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土地の生前贈与と相続どちらが得か|税金や制度・手続きの違い

最終更新日: 2024年05月02日

土地を誰かに譲りたいと考えたとき、生前贈与と相続のどちらが得か悩む方も多いのではないでしょうか。

「どちらの方が節税できるの?」、「手続きにかかる手間は違うのだろうか?」、「それぞれどのような場合に向いているの?」と疑問がたくさん浮かぶと思います。

この記事では生前贈与と相続に関して、以下の項目で比較していきます。

  • 税金はどちらが得なのか
  • それぞれの税金を抑える制度
  • 手続きはどちらが簡単なのか
  • 生前贈与の方が良い場合
  • 相続の方が良い場合
  • 不動産の生前贈与における注意点

それぞれの内容や特徴がわかるよう丁寧に解説しますが、生前贈与も相続も手続きや税金の計算方法は複雑です。そのため、「プロに判断してもらいたい!」という方は税理士に相談することをおすすめします。

ミツモア」では生前贈与や贈与に詳しい税理士を見つけることができるので、ぜひ利用してみてください。

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生前贈与と相続の基礎知識

紙にはてな

まず、生前贈与と相続はそれぞれどのような内容なのか記載します。

  • 生前贈与とは
  • 相続とは

生前贈与とは

生前贈与とは、所有者が生きているうちに財産を無償で譲ることです。

家や土地などは、所有者が亡くなると相続人となる配偶者や子に相続することになりますが、生前贈与は亡くなる前に特定の人に譲ってしまう制度です。生前贈与の場合は、相続人以外にも贈与できます。

相続とは

相続とは、亡くなった人の財産を特定の人が引き継ぐことです。財産をもらえるのは法律で定められた法定相続人か、遺言書で指定された人となります。

法定相続人は、配偶者、子、親、兄弟姉妹などであり、優先順位や財産を受け取られる割合が定められています。

生前贈与と相続:税金はどちらが得なのか

家とお金と電卓

土地を譲るときに、生前贈与と相続はそれぞれどのくらい税金がかかるのか、どちらの方が得なのか知りたい方も多いと思います。生前贈与と相続で課される税金について、次のとおり解説します。

  • 贈与税:年間110万円の基礎控除額を超えた分にかかる
  • 相続税:3,000万円+(600万円×法定相続人の数)の基礎控除額を超えると課税される
  • 不動産取得税:相続ではかからない
  • 登録免許税:相続の方が安い

贈与税:年間110万円の基礎控除額を超えた分にかかる

生前贈与の場合、贈与税が課せられます。贈与税の対象者は、財産を贈与された個人(受贈者)です。

贈与税の課税方法は「暦年課税」と「相続時精算課税」があり、暦年課税の場合は年間で110万円の基礎控除額を超えた財産に対して課税されます。基礎控除額とは、財産の金額から一定の金額を引くことができるもので、贈与の暦年課税では年間110万円です。

つまり贈与の暦年課税の場合、財産の金額が110万円以下であれば課税される価格が0円の扱いになり、非課税です。申告も不要です。

課税される場合の税率は、基礎控除後の財産の金額に応じて10%〜55%の間で決まります。また、財産の金額に税率をかけたあとに、さらに一定金額を引くことができる税額控除の額も、課税価格によって10万円〜640万円と定められています。

例えば、財産の金額が500万円のケースだと、以下の式で贈与税額が求められます。

(500万円-基礎控除額110万円)×税率15%-税額控除10万円=48 万5千円

相続税:3,000万円+(600万円×法定相続人の数)の基礎控除額を超えると課税される

相続税は、下記の式で求められる基礎控除額を超えた分に課税されます。

基礎控除額:3,000万円+600万円×法定相続人の数

例えば、相続人が配偶者1人と子2人の場合、基礎控除額は、3,000万円+600万円×3人で4,800万円となり、相続する財産が4,800万円までであれば相続税はかかりません。

