社会保険への加入条件は、事業所が法人か否か、役員か否か、短時間勤務かフルタイム勤務か等によって様々なパターンがあります。特に、役員の社会保険への加入条件については、明文化されていない部分もあり、わかりにくくなっています。
この記事では、役員の社会保険加入について、特に必要な部分に絞って解説していきます。
役員の社会保険の加入条件
役員の社会保険への加入条件は健康保険・厚生年金保険と雇用保険で以下のように異なります。
健康保険・厚生年金保険 | 雇用保険 |
---|---|
原則加入 無報酬であったり、非常勤役員であったりする場合は加入できない | 原則加入できない 実態として労働者性の強い兼務役員であれば加入 |
健康保険・厚生年金保険の加入条件
法人、または常時5人以上の従業員が働く個人事業所(適用除外事業は除く)の事業主や役員は、労務の対象として報酬が支払われている場合、原則、健康保険と厚生年金保険(40歳以上65歳未満であれば介護保険も)に加入することになります。
加入義務が発生しない場合としては、報酬が「0円」の場合であり、極論ですが、1円でも報酬があれば、社会保険の加入義務が発生します。
しかし、極端に低報酬の場合、年金事務所からその役員報酬が社会通念上労務の内容に相当したものであるのか否か、疑念を持たれる可能性もあります。
また、非常勤役員の場合にも加入義務は発生しません。
社労士コメント:役員報酬が低い場合の社会保険料
ドラフト労務管理事務所 - 大阪府大阪市東成区中道
役員は無報酬でも法令違反にならない?
労働基準法で規定する「労働者」には最低賃金法が適用され、賃金の最低額が法律で保障されています。会社の役員は無報酬でも法違反にならないのか?を判断するにあたっては、その役員が労働基準法上の「労働者」に該当するか否かが重要になります。
結論から言うと、役員であっても業務執行権や代表権をもたず、工場長、部長などの職務を行って報酬を受けている場合(名ばかり取締役)は労働基準法上の労働者とされ、最低賃金法が適用されます。つまり最低賃金以上の報酬の支払いが必要です。
一方、業務執行権や代表権のある役員は、「労働者」とはならず、極論として無報酬であっても最低賃金法違反とはなりえません。
また、同居の親族のみを使用する事業所も労働基準法の適用が除外されており、労働基準法上の労働者とは扱われません。
雇用保険の加入条件
取締役などの役員や同居親族は労働者ではないため、労働保険(労災保険と雇用保険)対象にはならず、雇用保険への加入もできません。
しかし、一般の従業員としての肩書を持つ兼務役員や個人事業所における他の労働者と同様の就業実態の親族であれば労働保険の対象となり、雇用保険への加入も可能となります。兼務役員が雇用保険に加入する場合、「兼務役員雇用実態証明書」を添付書類と共に管轄のハローワークへ提出します。
また、雇用保険に加入している兼務役員の「雇用保険の徴収時の賃金額」、「労働保険の申告時の賃金額」、「退職時の離職票に記載する賃金額」については役員報酬を除いた額であることに注意が必要です。
社労士コメント:兼務役員の要件
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兼務役員雇用実態証明書の提出先や期日、添付書類
「兼務役員雇用実態証明書」の提出先や期日、添付書類に関しては以下の表の通りです。また、用紙は以下のリンクからダウンロード可能です。
提出先 | 管轄のハローワーク |
期日 | 速やかに |
添付書類 | 出勤簿、賃金台帳、労働者名簿、登記簿謄本のコピー、役員就任時の議事録、定款、就業規則、給与規定、人事組織図 |
社労士コメント:役員の社会保険への加入条件
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二か所以上から給与を受け取っている役員の社会保険
役員の場合には複数の会社で勤務しているケースも多いと思います。給与の受取先が二か所以上の場合には一か所のみの場合に比べて必要な社会保険手続きが増えるので、役員として複数の企業で勤務する際には注意が必要です。
以下では二か所以上から給与が支払われている役員の社会保険の加入条件や二以上事業所勤務届について解説していきます。
二か所以上から給与を受け取っている役員の社会保険
複数の勤務先で働いている場合の社会保険の加入義務の判断は各事業所ごとに行います。一か所で社会保険の加入手続きを終えていても、二か所目以降の事業所で加入義務が無くなったり加入手続きが不要になるわけではありません。
前述の通り1円でも報酬があれば社会保険への加入義務が生じるので、新たに勤務することになった二か所目の事業所から給与を受け取るのであれば社会保険の加入手続き必要です(非常勤役員を除く)。加入手続き自体は通常の社会保険の加入手続きとほぼ同じですが、複数の事業所で勤務する場合、「二以上事業所勤務届」も提出しなければいけません。
