セメント瓦とは、1970~80年代あたりに人気だった屋根瓦を指し、その名の通りセメントと川砂を混ぜ合わせて作られています。
現在はより耐水性や耐久性に優れた陶器瓦や、金属のガルバリウム鋼板などが登場しているため、主流ではなくなっています。
今回はセメント瓦について、他の屋根材と比べたときの特徴を紹介しつつ、メリット・デメリット、メンテナンス方法などを紹介していきます。
セメント瓦、他の屋根材との違いは?
セメント瓦の特徴
セメント瓦はセメントと砂を主原料とし、高耐久性塗料で塗装した瓦のことです。
耐用年数が30~40年ほどと長く、耐火性に優れているほか、安価で様々なデザインのものが製造が可能です。1970~80年代の高度経済成長期に広く普及しました。
セメントが主原料であるため重みがあり、風によるズレが少ないのが特徴です。
そのため台風の多い四国・九州では1995年~1998年頃までほとんどの屋根がセメント瓦だったと言われています。
しかし後に、安価でありながらより耐水性や耐久性に優れた陶器瓦や、ガルバリウム鋼板などが流通するようになり、セメント瓦の生産は減っていくことになります。
日本瓦(粘土瓦)との違い
名前のとおり、日本の古風な建物を想起させる日本瓦(粘土瓦)。
粘土が主な材料となっていることがセメント瓦との最大の違いです。
日本瓦はセメントよりも耐久性に優れており、耐用年数は50~100年と言われています。
水を吸収しやすいセメントと違い、塗装メンテナンスの手間がかからない点も特徴です。
陶器瓦との違い
陶器瓦は、日本瓦と同じく粘土を素材にしています。
しかし表面は釉薬(ゆうやく)というガラス質でおおわれており、茶碗や湯呑と同じようにツルツルとしているのが特徴です。
モニエル瓦(コンクリート瓦)との違い
モニエル瓦とは、大きく分ければセメント瓦の一種にあたる屋根材です。
ただし表面加工に特徴があり、着色スラリーという塗料材によって「スラリー層」が存在します。
この表面によって、セメント自体の断熱性、耐震性などを維持しつつも、吸水しやすいというデメリットを無くしているのです。
セメント瓦の断面にあたる「小口部分」は滑らかなのに対し、モニエル瓦はザラザラとしていて凹凸があるという点で見分けられます。
瓦ごとの特徴と見分け方は以下。
瓦の種類 | 成分 | 特徴 |
セメント瓦 | セメント | 小口の表面が滑らか、棟の面戸部分が出ている |
モニエル瓦 | コンクリート | 小口が凸凹している |
日本瓦
陶器瓦 |
粘土 | 棟の部分に漆喰・葺き土がある |
スレートとの違いは“厚み”
スレートはセメント瓦と同様にセメントを主成分とした屋根材です。
もちろん主成分が同じというだけで屋根材としての特徴は異なりますが、なかでもスレートのなかには繊維が含まれている点に大きな違いがあります。
繊維を含むことにより強度を高め、厚みを6mm前後まで薄くすることを可能としています。
セメント瓦の厚みはおよそ1cm以上あります。見分ける際には1cm以下のものであればスレートであると判断して良いでしょう。
セメント瓦のメリット・デメリット
セメント瓦のメリット
セメント瓦のメリットは、おもに以下。
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セメント瓦は、第一にデザインの豊富さがメリットとして挙げられます。
和風も洋風も選ばない様々な形状・カラーがあり、見た目を重視する人にはおすすめです。
また、材料に可燃物が含まれていないため、燃えにくい屋根材です。火事が起こりやすい日本では大事な性能ですね。
セメント瓦のデメリット
セメント瓦のデメリットは主に以下が挙げられます。
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セメントの特性上、飛来物などによって割れてしまうなど、衝撃に弱いというデメリットがあります。