相続税がいくらかかるかは、財産の金額によって定められている10%〜55%までの税率と、0円〜7,200万円までの控除額により決まります。

相続税の金額を知るには以下の手順を踏まなければなりません。

  1. 課税遺産総額を算出する(課税価格-基礎控除額)
  2. 相続税の総額を算出する(「課税遺産総額の法定相続分×相続税率」の総額)
  3. 各人の相続税額を算出する(相続税の総額×各人の課税価格/課税価格の合計額)

不動産取得税:相続ではかからない

不動産取得税は、土地や家を購入、新築したり、贈与されたりしたときに課される税金です。相続では課されません

不動産取得税の納税義務者は、不動産を取得した人です。不動産取得税は以下の式で算出します。

不動産取得税=固定資産税評価額×4%

固定資産税評価額は、市町村長によって決められており、市役所や税事務所で閲覧できる固定資産課税台帳に記載されています。

ただし不動産取得税には免税点があり、土地と家でそれぞれ固定資産税評価額が以下の金額であれば課税されません。

土地の贈与:10万円未満

家の贈与:1戸につき12万円未満

登録免許税:相続の方が安い

不動産の名義を変更する「所有権移転登記」の際には登録免許税の納付が必要ですが、この金額は相続よりも贈与の方が高く設定されています。それぞれ以下のとおりです。

相続の登録免許税=固定資産税評価額×0.4%

贈与の登録免許税=固定資産税評価額×2%

仮に固定資産税評価額が500万円とすると、登録免許税は相続だと2万円、贈与では10万円になります。事前に固定資産税評価額を確認し、登録免許税がいくらになるか確認しておいた方が良いでしょう。

生前贈与と相続:それぞれの税金を抑える制度

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生前贈与における贈与税と、相続における相続税を抑える制度には次のようなものがあります。

  • 配偶者控除:相続税の方が控除額が大きい
  • 小規模宅地等の特例:相続税を節税できる
  • 相続時精算課税制度:贈与税を抑えられる

それぞれの詳細をご説明します。

配偶者控除:相続税の方が控除額が大きい

配偶者控除とは、配偶者から贈与や相続を受けた場合に、一定の金額までであれば財産を非課税にできる制度です。

贈与税における配偶者控除は、配偶者から贈与を受けたときに、基礎控除とは別に最高2,000万円までの財産が非課税になります。つまり、暦年課税の基礎控除と併せて最高2,110万円までの財産を非課税にできます

一方で相続のときは、最大で1億6,000万円以下であれば非課税となります。

それぞれの適用要件は異なるので注意しましょう。

小規模宅地等の特例:相続税を節税できる

小規模宅地等の特例とは、相続税における土地の評価額を80%か50%減額できる制度です。相続税の対象となる金額が小さくなるので、節税につながります。

 

小規模宅地等の特例が適用できる土地は以下の3種類で、それぞれで上限面積と減額割合が異なります。

  • 特定居住用宅地等:自宅の敷地
  • 特定事業用宅地等(特定同族会社事業用宅地を含む):店舗等
  • 貸付事業用宅地等:貸付事業に使用されていた土地

特定居住用宅地等は、自宅の敷地を配偶者や親族が相続したものです。面積の上限は330㎡、減額割合は80%と決められています。

特定事業用宅地等(特定同族会社事業用宅地を含む)とは、店舗等を一定の親族が相続したものです。面積の上限は400㎡、減額割合は80%です。

貸付事業用宅地等は、被相続人の貸付事業に使われていた土地です。貸付事業とは、駐車場業や不動産貸付業のことを指します。面積の上限は200㎡、減額割合は50%です。

小規模宅地等の特例は相続税を抑えられる便利な制度ですが、適用には上記以外にも細かい規定があるので、活用したい方は税理士に相談してみてください。

相続時精算課税制度:贈与税を抑えられる

相続時精算課税は贈与税において、累計で2,500万円までの財産を非課税にできる制度です。ただし、のちに相続が発生した際に相続税の対象となります。

相続時精算課税の適用要件は次のとおりです。

  • 贈与者:贈与を受けた年の1月1日時点で満60歳以上の父母か祖父母
  • 受贈者:贈与を受けた年の1月1日時点で満18歳以上の推定相続人である子か孫
  • 贈与を受けた年の翌年の2 月1日から3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」を税務署に提出する

