グローバル化や少子高齢化に伴う人手不足により、日本における外国人の就労が増えています。
外国人労働者を雇用する際は、在留資格の確認後、社会保険加入の手続きをしなければなりません。
社会保険は外国人でも原則免除はされず、労働条件に沿った加入が必要です。
この記事では外国人の社会保険に関する加入条件や手続き、注意すべきポイントを解説します。
外国人にも適用される日本の社会保険制度
法人事業所には5つの社会保険制度が適用されます。(※個人事業所についても一部適用される保険があります)
この加入基準や保険料負担は、制度によって異なります。国籍要件はなく、日本人と同じ仕組みが適用されるため、加入基準を満たす雇用契約を結ぶと、外国人であっても社会保険への加入が必要です。
ここでは各保険制度の概略を説明すると共に、加入基準についてみていきましょう。
5つの社会保険制度
常勤として労働者を一人でも雇用すると、法人の事業所は社会保険が適用されます。この社会保険とは、主に5つの法律からなる健康保険・介護保険・厚生年金保険・労災保険・雇用保険のことです。まずは各制度について整理していきましょう。
制度名 | 制度の主な目的 | 保険料負担 |
---|---|---|
健康保険 | 医療保障 | 労使折半 |
介護保険 | 加齢に伴う介護サービスの提供 | 労使折半
(第二号被保険者) |
厚生年金保険 | 公的年金保障 | 労使折半 |
労災保険 | 業務上の被災および通勤に伴う被災に関する保障 | 全額事業主負担 |
雇用保険 | 失業給付や教育訓練などの提供 | 事業主負担が多め。
一部労働者負担あり。 |
外国人労働者も適用される社会保険への加入条件とは?
常勤として雇用する場合は、社会保険に加入する必要があります。これらの社会保険には国籍要件が無く、日本人と同じ適用を受けます。
なお、健康保険と介護保険および厚生年金は合わせて加入が必要です。健康保険だけの加入はできません。労働者との契約内容を常に確認し、手続き漏れが無いようにしましょう。加入基準は以下の通りです。
制度名 | 加入基準 | 年齢要件 | 主な適用除外 | |
---|---|---|---|---|
健康保険 | 常勤は加入、非常勤でも常勤の4分の3以上働く場合は加入
また、上記を満たさない場合であっても被保険者数が常時101人以上の企業及び任意特定適用事業所※においては以下の4つをすべて満たす場合は加入
|
就労可能年齢以上75歳未満 |
臨時雇用で、日々雇い入れられる者ならびに2か月以内の期間を定めて使用される者など | |
介護保険 | 健康保険と同じ | (第二号被保険者)
40歳以上65歳未満 (第一号被保険者) 65歳以上 |
非居住者など | |
厚生年金保険 | 健康保険と同じ | 就労可能年齢以上70歳未満 | 臨時雇用で、日々雇い入れられる者ならびに2か月以内の期間を定めて使用される者など | |
労災保険 | 雇用する人全て加入 | 年齢制限なし | – | |
雇用保険 | 週20時間以上、31日以上雇用見込の場合は加入 | 年齢制限なし | 昼間学生など |
外国人労働者を雇用した時の社会保険手続き一覧
主な手続きと提出期限は以下の通りです。
制度名 | 提出先 | 提出書類(外国人特有のもの) | 留意点 | 提出期限 |
健康保険 | 健康保険組合
または 日本年金機構(広域事務センター) |
健康保険被保険者資格取得届、
健康保険被扶養者異動届など |
被扶養者の姓が異なる場合は追加資料が必要 | 5日以内 |
介護保険 | 加入の際の手続き不要 | – | – | – |
年金保険 | 日本年金機構(広域事務センター) | 厚生年金保険被保険者資格取得届、
(厚生年金保険被保険者 ローマ字氏名届) 国民年金第三号被保険者関係届 (国民年金第三号被保険者ローマ字氏名届)など |
マイナンバーの記載必要あり。添付ができない場合は、住民票などの本人確認ができる添付資料が必要。 | 5日以内 |
労災保険 | 加入の際の手続き不要※ | – | – | – |
