日本では多くのサラリーマンに社内規定で専業義務が課されています。しかし昨今では働き方改革の影響もあり、副業を認めている会社も少なくありません。
副業で大きく稼いでいるという方は会社設立を行なえば、節税効果を得られる可能性があります。サラリーマンが会社を設立するべきタイミング、勤務先にバレない方法やメリットについてわかりやすく解説します。
この記事を監修した税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
働きながら会社を設立するベストタイミング
サラリーマンが働きながら会社設立を行なうには、丁度良いタイミングがあります。副業の利益が500万円を超えた時や、副業における課税売上高が1,000万円を超えた時に法人化すれば、大きな節税効果を期待できるでしょう。
また副業が不動産運用であれば「不動産収入+給与所得」の額が700万円を超えた時が適したタイミングです。
副業の利益が500万円を超える
サラリーマンが個人事業主として副業を行なう場合、利益(収入−経費)の金額に応じて所得税が、会社設立をした場合は会社の所得金額に応じて法人税がかかります。
下の表の通り、個人事業主の所得税の税率は最小5%です。しかし所得が上がると、税率は最大45%まで上がってしまいます。この他に住民税(一律10%)と個人事業税(ほとんどの業種は5%)もあります。
一方で法人の場合は、所得金額が高くても法人実効税率(法人税・法人住民税・法人事業税)は最大34%程度(開始事業年度が平成31年4月1日以後の普通法人の場合)です。所得(利益)が一定額に達した場合は会社設立をしたほうがいい、と言われるのはこのためです。
これらから所得税もしくは法人税に関する節税の面から会社設立を考えると、兼業している副業の利益が年間500万円を超えたタイミングが良いといえます。従業員を雇わずに事業を進める場合は、株主兼取締役が1人のマイクロ法人から進めるのもおすすめです。
課税売上高が1,000万円を超える
個人事業主としての課税売上高が1,000万円を超えた場合も法人設立のタイミングといえます。
基本期間である前々年度の課税売上高が1,000万円を超えると、消費税の納税義務が生じます。しかし設立間もない会社は前々年度に事業を開始していないため準備期間が存在せず、そのため2年間は消費税の支払いが免除されるのです。
これまで個人事業主として営業してきた人でも法人を設立すれば、個人事業主であった期間は基準期間としてカウントされません。
つまり、課税売上高が1,000万円を超えたタイミングで会社設立をすれば、消費税分の節税効果を得ることが可能です。
【課税売上高とは】
課税売上高とは、消費税の課税対象となる取引の売上高のことです。ほとんどの取引に係る売上高が課税売上高に該当しますが、土地の売却収入、住宅家賃、社会保険診療報酬など、消費税の非課税取引に係る収入等は課税売上高から除かれます。 |
不動産収入+給与所得が700万円を超える
サラリーマンの副業として、不動産投資をしているという人は少なくないのではないでしょうか。不動産投資をする人は、不動産の名義を会社所有にしたり、個人名義の不動産を会社に貸し出したりするための資産管理の会社設立を行なった人も少なくありません。
不動産の賃貸業をしている人は「不動産収入+給与所得(本業の収入)」が700万円を超えたら、資産管理会社の会社設立を行なうと節税に繋がるとされています。年収が700万円を超えたタイミングで資産管理会社の会社設立を検討してみましょう。
サラリーマンの会社設立が勤務先にばれないための方法
サラリーマンが会社設立を検討する際に最も危惧することは、やはり「勤務先にバレること」ではないでしょうか。
会社設立が勤務先にバレないようにするためには、法人の取締役を配偶者に任せたり、役員報酬をもらわなかったりする対策が有効です。
法人の取締役を配偶者で登記する
会社を設立すると登記が必要になります。そして登記された会社の名称や取締役は公開されてしまいますので、勤務先も登記の情報から従業員が会社を設立したことを知ってしまう可能性があるのです。
このため、副業の取締役の名義は自分ではなく配偶者とした方がよいでしょう。名義だけ配偶者としておき、会計処理や仕事は自分で行なえば実質的な効果は同じです。
会社の中には従業員は副業禁止としている所は多いですが、従業員の配偶者が会社を設立することまでは妨げられないので、問題なく会社を設立できます。
役員報酬を取らない