相続時精算課税も贈与税を軽減できる制度ですが、一度選択すると同じ人からの贈与については暦年課税を選べなくなるので注意しましょう。

相続税と贈与税を抑える制度についてご説明しましたが、「結局自分が払う税金はいくらになるの?」「自分の場合、生前贈与と相続のどちらが得か算出するのは難しい…」と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そのような場合は、プロに相談することがおすすめです。「ミツモア」では生前贈与や相続に詳しい税理士を探すことができるので、ぜひ利用してみてください。

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生前贈与と相続:手続きはどちらが簡単なのか

チェックシート

生前贈与と相続の手続きを比べると、生前贈与の方がスムーズな可能性が高いです。それぞれの手続きについて、以下の項目でご説明します。

  • 生前贈与の流れ:登記と贈与税・不動産取得税の申告
  • 相続の流れ:登記と相続税の申告
  • 相続より生前贈与の方がスムーズな場合が多い

生前贈与の流れ:登記と贈与税・不動産取得税の申告

生前贈与ではまず贈与契約書を作成し、その他の必要書類を集めて登記を行います。登記とは、土地の名義を変更する手続きのことです。登記の際には、登録免許税の納付も必要です。

贈与税は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までに申告します。土地の価値を路線価方式もしくは倍率方式で評価し、それに応じて贈与税の金額を算出します。申告書に必要事項を記入したら、税務署へ送付するかe-Tax(電子申告)などで提出しましょう。

 

不動産取得税は、自治体から届く通知書に記されている金額を納付します。

相続の流れ:登記と相続税の申告

遺言書に従う、もしくは遺産分割協議により相続の内容が決まって土地を相続することになったら、土地の名義を変更する登記を行います。生前贈与と同じく登録免許税の納付が必要です。

相続税の申告書の提出と納付は、原則として相続人が相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に行わなければなりません。期限内に申告と納付ができなければ、無申告加算税や延滞税がかかったり、相続税に関する特例が適用できなかったりするので注意しましょう。

ただし、相続税額が10万円を超えていること、申告期限までに延納申請書を提出することなど、いくつかの要件を満たせば延納が認められます。

相続より生前贈与の方がスムーズな場合が多い

生前贈与と相続それぞれの手続きの流れをご説明しました。どちらも複雑な手続きなので税理士に依頼することが一般的ですが、生前贈与よりも相続の方が協議する人数が多く、話し合いが難航してスムーズに進まないケースが多いです。

生前贈与の方が良い場合

AとB

「生前贈与と相続の税金や手続きについて理解できたけれども、結局どちらがいいのかわからない」という方も多いでしょう。まずは、一般的に生前贈与の方が向いている3つのケースをご紹介します。

  • 特定の人に土地を引き継ぎたい
  • 相続トラブルの発生が予想される
  • 将来的に土地の価値が上がると見込まれる

特定の人に土地を引き継ぎたい

特定の相手に不動産を引き継ぎたいときは生前贈与がおすすめです。

相続するときも遺言書があれば特定の相手に不動産を譲れますが、遺言書がなければ遺産分割協議を行い、不動産を含む財産を誰がどのように引き継ぐか決めることになります。相続を受けるのは、基本的に法定相続人です。

一方で、生前贈与の場合は特定の法定相続人にも、法定相続人以外の人にも贈与できます。例えば、相続では配偶者と子がいる場合、孫に相続することはできませんが、生前贈与では孫に不動産を譲ることも可能です。

特定の人に不動産を譲りたいときは、生前贈与を検討すると良いでしょう。

相続トラブルの発生が予想される

相続の場合、遺言書がなければ遺産分割協議が必須となるので、法定相続人の間で協議が難航するなどのトラブルが予想されるときは、生前贈与を検討することがおすすめです。

生前贈与であれば、特定の人に好きなタイミングで土地を譲ることができます。

将来的に土地の価値が上がると見込まれる

相続時に不動産の価値が上がりそうなときも、生前贈与がおすすめです。不動産の価値が高ければ高いほど贈与税や相続税が上がるため、価値が低いうちに譲った方が税金を抑えられる可能性があるからです。

