商標登録における「立体商標」とは、通常の商標登録と何が違うのでしょうか。立体商標によって守れる権利や、立体商標として認められる条件について本記事は徹底解説。
また、実際に立体商標登録された例についてもご紹介します。
立体商標とは?その効力は?
立体商標とは平面構造ではない立体的な形状のものについても商標権の登録を認める制度です。この立体商標は近年、大手企業の出願申請が増えている商標権でもあります。
ここでは、まず立体商標の定義や意匠権との違いや、立体商標が認められたときの効力について確認しましょう。
立体商標とは
立体商標とは、立体的な形状についても商品やサービスを識別する機能があるものとして商標登録を認める制度です。
従来の商標法では、企業のロゴマークや商品名のような文字商標や記号商標などに限り商標登録が認められていました。立体商標については1996年の商標法改正により初めて認められました。
企業や個人事業主は立体商標を活用することで、三次元の製品・サービスの保護を図ることが可能になったのです。
なお、立体商標は他の商標権と同様に、特許庁へ商標を出願して認可を受けることで商標登録を受けることができます。
商標登録を行わないまま商標を使用していて他社がその商標を先に登録してしまった場合、商標権の侵害となり、使用できなくなる恐れもあるので注意が必要です。
立体商標と意匠権の違い
立体商標とは異なりますが、工業用のデザインを保護する制度として「意匠権」があります。立体商標が認められるまでは、デザイン等を保護するために意匠権を活用することも多くありました。ここでは、立体商標と意匠権の違いについて詳しく確認してみましょう。
意匠権とは
意匠権は商品やその部品など特有の工業用デザインについて独占的な権利を認める制度です。デザインが似ている他社の類似商品や模倣品などを法的強制力で排除でき、そのデザインをメインとした自社製品のブランド化を図れることが大きなメリットになります。
立体商標とは
立体商標は立体的な構造のものを商品やサービスを認識する(他の企業と区別する)ための商標として登録することができる制度です。
ただし、そのデザインだけでは立体商標として商標登録ができない点には注意が必要です。
あくまでも商標は、その企業などが取り扱う商品やサービスに対して消費者などが間違いない目印として識別できることを目的としています。
つまり、立体商標はこれまでに企業が築き上げてきた核となる商品やサービスが存在してはじめて、それと対になっている立体的な構造物を商標として専有できる権利です。
意匠権と立体商標の違い
意匠権は「工業的なデザインを保護する権利」であり、一方の立体商標は「他の商品・サービス(役務)との識別力を保護する権利」です。立体商標は平面商標の延長線であって、それが三次元であるにすぎません。
特殊な形状そのものを守りたいのなら意匠登録を、商標のブランド力を守りたいのであれば立体商標登録すると理解してください。
保護される対象 | 登録要件 | 有効期限 | |
---|---|---|---|
立体商標 | 他商品との識別性 | 新規性や独創性 | 登録日からから10年間 ※更新可能 |
意匠権 | 工業的デザイン性 | 他商標の類似性有無 | 登録日から20年間 |
立体商標の効力
立体商標の登録が認められると10年間その登録商標を専有(独占的に使用)できる権利が発生します。他人による類似範囲の使用を禁止することも可能で、権利を侵害された場合には侵害行為の差し止めや、場合によっては損害賠償請求を行うことも可能です。この立体商標の保護期間は10年間ですが、期限前に手続きを行うことで何度でも更新することができます。これにより、特許権や意匠権(ともに20年間)に比べると長い期間にわたってその立体形状を保護することが可能です。
なお、日本の特許庁へ申請した立体商標については日本全国で商標権の効力が有効ですが、外国で事業を行う場合にはその国でも権利を取得する必要がある点には注意が必要です。
立体商標が認められる2つの要件
立体商標として商標登録が認められるためには2つの要件を満たす必要があります。1つ目は商品の形状自体に「識別力」があること、そしてもう1つは商品が当然に備える「不可欠形状でない」ことです。ここでは、立体商標が認められるための2つの要件について詳しく解説します。
立体商標の要件①「識別力」があること
立体商標として認められるためには、その商品または商品の包装容器自体に「識別力」があることを求められます。
この「識別力」とは、その商品を購入する消費者などがその商品自体や商品の包装容器の立体的形状を見ただけで他の商品との違いが分かることです。簡単に言うと、「ありふれた形状では立体商標として登録できない」ということです。