役員報酬を受け取らないという方法でも会社に副業をしていることを隠すことができます。役員報酬を受け取るのは配偶者としておくことで、自分は給料を取らないことで税金の増額によりばれるのを避けることが可能です。
また株式会社の場合は自分が株主になれば会社への発言権も持つため会社への影響力も維持することかできます。ただし、注意しなければいけないことは配偶者に役員報酬を支払うことで配偶者に所得が発生するということです。
配偶者が夫の扶養に入っていた場合には税金や社会保険の扶養から外れて、税金が高くなり配偶者が社会保険料の支払いをしなければならなくなってしまうという点に注意しましょう。
サラリーマンが会社設立する5つのメリット
サラリーマンの会社設立には、次の5つのメリットがあります。
- 経費にできる範囲が広がる
- 収入が給与所得控除の対象になる
- 社会的信用度が向上する
- 消費税が2年間免税される
- 決算日を自由に決められる
なんと言っても節税の観点が大きいですが、社会的信用度の向上も法人化ならではのメリットといえるでしょう。
経費にできる範囲が広がる
サラリーマンが会社設立をすることの最大のメリットは、法人の方が個人事業主よりも経費にできる費用の範囲が広いという点です。
個人事業主は自分や家族への給料は経費にすることはできませんし、プライベートでも使うものについては家事按分が必要になります。法人の場合には個人事業主が経費にできるものに加えて、以下のようなものも経費にすることが可能です。
【経費にできるものとできないものの比較】
経費にできる | 経費にできない | |
個人事業主 |
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法人 |
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家族への給料まで経費にすることができますし、会議費や接待交際費によって飲食代なども経費とすることができます。個人事業主よりも経費の幅が広いので、利益を圧縮して節税できる効果は法人の方が高いのです。
収入が給与所得控除の対象になる
副業が許可されている場合で、会社員が副業で会社設立をする場合は自分で取締役になり、副業で得た所得を役員報酬として受け取るのが通常です。副業で得た所得を役員報酬として受け取れば、その所得に対して給与所得控除が受けられます。
また家族に事業を手伝ってもらう際、個人事業主だと青色事業専従者給与の届出をした場合しかその給与を経費として計上できません。さらに、青色事業専従者となるために満たさなければならない条件も複数あります。一方、会社設立をすればそうした制限なく家族への給与を支払うことが可能です。
社会的信用度が向上する
個人事業主が会社設立を行なうと、社会的信用度が向上するメリットがあります。
例えば個人事業主の場合だと、事務所などの物件を借りるときや融資を受けるときに条件が厳しかったり、融資を結局受けられなかったりすることも。
しかし、会社設立を行なうと社会的に信用できるものとして見られるため、取引を行ないやすくなったり、融資を受けやすくなったりする効果があります。会社設立による対外的な信頼性の向上は、事業を進めていくうえで大きな後押しとなるでしょう。
消費税が2年間免税される
消費税の納税義務は、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合に発生します。基準期間における課税売上高は原則として、個人事業者の場合は前々年の課税売上高のことをいい、法人の場合は前々事業年度の課税売上高のことをいいます。
そのため、課税売上高が1,000万円を超える年を2年間過ごした後に会社設立を行なうと、さらに2年間は消費税を支払う必要がありません。会社設立がなされた2期前には、まだ会社が存在していなかった(基準期間の課税売上高=ゼロ)と考えるからです。
決算月を自由に決められる
個人事業主の場合、1月から12月が事業年度と国によって決められています。一方で会社設立をすれば、会社の決算月は自分で自由に決定することが可能です。
本業や副業の繁忙期を避けて決算月を定めれば、決算が仕事の妨げになるのを避けられます。
【決算月とは】
決算をするために区切った期間である事業年度のうち「最後の月」を決算月と呼びます。税務署に提出する法人設立届書には必ず事業年度は記載することとなっており、定款に事業年度を記載するのが通常です。 |
サラリーマンが会社設立する4つのデメリット
