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地域ブランドを守る「地域団体商標」とは?登録要件や出願方法を解説

最終更新日: 2024年06月28日

地域のブランドを保護する目的で創設された、地域団体商標。街おこしのため、地元の特産品を守るために活用されることを想定している商標です。

特例的な商標なので、地域団体商標として登録を受けるには数々の条件をクリアしなければなりません。本記事では、地域団体商標の概要や認められる条件、権利を侵害して訴訟になってしまった例などをご紹介します。

地域団体商標とは?

地域団体商標
地域団体商標は地域ブランドを守るための商標!

地域ブランドを保護する目的で創設された特別な商標制度が、「地域団体商標」です。大切に育てた地域ブランドで地域団体商標を取得することで、地域と関係のない企業などが無断でそのブランドを使用するのを法的に防ぐことができます。

本項では、地域団体商標の概要や地域団体商標の登録を受けられる団体、さらに地域団体商標を受けるメリットなどについて見ていきましょう。

地域団体商標は「地域+商品(サービス)名」

地域団体商標とは、「地名+商品(サービス)名」からなる地域ブランドについて、地元の事業協同組合などが登録を申請できる商標です。

このような普通名称を含む地域ブランドの名前は、従来の商標制度では登録が不可能でした。そこで、各地の地域ブランドを、法的に保護するために生まれたのが地域団体商標です。2006年にスタートした商標なので、比較的新しい制度だと言えます。

地域団体商標の登録を受けられる団体は?

地域団体商標の申請は、普通の商標と違って誰でもできるわけではありません。地域団体商標の登録を受けられる団体は、基本的に以下の団体に限られています。

  • 事業協同組合、農業協同組合など
  • 商工会
  • 商工会議所
  • NPO法人

そのため個人や一般企業は、地域団体商標の出願をすることができません。

地域団体商標の登録を受けられる商標

地域団体商標の登録を受けられる商標には、一定の条件があるので要注意です。まず前提として、「地域名+商品(サービス)名」からなる名称である必要があります。

「米沢牛」「草加せんべい」「沖縄そば」といった具合ですね。さらに、その地域ブランドがある程度の地理的範囲で、それなりに広く周知されていないといけません。

地域団体商標を受けるメリット

地域団体商標として登録されることで、法的な保護を受けることができます。たとえば、その地域と関係のない企業が、その地域ブランドの人気に便乗する形でブランド名を使用した場合、使用の差し止め請求などを行うことが可能です。

これにより、他社によるブランドの不正利用を防止したり、あるいは他社に使用許可を与える権利を行使したりできるようになります。

また地域団体商標の登録を受ければ、取引信用力やブランド力、訴求力の向上にもつながるでしょう。マーケットにおける他商品との差別化という意味でも、地域団体商標のお墨付きをもらう効果は大きいのです。

地域団体商標と通常の商標の違い

地域団体商標には通常の商標と違い、専用使用権が認められていません。また通常の商標は申請者自身がそのブランドを使用するのが前提ですが、地域団体商標の場合は、申請する事業協同組合などの組合員がブランドを使うことになります。

さらに、地域団体商標の出願前からその名称を継続的に使用している事業者がいた場合、その事業者はそのまま対象の地域ブランドを使うことが認められています。

地域団体商標の出願から登録までの流れ

地域団体商標出願から登録
地域団体商標出願から登録までの流れを解説(画像提供:PIXTA)

続けて、地域団体商標の出願から登録までの流れをご紹介します。登録までの大まかなステップは以下の通りです。

  • 書類を揃えて、特許庁に地域団体商標を出願する
  • 審査を受ける
  • 「拒絶理由通知」が届いたら、意見書などで反論する
  • 「登録査定」が届いたら、登録料を納付する
  • 登録証が交付され、正式に地域団体商標の権利が発生する

それぞれの段階について、以下より詳しく見ていきます。

地域団体商標を出願

まずは特許庁に地域団体商標の出願を行います。出願はオンラインで行うか、書面で行うかを選択可能です。書面で行う場合は、特許庁に持参しても郵送しても大丈夫です。出願には、以下の書類が必要となります。

  • 地域団体商標願
  • 事業協同組合など規定の団体であることを証明する書類
  • 商標法で規定されている地域の名称を含むものであることを証明する書類
  • 消費者などに広く認知されていることを証明する書類