もちろん、商品やその包装容器に会社名や商品名などを記載している場合は識別がつくこともありますが、これはその社名や商品名がブランド力を持っているために識別できる状態だと考えられるために立体的形状だけの「識別力」ではありません。
立体商標登録で求められる「識別力」は立体的形状だけを見て判断できるという、その商品自体の非常に高いブランド力、または他には見当たらないような知名度の高い独創的な形状を指しています。
立体商標の要件②「不可欠形状でない」こと
立体商標として認められるための、もう一つの要件は「不可欠形状でない」ことです。
不可欠形状とは、その商品の機能性を維持するために必要な形状のことを言います。例えば飲料の容器の場合、飲料容器としての機能を持たせるための部分のことです。
不可欠形状を立体商標として認めると、特定企業に対してその形状を持つ商品や商品の包装容器についての独占を認めることに繋がります。
適正な競争市場を確保する観点から「不可欠形状でない」ものでなければ立体商標としては認められないのです。
立体商標の登録例
ここまでは立体商標の定義や登録のための要件などを確認しましたが、文章だけでは分かりにくい表現も多かったのではないでしょうか?ここからは、立体商標が認められたものを写真例も交えながら確認してみます。どのような点が立体商標として認められるポイントになったのかを詳しく解説します。
立体商標の登録例① ヤクルトの容器
ヤクルトのプラスチック容器は立体商標として認められていますが、過去には立体商標の登録が認められず裁判で争ったという経緯があります。
最初の立体商標出願では、ヤクルトの容器自体に「識別力がない」と判断され申請は認められませんでした。しかし、ヤクルト側はこの申請却下を不服として、訴訟を起こしました。
その裁判の争点は、「ヤクルト」というロゴが入っていない容器自体に一つ目の要件である「識別力」があるかどうかです。裁判の中では、ヤクルトのこれまでの販売実績や市場占有率、宣伝広告の状況などが確認されました。
そして、決め手の一つとなったのが一般消費者に対して行ったアンケート調査の結果です。このアンケート調査では、容器を見て何の商品かを思い浮かべる質問がありましたが、一般消費者はかなりの高確率でヤクルトの製品を想起したという結果になりました。これらを踏まえて容器に「識別力がある」と認められ、晴れて立体商標として登録されたのです。
立体商標の登録例② 佐川急便の制服
佐川急便では制服である青い縞模様のポロシャツを立体商標として登録しています。もちろん、このポロシャツ自体は売り物ではありませんが、佐川急便のサービスマンが着ている制服で、この制服を見ると佐川急便の提供しているサービスとすぐに連想できるものです。
また、特徴のある青色の縞模様であることや、全国でサービスを展開している佐川急便の認知度があったために「識別力」のある立体商標として認められました。
立体商標の登録例③ 早稲田大学の大隈重信像
早稲田大学の大隈重信像は立体商標として日本で一番早く登録が認められました。この大隈重信像は立体商標の特徴を表す最たるもので、立体的な計上であって唯一無二な形状から、早稲田大学のみを想起させる「識別力」があるものとして商標登録が認められたものです。
このような理由で立体商標が認められたものは他にも複数存在し、ケンタッキーフライドチキンの「カーネル・サンダース像」や不二家の「ペコちゃん像」などがこれに該当します。
立体商標の出願は弁理士に依頼を
立体商標の出願を検討する場合は弁理士に依頼することをお勧めします。素人には既存商標との類似性を確認することは難しく、出願までに手間や時間が掛かることも少なくはありません。弁理士に相談することでスムーズに手続きを進めることができ、何か問題が起こった時もプロの経験に基づいた意見は非常に頼りになるものです。
弁理士なら立体商標として認められる方法を熟知
弁理士は立体商標として認められるための方法を熟知しています。既存商標との類似性有無の確認や、「識別力」があるかどうかを判断する場面では、弁理士が実務で培った知識が最大限に活きる場面でもあり、非常に頼りになるでしょう。
また、立体商標登録後に他社から無断使用された場合も、警告や訴訟などのアクションを起こしてくれるので安心です。
弁理士に依頼する場合は費用は発生しますが、スムーズな出願やアフターフォローを全ておまかせできるのは大きな魅力と言えますね。特に、大手企業と比べると経営体力に劣る個人事業主や中小企業にとっては、一つひとつの商標が経営状況を左右する可能性も高いもの。プロに頼って迅速かつ正確に行動することを心掛けたいものです。
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