相続税対策のために生前贈与する人が増えています。財産の一部を生前に贈与することで相続財産を減らし、相続税を減税するのです。贈与には贈与税が課税されますが「1年に110万円」までは贈与税がかからない、と聞いている人も多いでしょう。生前贈与を有効に活用するために欠かせない、贈与税の節税についてご紹介します。
この記事を監修した税理士
大原政人税理士事務所 - 神奈川県川崎市川崎区
贈与税とは?
贈与税は、財産を誰かに贈った際にかかる税金のことです。実は、贈与には明確な定義があり、贈与したつもりでも認められないことも。贈与の条件や注意点、贈与税の計算方法などを説明します。
そもそも「贈与」とは?
贈与とは、財産を無償で贈るという意思表示に対し、相手が承諾することで成り立ちます。相続が故人の意思表示なしに成立するのに対し、贈与は、基本的には生きている人同士の合意が不可欠です。この考え方は、贈与税を考える上でも重要なポイントです。
例えば、子どもが生まれたときに、親が口座を作って預金していたとしても、これは贈与にはなりません。なぜならば、親が口座を作ったとき、そのことを子どもは知らず、承諾の意思表示をしていないからです。
個人と個人の契約であることもポイントです。口頭であっても「契約」とみなされます。
会社から個人に財産を贈ることは贈与ではないため、贈与税は課されません。
会社から財産を得た場合は、所得税(給与・賞与又は一時所得)が課されます。
注意が必要なのは、生命保険の受け取りについての考え方です。生命保険は、被保険者と保険料の負担者、保険金の受取人が誰かによって課せられる税金が異なります。
- パターン1:保険料の負担者=受取人で、被保険者が異なる場合
課せられる税金:所得税・住民税
例)父の生命保険を母が支払い、受取人が母
- パターン2:被保険者=保険料の負担者で、受取人が異なる場合
課せられる税金:相続税
例)父の生命保険を父が支払い、受取人が母
- パターン3:被保険者、保険料の負担者、受取人がすべて異なる場合
課せられる税金:贈与税
例)父の生命保険を母が支払い、受取人は子ども
贈与税は税率高め?
贈与税は相続税より税率が高く設定されています。贈与税が安くなると、相続税の節税のために多くの人が財産を生前に贈与してしまい、相続税を支払う人がいなくなってしまうからです。
贈与税にも相続税にも基礎控除があり、それを差し引いた額が課税額となります。いずれも、最高税率は55%、最低税率は10%ですが、基準になる金額が異なります。
贈与税 | 相続税 | |
---|---|---|
最高税率 | 1年間の贈与額が3,110万円を超えると55% | 「6億円+基礎控除」を超えると55% |
最低税率 | 基礎控除を除き200万円以下で10% | 基礎控除を除き1,000万円以下で10% |
ただし、最近では、制度の緩和も行われています。高齢者が持っている財産を若い世代に分与させ、教育や住宅購入、投資などの資金として活用もらうのが目的です。
緩和制度や特例を活用すれば、税率が高い贈与税を節税しつつ、相続税も節税できます。
一般贈与と特例贈与
では、贈与税はどのように計算するのでしょうか。
贈与税の税率は「特例贈与財産」と「一般贈与財産」で異なります。税率の段階は10~55%と変わりませんが、一般贈与財産より特例贈与財産のほうが、税率が低く設定されています。
・特例贈与財産
直系の尊属(父母、祖父母、養父母など)から20歳以上の人が贈与を受けた財産
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
・一般贈与財産
特例贈与財産を除く贈与財産。兄弟や夫婦、未成年の子への贈与の場合適用
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
贈与税の注意点
贈与税は申告税です。その年に財産の贈与があった場合、「財産を受け取った人」に、贈与税を申告し納税する義務があります。
贈与税の課税方式には「暦年課税」と「相続時精算課税」があり、条件によってどちらかを選択し、申告します。
・暦年課税
1~12月の1年間に受けた贈与について課税。現金や有価証券、不動産などあらゆる財産の贈与が対象。贈与した人、贈与を受けた人の制限がなく、誰でも利用できる。財産の贈与だけでなく、債務の免除や、市場価格より著しく安く物や土地などを売ってもらった場合も、課税対象となる。
・相続時精算課税
