「会社を立ち上げたいけど、将来続けられるか心配」「ビジネスを広げたいのに銀行からの融資を得にくい」そのような不安や悩みを持つ個人事業主に活用したいのが、国や地方自治体が支給する「助成金」や「補助金」、「給付金」です。この記事では、個人事業主が利用できる助成金や補助金、給付金について申請方法や注意点を含めて解説します。
この記事を監修した税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
そもそも助成金とは?補助金、給付金との違い
助成金とは主に厚生労働省が企業や団体に対して、財政支援を行う制度です。申請要件を満たせば支給され、主に雇用の促進や維持、雇用保険被保険者の待遇改善などでかかった費用の一部を助成しています。
一方で補助金は、主に経済産業省が企業や団体に対してお金を支給する制度です。要件を満たした方が申請でき、審査を通過すれば、新規事業や新製品の開発などでかかった費用を補助します。支給額は数百万円から数億円を超える場合がありますが、申請者が多かったり、申請時期が合わなかったりすれば支給されないケースもあるので、十分な事前準備が必要です。
また給付金は自然災害や感染症といった緊急事態に陥ったとき、国や地方自治体が困窮者や倒産リスクの高い事業者に対して資金を援助する制度です。審査自体はあまり厳しくありませんが、緊急事態に陥ったときのみ申請できます。
なお助成金と補助金、給付金はいずれも返済義務はありませんが、申請から実際にお金が振り込まれるまで、一定の時間がかかるので注意しましょう。
個人事業主が受け取れる助成金
個人事業主が利用できる主な助成金は下記のとおりです。
助成金一覧 | 対象になる個人事業主 |
雇用調整助成金 | 従業員の雇用を維持したい事業者 |
キャリアアップ助成金 | 非正規雇用者を正社員などにしたい事業者 |
両立支援等助成金 | 子育てや介護の制度を導入したい事業者 |
人材開発支援助成金 | 従業員のスキルアップをしたい事業者 |
トライアル雇用助成金 | 職に就くのが難しい求職者を多く雇用する事業者 |
特定求職者雇用開発助成金 | 職に就くのが難しい特定の求職者を雇用する事業者 |
地域雇用開発助成金 | 地域の求職者を雇用する事業者 |
業務改善助成金 | 生産性向上や賃金向上を図りたい事業者 |
雇用調整助成金
従業員の雇用を維持するため、事業主が従業員に対して休業手当などを支払う際に手当の一部を支給します。対象になるのは事業主が雇用維持のため一時的に雇用調整を行った場合や、従業員を出向させて雇用を維持したときです。
要件 |
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給付額 | 【休業措置の支給額】 休業手当に助成率を乗じた額【教育訓練措置の支給額】 教育訓練実施時の賃金に助成率を乗じた額【出向措置の支給額】 出向元事業主の出向労働者の賃金に対する負担額に助成率を乗じた額 ※助成率:中小企業は3分の2 、それ以外の企業は2分の1 |
公募期間 | 支給対象期間の末日の翌日から2か月以内 |
キャリアアップ助成金
非正規雇用の従業員に対して、企業内でキャリアアップさせるための資金の一部を助成する制度です。有期雇用労働者を正規雇用に転換、または直接雇用した事業者に対して助成する「正社員化コース」など、6つのコースを用意しています。
要件 |
※キャリアアップ計画書は、コース実施日までに管轄労働局長に提出が必要 |
給付額 | 正社員化コース:1人当たり最大57万円(20名まで)
障害者正社員化コース:1人当たり最大120万円 賃金規定等改定コース:1人当たり最大6.5万円 賃金規定等共通化コース:1事業所あたり最大60万円 賞与・退職金制度導入コース:1事業所あたり最大56.8万円 短時間労働者労働時間延長コース:1人あたり23万7千円 ※コースによって給付する金額が異なります。詳細はこちら |
公募期間 | 支給対象期間の末日の翌日から2か月以内 |
両立支援等助成金
休暇制度をはじめとした従業員が働きながら育児・介護との両立を行える制度の導入や、相談対応などを実施している事業者に対して支給します。
要件 | 中小企業であること※1 |
給付額 | 最大60万円
出生時両立支援コースや介護離職防止支援コースなど5つ ※コースによって給付する金額が異なります。詳細はこちら |
公募期間 | 約1年間 |
※1:中小企業の基準(中小企業庁HPより)
業種 | 資本金の額または出資の総額 | 常時雇用する労働者の数 |