また粘土瓦が50~100年ほど持つのに比べて、セメント瓦は30~40年ほどと耐用年数が短いのも特徴です。
セメント瓦の屋根材には、耐水性を上げるために塗装を施しますが、セメントそのものは水を吸収してしまう特性があります。
塗膜の剥がれなどを放っておくことでコケやひび割れなどの劣化につながるため、定期的に塗装メンテナンスが必要です。
部分補修などが難しい場合がある
セメント瓦は陶器瓦に取って代わられたため、現在ではほとんど製造されていません。
陶器瓦はセメント瓦よりも寿命が長く、1998年頃には安価で出回るようになり、「メンテナンスフリー」の屋根材として需要が一気に高まりました。
一方で塗装によるメンテナンスが欠かせないセメント瓦はその勢いに押され、製造が中止されて価格も以前より高騰しています。
現在全く製造がないわけではありませんが、取り扱う業者は国内でもごく僅かとなってしまいました。
そのため一部分のみ修理が必要になったときなどに対応できず、やむを得ずに屋根の葺き替え(ふきかえ)が必要になるかもしれません。
アスベストが使われている可能性
2006年以降は禁止されている「アスベスト(石綿)」。
安価ながら耐火性や断熱性に優れていますが、発がん性などの健康被害が懸念されるため、規制されました。
古い建物では建材にアスベストが使われているのではないか、と心配になる人も多いですよね。
セメント瓦の場合はそもそも1cm以上の厚みがあるためアスベストで強化する必要がなく、使用されている可能性は低いと思われます。
もし心配であれば、「国土交通省が公開するデータベースで調べる」か、または「専門業者に調査を依頼する」ことで見分けることができます。
セメント瓦の劣化症状
セメント瓦の塗装は10年を目安に
劣化症状 | 特徴や被害 |
塗膜の色あせ、剥がれ | 水分を吸収してしまい、耐久性が落ちる。 |
コケ、カビ | 瓦表面の劣化が進んでいる証拠。 |
瓦のズレ | 強風や地震によって起こる。ズレた部分から雨水などが侵入する可能性。 |
割れ | 衝撃によって起こりうる。放置しておくと雨漏りなどにつながる。 |
雨漏り | すでに屋根を超えて水が侵入している。屋根の下地や防水シートが傷んでいる可能性。 |
セメント瓦の塗装は10年を目安に行うようにしましょう。塗装が剥がれて色あせてくるとその箇所に苔が生え、劣化してしまうことに繋がります。
元々セメント自体に防水性はありません。塗装が剥がれ、雨水が染みこんでセメント部分が流されてしまいます。内部の砂が流出してしまう恐れもあるので注意が必要です。
また、セメント瓦は割れやすい建材なので塗装で補強することが大切です。欠けやひび割れが起こると瓦の下の建材にまでダメージが及んでしまうケースもあるでしょう。
セメント瓦の寿命は、10年ごとにきちんとメンテナンスを行なった場合でおよそ30~40年とされています。
比較的、耐用年数が長い方だと言えますが、寿命が来たら塗装だけでなく「葺き替え(ふきかえ)」など、新しい屋根材にリフォームすることを検討しましょう。
セメント瓦のメンテナンス・リフォーム方法
部分的に差し替え、修理
セメント瓦に欠けや割れといった破損が見られる際は、その箇所の瓦を部分的に差し替えて修理する方法があります。
ただし差し替え工事を行なうためには使用されている瓦と同じものを使う必要があります。
セメント瓦は現在ほぼ生産されていないため、ご自宅の屋根に使用されているものと同じ瓦の在庫を探すことは非常に困難だと言えるでしょう。
そのため部分的な補修を行なう際には、粘着テープかシーリングを使用しての応急処置的な対応をします。
きちんと長期的な補修をする場合には、葺き替えを検討する必要があります。
塗装工事
屋根の色あせや苔(こけ)・カビといった劣化が見られる際は塗装工事による補修が有効です。
防水性を高めることはもちろん、屋根の美観維持の面で非常に効果的だと言えます。
葺き替え工法に比べると安価での施工が可能なので、費用をなるべく抑えたいという方におすすめです。