ただし、贈与税と相続税では相続税の方が税率は低く設定されています。そのため、どちらの方が税金を軽減できるかは慎重に検討する必要があります。税金の計算は複雑なので、迷ったときは税理士に相談することをおすすめします。

相続の方が良い場合

紙にAB

生前贈与の方がおすすめのケースをご紹介しましたが、反対に相続の方が良いのは2つのケースをご説明します。

  • 相続財産の評価額が基礎控除額以下
  • 相続税の特例による節税効果が大きくなる

相続財産の評価額が基礎控除額以下

一定の金額まで課税されなくなる基礎控除額は、贈与より相続の方が大きいです。贈与の基礎控除額は年間で110万円、相続は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」となります

そのため、土地の評価額が相続の基礎控除額内に収まるのであれば、相続の方が税金を抑えられるためおすすめです。

相続税の特例による節税効果が大きくなる

相続税の特例である配偶者控除や小規模宅地等の特例の適用要件に当てはまり、これらを活用できるときは相続の方が良いでしょう。

相続税における配偶者控除では最大で1億6,000万円を控除でき、小規模宅地等の特例では土地の評価額を80%か50%減額できるため、節税効果が大きいからです。

土地の生前贈与における注意点

チェック

土地の生前贈与にはいくつか注意点があります。

  • 相続開始前3年以内に贈与すると相続財産に加算される
  • 定期贈与とみなされると控除額が減る
  • 贈与契約書がないと生前贈与と認められない可能性がある

損することがないように、しっかり内容を理解しましょう。

相続開始前3年以内に贈与すると相続財産に加算される

注意点の1つ目は、相続開始前3年以内に贈与すると相続財産に加算されることです。

これは「生前贈与加算」といい、相続開始前の3年以内に贈与を受けた財産は、生前贈与財産として相続財産に加算されると決まっています。つまり、贈与された分も相続税の対象となる金額に含まれてしまうということです。

贈与時に払った贈与税の金額は控除されます。また、もし相続放棄などで相続財産を取得しないときには加算されません。

定期贈与とみなされると控除額が減る

贈与の暦年課税では、毎年110万円以下であれば非課税となります。ただし毎年一定の財産を贈与し、税務署から定期贈与と見なされた場合、合計金額から110万円を引くことしかできなくなります

贈与契約書を一括ではなく毎年締結する、贈与する金額や時期をずらすなどにより、定期贈与と見なされにくくできます。

贈与契約書がないと生前贈与と認められない可能性がある

贈与契約は、当事者間の合意のみで成立する諾成契約といいます。土地の生前贈与は口約束でも有効で、契約書の作成は必須ではありません。

しかし契約書がないと、相続が開始したときに税務署から生前贈与と認められず、土地が相続税の対象となってしまう恐れがあります。また、のちのちトラブルが起こることを防ぐためにも、贈与契約書を作成する方が無難です。

生前贈与か相続か悩んだら税理士に相談しよう

おばあさんと相談

生前贈与と相続は、課される税金や節税できる制度、手続きの流れがそれぞれ異なります。

生前贈与では贈与税が、相続では相続税が課されますが、控除できる金額は違い、計算方法も複雑です。生前贈与の場合は相続時精算課税制度、相続の場合は小規模宅地等の特例により、税金を抑えられる可能性があります。

生前贈与の方が良いケースと相続の方が良いケースは一定のパターンがあるものの、自分がどちらに当てはまるかを知るには、さまざまな要素を考えなければならないので判断が難しいです。

そのため、生前贈与か相続で悩んだら税理士に相談することをおすすめします。「ミツモア」を使えば、生前贈与や相続に詳しい税理士から見積もりをもらうことができるので、適切なコストで税理士に依頼したい方はぜひご利用ください。

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