また出願の際には出願料の納付も併せて行いましょう。出願料は「3,400円+(8,600円×登録する区分数)」です。

地域団体商標の審査は「方式」「実体」の2段階

地域団体商標の登録審査は、「方式審査」「実体審査」という2段階で行われます。

「方式審査」というのは、提出した出願書類が規定に沿った形で記載されているかをチェックする審査です。ここでミスが見つかると、「手続補正指令書」という書面が特許庁から送られてきて、修正・再出願を促されます。

書類の形式がチェックされる方式審査をパスすると、次は「実体審査」です。実体審査は、出願された地域ブランドが、地域団体商標の様々な要件に合致するかを審査する段階。つまりこちらが審査の本番、実質的な本審査となるわけです。

「拒絶理由通知」が届いたら意見書などで反論

実体審査の結果、出願内容に登録を認められない不備が見つかると、特許庁から「拒絶理由通知」が届きます。これは「登録は拒否されました」という最終通知ではないので、拒絶理由通知が来ても落ち着きましょう。

拒絶理由通知の内容を確認した上で、それに沿って出願内容を修正したり、意見書を提出して反論したりします。意見書などの提出後、特許庁で再度の実体審査が行われます。なぜ拒絶理由通知が出されたのか、どのような意見書を提出すればよいのかという判断は、専門家である弁理士の意見を仰いだほうが無難です。

審査通過すると「登録査定」が届くので登録料納付

最終的に審査通過すると、「登録査定」という通知が届きます。この登録査定が来たら、地域団体商標の登録が無事に認められたということ。すぐに登録料を納付しましょう。登録料を納付しないと、せっかく登録査定が来ても地域団体商標の登録が認められなくなってしまいます。登録料は10年分で、「28,000円×区分数」です。

登録料の納付が完了すると、じきに商標登録証が交付されます。これでようやく地域団体商標の登録が完了。この時点から正式に地域団体商標の権利が発生します。

10年間の期限が到来する前に更新を!

地域団体商標の有効期間は10年です。登録から10年間の期限が来る前に更新登録申請料を支払って、また10年権利を更新します。

10年ごとに更新登録申請料を納付することで、半永久的に地域団体商標の権利を更新することが可能です。更新登録申請料は「38,800円×区分数」になります。初回登録時の登録料とは金額が異なるので注意が必要です。

地域団体商標で登録を受けた例

横浜中華街 地域団体商標
横浜中華街も地域団体商標!

ここからは、実際に地域団体商標で登録を受けた具体例をいくつか見ていきたいと思います。地域団体商標の登録を目指す背景や目的はそれぞれ。しかしどの団体も、地域団体商標の登録によってブランド力向上など大きな恩恵を受けています。これから地域団体商標の登録を目指そうと考えている方は、これらの事例を参考にしてみてください。

兵庫県豊岡市「豊岡鞄」地域ブランド力強化と人材育成を

兵庫県豊岡市は、古くから高品質な鞄の生産地として知られる地域。しかし企業から受注して製造するOEM生産が主流だったため、なかなか消費者に「豊岡の鞄」として認知されるのは難しい状況にありました。

そこで豊岡の鞄をブランドとして育てるために「豊岡鞄」を地域団体商標として登録。その効果でメディアなどで頻繁に取り上げられるようになり、豊岡鞄のブランド力は一気に向上しました。

ブランド力向上に伴って、豊岡鞄を作る人材の後継育成にも良い影響が現れるように。鞄職人を育てる専門校も開設され、高品質な豊岡鞄の製造を担う次世代の育成が進んでいます。

宮崎県「みやざき地頭鶏」知名度向上に貢献

宮崎県の「みやざき地頭鶏」は、全国的に人気の地鶏。みやざき地頭鶏事業協同組合が生産や流通を管理していますが、当初は知名度不足という課題がありました。そこで地域団体商標の登録を行ったところ、徐々にブランドとしての認知度が向上し、流通量が増えるように。現在では宮崎県を代表するブランドのひとつとして高い人気を博しています。

また、みやざき地頭鶏を地域団体商標として登録することで、類似商品との差別化にも成功。偽装表示をする業者が現れるなどの問題も、地域団体商標の登録によって効果的に防止することができるようになりました。

有名な「横浜中華街」も地域団体商標!