ただしセメント瓦の劣化具合によっては、塗装だけでは補修しきれず、葺き替えを勧められる場合があります。
葺き替え(ふきかえ)
セメント瓦の劣化が激しい場合や耐用年数を超えてしまっている場合は、葺き替え(ふきかえ)工法による補修がおすすめです。
セメント瓦は現在ほぼ製造がされていません。よって、葺き替えの際には別の屋根材を使用する必要があります。
現在はセメント瓦よりもメンテナンス性や費用面に優れた、ガルバリウム鋼板やスレート屋根などの屋根材が普及しています。
住まい気候環境やメンテナンスサイクルを考慮して最適なものを選ぶようにしましょう。
塗装をするときの工程と見積もり相場
セメント瓦の塗装の工程
セメント瓦の作業工程は大きく分けて下記の通りとなっています。
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塗装前には新たに塗装する塗料の密着性・耐久性を高めるため、高圧洗浄では苔やカビの汚れや古い塗膜をしっかりと落としていきます。
状況に応じてズレやひび割れなどがあれば接着などの補修を施しましょう。
そのうえで下塗りから仕上げまで、3回に分けて塗料を塗り重ねていきます。
塗料を下塗り・中塗り・上塗りと塗り重ねていくことで塗りムラを無くし、耐用性を高めることができます。
下地処理と適した下地材
セメント瓦の下塗り処理にはフィラーと呼ばれる下地材が適しています。
フィラーは細かい穴や隙間を埋めて厚みを出し、上塗りのときに密着性を高めたり、塗装ムラを防いだりする効果があります。
劣化して表面がざらざらしてしまっているセメント瓦でも、下地を綺麗に整えることができるでしょう。
瓦の状態が良ければ、シーラーと呼ばれる下地材での処理も可能です。
しかし凸凹とした下地を整えるために塗り重ねが必要となり、フィラーよりも施工費用が大きくなってしまうこともあるため、見積もり時に相談するとよいでしょう。
耐久年数の長い塗料を選ぶ
塗料の種類 | 耐久年数 | 単価相場 |
シリコン | 10年~15年 | 2,500〜2,800円/㎡ |
フッ素 | 15年~20年 | 4,000〜5,000円/㎡ |
無機 | 20年~25年 | 4,500〜5,500円/㎡ |
耐久年数の長い塗料を選ぶなら、フッ素や無機塗料がおすすめです。
実際もっともセメント瓦に塗装されることが多く、費用単価は高めですが、長期的に見るとコストパフォーマンスが良い可能性があります。
一方、遮熱塗料はセメント瓦のメンテナンスには向いていない可能性があります。
セメント瓦は元々遮熱効果が高い屋根材ですので、費用をかけて遮熱塗料を塗装してもその効果はごく薄くしか感じられないのです。
セメント瓦の塗装を行う際は施工費用やその後のメンテナンスの回数、ライフプランとのバランスを考えながら最適な物を選びましょう。
セメント瓦塗装の費用相場
塗料の種類 | 費用相場(100㎡) | うち塗料の金額 |
シリコン | 495,000円 | 180,000円 |
フッ素 | 665,100円 | 350,000円 |
無機 | 865,000円 | 550,000円 |
セメント瓦を塗装するとき、全体の費用相場はおよそ40万~100万円ほどです。
価格に大きく幅があるのは、塗装面の広さと塗料の種類による費用の差が大きいためです。
そのほか3階建ての住宅や、屋根が急勾配である場合、足場代が高額になることがあります。
総合的な費用と塗料の耐久年を考慮しながら打ち合わせをするようにしましょう。
葺き替えをするときの工程と見積もり相場
セメント瓦を葺き替える工程
セメント瓦を葺き替えるときの工程は下記。
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葺き替え工法では、野地板(のじいた)やルーフィング'(防水シート)といった下地材も併せて張り替えることになります。
施工期間はたいていの場合1~2週間程度です。
セメント瓦の葺き替えに適した屋根材は?
