高額療養費制度を利用することで、所得や年齢にもよりますが、ひと月にかかる医療費の自己負担額を10万円前後まで抑えることが可能です。そこで高額療養費制度や、実際の手続き方法などについて詳しく解説します。
「高額療養費制度」とは
健康保険に加入していれば、医療費の自己負担額は原則3割負担です。しかし、手術や入院が長引くことで、高額な医療費の支払いが見込まれる場合があります。その時に活用したい制度が高額療養費制度です。手続きをすれば、医療費の負担を軽くできます。
ここでは高額療養費制度についてみていきましょう。
社会保険の高額療養費制度とは
高額療養費制度とは重い病気で手術や入院をし自己負担額が高額になってしまった場合に、患者を経済的負担から守る制度です。
高額療養費制度を利用すれば、ひと月(月の初めから終わりまで)にかかる自己負担限度額を超えた部分の医療費が健康保険から支給されます。
高額療養費の自己負担額の対象となるもの
高額療養費の自己負担額の対象となるものと、ならないものは下記の通りです。
対象になるもの | 対象にならないもの |
---|---|
①療養の給付の一部負担金 ②家族療養費の自己負担額 ③訪問看護医療費の基本利用料 など原則3割負担となる負担額 | ①入院時食事療養費・入院時生活療養費の標準負担額 ②保険外併用療養費の自己負担額 ③訪問看護療養費のその他の利用料など保険給付の対象とならないもの |
健康保険の適用になる診療に対して支払った自己負担額は対象になります。
しかし、食費、居住費、患者の希望によってサービスを受ける差額ベッド代、先進医療にかかる費用などは対象なりません。
このように全てが高額療養費制度の対象とはならないので注意してください。
高額になった医療費を請求する手続き
高額になった医療費を請求する手続きには、限度額適用認定証を利用する場合と健康保険高額療養費支給申請書を利用する場合の2種類があります。
限度額適用認定証の場合は事前に手続きをすることで、病院の窓口で支払う医療費は自己負担限度額までとなります。一方、健康保険高額療養費支給申請書の場合、自己負担限度額を超えた部分も含めて医療費を一旦全額支払い、超えた部分に対して後日返金手続きをします。
病院の窓口での支払いの負担を軽くしたい場合は、限度額適用認定証での手続きがおすすめです。これらの手続きの詳細に関しては後述で解説するので、そちらを参考にしてください。
自己負担限度額の計算方法
自己負担限度額は全員一律ではありません。所得区分と70歳未満と70歳以上75歳未満の場合で、異なります。また、75歳以上の場合は後期高齢者医療制度の対象になるため、高額療養費制度の対象ではありません。
ここではそれぞれの場合の自己負担限度額と具体的な計算方法について紹介します。
多数該当
多数該当とは長期間に、高額の医療費がかかってしまった場合に医療費の負担を更に軽くしてくれる制度です。高額療養費として払い戻しを受けた月数が1年間(直近12ヵ月間)で3月以上あったときは、4月目(4回目)から自己負担限度額がさらに引き下げられます。
多数該当は同一保険者での療養に適用されるため、国民健康保険などから協会けんぽに加入した場合など保険者が変わったときは多数該当の月数に通算されません。また、退職して被保険者から被扶養者になった場合も多数該当の月数に通算されません。
また、70歳未満の場合は住民税非課税者も多数該当の適用がありますが、70歳以上75歳未満場合は住民税非課税者は多数該当は適用されません。
70歳未満の場合
所得区分別の自己負担限度額と、多数該当が適用される場合の自己負担限度額は次の通りです。
所得区分 | 自己負担限度額 | 多数該当の場合 |
---|---|---|
標準報酬月額83万円以上 (年収約1,160万円以上) | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
標準報酬月額53~79万円 (年収約770万~1,160万円) | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
年収約370万~約770万円の方 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
標準報酬月額28万円~50万円 (年収約370万円~770万円) | 57,600円 | 44,400円 |
低所得者 (住民税非課税者等) | 35,400円 | 24,600円 |
1回分の自己負担額が限度額を超えない場合でも、複数の病院を受診した場合や同じ医療保険に加入している同一世帯の他の家族の受診分は合算可能です。合算額が自己負担限度額を超えていた場合、手続きをすることで高額療養費が支給されます。ただし、70歳未満の場合は2万1千円以上の自己負担額のみ対象です。
70歳以上75歳未満の場合
所得区分別の自己負担限度額と、多数該当が適用される場合の自己負担限度額は次の通りです。
現役並み所得者の場合
2018年8月1日から70歳以上でも一定以上の収入がある場合は、現役世代と同じ扱いになりました。所得区分ごとの自己負担額の限度額は下記の通りです。同じく多数該当の場合も上限額が上がっているので注意して下さい。