雇用保険 | ハローワーク | 雇用保険被保険者資格取得届 | マイナンバーの記載必要あり。
(国籍、在留資格、在留期間などの記載) |
翌月10日まで |
※労災保険に個人で資格取得するという概念はありません。事業所全体で事業主が加入していますので当然に保険適用されます。
外国人労働者の社会保険の手続き【健康保険・厚生年金保険】
外国人雇用の社会保険手続きは、日本人と原則は同じですが、特有な手続きもあります。厚生年金の加入を嫌がる外国人もいますが、今では10年の加入期間があれば老齢年金の受給権を得られるようになりました。外国人採用の際は、日本人よりも丁寧な制度説明が必要です。ここでは健康保険および厚生年金について解説します。
外国人労働者の社会保険手続きの流れ
加入条件を満たした外国人を雇用する場合は、5日以内に「健康保険厚生年金保険被保険者資格取得届」を日本年金機構ならびに健康保険組合へ提出します。
この申請書には、在留カードの表記と同じ並び順(姓名の順)で氏名を記載しましょう。併せて「厚生年金保険被保険者ローマ字氏名届」も忘れずに提出します。
提出書類 | 提出先 | 提出期限 | |
---|---|---|---|
健康保険・厚生年金保険 | 健康保険厚生年金保険被保険者資格取得届 厚生年金保険被保険者ローマ字氏名届 |
日本年金機構 健康保険組合 |
5日以内 |
【健康保険】外国人労働者の配偶者や家族の扶養について
事業所で加入する健康保険は、配偶者や子供を扶養にしても保険料は変わりません。国内年収が130万(60歳以上の場合は180万)未満で、労働者本人と同居し生計を同じくしている場合は、被扶養者として申請をする事ができます。この被扶養者異動届には捺印が必要ですが、外国人は印鑑を持っていないケースがあります。自筆署名で代用ができるか確認しましょう。
また、中国人など家族の姓が本人の姓と異なる場合は、家族関係を証明する公的な証明書とその翻訳および翻訳者の記載が必要です。証明書は大使館や母国などで発行するため、早めに労働者に依頼をしましょう。
なお、別居している家族を被扶養者とする場合は、送金証明など生計を同じにしている事実が分かる書類の添付をします(現時点では国内居住要件はありません)。送金証明が日本語でない場合は翻訳および翻訳者の記載をします。
【厚生年金保険】基礎年金番号を持たない外国人の取得手続き
日本人は20歳になると自動的に基礎年金番号が発番されますが、外国人には自動的な仕組みはありません。雇用した外国人が基礎年金番号を持っていない場合、被保険者資格取得届の基礎年金番号欄にはマイナンバーのみ記載します。後日新しく基礎年金番号が発番され、基礎年金手帳が事業所に届きますので、速やかに本人に渡しましょう。
「厚生年金保険 被保険者ローマ字氏名届」の書き方
外国人の場合は、被保険者資格取得届と共に「被保険者ローマ字氏名届」の提出が必要です。基礎年金番号を持っていない場合は、該当部分は空欄のままで構いません。その他は在留カードに沿った内容を記載しましょう。
被扶養者が60歳未満の配偶者の場合は、日本人同様に国民年金第三号被保険者として申請ができます。配偶者が外国人の場合は、国民年金用のローマ字氏名届も併せて提出します。
【厚生年金保険】外国人労働者の厚生年金の免除制度
外国人が日本で働く場合は、日本の社会保障制度に加入をする必要があり、母国の社会保障制度の保険料と二重に負担しなければならない場合があります。しかし、日本や母国でそれぞれ公的年金の加入期間を満たすためには、一定の期間が必要なため、その国で負担した年金保険料が年金受給につながらないこともあります。そこで、二重加入を防ぎつつ年金加入期間を通算するために、日本と各国間では社会保障協定の締結を進めています。
締結内容は国によって様々ですが、社会保障協定の締結があり、5年以内の短期派遣で来ている外国人を雇用した場合は、日本の社会保障制度の加入が免除されることがあります。その際は相手国から発行される「適用証明書」を日本年金機構へ提出しましょう。