親、祖父母から贈与された場合、合計2,500万円まで贈与税が非課税になる制度。複数年に渡って適用される。ただし、相続時には、この制度により贈与された財産も相続財産に加えられ、相続税が課税される。
<相続時精算課税の利用条件>
以下をすべて満たした場合、利用できる。
1 贈与者が贈与した年の1月1日時点で60歳以下
2 贈与を受ける人が贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上
3 贈与者と贈与を受ける人の関係が、親子か祖父母と孫
贈与税を節税しよう
せっかく財産を贈与しても、贈与税として高い税率の税金が差し引かれてしまうのでは、贈与の意味はありません。活用できる制度や控除を利用して、少しでも贈与税がかからない方法を知っておきましょう。
「暦年課税」の基礎控除を利用しよう
相続税の申告方法で暦年課税を選択した場合、1人につき年間110万円の基礎控除が受けられます。贈与税は贈与した金額から基礎控除を差し引いた金額に課税されるので、年間110万円までは贈与税がかかりません。
基礎控除は贈与を受ける人について設定されます。複数の人から贈与されても、受ける人が1人の場合、基礎控除は110万円です。
連年贈与にならないように気をつけよう
基礎控除110万円以内の贈与であれば、贈与税も相続税もかかりません。そのため、毎年110万円ずつ贈与していけば税金はゼロになる、と考える人も多いようです。
毎年同じ額を複数年に渡って行う贈与を「連年贈与」と言います。暦年贈与は贈与税の課税対象とみなされるので注意が必要です。
例えば毎年100万円を10年間贈与した場合、贈与があった最初の年に「1,000万円を10年分割でもらう権利」を贈与されたとみなされます。すると、最初の年に1,000万円贈与されたの同じ扱いになり、贈与税が課せられるのです。
せっかくの節税対策を無駄にしないために、どんな対策をとればよいのでしょうか。
・毎年贈与額を変える
・毎年時期をずらして贈与する
・贈与の度に契約書を作成する
110万円を少し超えた金額を贈与し、贈与税を納める、という方法も知られていますが、暦年贈与対策としての意味はあまりありません。
特別控除を利用しよう
贈与税には基礎控除のほかに、配偶者控除があります。婚姻期間が20年以上の夫婦間で利用できるもので、住むための不動産や、不動産取得を目的とした金銭の贈与があったとき、最高2,000万円まで控除されます。
非課税になる贈与と特例
日常的に必要な生活費や教育費の贈与についても贈与税はかかりません。大学などの高額の学費や一人暮らしの仕送りなどは、高額であっても贈与税はかかりません。
さらに、条件によって利用できる非課税の特例もあります。(2019年3月に特例制度は終了する予定だったが、延長され、現在も活用可能)
- 教育資金制度の非課税特例
対 象:直系の尊属(父母、祖父母)から30歳未満の子や孫への贈与
適用方法:子や孫の名義で口座を開設し、一括で口座に預け入れる。金融機関を通じて非課税申告書を提出
限 度 額:1人につき1,500万円
使用目的:学校などの入学金、授業料、塾や習い事の月謝、通学定期券、留学渡航費
期 間:2021年3月31日まで
注意事項:・使用した金額の領収書を保管し、金融機関への提出が必要
・30歳になるまで使い切れなかった額には贈与税が課税される
・教育以外の用途には使用できない
- 結婚・子育て資金の非課税特例
対 象:直系の尊属(父母、祖父母)から20歳以上50歳未満の子や孫
適用方法:子や孫の名義で口座を開設し、一括で口座に預け入れる。金融機関を通じて非課税申告書を提出
限 度 額:1人につき1,000万円(結婚関連は300万円まで)
使用目的:結婚式費用(婚姻届提出後1年前の支払いから)、家賃等新居の費用、引越し費用、不妊治療の費用、分娩費用、産後ケアの費用、
子どもの医療費、幼稚園・保育所の入園料・保育料
期 間:2021年3月31日まで
注意事項:・お金を使ったら領収書を保管し、金融機関への提出が必要
・50歳になるまでに使い切れなかった額には贈与税が課税される
・結婚・子育て以外の用途には使用できない
- 住宅取得等資金の非課税特例
対 象:直系の尊属(父母、祖父母)から20歳以上の子や孫
適用方法:贈与税の申告が必要
限 度 額:契約の締結日によって異なるが、上限は3,000万円
(2019年9月までは1,200万円)
使用目的:住宅の取得、新築、増改築
期 間:2021年12月31日まで
