「子供に土地を贈与したいけれども、名義はどのように変更すれば良いの?」
「名義の変更には何か費用がかかるの?贈与税はいくらくらい?」
「贈与税を節税する方法はあるの?」
ご自分の家や土地を生前贈与したいと考えたとき、このような疑問が浮かぶのではないでしょうか。
不動産の名義変更は「所有権移転登記」といい、生前贈与の場合は「贈与登記」と呼ばれます。
この記事では、贈与登記の流れと発生する税金や費用、贈与税を軽減する制度について詳しく解説します。
併せて、不動産を生前に贈与するメリットとデメリット、生前贈与と相続の違いについても説明します。
不動産の生前贈与に伴う名義変更を行う予定がある方は、参考にしてください。
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生前贈与とは
生前贈与とは、所有者が生きているうちに家などの財産を無償で譲ることです。
家や土地などは、所有者が亡くなると相続人となる配偶者や子に相続することになりますが、生前贈与は亡くなる前に特定の人に譲ってしまう制度です。
相続の場合は、財産を受け取る人が法定相続人として定められますが、生前贈与の場合は法定相続人以外にも贈与できます。例えば、相続では配偶者と子がいる場合、孫に相続することはできませんが、生前贈与では孫に不動産を譲ることも可能です。
相続のときは相続税がかかりますが、生前贈与のときは贈与税が課されます。いずれも税金を抑えられるさまざまな制度があるのですが、場合によっては生前贈与した方が税金の負担を減らせる可能性があります。
不動産を生前贈与するときの名義変更の流れ
不動産の名義を変更する手続きは「所有権移転登記」といい、不動産を生前贈与するときの名義変更は「贈与登記」と呼ばれます。
贈与登記は、主に次の流れで行います。
- 贈与契約書を作成する
- 必要書類を集める
- 登記申請書を作成して提出する
- 登記完了証などを受領する
それぞれの手続きの方法をご説明します。
贈与契約書を作成する
始めに贈与契約書を作成します。贈与契約は当事者間の合意のみで成立する諾成契約といい、口頭でも成立しますが、登記を申請する際に贈与契約書が必要となるので書面を作成しましょう。後々トラブルが発生することを防ぐためにも、契約書を作った方が良いです。
贈与契約書には、贈与する不動産の所在地、種類(居宅など)、構造(木造○階建など)、床面積などの情報や、引渡し日、税金の負担区分を記載します。
不動産に関する情報は、「登記事項証明書」を確認して正確に記載しましょう。登記事項証明書は法務局の窓口で受け取れるほか、郵送やオンラインで請求することもできます。また、オンラインで閲覧のみ行うことも可能です。
必要書類を集める
贈与登記では、贈与する人、贈与される人、対象となる家に関する次の書類が必要となります。
まず、贈与する人にかかわる書類はこちらです。
- 印鑑証明書:発行から3ヶ月以内のもの
贈与される人が準備する書類も1点です。
- 住民票(除票):居住地の市町村役場で取得する
家に関する書類は3点です。
- 贈与契約書:原本が必要
- 登記済または登記識別情報:贈与者が家を取得したときに交付された原本
- 固定資産評価証明書:不動産所在地の市(都)税事務所か市町村役場で取得する
登記申請書を作成して提出する
必要書類が揃ったら、登記申請書を作成し法務局へ提出します。登記申請書には、登記の目的や原因、課税価格などを記載します。登記申請書のひな形や記載例は、法務局のホームページからダウンロード可能です。
登記申請書を提出する際には、登録免許税を支払わなければなりません。登録免許税は、金融機関や税務署に現金で納付する方法、収入印紙を購入する方法のいずれかで支払います。登記申請書を提出するときに、現金で納付した領収書もしくは収入印紙の添付が必要です。
登記完了証などを受領する
法務局から登記完了証や登記識別情報通知が交付されたら贈与登記は完了です。登記は申請してその場で完了するものではなく、法務局で書類に不備がないかや不動産の情報を確認する期間が発生します。そのため、登記を申請してから完了までには1週間〜10日ほどかかることを認識しておきましょう。
不動産の生前贈与にかかる税金・費用
不動産の生前贈与には、以下の税金と費用がかかります。
「基礎控除とは何だろう?」、「固定資産税評価額はどこで確認できるの?」という疑問をお持ちの方も多いと思うので、一つひとつ丁寧に解説します。
贈与税:基礎控除を超えた金額に課税される
生前贈与では、まず贈与税が課せられます。贈与税の対象者は、財産を贈与された個人(受贈者)です。
贈与税の課税方法は「暦年課税」と「相続時精算課税」があり、暦年課税の場合は年間で110万円の基礎控除額を超えた財産に対して課税されます。基礎控除額とは、財産の金額から一定の金額を引くことができるもので、贈与の暦年課税では年間110万円です。
