新しく事業を立ち上げて軌道にのせるためには、資金が必要です。資金調達の方法には銀行からの融資のほかに、ベンチャーキャピタルからの出資があります。
この記事ではベンチャーキャピタルとは何か、利用するメリットや他の資金調達手段との違いを解説します。
この記事の監修税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
ベンチャーキャピタルとは
ベンチャーキャピタル(VC)とは、ベンチャー企業やスタートアップ企業など、上場するほど成長すると予想される企業に出資する投資会社や投資ファンドです。自己資金や投資家から集めた資金を上場前に投資し、上場後にキャピタルゲイン(株の売却益)を得ます。
また出資するだけではなく、ハンズオンと呼ばれる経営支援を行います。例えば、投資先企業に経営陣を送り込んでのマネジメントや経営コンサルティングなどです。
経営に深く関わり、二人三脚で事業を発展させることで、双方の利益を最大化していきます。
ベンチャーキャピタルから投資を受けるメリット
ベンチャーキャピタルから投資を受けるメリットは4つあります。
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現時点での実績に関わらず資金調達が可能で、返済期限がない
ベンチャーキャピタルは現時点で実績がなくとも、事業に成長性があるなどの判断基準をクリアし、投資を大きく回収できる可能性があれば出資をしてくれます。
創業間もなくで銀行からの融資が難しくとも、ベンチャーキャピタルからは評価してもらえる可能性があります。また融資と異なり返済期限がないので、事業に資金を焦らずに投下可能です。
ベンチャーキャピタルによる育成支援を受けられる
ベンチャーキャピタルは企業価値を上げ、投資を回収することが目的です。そのため役員としての人材派遣や、ベンチャーキャピタルの経営ノウハウや人脈での経営支援を行います。
経営経験が不足気味な創業したての経営者が、育成支援を受けることでよりスムーズに事業を発展できる可能性があります。
資金調達がしやすくなる
ベンチャーキャピタルが出資すると、他の出資者から資金調達がしやすくなるメリットがあります。ベンチャーキャピタルが将来性を評価したとみられるためです。
事業提携先を紹介してくれることもある
ベンチャーキャピタルは多くの人脈を持っています。様々な業種の繋がりがあるので、事業提携先を紹介してくれることもあります。
ベンチャーキャピタルから投資を受けるデメリット
様々なメリットがあるベンチャーキャピタルからの投資ですが、以下のデメリットもあります。
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経営の自由度が下がり制限されることがある
育成支援を受けられることはメリットですが、意見が合わなかった場合に経営者の意思が通り辛くなります。出資してもらっている立場のため、経営者の経営の自由度が下がってしまう危険があります。
株式買取請求権を行使され、資金を回収される可能性がある
上場やM&Aによる投資回収が想定通りにいかなくなる可能性が出てきた時に、ベンチャーキャピタルから投資資金の回収手段として株式の買取を求められるリスクがあります。
株式買取請求権とは、株主が保有する株式を公正な価格で買い取るように会社に請求できる権利です。ただしこれには会社法では一定の要件があります。
また出資の際に、契約書上で株式買取請求権について記載し、契約で要件を決めて買取の請求を定める場合もあります。出資とはいえ、必ずしも返済義務がない訳ではありません。
「株式を買い取る必要が出てくるかもしれないこと」「買取価格により多額の資金が必要になるかもしれないこと」を念頭におく必要があります。
他の資金調達手段との違い
ベンチャーキャピタルから投資してもらうことは、他の資金調達方法と何が違うのでしょうか。特に銀行から融資を受ける資金調達方法とは、出資と融資という大きな違いがあります。
銀行からの融資との違い
銀行からの融資とは「返済義務」「議決権の付与」「出資時に重視されるポイント」が異なります。
銀行からの融資 | ベンチャーキャピタルからの投資 | |
返済義務 | 有 | 無 |
議決権の付与 | 無 | 有 |
重視されるポイント | 安定性・担保 | 成長性・経営者 |
銀行融資は、企業にとって借入であり会計上は「負債」です。返済義務があり、返済期限があります。利息も決められた利率で支払う必要が出てきます。
一方でベンチャーキャピタルは、企業にとって出資であり会計上は「資本」です。返済義務も期限もありません。出資なので議決権があり、企業の役員として深く企業の経営に関与することもあります。
どちらも事業計画書などの資料を用意し、出資に値する事業内容であるかどうかのアピールが必要です。
ただし資金回収方法の違いから、資料の審査基準は異なります。銀行が重視するポイントは、確実に資金を返済してもらえるかどうかです。一方ベンチャーキャピタルは、長期的な視点で事業が成長していくかどうかや経営者の資質を重視します。
投資ファンドとの違い
投資ファンドは複数の投資家から資金を集め、株式や債券を運用する金融商品です。ベンチャーキャピタルも自己資金での投資のほかに、ファンドを設立して資金を集めることがあります。
しかし一般的に投資ファンドの運用者は、ベンチャーキャピタルだけではありません。また投資対象も上場前のベンチャー企業だけでなく、上場企業の株式や不動産、債権など様々なものがあります。
エンジェル投資家との違い
エンジェル投資家とは、ベンチャー企業に出資してくれる個人の投資家です。ベンチャーキャピタルと出資形態、目的は同じですが、組織と個人という規模の違いがあります。
エンジェル投資家の投資規模は、ベンチャーキャピタルよりも小さいです。しかし個人投資家なので組織に比べ、柔軟かつ早い判断で資金を出資してくれる可能性があります。