小売業・飲食業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
人材開発支援助成金
労働者の人材開発を目的に専門知識やスキルを習得するため、職業訓練を実施した際にかかった経費や賃金の一部を支給する制度です。「一般訓練コース」や「建設労働者認定訓練コース」、「人への投資促進コース」など、8つのコースを用意しています。
要件 |
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給付額 | 人材育成支援コースや教育訓練休暇等付与コースなど8つ ※コースによって給付する金額が異なります。詳細はこちら |
公募期間 | 申請したいコースによって異なります。 |
トライアル雇用助成金
職業経験や知識不足など、さまざまな理由で安定した職に就くのが難しい求職者をハローワークなどを通して、一定期間以上雇用した場合に助成金を支給する制度です。「一般トライアルコース」や「障害者トライアルコース」など、4つのコースを用意しています。
要件 |
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給付額 | 対象者1人あたり月額最大4万円(合計12万円) |
公募期間 | トライアル雇用終了日の翌日から起算して2か月以内 |
特定求職者雇用開発助成金
高年齢者や障害者といった就職困難者を、ハローワークの紹介により継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して支給する制度です。「特定就職困難者コース」や「生涯現役コース」、「成長分野人材確保・育成コース」など、7つのコースを用意しています。
要件 |
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給付額 | 最大240万円 特定就職困難者コースや生涯現役コースなど7つ ※コースによって給付する金額が異なります。詳細はこちら |
公募期間 | 申請したいコースによって異なります。 |
地域雇用開発助成金
求人が少なくなっている地域で事業所の新設や整備などを行い、地域の人々を雇い入れた場合に支給する制度です。1年ごとに最大3回の助成が受けられる「地域雇用開発コース」と「沖縄若年者雇用促進コース」を用意しています。
要件 | 指定地域において、雇用を拡大すべく事業所の新設や増改築などの整備を行うこと など |
給付額 | 地域雇用開発コース:最大800万円
沖縄若年者雇用促進コース:中小企業は支払った賃金の1/3、それ以外の企業は1/4(対象者1人につき60万円まで) |
公募期間 | 申請したいコースによって異なります。 |
業務改善助成金
設備投資や人材育成などを行なって生産性を向上させ、一定額の賃金を引き上げた事業者に支給します。
要件 |
※助成金の支給を決定する前に助成対象となる設備投資(機器の導入や人材育成など)を行った場合は、助成の対象外 |
給付額 | 最大600万円 |
公募期間 | 事業が完了した日から起算して1月を経過する日または2024年4月10日のいずれか早い日まで |
個人事業主が利用できる補助金
個人事業主が利用できる補助金制度は下記のとおりです。
補助金一覧 | 対象になる個人事業主 |
事業再構築補助金 | 事業転換などを行ないたい事業者 |
小規模事業者持続化補助金 | 販路開拓や業務効率化を行ないたい事業者 |
ものづくり補助金 | より多額の資金が必要な事業者 |
IT導入補助金 | ITソリューションを導入したい事業者 |
事業再構築補助金
コロナ禍や円安、国際情勢などの影響を受けて苦境にある企業が業態の転換を図ったり、新しい分野へ進出した際に支援する制度です。建物やシステム構築、広告宣伝などの費用のうち、3/2(6,000万円を超えるときは1/2)の補助が受けられます。
要件 |
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給付額 | 最大1.5億円 |
公募期間 | 不定期 |
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者を対象に持続的な経営に向けて、販路開拓や業務効率化などにかかった費用を補助します。
要件 | 下記の要件を満たす小規模事業者
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給付額 | 最大200万円 |
公募期間 | 不定期 |
ものづくり補助金
