 | 6~7月 |
花の色 | 白 |
中国原産のトウネズミモチは生育旺盛で芽吹きがよく、ネズミモチよりも大型なのが特徴です。生育状況によっては10mを超えるものもあります。
公演や路側帯に植えられていることが多いため、身の回りのトウネズミモチを探してみるのもよいかもしれませんね。
トウネズミモチ トリカラー
植物名 | トウネズミモチ トリカラー |
学名 | Ligustrum lucidum ‘Tricolor’ |
科名 / 属名 | モクセイ科 / イボタノキ属 |
開花期 | 6~7月 |
花の色 | 白、ベージュ |
トウネズミモチ トリカラーは、その名の通り葉が3色のネズミモチです。緑の葉に、赤系の縁と白い斑が見られます。
冬になると葉の黄色を強め、赤色も強く発色して緑・黄・赤の3色のコントラストを美しく放ちます。
フクロモチ
植物名 | フクロモチ |
学名 | Ligustrum japonicum |
科名 / 属名 | モクセイ科 / イボタノキ属 |
開花期 | 6月 |
花の色 | 白 |
フクロモチは、コンパクトな樹形をしたネズミモチの変異種です。
樹高はネズミモチが大きいもので6mほどまで育つのに対し、フクロモチは2mほどまでしか育ちません。生育が遅く、可愛らしい見た目を長期に渡って楽しませてくれるのが特徴です。
また葉の長さは3~4cmほどで、丸みを帯びた形状をしています。
プリペット
植物名 | プリペット |
学名 | Ligustrum vulgare |
科名 / 属名 | モクセイ科 / イボタノキ属 |
開花期 | 5~6月 |
花の色 | 白 |
プリペットは、香りのよい白い花をつける落葉低木です。中国原産のシネンセ種で、近年は生垣用としての需要が高まっています。
「プリペット」の名で広く知られていますが、本来の発音は「プリベット」です。
シルバープリペット
植物名 | シルバープリペット |
学名 | Ligustrum sinense |
科名 / 属名 | モクセイ科 / イボタノキ属 |
開花期 | 5~6月 |
花の色 | ベージュ |
シルバープリペットは、プリペットと同じシネンセ種です。通常のプリペットとは違い、葉には白色の斑があります。斑入りの葉が庭に彩りと変化を与え、華やかな印象に仕上げてくれるでしょう。
丈夫なため、生垣や垣根として広く愛されている花木です。
ネズミモチとトウネズミモチの違いは?
ネズミモチとトウネズミモチは、見た目がよく似ています。2つの違いについて詳しく説明します。
花の違い
ネズミモチとトウネズミモチは、どちらも白色の花を咲かせますが、花の大きさや咲き方が異なります。
ネズミモチの花は6mm前後と大きく、1つの枝から円すいの形になるようにまとまって咲きます。トウネズミモチの花は3mm前後と小さく、四方八方に咲きます。
実の違い
ネズミモチとトウネズミモチは、それぞれ異なる実の特徴があります。
ネズミモチの実は楕円形であるのに対し、トウネズミモチの実は丸形をしています。色もトウネズミモチの方が黒っぽいです。
生薬「ジョテイシ」に変身するネズミモチ
ネズミモチは、観賞用以外の用途も様々あります。おすすめの活用方法を見ていきましょう。
ジョテイシという生薬になる
ネズミモチの実を乾燥させたものは「ジョテイシ(女貞子)」と呼ばれます。古くから生薬として親しまれてきました。代表的な例を紹介します。
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治療目的によって、使われるネズミモチの部分が異なります。
治療目的 | |
樹皮 | 風 |
葉 | 解熱 |
根 | 咳 |
現代でも、ジョテイシのエキスは市販の滋養強壮ドリンクやカプセルなどに多く配合されています。胃癌を治療している方が、漢方としてジョテイシを家で飲んでいるケースもあるようです。
現在流通しているジョテイシのほとんどは、同属で中国原産のトウネズミモチです。ネズミモチ由来のジョテイシを見つけるのは、難しいかもしれません。
お茶にして飲むのがおすすめ
生薬としての効果を期待するなら、ネズミモチの実からお茶を作ってみてはいかがでしょうか。ネズミモチ茶の作り方を紹介します。
【手順】
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弱火で煮れば、生薬エキスのたっぷり入ったお茶が完成します。秋から冬にかけてのしっかり成熟した実を摘むのがポイントです。
葉や樹皮を使いたい場合は、夏場に採取し、よく洗って天日干ししておきましょう。
ネズミモチエキスの作り方
ネズミモチの効力をぎゅっと濃縮したのがネズミモチエキスです。生薬としてネズミモチを活用したい人におすすめできます。
【手順】
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水分が減ってドロッとするまで煮詰めたら、エキスの完成です。そのまま口に入れるのもよいですが、苦みがあるので、苦手な人は料理に混ぜるのがおすすめです。
ネズミモチ育て方のポイント
ネズミモチは、比較的手のかからない常緑樹です。生育の難易度は低いといえますが、長く楽しむためには、注意しておきたいポイントを押さえておきましょう。