以下の記事では、エンジェル投資家とはどのような人なのかや、探し方、出資を受けるコツを解説しています。エンジェル投資家からも出資に興味がある場合は参考にしてください。
ベンチャーキャピタルの種類と特徴
ベンチャーキャピタルは母体となる企業の特徴によって、投資方針が異なります。
金融系ベンチャーキャピタル
金融系ベンチャーキャピタルは、証券会社や銀行などの金融機関が母体となっているベンチャーキャピタルです。投資数や投資金額が大きくなる傾向があり、幅広い業種に投資を行なうことが多い特徴があります。
代表的な会社には、銀行系だと三菱UFJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、みずほキャピタルなどがあります。証券系だと大和企業投資、保険系だと三井住友海上キャピタルなどが有名です。
事業会社系ベンチャーキャピタル
事業会社系ベンチャーキャピタルは、一般事業会社が母体となっているベンチャーキャピタルです。上場等による投資金額の回収だけでなく、自社の事業とのシナジー効果を期待した出資を行うことがある点が特徴です。
代表的な会社には、NTTドコモ・ベンチャーズ、三井物産グローバル投資などがあります。
政府系ベンチャーキャピタル
政府系ベンチャーキャピタルは、政府や地方自治体などの公的な機関が母体となっているベンチャーキャピタルです。特徴としては以下の2点が挙げられます。
【政府系ベンチャーキャピタルの特徴】
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代表的な会社には、東京中小企業投資育成、産業革新機構などがあります。
大学系ベンチャーキャピタル
大学系ベンチャーキャピタルは、国立大学などの大学が母体となっているベンチャーキャピタルです。母体大学の研究分野と関連するベンチャー企業に、投資を行なう傾向が高い特徴があります。
代表的な会社は、東京大学エッジキャピタルパーナーズ、慶応イノベーション・イニシアティブなどです。
地域特化型ベンチャーキャピタル
地域特化型ベンチャーキャピタルは母体による分類ではなく、特定の地域の活性化を目的として投資を行なうベンチャーキャピタルです。
代表的な会社には、北海道ベンチャーキャピタル、新潟ベンチャーキャピタルなどがあります。
独立系ベンチャーキャピタル
独立系ベンチャーキャピタルは特に特定の母体を持たないベンチャーキャピタルです。純粋に利益を求めた投資を行なうことが特徴です。
ベンチャーキャピタルごとに投資方針、特徴が異なります。代表的な会社には、日本アジア投資、ジャフコ、グロービス・キャピタル・パートナーズなどがあります。
ベンチャーキャピタルとコンタクトを取る方法
ベンチャーキャピタルとコンタクトを取る方法は以下の3つです。
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人脈を使う
人脈を使って紹介してもらう方法です。経営者仲間だけでなく、金融機関や税理士などから紹介してもらえることがあります。
ミートアップイベントへの参加
創業したばかりのベンチャー企業の経営者は、人脈を作りや自社の事業構想を知ってもらうために様々な交流会に参加することがあります。
こうした集まりにはベンチャーキャピタルも参加している可能性があり、事業構想をアピールできます。
直接コンタクトを取る
直接コンタクトを取ることもできます。事前に事業計画書などアピールできるものをしっかり用意して交渉できるようにしましょう。
メールを送る際は以下の4つを記載すると、VCが興味を持ち話が進みやすくなります。
【VCへのメールに記載したい内容】
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ピッチデック(プレゼン資料)を添付する場合も、添付資料を開いてみようと思わせる内容であることが重要です。
ベンチャーキャピタルは投資先の何を見ているのか?
ベンチャーキャピタルは投資するかどうかを判断するときに「創業者」「事業規模」「事業フィット」の3つを見ています。
創業者
ベンチャーキャピタルは創業者の誠実さ、謙虚さなど、大前提として信頼できる投資先であるかどうかを重要視します。創業間もないベンチャー企業は創業者の資質に依存していることが多くあるためです。
その上でこれまでの経歴、知識やスキル、株式公開や自社の企業価値を上げる熱意、リーダーシップなどを確認します。
どんな素晴らしい事業であったとしても、経営者の経営の仕方次第でその後の成長が大きく左右されるので重要なポイントになります。
市場規模
ベンチャーキャピタルは多くのリターンを得ることを目的としているので、市場規模はできるだけ大きい方が望ましいです。
ただ最初から市場規模を予見するのは難しい面があります。将来、計画に見合った規模の市場があるかだけでなく、創造していけるかどうかもポイントになります。
市場フィット
ベンチャー企業が展開しようとしている事業、製品、サービスが市場にフィット(適合)しているかどうかも重要です。
ベンチャー企業は創業者が強いビジョンを持って事業を始めることが多く、このビジョンが市場とフィットしていないと世間に受け入れられずに事業拡大に繋がりません。
フィットしている状態とは市場、利用者のニーズを満たしている状態です。
事業の成長性や、他社に簡単に模倣されない技術の優位性だけでなく、それがより大きな市場で受け入れられて行くかどうかもポイントになります。
投資、融資の相談ができる税理士に見積もりを依頼しよう
このように資金調達の方法には融資以外の方法があり、それぞれメリット、デメリットがあります。
ベンチャーキャピタルに出資を依頼するには、投資以上の回収ができる企業であることを事業計画書などの書類でアピールする必要があります。
このため資金調達を成功させるためには専門家に依頼することをおすすめします。中小企業の身近な専門家、投資、融資の相談ができる税理士に相談してみましょう。
この記事の監修税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通