日本のみならず、東アジアを代表する中華街である横浜中華街。観光地としても非常に有名ですが、実は「横浜中華街」という名称で地域団体商標として登録されているんです。もちろん横浜中華街は商品ではなく役務(サービス)の一種としての登録で、中華料理の提供がその役務(サービス)の内容となっています。

横浜中華街が地域団体商標として登録されたのは、地域団体商標の制度が始まった初期の頃。地域ブランドとしての横浜中華街を大切に保護し、さらなる観光業の発展を目指そうという意図が伺えます。

地域団体商標が侵害された例

かまぼこ
小田原かまぼこなど、地域団体商標の権利侵害で訴訟に

地域団体商標が登録されたあと、「地域団体商標権が侵害された」として裁判にまで発展したケースも存在します。本項では、裁判で地域団体商標の侵害について争われた事例を「小田原かまぼこ事件」と「豊岡柳事件」の2件ご紹介。それぞれの事件の概要や争点、当事者の主張、そして判決についてご紹介していきます。

地域団体商標の取得を検討されている方は、どのような行為が権利の侵害行為にあたる(訴えられる)のかを確認しておくと良いでしょう。

小田原かまぼこ事件

「小田原かまぼこ」を地域団体商標として登録していた小田原蒲鉾協同組合が、商品に「小田原かまぼこ」の名称を使っていた小田原市外の業者を相手に、使用差し止めと損害賠償を請求したのが「小田原かまぼこ事件」です。

訴えられた業者側は「小田原かまぼこの名称は地域団体商標の登録前から使用しており、先使用権が認められる。また当社所在地と小田原市は2kmしか離れておらず、小田原かまぼこは小田原市とその周辺で作られたかまぼこと理解されるべき」という主張を展開。一方の協同組合側は、「小田原かまぼこの名称を使用することは、協同組合が古くから守ってきたブランドに便乗する行為で不正競争にあたるので、先使用権は認められない」と主張しました。

最終的に、裁判所は「商品における地域名の使用については、歴史的・文化的なつながりを考慮するべき」として、業者側の主張を認める判決を出しました。

豊岡柳事件

兵庫県豊岡市の伝統工芸品である、豊岡杞柳細工。地域団体商標として登録されていましたが、数年後に別の業者が「豊岡柳」という名称を商標登録しました。これに対して「豊岡柳」は豊岡杞柳細工との混同を生じさせるとして、商標登録の取り消しを求めて訴えたのが「豊岡柳事件」です。

裁判では「豊岡柳は豊岡杞柳細工と類似しているとは言えず、混同を生ずる恐れがあるとも言えない」として、請求を棄却する判決が出ました。しかしその後この判決の取り消しを求める取消訴訟が知財高裁にて争われます。

そして知財高裁では「名称自体は類似しているわけではないものの、豊岡市で生産された柳細工という観念は類似している」などとして「豊岡杞柳細工」側の訴えが認められ、先の裁判での判決が取り消される結果となりました。

地域団体商標登録の相談なら弁理士に

地域団体商標の出願から登録までには、様々な手続きと膨大な法的知識が必要とされます。専門家の助けを借りずに自力で無事地域団体商標の登録にたどり着くのは、かなり難しいと言えるでしょう。

そこでおすすめなのが、商標の専門家である弁理士に相談することです。本項では、弁理士に地域団体商標の相談をするメリットや、地域団体商標に強い弁理士を探す方法についてご紹介します。

地域団体商標の出願は弁理士に相談でスムーズに

地域団体商標の出願手続きを失敗なく確実に行うためには、弁理士に相談するのが一番の近道です。弁理士に相談すれば、出願の前に周知性や他商標との類似性といった観点から、登録される見込みがあるのかどうかを判定してくれます。検討段階で周知性がない場合には、それを高める方法や出願した場合に審査を通す施策なども、専門知識を用いて教えてもらえるんです。

出願後も登録まで徹底的にサポートしてくれるのも、弁理士に相談するメリット。拒絶理由通知が届いた場合の対応もサポートしてもらえるので安心です。そのため地域団体商標のみならず、商標登録を出願する場合は弁理士に頼むのが一般的になっています。

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