所得区分 | 外来(個人ごと) / 外来・入院(世帯) |
---|---|
標準報酬月額83万円以上で自己負担3割の方 | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% 【多数該当:140,100円】 |
標準報酬月額53万~79万円で自己負担額3割の方 (年収約770万~1,160万円) | 167,400円+(総医療費-558,000)×1% 【多数該当:93,000円】 |
標準報酬月額28万円~50万円で自己負担額3割の方 (年収約370万~770万円』 | 80,100円+(総医療費-267,000)×1% 【多数該当:44,400円】 |
一般所得者の場合
現役並み所得者および低所得者以外の方の自己負担限度額は下記のとおりです。
所得区分 | 外来(個人ごと) | 外来・入院(世帯) |
---|---|---|
一般所得者 (年収約156万~370万円) | 18,000円 (年間上限14万4千円) | 57,600円 【多数該当:44,400円】 |
低所得者の場合
被保険者の住民税が非課税等である方(Ⅱ)または非保険者とその扶養家族全員の収入から必要経費・控除額を除いた後の所得がない方(Ⅰ)の自己負担限度額は下記のとおりです。
なお、現役並み所得者に該当する場合は、住民税が非課税でも現役並み所得者となります。
所得区分 | 外来(個人ごと) | 外来・入院(世帯) |
---|---|---|
Ⅱ 住民税非課税世帯 | 8,000円 | 24,600円 |
Ⅰ 住民税非課税世帯 (年金収入80万円以下など) | 8,000円 | 15,000円 |
一般所得者または低所得者に該当する場合、年間(前年8/1~7/31)の外来療養の自己負担額の合計が144,000円を超えた場合は、その超えた額が払い戻されます。
自己負担限度額の計算例
年収が約370万~約770万円の世帯で、100万円の医療費がかかったとします。この場合自己負担額は30万円です。高額療養費制度を利用した場合の自己負担限度額を計算してみましょう。計算式は下記の通りです。
自己負担限度額=80,100円+(総医療費100万円-267,000円)×1%=87,430円
このように、窓口での実際の支払い額(自己負担限度額)は87,430円です。つまり、高額療養費制度を利用することで、自己負担額が212,570円安くなります。
この金額に食費、差額ベッド代などがプラスされます。食事の自己負担額は1日あたり460円です。差額ベット代は病院によって異なるため事前に確認して下さい。他には病院での生活費用や家族がお見舞いにいく場合の交通費が必要です。そのためおおよその入院費用は総額で10万円前後と考えておくといいでしょう。
「限度額適用認定証」の申請方法
事前に1ヶ月の医療費が高額になると予測される場合は、限度額適用認定証を事前に申請しておくと窓口での負担を軽減できます。
限度額適用認定証を使用した際の申請手続きの流れや、申請書の入手方法や記入方法などを見ていきましょう。
申請手順の流れ(協会けんぽの場合)
限度額適用認定証を使用して医療費を精算するまでの手続きは下記の通りです。
①限度額適用認定申請書を協会けんぽの各都道府県支部へ提出する
②1週間を目安に協会けんぽから限度額適用認定証が交付されます
③医療費の支払いの際に限度額適用認定証と健康保険証を提示し、医療費を精算する
医療機関の窓口で限度額適用認定証と健康保険証を提示すれば、支払いは自己負担限度額までとなります。
限度額認定証は最長1年間利用することができます。有効期限が過ぎた場合や、今後利用予定がない場合は協会けんぽへ速やかに返却をしましょう。
月の途中で交付を受けたため、月始めの診療分の支払い時に限度額認定証を提示できなかった場合は、当月中に再度来院し、限度額適用認定証を病院窓口で提示します。このときに病院窓口で支払った分が確認できれば、精算してもらえることもあります。当月中に来院できない場合は、翌月に来院したとしても前月分に遡って病院窓口で精算は原則できないので、健康保険高額療養費支給申請書を利用して協会けんぽへ請求します。
限度額適用認定証は医療機関ごと、入院外来別で適用されます。同じ月に別の病院を受診した場合は、健康保険高額療養費申請書を使用して後日請求して下さい。
限度額適用認定申請書の入手方法
限度額適用認定申請書は協会けんぽのサイトからダウンロードできます。手書き用と入力用の2種類があります。ダウンロードした申請書を印刷する場合は、片面印刷で黒インクで印刷して下さい。
限度額適用認定申請書の書き方
限度額適用認定申請書の書き方を解説します。
以下のように①には 保険証に記載されている記号・番号を記入します。
自宅で限度額適用認定証を受け取れない場合にのみ、②に希望の送付先の詳細を記入します。
①で記号・番号を記入した場合、③へのマイナンバーの記入は不要です。
限度額適用認定申請書の提出方法
必要事項を記入した限度額適用認定申請書は、所定の添付書類を一緒に自分が加入している協会けんぽ支部へ提出します。郵送での提出も可能です。自分が加入している協会けんぽの支部とその所在地は健康保険証に記載されています。