注意事項:・贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与額全額を当てて住まいを取得(引き渡しまで完了)すること。
・贈与を受けた年の翌年12月31日までに居住しない場合は適用されない。
非課税の特例には、目的の用途で使い切らなければならない、住宅の場合は適用面積の規定がある、などの多くの条件があります。専門的な知識が必要な部分もあるので、税金のプロである税理士に相談するのがオススメです。
贈与税で相続税を節税しよう
財産を生前贈与する一番のメリットは、相続財産が減らせ、相続税を節税できることです。具体的に、どのくらいの節税効果があるのでしょうか。
「暦年課税」の基礎控除シミュレーション
5,000万円の財産を、2人の子どもに一括で相続する場合と、25年間贈与した場合で、どのくらいの節税効果があるかシミュレーションしてみましょう。
例:父の財産を子どもが相続または贈与(配偶者はいない)の場合
- 5,000万円を相続した場合(法定相続人が2人)の場合
5,000万円-(3,000万円+600万円×2人)×10% = 80万円 - 5,000万円を100万円ずつ25年で贈与し、残りを相続した場合(一般贈与財産適用)
・贈与税
(100万-110万円)×0%×25年= 0 円
・相続税
2,500万円-(3,000万円+600万円×2人)=0円
暦年課税を上手に活用すれば、そのまま相続するより、相続税、贈与税が節税できます。
早めに始めよう
相続税対策として贈与をする場合、注意しなければならないことは、死亡する3年前からの贈与は相続とみなされる点です。病気になったりして、少しでもと相続税対策を始めても、3年以内に行った贈与額は相続額に加算され、相続税が加算されてしまいます。
3年の間に贈与税を支払っていれば、その分は控除されますが、基礎控除内での贈与を行った場合は、新たな税金になるのです。
毎年の基礎控除額で贈与税の節税を考える場合は、早くから始めれば、その分効果は大きくなります。1,000万円を贈与するのに10年かければ相続税はかかりませんが、5年で贈与しようとすると、相続税が発生します。
相続税対策としての贈与を考えたら、少しでも早く始めることが重要です。
口座を利用した相続税対策に注意
子どもや孫に財産を贈るのが贈与。では、銀行に自分で子ども名義の口座を作り、ここに財産を移しても、贈与とみなされるのでしょうか。
この方法、簡単にできるので、やっている方も多いかもしれませんが、相続税対策としてはNG。登録の印鑑や通帳、キャッシュカードを名義人が持ってなく、自由に使えなければ、贈与が成立したとはみなされません。
財産を移す口座を、実質的に管理しているのが名義人でない場合は、相続税の課税対象資産になるので、注意しましょう。名義預金、税金逃れとみなされないために贈与契約書を作成する、子どもが自分の住所の近くに口座を開設する、などの対策が効果的です。
「相続時精算課税」を利用しよう
相続税精算課税は、合計2,500万円まで贈与税が非課税になります。60歳以上の父母、祖父母から、20歳以上の子、孫に対しての相続であることが条件です。
2,500万円は贈与者ごとの総額なので、父から2,500万円、祖母から2,500万円、など、贈与者をわけて贈与してもらえます。贈与財産の種類に制限もなく、複数年に渡って適用されることが特徴です。
相続税精算課税のメリットは、多額の財産を贈与できる、という点です。生前に110万円以上の贈与が必要な事情ができた場合は、この方法が有効になります。
一時的にでも税金を払わなくていいのは、住宅や車の購入、子どもの学費など大きな出費が必要な現役世代にとって大きな利点です。
「暦年課税」との兼ね合いに注意
相続税精算課税のデメリットは、一度相続税精算課税の申請をしてしまうと同じ人からの贈与について、それ以降は暦年課税が適用できない、という点です。
さらに、相続税精算課税を選択すると、暦年課税で適用される、毎年110万円の基礎控除が使えなくなります。
また、贈与された財産分は、相続時に相続財産に加算され、相続税が課税されます。暦年課税のメリットを考慮した上で選択しなければ、逆に相続税がかかってしまう可能性もあります。
また、相続時に小規模宅地等の特例が利用できない、不動産贈与の場合、不動産取得税が発生したり、登録免許税が高くなるなどのデメリットもあります。
「相続時精算課税」はどんな場合に利用する?