耐久性が高く比較的施工も安価なため、セメント瓦から吹き替える場合はガルバリウム鋼板やスレートを使用するのが主流となっています。
スレートの場合は初期費用を抑えることができますが、ガルバリウム鋼板に比べるとメンテナンスコストがかかるため、長期的にみればガルバリウム鋼板のほうがお勧めです。
セメント瓦を継続して使用したいという場合は、最近人気の「ルーガ」という新しいタイプのセメント瓦がおすすめです。
ルーガはこれまでのセメント瓦よりも軽く、耐久性・メンテナンス性に優れています。
葺き替え工事の費用相場
セメント瓦の葺き替え工事の見積もり相場は下記の通りです。
屋根材 | 費用相場(100㎡) | 耐久年数 |
ガルバリウム鋼板 | 100万~200万円 | 20年~30年 |
スレート | 90万~200万円 | 20年~30年 |
アスファルトシングル | 100万~200万円 | 15年~30年 |
日本瓦 | 100万~240万円 | 50年~100年 |
使用する屋根材によって施工費が100万~250万円と大きく変動するため、予算やメンテナンス性から最適なものを選ぶと良いでしょう。
ただし現在使用されているセメント瓦にアスベストが含まれている場合は、別途処分費用が必要になります。
1㎡あたり2万円を超えるなど高額な費用負担になることもありますので、事前に調査しておくなど注意が必要です。
セメント瓦の補修・リフォーム業者を選ぶポイント
大切な住まいのメンテナンスであり高額な費用がかかるセメント瓦の修理は、信頼できる業者に依頼したいですよね。
依頼する業者を選ぶ際には3つのポイントがあります。ご紹介するポイントを押えて、適正価格で確かな工事を行ってくれる業者を探してみましょう!
見積もりは3社以上から取ること
作成された見積もりが適正価格であるかを調べるため、見積もりは3社以上から取るようにしましょう。
2社では見積費用に差があっても、どちらが適正価格であるのかという判断がつきにくくなってしまいます。
また見積もりの内容についても複数の見積もりを取っておけば、「大まかな項目のみ記載してあるのか」「塗料や屋根材の詳細まで丁寧に記載してあるのか」という点についても見比べることができます。
1社のみの見積もりで施工を決めるのではなく、複数の業者の見積もりの内容をしっかりと比較検討したうえ、納得して依頼することが大切です。
セメント瓦の施工実績のある業者を選ぼう!
セメント瓦の補修工事を行う際は、セメント瓦の施工実績のある業者を選ぶことが大切です。
セメント瓦の施工実績の多い業者であれば経験が豊富である分、ご自宅の屋根の状況に合わせて柔軟に対応してもらうことができます。
施工実績は業者のホームページから確認することが可能で、実際の施工過程が写真付きで掲載されている場合もあります。
ご自宅の状況に近い物件での施工経験があるかどうかをしっかりとチェックしておきましょう。
説明が丁寧でコミュニケーションが取りやすいかは重要!
セメント瓦の施工業者を選ぶうえで、説明が丁寧でコミュニケーションが取りやすいかどうかという点は重要です。
見積もりや施工内容に不明な点がある場合に、質問がしやすく丁寧に説明をしてくれる業者であれば、その後の工事も安心して任せることができます。
屋根の工事は大規模になりがちですし、施工期間も長くなるので契約手続きなどのやり取りはスムーズに行いたいですよね。
見積もりや相談の段階で不明な点については進んで質問するなどして、ご自宅の工事を納得して任せられる業者を選ぶようにしましょう。
ミツモアで屋根のプロに見積もりを依頼しよう!
今回は、セメント瓦の基本的な特徴を紹介しつつ、メリットやデメリット、メンテナンス方法まで解説しました。
現在はほとんど製造がされていないため、新しい屋根材としてセメント瓦を選ぶにはリスクが高そうです。
また現状セメント瓦の屋根である場合は、耐用年数・築年数に応じて塗装や葺き替えを検討しましょう。
ミツモアは簡単な質問に答えるだけで屋根修理事業者に見積もりの依頼ができます。
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