つまり贈与の暦年課税の場合、財産の金額が110万円以下であれば課税される価格が0円の扱いになり、非課税です。申告も不要です。なお、2024年1月からの制度改正により、相続開始前7年以内の贈与はなかったことにされ、相続財産に加算されることとなりました。
課税される場合の税率は、基礎控除後の財産の金額に応じて10%〜55%の間で決まります。また、財産の金額に税率をかけたあとに、さらに一定金額を引くことができる税額控除の額も、課税価格によって10万円〜640万円と定められています。
例えば、財産の金額が500万円のケースだと、以下の式で贈与税額が求められます。
不動産取得税:固定資産税評価額×4%
不動産取得税は、土地や家を購入、新築したり、贈与されたりしたときに課される税金です。納税義務者は、不動産を取得した人です。
不動産取得税は、以下の式で算出します。
固定資産税評価額は、市町村長によって決められており、市役所や税事務所で閲覧できる固定資産課税台帳に記載されています。
なお、不動産取得税は特例として、2027年3月31日まで3%に軽減されているので、留意しておきましょう。
不動産取得税には免税点があり、土地と家でそれぞれ固定資産税評価額が以下の金額であれば課税されません。
家の贈与:1戸につき12万円未満(建築により取得した場合は23万円未満)
登録免許税:固定資産税評価額×2%
不動産の贈与の際は、贈与税、不動産取得税のほかに登録免許税も納付しなければなりません。登録免許税とは、不動産を登記するときに課される税金です。
登録免許税も不動産取得税と同様に、固定資産税評価額に税率をかけて決まります。贈与における登録免許税の税率は、以下のとおりです。
なお相続の場合は税率が0.4%で、贈与よりも低くなっています。
雑費:必要書類の取り寄せ・郵送費用など
生前贈与では、贈与する人、贈与される人、対象となる不動産に関する次の書類が必要となり、それぞれの取得費用がかかります。
- 贈与する人の印鑑証明書:発行から3ヶ月以内のもの
- 贈与される人の住民票(除票):居住地の市町村役場で取得する
- 贈与契約書:原本が必要
- 登記済または登記識別情報:贈与者が不動産を取得したときに交付された原本
- 固定資産評価証明書:不動産所在地の市(都)税事務所か市町村役場で取得する
例えば、印鑑証明書は約400円、住民票(除票)は300円、固定資産評価証明書は200円〜400円かかる自治体が多いです。
加えて、必要書類と登記申請書を法務局へ郵送する費用もかかることを認識しておきましょう。
贈与税を軽減する制度
不動産を贈与する際には、贈与税、不動産取得税、登録免許税がかかりますが、このうち贈与税に関しては負担を軽減できる以下の方法があります。
それぞれの制度でどのくらいの負担を軽減できるのか、適用を受けるためにはどのような要件があるのか解説します。
配偶者控除を適用する
贈与税における配偶者控除は、配偶者から贈与を受けたときに、基礎控除とは別に最高2,000万円までの財産が非課税になる制度です。つまり、暦年課税の基礎控除と併せて最高2,110万円までの財産を非課税にできます。
贈与税の配偶者控除を適用するには、いくつかの要件を満たさなければなりません。
- 婚姻の日から贈与の日までの婚姻期間が20年以上であること
- 贈与を受けた年の翌年の3月15日までに居住し、その後も居住し続ける見込みであること
- 贈与を受けた年の翌年の3月15 日までに贈与税の申告書を提出すること
- 同じ配偶者からの贈与でこれまでに適用されていないこと
これらの要件を満たして配偶者控除を適用できると、税金の負担を軽くすることができます。
相続時精算課税を活用する
相続時精算課税は、累計で2,500万円までの財産を非課税にできる制度です。ただし、のちに相続が発生した際に相続税の対象となります。
相続時精算課税の適用要件は次のとおりです。
- 贈与者:贈与を受けた年の1月1日時点で満60歳以上の父母か祖父母
- 受贈者:贈与を受けた年の1月1日時点で満18歳以上の推定相続人である子か孫
- 贈与を受けた年の翌年の2 月1日から3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」を税務署に提出する
相続時精算課税も贈与税を軽減できる制度ですが、一度選択すると同じ人からの贈与については暦年課税を選べなくなるので注意しましょう。また、相続時精算課税を適用すると、暦年課税を利用できないだけでなく、小規模宅地等の特例も利用出来なくなることに注意してください。