【厚生年金保険】掛け捨てにならない「脱退一時金裁定請求の手続き」について
上記の社会保障協定の対象外の外国人が、日本の公的年金の加入期間10年未満で帰国する場合は、帰国後に脱退一時金を請求することができます。被保険者期間が3年までの場合は、おおよそ支払った金額の半分が戻るため、掛け捨てにはなりません。
ただし、この請求をした場合は、年金に入っていなかったものとみなされます。日本年金機構のホームページに各国語の資料および請求書がありますので、退職前に渡しておきましょう。
外国人労働者の雇用に伴う社会保険の手続き【雇用保険】
外国人を雇用する場合も、加入要件を満たせば雇用保険に加入します。昼間学生などの適用除外で無い場合は、日本人同様に手続きを進めます。
この雇用保険の手続きは、外国人の雇用状況の届出も兼ねています。短時間雇用で保険加入しない場合は、別の届出が必要です。共に提出期日を守り、手続きを忘れないようにしましょう。
外国人労働者を雇用する際の流れ
外国人を週20時間以上、31日以上雇用する場合は、翌月10日までに雇用保険被保険者資格取得届をハローワークへ提出します。雇用状況の届出を兼ねているため、在留カードの内容を確認し正確な届出を行いましょう。
短時間雇用で雇用保険に加入しない場合は、翌月の末日までにハローワークに外国人雇用状況の届出を行います。
届出違反には罰則もありますので、届出漏れが無いようにしましょう。
【雇用保険の加入対象の場合】雇用保険被保険者資格取得届の書き方
【雇用保険の加入対象外の場合】外国人雇用状況届出書の書き方
外国人雇用状況届出書はハローワークの窓口で入手できる他、上記の被保険者資格取得届と併せて以下のリンクからダウンロードできます。
外国人労働者を雇用する前に在留資格を確認
違法な外国人雇用には罰則があります。事業主が入管難民法違反(不法就労助長)容疑で書類送検されるニュースを聞いたこともあるでしょう。外国人雇用の際は、業務内容が労働者の持つ在留資格に沿っているか事前確認が必要です。資格外許可の就労は、就労時間の制限もあります。ここでは在留資格にまつわる基礎知識をまとめましょう。
就労可能かの確認方法
外国人を雇用する際は、在留資格を確認することが一番重要です。外国人が日本で90日以上の長期滞在をしたり国内で報酬を得る活動をする場合には、母国でビザ(査証)を得て入国します。このビザは日本の空港で入国審査を受けるために必要なもので、主にパスポートに印字されます。日本に入国後、入国管理局が日本への在留を許可すると、在留カードが発行されます。
就労を目的とする場合は、技術・人文知識・国際業務など全部で19種類の就労ビザのうちいずれかが必要です。この就労ビザは一人一種類のみ発行され、ビザで認められている内容と異なる就労はできません。ビザの資格は、在留カードに印字してありますので、資格と有効期限を必ず確認し、採用の際は両面コピーを取っておきましょう。
外国人労働者の在留カードの見方
在留カードには必要な情報が印字されています。裏面も必ず確認しましょう。
就労可能なビザの種類は19種類です。主な資格をいくつかご紹介します。
就労可能なビザ
在留資格 | 就労できる活動内容 | 在留期間 | 就労可能 |
---|---|---|---|
技術 | 本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野に属する技術又は知識を要する業務に従事する活動
例)機械工学等の技術者 |
5年、3年、1年又は3月 | ○ |
人文知識
・国際業務 |
本邦の公私の機関との契約に基づいて行う法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する知識を必要とする業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動
例)企業の語学教師、デザイナー、通訳など |
5年、3年、1年又は3月 | ○ |
留学生、家族滞在などに対する「資格外活動」とは?