なお、社会保険料の計算については、二か所以上の事業所から受け取っている給与額を全て合算した額を基準に算出し、その上で各事業所から支払われている給与額に応じて按分して各事業所ごとの保険料納付額を計算します。
二以上事業所勤務届の提出
二か所以上の事業所で社会保険の加入義務が生じると各年金事務所で加入手続きを行いますが、加入後も複数の年金事務所とやり取りする形では手続きが煩雑になり、効率的ではありません。そのため、「二以上事業所勤務届」を提出して事務手続きを行う年金事務所を一か所選択する仕組みになっています。
二以上事業所勤務届は選択する年金事務所に提出しますが、事業所整理番号など選択事業所・非選択事業所両方の事業所に関する情報の記入が必要です。記入に必要な事項は各会社に早めに確認したほうが良いでしょう。
報酬月額欄に記入する金額は通勤定期券など通貨以外の物も通貨換算して含めた金額を記入し、押印は被保険者自らが自署した場合は省略できます。提出期限は複数の事業所に勤務するようになってから10日以内なので、健康保険の被保険者証を添付して期限内に提出するようにして下さい。
アドバイザーや同居親族の役員報酬と社会保険
特殊スキルや豊かな経験からアドバイスをくれる顧問的役員やアドバイザーと契約をすることもあると思います。また、固定費をできる限り抑えるため、親族に仕事を手伝ってもらうことも多いでしょう。ここではそれらの顧問的役員やアドバイザー、そして親族の社会保険について説明していきます。
アドバイザー役員の報酬と社会保険は?
報酬が支払われている役員は、原則社会保険へ加入することになります。しかし、アドバイザーのような非常勤役員については社会保険の加入義務はありません。先ほど説明したように、定期的に出勤しているかどうか、当該法人における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか等が判断材料となります。
同居親族の報酬と社会保険
親族であっても、常用的に就労し、報酬を受けているならば、健康保険と厚生年金保険(、介護保険)の被保険者になります。
従業員が同居の親族のみである場合や、家族が役員となっている場合、上記でも述べたように報酬額に対する法的規制はなく、極論1円でも問題ありません。しかし、報酬を極端に低くすると、社会保険料の控除ができないばかりか、本当に常用的就労をしているのだろうか? その報酬は労務の内容に相当したものなのか? と年金事務所に疑念を持たれてしまう可能性もあります。親族であっても、ある程度の報酬は支払っておく方がよいと思います。
親族が非常勤の役員である場合には、社会保険の加入対象とはなりません。その場合、報酬が年間130万円未満(月収10万8千円未満)で、かつ事業主(世帯主)の収入の2分の1未満であれば、被扶養者になることができます。被扶養者であれば本人の保険料は0円で済むうえに、必要な保険給付を受けることができます。ただし、被扶養者の場合は、傷病手当金は受給できません。
ちなみに、親族であっても、事業所に家族以外の従業員がいて、事業主の指揮命令のもとに他の従業員と同じように働いている場合は、その親族は労基法上の労働者とされ、最低賃金法で定める最低賃金以上の支払いが必要になりますので注意が必要です。
役員に就任する顧問や、親族(親など)が70歳以上の場合
70歳以上になると厚生年金保険の被保険者資格を喪失し、被保険者でなくなります。健康保険については、75歳以上になると資格喪失し、その後は後期高齢者医療制度に加入することになります。
役員等が70歳になった場合の手続きとしては、これまでは「70歳以上被用者該当届」の提出が必要でしたが、2019年4月より、この届出は省略できるようになりました。ただし、70歳到達日前後で、標準報酬月額が異なる場合は提出が必要です。
また、新たに70歳以上の方を雇用する場合は、「70歳以上被用者該当届」を提出します。
また、70歳到達時に老齢年金の受給権がない場合(国民年金の保険料納付済み期間と保険料免除期間を合算した期間が10年に満たない場合等)には、高齢任意加入被保険者となることができます。その場合は「厚生年金保険高齢任意加入被保険者資格取得申出申請書」を提出します。
まとめ
今回は役員の社会保険への加入条件について解説してきましたが、他にもパートや日雇い労働者など、社会保険の加入条件は様々で、少し複雑です。ホームページなどである程度はわかりますが、本業で忙しいなか、調べるのに使える時間は限られると思います。そういう場合は、社会保険の専門家である社労士(社会保険労務士)に依頼するのも一手です。
この記事を監修した社労士
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