贈与税の基礎控除や計算方法、負担を軽減できる配偶者控除と相続時精算課税について説明しましたが、「結局自分が払う税金はいくらになるの?」「暦年課税と相続時精算課税はどちらを選択すべきなのだろうか?」と疑問に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような場合は、プロに相談することがおすすめです。「ミツモア」では、生前贈与に詳しい税理士を探すことができるので、ぜひ利用してみてください。
不動産を生前贈与するメリット
不動産を相続ではなく生前に贈与すると、次のようなメリットがあります。
それぞれ具体的にどのような点が良いのか解説します。
特定の相手に不動産を引き継げる
一つ目のメリットは、特定の相手に不動産を引き継げることです。
相続するときも遺言書があれば特定の相手に不動産を譲れますが、遺言書がなければ遺産分割協議を行い、不動産を含む財産を誰がどのように引き継ぐか決めることになります。相続を受けるのは、基本的に法定相続人です。
一方で、生前贈与の場合は特定の法定相続人にも、法定相続人以外の人にも贈与できます。例えば、相続では配偶者と子がいる場合、孫に相続することはできませんが、生前贈与では孫に不動産を譲ることも可能です。
特定の人に不動産を譲りたいときは、生前贈与を検討すると良いでしょう。
税金を抑えられる可能性がある
配偶者控除や相続時精算課税が適用できる場合は、不動産を生前に贈与することで税金の負担を軽減できる可能性があります。
また、贈与税や相続税は不動産の価値が高いほど高くなるので、該当の不動産の価値が今後著しく上がることが見込まれるケースでは、将来的に相続するよりも、早めに贈与した方が税金を抑えられるかもしれません。
不動産を生前贈与するデメリット
不動産を生前贈与するメリットをご紹介しましたが、反対に以下のデメリットもあります。
この2点についてご説明するので、デメリットもよく踏まえたうえで生前贈与を検討してください。
納税するための資金が必要である
不動産を生前贈与するデメリットの一つは、納税するための資金が必要であることです。相続税では一定の要件を満たすと延納が認められており、延納でも現金での納付が難しいときは不動産や国債証券などで納付できる物納が可能です。
しかし、贈与税では物納ができません。そのため、贈与税を支払うためのまとまった現金が必要となります。
贈与税がいくらになるのか、あらかじめ確認したうえで生前贈与を行うか考えましょう。
ほかにも、贈与の場合は不動産取得税と登録免許税がかかります。贈与の場合、不動産取得税は固定資産税評価額×4%、登録免許税は固定資産税評価額×2%です。
一方で相続の場合、不動産取得税は発生しません。登録免許税は固定資産税評価額×0.4%で済みます。諸々の費用を合計した場合に、どちらが総合的にみてよいか、判断するようにしましょう。
相続財産が減る可能性がある
生前贈与によって不動産を贈与された場合「特別受益」とみなされ、相続できる財産が減る可能性があります。
特別受益とは、法定相続人の公平を図るために、優遇されていた人が相続する財産は少なく、そうでない人が相続する財産は多くする制度です。
生前贈与がすべて特別受益になるわけではありません。しかし、特別受益と見なされる贈与の種類に「生計の資本としての贈与」があり、不動産の生前贈与はこれに該当するため、特別受益となります。
不動産の生前贈与と相続の違い
不動産を生前贈与するメリットとデメリットを解説しましたが、「結局自分はどちらの方が良いの?」「どちらの方が税金の負担を軽くできるのだろうか?」と悩む方も多いと思います。
不動産の生前贈与と相続では、税金が異なります。贈与税と相続税を比較すると、税率は相続税の方が低いです。不動産取得税は、贈与の場合は固定資産税評価額×4%が課されますが、相続の場合はかかりません。登録免許税も、贈与では固定資産税評価額×2%ですが、相続では0.4%なので、相続の方が低いです。
しかしながら、配偶者控除や相続時精算課税などの贈与税を軽減できる制度もあるため、一概に相続の方が良いとは言えません。
どちらが良いか知りたいときは、税理士に相談することをおすすめします。
生前贈与は税理士に相談しよう
この記事では、不動産を生前贈与するときの名義変更、すなわち贈与登記の手続きの流れ、発生する税金や費用、贈与税を軽減する制度、不動産を生前贈与するメリット・デメリット、相続との違いをご説明しました。
不動産の生前贈与とそれに伴う名義変更には、贈与税、不動産取得税、登録免許税とさまざまな税金がかかります。また、生前贈与と相続ではどちらの方が税金を抑えられるのかの検討も必要でしょう。
税理士に相談すれば、生前贈与に関する税金について詳しく知ることができます。「ミツモア」であれば、生前贈与に強い税理士から見積もりを取得することができるので、適切な費用で税理士に相談したい方は利用してみてください。