では、どんな場合に相続時精算課税を選択したらよいのでしょうか。自分がどの方法を選択したらよいかを考える場合は、将来的に支払う相続税の見込みを、事前に計算しておくことが有効です。
相続時には、3,000万円プラス、法定相続人1人あたり600万円の基礎控除が適用されます。財産の総額がこれを下回るか、相続税負担が少額の場合は、相続時精算課税を選択するのがオススメ。贈与税を節税しつつ、大きな金額を子どもや孫世代に贈与できます。
また、株や不動産など将来値上がりしそうな財産、収益財産を贈与する場合も、相続時精算課税制度にメリットがあります。それは、「相続時に持ち越される財産額は、贈与時点の時価にもち戻す」という特徴があるからです。例えば、100万の株券を贈与した後相続時に200万円になっていた、という場合でも評価額は100万円のままなので、100万円分の相続税を節税できます。
収益不動産であれば賃料収入は贈与された子どもの収入になります。贈与時の価格以上の財産を、子ども世代に引き継げ、長い目でみれば、有効な相続税対策になるのです。
ただし、贈与時に、不動産や有価証券が将来どうなるかは、不確定です。父からの贈与と母からの贈与など、贈与者を分散して相続時精算課税と暦年課税を併用すれば、より確実な贈与税の節税対策になります。
贈与税の節税はメリットがいっぱい
贈与税の節税を考えつつ、生前贈与を行うことは、財産を相続する側にとっても、贈与される若い世代にとってもさまざまなメリットがあります。しかし、そのメリットを十分に受け取るためには、正しい贈与税の知識が必要です。
贈与税を知らないと税で大損?
贈与税にはさまざまな控除や特例があります。相続税を節税するためにも、子どもや孫世代の豊かな暮らしを支援するためにも、生前贈与を活用してくことを考える必要があります。
贈与税の節税のためには、できるだけ早めに自分の財産を把握し、長期計画で少しずつ贈与したり、特例を活用しての贈与が不可欠。贈与税の仕組みを熟知していなければ、相続税対策どころか、贈与税でも損をすることにもなりかねません。
少しでも相続を考えたら、まずは贈与や贈与税、相続税についての知識を持つことが大切です。
細かいことは税理士に聞いてみよう
贈与税の節税をする際は、相続税も一緒に考えておくことが重要です。また、贈与税の節税に必要な特例制度などを活用するためには、条件や運用方法など、贈与税についての知識も必要です。
けれど、税金に関する法律や制度は、身近なようでわかりにくいもの。わかったような気がしても、一つ間違ってしまえば、節税のつもりで損をしてしまう可能性もあります。
そんなとき、相談相手になってくれるのが、税金のプロである税理士。税に関する相談ができる唯一の専門家です。少しでもわからない点や不安な点があれば、迷わず税理士に相談し、プロの意見をもらって実践することが贈与税を節税する一番の近道になります。
監修税理士コメント
大原政人税理士事務所 - 神奈川県川崎市川崎区
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