個人事業主になった場合、管轄の税務署に対して「開業届」を提出する必要があります。提出の期限は原則として「開業した日から1か月以内」です。しかし期限を過ぎた場合でも罰則はなく、遡って提出することもできます。
また提出のタイミングによっては、メリットやデメリットが発生することも。自身の環境に最適なタイミングを押さえて、幸先の良い事業のスタートを切りましょう。
この記事を監修した税理士
越智聖税理士事務所 - 愛媛県松山市天山
基本的に開業日から1か月以内に提出しよう
原則として開業届の提出タイミングは「開業した日から1か月以内」です。これは所得税法第229条で定められている規則です。
例えば4月1日にフリーランスとして開業した場合、同年4月30日までに開業届を提出する必要があります。なお提出期限の最終日が土日祝日である場合は、次に訪れる平日が提出期限となります。
また開業届を提出しなくても事業の継続は可能ですが、税制面で不利になるケースもあるため注意が必要です。
期限を過ぎても罰則はないがデメリットはある
開業届が未提出だったり提出が遅れたりしても、特に罰則はありません。ただし開業届の提出が遅れると、以下のようなデメリットが生じます。
【開業届の提出が遅れたときのデメリット】
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開業届の提出が遅れると、結局自分が損をすることになります。事業をスムーズに発展させるためにも、開業届はなるべく早いうちに提出しましょう。
このタイミングで開業届を出そう!5つの判断基準
適切な開業届を出すタイミングは、個々の所得額や受けたい法的制度等によっても異なります。適切なタイミングで開業届を提出できれば、法律の恩恵を最大限に受けて開業することが可能です。
また開業日を決定する法的な基準は特段定められていません。そのため自分が都合の良いタイミングを開業日とし、1か月以内に税務署へ手続きを行いましょう。
所得が一定の金額を超えた場合【職業別に要件が異なるので注意】
所得が一定の金額を超えた場合は、そのタイミングから1か月以内に開業届を提出してください。「一定の金額」は個々の事業の実態によって異なるため注意が必要です。
事業の実態 | 開業届を提出するべき所得 |
会社員の副業の場合 | 所得20万円超 |
専業の事業主の場合 | 所得48万円超 |
【副業として事業に取り組んでいる場合】
副業として事業に取り組んでいる場合は「所得20万円超」が開業届提出のタイミングとなります。会社員の副業である場合、所得20万円以下であれば所得税の申告義務が生じないためです。
基本的に勤め先の年末調整のみで所得税の清算が可能となっています。もちろん開業届を出しても差し支えありませんが、行うべき手続きが増えるので、負担が増加してしまいます。
【専業の事業主の場合】
専業の事業主の場合は「所得48万円超」が開業届の提出タイミングです。専業の事業主の場合、所得が48万円以下であれば負担する所得税額は0円となります。
しかし所得が48万円を超えると、課税所得が発生し、税金の納付を必要とする場合があります。その際に開業届を提出し、青色申告を活用しておくと、最大65万円の特別控除を受けることができるのです。
その結果、特別控除分の課税所得が減少して大きな節税に繋がります。青色申告を活用するには、開業届の提出が義務であるため、同時に提出すると良いでしょう。
事業が赤字で収入なしの場合
事業が赤字で収入なしの場合でも、開業届を出した方がお得です。
【副業として事業に取り組んでいる場合】
副業の場合は給与から赤字分を差し引くことができるため、確定申告をすれば源泉徴収されていた所得税の還付を受けることができます。節税につながるため、すぐにでも開業届を提出しましょう。
【専業の事業主の場合】
個人事業主の場合は、青色申告の赤字繰越3年分を利用することができます。今後、黒字を見込めるようであれば、開業届を出したほうが良いでしょう。
退職後に再就職手当を受けたい場合
退職後に再就職手当を受けたい場合は、退職後のタイミングで開業届の提出を行いましょう。再就職手当の「再就職」の定義には、個人事業主として開業することも含まれているためです。
しかし退職して開業届を提出した方全員が再就職手当を受けられる訳ではありません。手当を受けるには一定の支給要件が定められているので注意が必要です。
【再就職手当の支給要件】
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失業保険(失業手当)を受け取りたい方は提出するタイミングに注意
退職後に失業保険を受け取りたい方は、開業届を提出するタイミングに注意が必要です。
通常退職した会社で雇用保険に加入していた場合、失業期間中に「失業保険(失業手当)」が受けられます。しかし失業給付を受けられる条件として「再就職の意思があること」が存在するのです。個人事業主として開業する場合「再就職の意思がない」と判断され、失業給付の対象外となってしまいます。
そのため退職後に失業手当を受給したい場合は、すぐに開業届を提出せず、適切なタイミングを伺いましょう。
イベントを開きやすい日を開業日にしたい場合