サラリーマンが会社設立を行なう上では、メリットだけでなくデメリットも存在します。
- 会社の設立費用がかかる
- 会計処理の負担が増える
- 事業が赤字でも税金を払わなければならない
- 社会保険の負担額が増える
会社の設立費用がかかる
サラリーマンが会社設立を検討するときの最初のハードルが、会社の設立費用です。
株式会社の設立には「約25万円+資本金」、合同会社の設立には「約10万円+資本金」が必要です。さらに会社を自分で設立する場合は、最大で11種類にも及ぶ登記書類を揃えて法務局に提出する必要があります。
定款を認証する際の費用をはじめ、登記申請をする際の費用、さらにこれらの手続きを行なう上でプロである司法書士や行政書士に相談すれば、そのための費用もかかることになります。
会計処理の負担が増える
個人事業主の決算処理である確定申告は、税務・財務についての知識がなくても、ある程度自力でできます。一方で会社を設立して法人として決算を行なう場合、会社法に従った複雑な決算業務が必要です。
企業が会計処理を行なう際の、基本ルールとして「企業会計原則」があります。企業会計原則とは、会計時に守らなければならない基準のことです。
会計処理を正しく行なわないと社会的な信用を失う可能性も考えられます。他の業務との兼ね合いから考えても、税理士への相談・依頼を検討する必要があるでしょう。
事業が赤字でも税金を払わなければならない
会社設立を行なうと、個人事業主と違って事業が赤字でも税金を支払うケースがあります。法人住民税の一部が所得ではなく、資本金額に応じて課税される仕組みになっているためです。法人住民税の均等割は最低約7万円支払わなくてはなりません。
法人が払う税金は6種類
会社設立をする前にも税金は支払わなくてはならないものですが、設立後にも様々な税金がかかります。
【法人が支払う税金の種類】
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役員報酬、給料を設定した場合、社会保険の負担額が増える
会社員が副業で会社設立して役員報酬や給与を計上すると、社会保険の負担額が増えます。
通常、サラリーマンは会社の給与から社会保険を会社と折半して支払っています。会社を設立した場合、さらに副業の方でも社会保険料を支払わなければなりません。
また副業で会社設立をした場合、社会保険への加入は義務です。加入しなければ政府からの立ち入り調査や罰則を受ける対象になってしまいます。会社で従業員を雇う場合にも、従業員と会社とで社会保険料を折半するため、支払う社会保険料額も必然的に増えます。
会社の設立って何すればいいの?【設立の流れ・必要書類】
会社設立は以下の流れに沿って行ないます。
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必要書類の準備
登記を行なうためには様々な書類が必要になります。登記の際に法務局へ持参する必要がある書類は以下の通りです。
【必要書類一覧】
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就任通知書などはネット上に雛形がありますので、雛形に住所や氏名を記載するだけの簡単な書類です。
書類の記載は面倒ではありませんが、印鑑証明書だけは住民票のある市区町村役場で取得する必要がありますので、忘れずに事前に取得しておきましょう。
定款の作成
会社を設立するにはまず定款を作成しなければなりません。定款とは組織の活動や運営について定めた根本原則です。その会社が何をするのか、役員は何人か、任期は何年かなどを決めるものが定款に当たります。
ただし、サラリーマンが副業で会社設立する場合にはそれほど詳細に作成する必要はありません。ネット上には雛形がたくさんあるので、雛形に必要事項を埋めていけばよいでしょう。また、定款を作成したら公証人役場で定款の認証を受ける必要があります。
定款の認証にかかる費用は以下の通りです。
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資本金の振り込み
会社設立に必要な資本金を金融機関へ払い込みます。銀行は資本金の払込専用の口座であればどの銀行でも問題ありません。
資本金1円からでも会社は設立できますし、副業のための会社であれば資本金1円でも問題なく運営できるでしょう。資本金の振り込みが終わったら、残高を証明するために通帳のコピーを取っておきます。
登記申請