留学生、家族滞在者のピザは就労不可が原則です。
在留資格 | 活動内容 | 在留期間 | 就労可能 |
留学 | 本邦の大学、専修学校の専門課程、外国において12年の教育を修了した者に対して本邦の大学に入学するための教育を行う機関又は高等専門学校において教育を受ける活動
例)大学・短期大学・高等専門学校等の学生 |
4年3月、4年
3年3月、3年 2年3月、2年、 1年3月、1年、 6月又は3月 |
× |
家族滞在 | 「教授」から「文化活動」までの在留資格をもって在留する者又は「留学」、「就学」若しくは「研修」の在留資格をもって在留する者の扶養を受ける配偶者又は子として行う日常的な活動
例)就労外国人などに扶養される配偶者・子 |
1年又は6月 | × |
資格外活動許可の申請
留学生や家族滞在など本来就労ができないビザを持つ外国人は、入国管理局に資格外活動許可を申請することで週28時間以内の就労が可能になります。ただし、留学生の場合は、夏休みなど長期休業期間に限り、1日8時間以内、週40時間以内の就労が可能になります。
資格外活動許可申請については以下のページを確認してください。
インターンシップの資格外活動について
インターンシップで外国人留学生を受け入れる企業も多いと思いますが、インターンシップの内容によって資格外活動許可申請が必要かどうか変わります。外国人留学生がインターンシップによる報酬を受けない場合、許可申請は不要ですが、逆に報酬を受ける場合には許可申請が必要です。さらに、インターンシップに従事する時間が1週につき28時間を超える場合、資格外活動許可とは別に事前に入国管理局から「1週について28時間を超える資格外活動許可」を受けなければいけません。
また、学生がインターンシップに参加した場合の社会保険の適用有無の判断には、国籍による違いはありません。外国人留学生がインターンシップに参加した場合、単なる就業体験であって労働をしているとは言えないケースでは社会保険に加入する必要はありません。しかし、労働契約を締結していたり、上司の指揮命令下で他の労働者と同様に働いたりしているケースでは、社会保険の加入義務がある一般の労働者と同じ扱いになるので、外国人留学生でも社会保険への加入義務が生じます。
ワーキングホリデーの外国人の社会保険
ワーキングホリデー制度を利用して日本に滞在している外国人を雇う場合、社会保険の加入義務があれば手続きを行いますが雇用保険だけは注意が必要です。特定活動ビザに分類されるワーキングホリデーは風俗営業以外での就労が可能ですが、そもそも来日目的は就労ではなく休暇なので、ワーキングホリデーで来日している外国人は雇用保険の被保険者にはなりません。
外国人労働者を雇用する際のポイント
外国人を雇用する際は、労働時間の考え方や割増賃金など、日本のルールを知ってもらうことが必要です。また雇用側も日本のルールを押し付けるばかりではなく、信仰する宗教など労働者の背景を知り配慮することも大切です。お互いの理解を深めるためにも、労働条件は丁寧に説明しましょう。
労働条件を理解してもらう
日本では最低賃金や割増率など様々な労働条件が法律で決まっています。雇用する際は、雇用契約書または労働条件通知書を交付しますが、日本語で記載した内容は外国人が理解するには難しいかもしれません。労働局のホームページには外国語の雛形もありますので、ぜひ利用してみましょう。
日本の社会保険制度について説明し、加入に納得してもらう
日本では諸外国のようにグロスアップの契約(手取り額を保証して契約すること)は一般的ではありません。社会保険に加入すると手取り額は少なくなるため、加入を嫌がるケースも多くみられます。日本が皆保険・皆年金であることを伝えると共に、社会保障協定や脱退一時金の請求などにより短期間の加入でも掛け捨てにならないこと、扶養家族も社会保険の対象になることなどメリットを重点的に説明し、納得して加入してもらうように努めましょう。
在留資格の変更や滞在期間の延長時に保険証提示の必要あり
在留資格の変更や滞在期間の延長を申請すると保険証の提示を求められます。変更や延長の可否に直接的に関わる事項ではありませんが、社会保険への加入が適切に行われているか等その会社の雇用や労働条件がチェックされるので注意して下さい。万が一未加入であった場合には、違反を指摘されたり過去分の保険料まで納付を命じられて大きな負担になることもあります。社会保険への加入は適切に行うことが大切です。
特定社会保険労務士からのコメント
上野社会保険労務士事務所 - 福岡県筑紫野市天拝坂
まとめ
人手不足の昨今、ますます外国人雇用は増えてきます。社会保険において、日本人と外国人雇用に大きな違いはありませんが、外国人特有の手続きや制度があり、細かい点は日本人雇用と異なるものです。事業主は制度の理解を深めつつ、外国人労働者には丁寧な説明を心掛け、より良い労働環境を整えていきましょう。
この記事を監修した社労士
上野社会保険労務士事務所 - 福岡県筑紫野市天拝坂
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