インボイス制度の導入や被用者保険の拡大といった制度変更に対応する制度です。革新的サービス開発や試作品開発、生産プロセスの改善を行なう事業者に対して設備投資にかかった費用を支援します。
要件 | 下記の要件をすべて満たす3年から5年の事業計画を策定した中小企業・小規模事業者
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給付額 | 最大1億円 |
公募期間 | 不定期 |
IT導入補助金
ITツールの導入で業務効率化や売上増加に取り組みたい小規模事業者、個人事業主を含む中小企業者に対して、ソフトウェア費やハードウェア購入費用などを支援します。
要件 | 中小企業・小規模事業者 |
給付額 | 最大3,000万円 |
公募期間 | 不定期 |
個人事業主が利用できる給付金・支援金
2024年2月現在、個人事業主が利用できる主な給付金や支援金は起業支援金です。地域の課題解決に貢献するため、新たに社会的事業を立ち上げた個人事業主に対して、人件費や事務所の賃料、通信費などを支給します。
要件 | 下記の要件を満たした個人事業主
東京圏内(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)以外の道府県、または東京圏内の特定の地域(*)にて社会的事業を起業する 交付決定日から補助事業期間完了日までに、個人開業届または法人の設立を行う 起業都道府県内に居住しているか居住予定であること (*)政令指定都市を除く過疎地域の支援対象地域、山村・離島・半島振興法、などの対象地域がある市町村 |
給付額 | 最大200万円 |
公募期間 | 不定期 |
地方自治体独自の助成金・補助金
国だけでなく、都道府県や市区町村単位も個人事業主に向けて助成金や補助金の支援を行なっています。その中で東京都と福岡市の制度について紹介しましょう。
【東京都】創業助成事業
東京都内で起業したい個人事業主や中小企業を対象に賃料や広告費、人件費など、必要な経費の一部を東京都と東京都中小企業振興公社が助成します。
要件 | 都内での創業を具体的に計画している個人または創業後5年未満の中小企業者等のうち、一定の要件を満たす方 |
給付額 | 最大400万円 |
公募期間 | 交付決定日から6か月以上最長2年 |
参考:創業助成事業(東京都)
【東京都】若手・女性リーダー応援プログラム助成事業
女性もしくは39歳以下の男性を対象に都内の商店街で店舗を開業する際、店舗の新装や改装、設備導入などで必要な経費の一部を補助します。ただし対象となるのは小売店や飲食店、サロンなどで、都内に限らず実店舗を持っていないことが条件になるので、注意が必要です。
要件 |
※詳しい要件はこちら |
給付額 | 最大730万円 |
公募期間 |
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【福岡市】新規創業促進補助金
福岡市内でこれから起業したい個人事業主を対象に、国の特定創業支援等事業を使って登録免許税の半額軽減を受けた場合、残りの半額分を支援します。
要件 |
※詳しい要件はこちら |
給付額 | 最大7万5,000円 |
公募期間 | 約1年間 |
個人事業主が助成金・補助金・給付金を利用するメリットとは?
個人事業主が助成金や補助金、給付金などを利用することで事業の安定につながる可能性があります。では具体的にどんなメリットがあるのでしょうか。
基本的に返済の義務はない
助成金や補助金、給付金は基本的に返済する必要はありません。金融機関からの融資とは異なり、必要な資金を得られると惜しむことなく使えます。
経営の方向性が制限されない
助成金は資金の見返りや出資者からの干渉がない資金調達です。自社株の交付で投資家から資金を調達すると、返済の必要がなくても経営に関与してリターンを求められることがあります。助成金や補助金であれば、資金の調達元から縛られることなく、自由に事業を進められます。
資金を減らさず人材確保や設備投資に注力できる
事業規模が小さい個人事業主やフリーランスにとって、助成金や補助金、給付金を支給することで設備投資や人材確保、育成にかかる費用に充てられます。優秀な人材の獲得や最新設備の導入にお金を使いたくても、資金が足りないと実現できません。給付金や補助金、給付金を使えば、手元の資金を減らすことなく、費用を調達できます。対象経費の全額を支給してもらえる制度は多くありませんが、活用することで大幅に負担を軽減できるでしょう。
事業継続の支えになる