「◯周年記念」などのイベント開催を検討している場合は、開催したい日から1か月以内に開業届を提出しましょう。
例えば店舗型ビジネスなどの場合、イベントがクリスマスやお正月、お盆等と被ってしまうと、集客が難しくなる恐れがあります。つまりイベントを開催する予定ならば、集客が見込めないタイミングでの開業は避けるべきです。
事業の開業日は必ずしも「お店の開店日」とする規則はありません。イベントの効力が高まるタイミングを開業日と設定して、1か月以内に開業届の提出を行いましょう。
縁起の良い日を開業日にしたい場合
「縁起の良い日を開業日にしたい」場合は、縁起の良い日から1か月以内に開業届の提出を行いましょう。開業日には厳密な規定がないため、縁起の良い日に合わせて決定することも可能となっています。
しかし一概に「縁起が良い日」と言っても多岐に渡るので、それぞれの意味を良く調べて決定することがおすすめです。
【縁起の良い日】
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中でも「最強の開運日」は「一粒万倍日」と「寅の日」が重なる日です。カレンダーでタイミングを調べて、その日を開業日に設定するのもよいかもしれません。
開業届を提出する際の注意点
開業届には提出が遅れた場合の罰則がありませんが、青色申告承認申請書の場合はデメリットが生じるため注意が必要です。また開業届を出すことで健康保険上の扶養から外れる恐れもあります。
ほかにも「開業届は開業前に提出できる?」と疑問に思う方もいるかもしれませんが、原則として開業後でないと提出できません。
開業届の提出で損をしないためにも適切な知識を身に付け、いちばん良いタイミングで手続きを行いましょう。
青色申告の控除を受けるには年内の開業が必要【年末に提出予定の方は注意】
青色申告で確定申告を行うためには「開業届」と「青色申告承認申請書」の提出が義務となっています。そして青色申告承認申請書には提出期限が定められています。
【青色申告承認申請書の提出期限】
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これらの提出期限を過ぎてしまうと、その年は青色申告ができないため注意が必要です。特に「開業届は遅れても罰則がない」と考えていると、青色申告承認申請書の提出期限を過ぎる恐れがあります。
また前年に所得がある場合であっても、開業日を年明けにするならば前年分は青色申告ができません。
例えば2021年に事業所得があるにも関わらず、開業日を2022年1月とする場合で考えます。この場合2021年分の確定申告は白色申告となり、青色申告が可能となるのは2022年分からです。2021年に青色申告をするならば、遅くても2021年の年末を開業日として手続きする必要があります。
健康保険上の扶養が外れる可能性がある
開業届を提出すると、健康保険上の扶養から外れる恐れがある点に注意しましょう。各組合によっては「個人事業主ではないこと」と定められている場合があるためです。
これには個人事業主の所得が問われていない場合もあります。つまり所得が低いにも関わらず、扶養から外れ、結果的に支払う費用が増加する可能性も発生するのです。
そのため事前に各種健康保険組合の規則を確認した上で、損をしないタイミングで開業届の提出を行いましょう。
開業届は開業前に提出できない
開業届は開業前のタイミングでは提出できません。中には「未来の開業日を記載して先に提出を行う」と考える方もいますが、原則として不可能です。
場合によっては開業日前の提出であっても、税務署で収受してくれるケースもあります。しかし原則はあくまで「開業後1か月以内に提出」のため、規則を守って手続きを行いましょう。
開業届はさかのぼって提出できる
開業届の開業日は、提出日からさかのぼって記載できます。例えば2020年1月1日に開業をしているが、2022年現在も開業届の提出をしていないとします。この場合、開業日はそのまま「2020年1月1日」として、2022年のタイミングで提出しても差し支えありません。
開業届は提出が遅れる罰則がない上に、提出しないとできない手続きもあるため、遡ってでも提出するべき場合もあります。
なお提出の「開業日」は遡って提出できますが、税務署の「収受日」は遡れない点に注意が必要です。
嘘の開業日を書いて無申告期間を少なく見せるのはやめるべき
開業届に嘘の開業日を記載して、無申告期間を短く見せることはするべきでありません。具体的には「2018年から事業をしているが、無申告を誤魔化すため開業日を2020年にする」等です。
虚偽の記載を行っても税務署を欺くことは難しいです。それどころか記載した嘘によって悪質な事案であると判断される可能性もあります。そのため提出のタイミングが遅れる場合であっても正しい開業日を記載して手続きを行いましょう。
また確実にばれると考え、無申告分を自ら早急に申告すれば最終的な納税額を抑えることが可能となります。
監修税理士からのコメント
越智聖税理士事務所 - 愛媛県松山市天山
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この記事の監修税理士
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