会社設立のための登記申請は法務局で行ないます。その際は「登記申請書」が必要になります。名称や本店住所等を記載して、あとは代表取締役の住所を記載し、氏名を書き、実印を押印する書類です。
登記に必要な費用は以下の通りで、設立する会社が「株式会社」と「合同会社」のどちらかで費用が変わります。
【登記申請費用の例】
株式会社 | 合同会社 |
収入印紙代:4万円
定款認証の手数料:5万円 登録免許税:15万円 |
収入印紙代:4万円
定款の謄本作成料:2千円 登録免許税:6万円 |
合計:約24万円 | 合計:約10万円 |
各種行政への手続き
会社を設立したら、社会保険等の各種手続きを行なう必要があります。提出すべき書類・提出期限・提出先は以下の通りです。
書類名 | 提出期限 | 提出先 |
法人設立届出書 | 設立から2カ月以内 | 税務署 |
青色申告承認申請書 | 設立から2カ月以内 | 税務署 |
(従業員がいる場合)給与支払事務所等の開設届出書 | 設立から1カ月以内 | 税務署 |
(従業員がいる場合)源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | なし | 税務署 |
法人設立届出書 | 設立後1カ月以内 | 都道府県・市町村 |
健康保険・厚生年金の新規適用届 | 設立後5日以内 | 年金事務所 |
被保険者資格取得届 | 設立後5日以内 | 年金事務所 |
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サラリーマンが会社を設立する際の注意点
会社を設立しても、廃業する際には費用がかかります。また会社設立には最低でも2週間以上かかる点にも注意しなければなりません。
廃業する際も費用がかかる
会社設立を行なった後に副業が上手くいかずに、やむを得ず廃業しなくてはならないケースも想定されます。
廃業の際には必要な手続きを行なわなくてはなりません。そしてその際には、様々な費用が発生します。たとえば、解散の登記や清算人の登記、清算結了の登記に費用もかかる上、税理士に手続きを依頼する場合にはさらにそのための費用もかかります。
いったん会社設立をすると、設立だけでなく、廃業をするためにも費用がかかることは大きな注意点です。
会社設立は最低でも2週間以上かかる
会社設立にかかる日数は、株式会社の場合だと事前の準備から登記の申請までが2週間程度、合同会社であれば1週間程度です。合同会社が株式会社よりも短期間で申請できるのは、事前準備の段階で決定すべき事項が少ないことが理由のひとつです。
定款に記載する項目も、比較すると合同会社の方が少ないのが一般的です。また、合同会社は定款の認証手続きが不要だというのも、短期間で設立できる理由として挙げることができます。
なお登記の申請から完了までは、いずれの会社も約1週間です。会社設立には、株式会社が最低約3週間、合同会社が最低2週間程度かかることには注意しましょう。
副業で会社設立するなら株式会社がおすすめ
サラリーマンの副業用の会社設立をする上では、株式会社がおすすめです。株式会社は合同会社よりも知名度が高いこともありますが、会社設立を株式会社で行なうメリットは資本と経営を分離することができることです。
資本と経営を分離できるということは、株主(出資者)と経営者である代表取締役を別々の人が担うことができるということであり、会社にばれにくくすることに繋がります。
また会社から「副業をやめてほしい」と言われた場合でも、株式を保有し会社の支配権を有したまま、役職を辞任できることから、会社自体を廃業しなくても対処できる点も大きなポイントです。
税金や管理コストを踏まえた法人化の検討を
サラリーマンが会社を設立すれば、これまでの副業収入にかかっていた税金を削減できる可能性があります。しかし法人化によって、事務負担などの管理コストが増加する懸念も見逃すことはできません。
税金や管理コスト、勤務先との兼ね合いなどを踏まえたうえで法人化を慎重に検討すれば、事業のさらなる推進にもつながるはずです。サラリーマンも副業も両立させて、充実した生活を実現しましょう。
監修税理士からのコメント
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
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この記事の監修税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通