育てる環境
ネズミモチが成長するためには、多くの光合成が必要です。生育する際は日当たりのよい場所を選ぶのがよいでしょう。
ただし、「日陰に植えてしまうとまったく育たない」というわけではありません。ネズミモチには耐陰性もあるため、ある程度の日陰でも育ちます。
ネズミモチは排気ガスや潮風にも強い種です。大きな道路や海のそばでも育てられます。
用土
用土に関してはさほど神経質になる必要はありません。どのような土質でもよいですが、好ましいのはやや湿り気のある用土です。
乾きすぎず粘り気のある粘土質の用土を選びましょう。あまりに乾燥した用土に植えてしまうと、花ぶりや枝ぶりが悪くなる恐れがあります。
庭木でネズミモチを育てる場合、「腐葉土(ふようど)」がおすすめです。
植え付け・植え替え
ネズミモチの植え付け・植え替えは、以下の時期がおすすめです。
- 芽吹く前の3月
- 梅雨に入っている6月中旬~7月中旬
ネズミモチの生育期にあたる春もしくは秋の間に、植え付け・植え替えを行ってください。
水やり
ネズミモチを植え付けてから根付くまでは、たっぷりと水をやります。土がしっかり乾いたころを見計らって水やりをしましょう。
一度ネズミモチが根付いてしまえば、基本的に水やりは不要です。特に冬場は、水やりに手をかける必要はありません。
ただし、地面がひび割れするほど乾燥が激しい状態は、育成状況に悪影響を及ぼします。「長期間にわたり雨が降らない」という状況であれば、適度に水やりをしてください。
肥料
肥料は葉色が悪いと感じたときに与えます。2~3月の間に、緩効性の化成肥料を株元にまけばOKです。
ネズミモチの手入れの方法
ネズミモチを成長速度が早く、きれいな樹形を保つには適切な手入れが必須です。また、計画的に株数を増やしたいなら、増やし方についても知っておくとよいでしょう。
ネズミモチの剪定方法や増やし方について紹介します。
剪定は1年に2回程度
ネズミモチは葉が生い茂って樹形が崩れやすいため、年に2回は剪定しなければなりません。特に生垣としてネズミモチを植えている場合は、年に2~4回は刈り込みを行いたいところです。
剪定の時期は、ネズミモチの成長が止まる6~7月と11~12月がおすすめです。ただし、花を楽しみたいなら、花が終わる7月以降まで待ちましょう。
剪定するときは、大きく飛び出した枝を切って樹形を整えます。さらに内部の密集具合がひどいと感じたら、内部の枝も切り落とします。
枝が混み合って日当たりや風通しが悪くなると、病害虫が発生するかもしれません。内側・外側から全体のバランスを見て、樹形を整えていきましょう。
挿し木で増やせる
ネズミモチを増やしたい場合は、挿し木をするとよいでしょう。挿し木は、梅雨時で湿度の高い6~7月か9月ごろが最適です。
挿し木にする部位は、ある程度固さのある新芽がおすすめです。手順を紹介します。
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挿し木するときは、乾燥しにくい日陰の場所を選びましょう。挿し木をした後、根や芽の生え方を確認しながら、徐々に光や風に当てていくのがおすすめです。
気をつけたい虫や病気
ネズミモチは比較的育てやすい樹木です。しかし、風通しや日当たりが悪いと、病害虫被害に遭う可能性があります。ネズミモチを育てていく上で、注意すべき虫や病気を見ていきましょう。
マエアカスカシノメイガに注意
ネズミモチを育てるときに、警戒したいのが「マエアカスカシノメイガ」です。蛾の一種で、ネズミモチの葉に卵を産み付けます。
卵からかえった幼虫は新芽などを食べてしまうため、見つけ次第駆除してください。予防として薬剤を散布しておくとよいでしょう。
このほかに懸念される虫害としては「カイガラムシ」によるものがあります。カイガラムシは枝、葉、芽に寄生して汁を吸う上、菌を媒介します。こちらも、見つけ次第、早急な駆除が必要です。
斑紋(はんもん)病とウドンコ病
ネズミモチの病害としてよく見られるのは、斑紋(はんもん)病やウドンコ病です。
斑紋病にかかると、葉に黒っぽい円形の斑紋ができます。
葉や茎が粉を吹いたように白くなるのがウドンコ病です。葉や茎に異変が見られたら、病気の部分を早急に取り除きましょう。
また、こうした病気を発症するときは、風通しや日当たりが悪くなっている恐れがあります。枝や葉が密集していると感じたら、併せて剪定も行わなければなりません。
ネズミモチを育ててみよう
ネズミモチは、育てるのがさほど難しくなく、塩害・化学物質などへの耐性が強いことから、生垣などに多用されます。一見するとごく普通の木ですが、白い花をつけた様子は観賞用としても楽しめます。
ネズミモチの樹形を整えるためには小まめな剪定が必要ですが、水や肥料やりの手間はさほどありません。
また手入れが簡単な植栽をガーデニングに取り入れたい方は「宿根草」の栽培もおすすめです。一度植えると毎年きれいな花を楽しませてくれるため、ネズミモチと一緒に育ててみてはいかがでしょうか。
植木として実や葉を鑑賞するだけでなく、生薬として楽しむこともできるネズミモチ。庭木に取り入れて、緑にあふれた庭づくりを楽しんでみてはいかがでしょうか。