「小規模事業者持続化補助金」のように事業を維持するため、販路開拓や事業の転換に取り組む事業者を支援する助成金や補助金、給付金があります。販路の開拓や事業転換を行なうと多額の費用がかかるため、補助金などを活用すれば安心して事業を継続できるでしょう。
助成金の申請方法
助成金や補助金、給付金を申請する流れは、種類やコースなどによって異なります。以下では、一般的な助成金の申請方法について紹介します。
提出書類の準備
決算書類や登記簿謄本、支給要件申立書など、申請に必要な書類を用意します。助成金・補助金制度によっては事前に「認定経営革新等支援機関」をはじめとした各支援機関と連携したり、「経営革新計画」などの承認を受けたりしておく必要があるので注意しましょう。
事業計画・申請書の作成
事業コンセプトやマーケティング戦略、資金計画などの事業計画を策定します。応募したい助成金や補助金制度の公募要件や募集要項を確認したうえで作成するようにしましょう。
事業計画を考えたところで助成金や補助金の申請に必要な申請書を作成します。作成した後は自分だけでなく、専門家など第三者の目でチェックしてもらうのもおすすめです。
審査を経て支給開始
国や地方自治体に申請書を提出した後、審査が行なわれます。書類審査や実地調査などを経て問題がなければ、助成金や補助金、給付金が支給されます。
個人事業主が助成金などを申請するときに気をつけたいこと
助成金や補助金、給付金を申請したからといって、すぐには支給されず、必ずしも受け取れるとは限りません。申請したときに注意すべきポイントについて紹介します。
提出期日を守る
助成金や補助金、給付金を支給してもらうためには、提出期日を守りましょう。制度によっては応募や申請期間が短く、早めに締め切られるケースがあります。事前に申請期間を確認し、余裕を持ったスケジュールで申請しましょう。
受給開始まで時間がかかる
基本的に後払いで助成金や補助金、給付金を支給されるまで時間がかかります。制度によっては申請から受給まで数か月から1年ほどかかる場合もあるので、助成金や補助金頼みの計画は避け、当面の運転資金に余裕を持っておきましょう。
必ずしも給付されるわけではない
助成金や補助金、給付金を申請したからといって、個人事業主は必ずしも受け取れるとは限りません。国や地方自治体から公費として支払うため審査が厳しく、制度によっては利用できない場合があります。また対象となる事業主や雇用状況など、細かく支給要件を定めた制度もあるため、注意が必要です。
お金の使用目的を明らかにする
助成金や補助金の審査を通過するには、お金の使用目的を明らかにすることが必要です。助成金や補助金を受給できた場合の資金使途について、細部まで明確にしておきましょう。とくに補助金は通過率が低いので、資金使途を明らかにして、設備投資や新規事業などのしっかりとした理由で用いることを明示してください。
確定申告のとき助成金・補助金はどう申請する?
助成金・補助金を受給した際は確定申告が必要です。助成金・補助金は所得税の対象であり、雑収入に分類するので、確定申告を行なうときは支給決定通知書をもとに雑収入を計算するようにしましょう。
助成金・補助金は所得税の対象となる
助成金・補助金は所得税の対象です。助成金・補助金は売上と合算した後に、経費を引くことで所得が算出されます。助成金・補助金を受給した際は、ほとんどの場合確定申告が必要です。確定申告をする際は、すべて所得として計上するのを忘れないようにしましょう。
会計処理は「雑収入」の科目で計上する
助成金・補助金の会計処理は「雑収入」の科目で計上します。助成金や補助金の支給が決定すると「支給決定通知書」が届くので、これをもとに所得の計算をしましょう。また、助成金や補助金が入金されるまで時間がかかるため、会計年度をまたいでしまうこともあると思います。 その場合は「未収入金」として処理するのが一般的です。もし、会計手続きに迷うことがあれば税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
助成金の申請で困ったときは専門家に相談を
事業を軌道に乗せるために助成金や補助金、給付金制度を利用するのは有効な手段です。しかし要件を満たしていても申請期限までに間に合わなかったり、申請が認められなかったりするケースもあります。助成金や補助金、給付金の申請で何かわからないことがあれば、厚生労働省や経済産業省、地方自治体の担当部署に相談しましょう。また助成金や補助金、給付金の制度に詳しい税理士や社会保険労務士に相談するのもおすすめします。
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