被保険者のマイナンバーを記載した場合のみ本人確認書類を合わせて提出します。本人確認書類は下記の通りです。
マイナンバーカードを持っている場合
①マイナンバーカードの表面・裏面の両方のコピー
マイナンバーカードを持っていない場合
①番号確認書類
個人番号通知のコピー、住民票(マイナンバーの記載のあるもの)、住民票記載事項証明書(マイナンバーの記載のあるもの)のうちどれか一つ
②身元確認書類
運転免許証のコピー、パスポートのコピー、その他官公署が発行する写真つき身分証明書のコピーのうちどれか一つ
「健康保険高額療養費支給申請書」による医療費の請求方法
複数の医療機関を受診した場合など、限度額適用認定証を使用して高額療養費の給付を受けられない場合は、健康保険高額療養費支給申請書によって医療費の請求が可能です。
ここでは、健康保険高額療養費支給申請書を使用した申請手続きの流れや、申請書の入手方法や記入方法など解説します。
申請手順の流れ
健康保険高額療養費支給申請書を使用した申請手順の流れは下記の通りです。
1 医療機関の窓口で医療費を支払う
2 自分が加入している協会けんぽの支部へ高額療養費の支給を申請する
3 協会けんぽから医療費が指定口座へ振込みされる
健康保険高額療養費支給申請書を受け取った協会けんぽでは、高額療養費の給付を行うかどうか医療機関等から提出される診療報酬明細書(レセプト)をもとに審査をします。審査には診療月から3ヶ月以上かかるので、貯蓄がなく医療費の支払いが難しい場合は限度額適用認定証や、後述する高額療養費貸付制度を利用するといいでしょう。
健康保険高額療養費申請書の入手方法
健康保険高額療養費支給申請書は協会けんぽのサイトからダウンロードできます。手書き用と入力用の2種類があります。ダウンロードした申請書を印刷する場合は、片面印刷で黒インクで印刷して下さい。
健康保険高額療養費支給申請書の書き方
健康保険高額療養費申請書の書き方を解説していきます。
以下のように①には保険証に記載されている記号・番号を記入します。
②には被保険者の情報を記入します。もしその家族(被扶養者)が受診した場合でも、被保険者の氏名などの情報を記入して下さい。また、被保険者が死亡し相続人が手続きを行う際は、被保険者に代えて申請者(相続人)の情報を記入します。
③には振込先の口座情報を記入します。振込先がゆうちょ銀行の場合、振込専用の店名(漢数字3文字)・預金種目・口座番号を記入して下さい。
④の被保険者のマイナンバーの記入欄には、被保険者本人が住民税非課税者であり、平成29年8月以降の診療月分について申請する場合に被保険者のマイナンバーを記入します。
マイナンバーを記入することで、住民税(非)課税証明書などの添付を省略することができます。この場合は、本人確認書類貼付台紙マイナンバーによる課税情報等の確認申出書を一緒に提出します。なお、①の被保険者証の記号と番号を記入し、かつ、マイナンバーと課税情報の連携を希望しない場合は記入する必要はありません。
⑤には高額療養費の申請月を記入します。
⑥は受診者ごとに、医療機関、医科、 歯科、入院、通院、薬局に分けて詳細を記入して下さい。
⑦には差額ベッド代などの保険外負担額や入院時の食事負担額などを控除して、医療機関に支払った金額を記入します。
健康保険高額療養費支給申請書の提出方法
健康保険高額療養費支給申請書は自分が加入している協会けんぽの支部へ提出します。窓口へ出向くことができない場合は郵送でも可能です。自分が加入している協会けんぽの支部とその所在地は健康保険証に記載されています。
また、以下に該当する場合は添付書類の提出が必要です。
ケガ(負傷)の場合 | 「負傷原因届」 |
第三者による傷病の場合 | 「第三者行為による傷病届」 |
公的制度から医療費の助成を受け、窓口負担が軽減されている方 | 助成を受けた診療についての、医療機関からの領収書 |
被保険者が亡くなられ、相続人の方が請求する場合 | 被保険者との続柄がわかる「戸籍謄本」等 |
他にも添付書類が必要な場合があるので、詳細は以下のリンクで確認してください。
高額療養費貸付制度
健康保険高額療養費支給申請書を使用し自己負担限度額を超えた分を申請した場合、支給されるまで3ヶ月程度かかってしまいます。そのため、場合によっては家計に負担がかかる恐れがあります。このような事態を救済する措置として、高額療養費貸付制度があります。
高額療養費貸付制度を利用すれば、無利子で医療費の支払いに充てるための資金を借り入れることが可能です。高額療養費支給見込額に近い金額まで借り入れることができるので、家計への負担を減らすことができます。
ただし、医療機関等の承認を得られない場合や、健康保険料の滞納がある場合は利用できない恐れがあります。
まとめ
このように高額療養費制度を利用することで、病気や怪我で入院手術をした場合の経済的リスクから自分自身や家族を守ることができます。また経済的不安を抱えずに安心して治療を続けることが可能です。ただし申請手続きをしなければ、自己負担限度額を超えた部分の医療費は支給されません。万が一の時に備えて、事前に必要な書類や申請方法を確認しておきましょう。
この記事を監修した社労士
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